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【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ【路地の店】 ごつっ、ごつっ。 荷物を満載した、ブーツの重い音が路地を通る。 思えば、グラスハープの音がない時に ここに来たことはあっただろうか? だからと言って、魔女の歩みが止まる事はない。 なにせ、あの店じゃあきっと猫が鳴いている。 少なくとも1匹。下手をすれば2匹。 ……もしかしたら、3匹。 それを思うと、足を止める気にはなれなかった。 欠けた頬と耳から未だ流れる血は、適当な布切れを ダクトテープで貼った応急処置のおかげで 鳴りを潜めている。猫も店も、汚す事はそうないだろう。 そして、店を覗き込む。ドアベルの前に、中を覗く。 店主は、まだそこにいるだろうか。 それとも、烏が既に片付けた後だろうか。 (7) 2022/08/25(Thu) 11:18:55 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>8 リカルド 「あ?……うわ、すげえ。 あんだけあたいが言ったのに出歩いてるド級のバカがいる」 ぐりんと振り向くその顔に、呆れと呆れと呆れを貼り付け、 そんな言葉。常なら雷だっただろうが、 まあ、なにせ今は普段そうやらない"暗殺"帰り。 暗というには派手な鐘の音ではあったものの、 つまりは魔女のやり方があの子とは違うというだけの話。 とにかく、両手は塞がり、背中に荷物。 ついでに疲労と頬の欠けもくっつけて、 釘打ち機を取り出すような気力は今はなかった。 「交友ね……ま、そうかもね。 ビビってる腰抜け共の態度に比べれば、 あたいのは十二分に交友だと思うよ」 ほんの僅かの間、閉じた瞼に浮かぶのは いつも変わらないあの顔と、それが少しだけ動いた時の顔。 「……。……で?まだしないわけ?」 あたいの方のことはさておき、と目を開いてそう切り出す。 何を、とでも返せばもう一太刀。 「ケツ拭いてもらった相手の顔に向かって 思いっきりクソを塗りたくるような現状への言い訳。 そろそろ来るかと思ってんだけど」 魔女は、多少疲労した所で、辛辣さが抜けるわけもなかった。 (9) 2022/08/25(Thu) 18:37:39 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>10 リカルド 「言い返してたらあんた今頃女になってるよ。 ついさっきも女を一人造ってきた所だから、すぐやれるね」 ふん、と鼻を鳴らす。命の保証のない性転換の話、 分かるものはこの場に魔女しかいないだろうけど。 「ま、そんなとこ。住処を吹き飛ばしたんでね、 ああ、あとあたいここに引っ越すから。この店貰うよ」 上への確認もなしに、勝手な事を言いながら。 髪に触れた瞬間、ぐんと首を逸らして避けて、 「次勝手に触れたら指なくなっても文句言うんじゃないよ」 なんて恐ろしい事を口走る。 「まだヤクが抜けきってないのがよくわかるね。お断りさ。 これくらいある方が、かえってハクがつくよ。それに――」 数日前、烏に言った言葉を呼び起こし。 「『忘れねばこそ、思い出さず候』、ってね。 これはあたいのものだ、あんたなんかにあげない」 魔女は魔女らしく、凶暴に笑う。 きっと、大きな疵痕になる。 だが、魔女はそれを捨てる気はないらしい。 (1/2) (11) 2022/08/25(Thu) 19:59:55 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>11 そして言い訳に関しては、 「お、よかった。頼りになる幹部殿が2人とも…… じゃああたいとしても困るからね。 腑抜けの下につくつもりもないし」 「ま、気が向いたら見舞いにくらいいくよ。 ……あんたはさっさと用事を済ませて マウロ共々ベッドに戻るんだね、 じゃなきゃあの時のあんたのツラと状態について ソルジャーの間でもちきりの噂にしてやるから」 と、やはり恐ろしい事を口にした。何が恐ろしいか。 それは、この魔女なら本当にやりかねない、という事。 あなたは身体を大事にしなくてはならない。自分の為にも。 そして、ファミリーの為にもだ。 (2/2) (12) 2022/08/25(Thu) 20:03:51 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>13 >>14 リカルド 「そりゃね。