「エンターテイメントさ。
私はこれまで、この船や別のクラブにて、何十年に渡って客を楽しませてきた。
彼らがどんな種類の血と性に飢え、見下ろして愉しむか。私はたいへんに知っている。
ナフ。貴方はとても従順だから、あまり手荒く扱いたくないな。傷も少なくしたいね……」
彼はムルイジに比べれば随分と協力的だ。よしよしと、白く塗った爪が頭を撫でていく。
まるで犬のようだ。『グラトニー』はムルイジの牙に少しも気分を害した様子は無かった。
質の良さそうなドレスの裾が、まるでオーケストラ指揮者の燕尾服のように歩くたびに舞う。
『グラトニー』は少しばかり『スロウス』に目を向けて、かるく微笑んだ。
「ふたりとも偉丈夫だもの、きみの負担も軽くしないとね、『スロウス』。
さて……とはいえ見た目が派手でわかりやすいほど、ショウが盛り上がるのも本当。
ただあなた達ふたりをステージに放り出しても、コトが進まず時間を食うばかりだろう」
そばに置かれたトレイから取り出したのは、まずは銀色のワイヤーリングだ。
フラフープのような輪を脱がせた彼らの膝の裏まで通すと、端を引いて膝を強く締めた。
細い輪は歩いても落ちないようにぴったりと形を合わせられ、外せそうにない。
「それはスイッチで電流を流す装置だ。君たちが暴れたり不興を買えばオンにされる。
心臓から遠いから命には関わらないよ、出力は獣用だけれどね。
でも、ご覧。それだけでは大変地味だろう。お客様は楽しくない。そこでだ」
モニターにぱ、と舞台装置が映される。ステージのフチにはアクリルの壁がある。
逃亡防止のためと、もう一つの役割があることを賢いあなた方は悟るだろう。
なぜならその上には、大掛かりな……回転ノコギリに繋がっている。それは天井から下がっている。
取り付けた板は丈夫で、滑車の動きに従って舞台にまっすぐに降りるようになっていた。