169 舞姫ゲンチアナの花咲み
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『あのね、おかあさん。
私は……。』
(12) 2022/08/27(Sat) 18:06:51 |
| (13) 2022/08/27(Sat) 18:07:53 |
| それを聞いた瞬間、 私の目からは、一筋の涙が零れ落ちた。 貴方だったのね。あの時私を引き止めたのは。 ヴィオラが慌ててこちらを覗き込んで 小さな手で頬を伝う涙を拭おうとする、 その手を包み込んで、私は微笑った。 (14) 2022/08/27(Sat) 18:08:50 |
| 「ありがとう。 嬉しくてつい、泣いてしまったみたい。 これは悲しいからじゃないのよ。
だから、お母さんは、大丈夫。」 (15) 2022/08/27(Sat) 18:10:13 |
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「ねぇ、ヴィオラ。 もう眠くないなら、 朝ご飯にしましょうか。
今日は、素敵な場所へ出かけましょう。」
(16) 2022/08/27(Sat) 18:10:32 |
| なおも心配そうなヴィオラの気をそらすように 朝食を作って、食べさせて。 視力を失った左目を隠すように眼帯をして、 机に置いてあった仮面を一度、撫でた。 ヴィオラが生まれてからは、付けていない仮面。 それは埃一つ被らず綺麗なまま、置いてあった。 身支度を済ませれば、 ヴィオラの手を引いて、家を出る。 (17) 2022/08/27(Sat) 18:12:49 |
| 目指すのは、あの日以来訪れていなかった丘。 行けば、あまりにつらい出来事を 思い出してしまいそうだったから、避けていた。 久々に来た場所は、 花が増えていること以外は 何も変わっていなかった。 吹き抜ける風の心地よさも、景色も。 (18) 2022/08/27(Sat) 18:17:56 |
| 「ここはね。 貴女のお父さんと出会った場所なの。 ……久しぶりね。」 (19) 2022/08/27(Sat) 18:18:20 |
| 最後は語り掛けるように呟くと、 蒼空を見上げて、 天国にいる貴方へ笑いかける。 つられた様にヴィオラも 天を見上げて、笑って。 つながれた小さな手の温もりを感じながら、 私は密かに誓った。 (20) 2022/08/27(Sat) 18:19:35 |
| (21) 2022/08/27(Sat) 18:21:19 |
幾度も季節は巡って。
一組の男女が夫婦になった日。
祝福の鐘の音が鳴り響く。
それを嬉しそうに、
眩しそうに
見つめていた隻眼の女性がいた。
彼女は柔らかく微笑むと、
夫婦に気づかれないように
そっとその場を後にした。
女性が向かったのは、街を見下ろせる丘。
来るまでに着替えて来たのか、
白いドレスを身にまとって
白い薔薇の花束を手にした彼女は
周りに花々が咲き誇る
木の根元に
寄り添うように
腰を下ろして。
「この身も、魂も。
全て朽ち果てるその時まで……
私は、貴方を愛しているわ。」
誓いを風へと乗せた女性は、
眠るように、目を閉じた。
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