玉と棒に1本ずつ、合計3本釘打ったからね」 女性にはその痛み、想像し辛いという。 恐らく9割方の男性は、或いはあのツィオや、 下手をすればコルヴォでさえ、 この話を聞けば顔を引きつらせるかもしれない。 「荷物はそんなとこ。ああ、トスキの屑だったよ。 立場は知らないけど、末端のカスにあの子が やられるとは思わないからそこそこの立場じゃない?」 「ま、ダクトテープと布切れよりはガーゼの方がいい。 その内行っとくよ。今は優先事項があるんでね。 精々内密にして貰えるように振舞いな」 「んじゃ、あたいは店ん中に用があるから。 この辺一帯も改造しなきゃな。ソルジャーも配置して……」 結局。魔女は、魔女のまま。 なんだかんだと先を見て、自分のことを優先して。 好きなように、生きていく。 チリン、と鳴るドアベルが、或いは猫の鈴のようだった。 (20) 2022/08/26(Fri) 0:58:42 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>22 レヴィア 「よう、Piccolina.」 女は、それらをすべて見て。 見た上で、軽く手をあげてそう言った。 軽い挨拶を、いつものように。 それから眠る姿の隣に行って、散らばる木くずや、 ガラス片なんかを軽く足で払って。 重い荷物を下ろすと、女の隣にあぐらをかいて座り込んだ。 「はあ。おかえりが言えなくて残念だよ」 「……なあ、寝ながらでいいから聞いてくれよ」 「ちゃあんと、あんたの仇は討っといた」 「それもとびっきりの方法でね」 「それに、吹っ飛ばした分だけよく聞こえたろ?」 「弔いの鐘って奴。いい音だったと思うんだ」 「まあ、あんたのグラスハープには負けるけどさ」 返事もない、他愛のない話。 傷だらけの店をぼんやりと眺めながら、 笑い交じりにぽつぽつと落としていく。 魔女は、猫が好きだった。 可愛い顔して、人を寄せ付けず、かと思えば寄ってきて。 自由そうで、不自由で、その癖時々凶暴な、ワガママな奴。 まるでどっかの誰かみたいだ。 そんなやつが、魔女は好きだった。 (1/2) (23) 2022/08/26(Fri) 18:50:55 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>23 女は、眠り姫へと手を伸ばす。その髪を軽く撫でてやる。 「……。ああ、そうだ。時計塔、吹っ飛ばしちゃったからさ。 あたいここに住む事にしたから。いいだろ? これなら毎日、借りに来ることが出来るじゃんか」 勝手な事を口にして、髪を撫でていた手を離し、 抱かれた猫の片方、くたくたになった黒猫の頬を突く。 くにゃりと曲がった顔は、首を傾げるようだった。 「でもさあ、あんたは……あんたはさ、 いつまでもここにいる訳にもいかないだろ? それにハエなんかたかってるの見たら、 あたいがまた住処を吹っ飛ばしちまいそうだし。 ……だからさあ、提案なんだけど」 そう言って、抱かれた猫の内、幾らかしゃんとした 白い猫を腕の中から抜け出させてやる。 「あたいがこの子、借りていくよ。 で、あんたにはその子、貸したままにしとく。 それでさあ……いつかまた会う時が来たら、 お互いの猫を返すってのは、どうよ?」 名案だろ?なんて微笑んで、返事もないのに様子を窺った。 (24) 2022/08/26(Fri) 19:01:00 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>25 >>26 レヴィア 窺えど、返事もなければ、身じろぎもしない。 当たり前だ、それは死体で、終わった話。 ため息ひとつも零れるだろう。 それでも、強く抱かれたようにみえる黒猫と、 "大事にされていた"白猫を見れば、口元には笑みが浮かぶ。 「……ありがと。次会ったら裁縫くらい教えてやるよ」 ぽつりと呟いて、またその髪を撫でた。 それからふと、白猫の背中に拙い縫い目を見つければ。 「……。ちゃんと後で縫い直してやるから、 ちょっとだけ……ごめんね」 片手をカバンに、工具箱から小さなニッパーを取り出して。 努力の証を開くのも、なんだかなあと零しながら 糸を切って中を確かめてみた。 (27) 2022/08/26(Fri) 19:59:35 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>28 >>29 >>30 レヴィア きっと、いつもの通りに返されれば、 いつものように返すのだ。『かっわいっくねえー』なんて。 そして、いつもの言葉を脳内で呼び起こしながらも、 隠されていた心を読めば読むだけ、言いたい言葉が一杯だ。 『遺書を用意するなんて、用意がいいのね、だっけ?』とか。 『なんで生きてないんだよ本当に、あー無駄になった』とか。 『馬鹿なのはどっちなんだよ、まったく』とか。 『あたいにリボンとか、趣味が悪いよあんたは』とか。 だけど、そのいずれも出やしない。 代わりに、雨が降り出した。それは、どしゃぶりの雨で。 濡れるのが嫌いなあなたを濡らさないように、 無理矢理に手で掬うから、その手に赤い雨が滲むのだ。 強い風は唸り声と紛う事もあるというから、 今吹き付ける甲高い嵐もきっと何かと紛う事もあるだろう。 ああ、それにしてもまったく、魔女というものは 誰にとっても、本人にしたって、御しがたいもので。 きっとそれは、猫のように、気まぐれで、自由で。 お願いしたって、碌に聞いてくれやしないのだ。 傷だって、ずっと持っていこうと思っているし。 雨だって、当てないようにしたって少し零れているし。 どうしようもないほどに、ままならない。 あなたの言葉を借りるなら、きっとこの魔女は馬鹿だった。 (31) 2022/08/26(Fri) 21:26:54 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>28 >>29 >>30 レヴィア やがて、その雨風が弱まって。 時計の音が雨音をかき消すくらいになった頃に。 やっと、落ち着いたストレガは口を開く。 「……悪い、ちょっ、とだけ、濡らしたね」 がらがら声が、無理矢理に元気を作っている。 白猫に手紙を返して、優しく抱いて。 「まあ、……許してよ。次会う時、怒ってくれていいからさ」 「それで、祝福だっけ?あたいそういうの、 全然知らないんだよなあ……するように思える? 思えないだろ?そもそもさあ……はあ〜〜〜〜……」 ぐちぐち、続けそうになった口を適当に切り上げて、 代わりに溜息を吐いて。肩を竦めた後、 目元を親指でぴっ、と拭う。 「あんたは、ノッテ・ファミリー。 だけど、それ以上にあたいの……ハ、唯一の。友達だよ。 言っとくけど!家族になるより友達になる方が 何百倍も難しいんだからね。ことあたいにとっては!」 なんだか、ちょっと怒ったような口調でそう言って。 黒いリボンを、おもむろに白猫からひとつ、解いて見せた。 「……友達の頼みじゃ、一等断れない。 まったく、ちゃんと見つけないと承知しないからね」 (32) 2022/08/26(Fri) 21:43:39 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>27 >>28 >>29 唯一人の貴女 そうして、ぼさついて広がった髪を後ろでひとまとめ。 根元をきゅっと、黒いリボンで結わえて。 「 Ti voglio bene, Levia. 」呟くと、物言わぬあなたの、額に唇を落とした。 少しだけ長く、別れを惜しむように。 やがて離れて、最後にもう一度だけ髪を、そして頬を撫でて。 「……やれやれ、最後に一仕事だけしなきゃ」 鞄を探ると、取り出したのは針と糸。 黒い猫には白い糸を。抱かせたままに、縫い付ける。 友達が縫った所と同じ場所に、『Strega』と。 白い猫には、黒い糸を。背中を敢えて、 はじめと同じように少し緩めに縫い合わせ。 友達の名前は、そのままに。これが、一番いい形だから。 「出来た。……なあ、次に会うのは随分先になるからさ。 そん時はレヴィアの顔、驚きと喜びで ふにゃふにゃにさせてやるからな? ……おやすみ、唯一人の貴女」 そう告げて、……一旦。この場を去るだろう。 一枚、烏達に向けて。「ぬいぐるみと一緒に、頼む」と添えて。 (33) 2022/08/26(Fri) 22:00:43 |
【秘】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ → 誰も殺さなくていい レヴィア「Ti voglio bene、なんて 多分今後言わないよなあ……。 全く、本当に"唯一人の貴女"じゃないか。 ……ま、大事に取っときな。あたいのそれは貴重だからね」 ……なんて言うのは、心の中だけ。 誰かに唇を落とすような事も、初めてだったわけだから。 やれやれ、なんて笑っていた。 (-46) 2022/08/26(Fri) 22:07:29 |
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