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【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ「はは。いつ以来だ? 最近じゃあお互い間が合わなかったもんな。 俺も楽しみが一つ増えたな」 その約束もついぞ果たされなかっただろう。チケットを握る事すらなく。 貴方が自分に嘘偽りを騙る事が無い、という事は薄らと勘付いていた。 ここまで一緒に居ればそれはそうだ。 だから信頼して物を勧めたし、受け取ったし、 気持ちでだってそれは同じ事。信じていた。 だから、貴方が繰り返し言ったその言葉もその通りに受け取っていたのだろう。 期待や望みは突き放すけれど、愛は素直に受け取る男だった。 「…………はぁ。まあ」 「サヴィにならいいか……」 軽い溜息が一つ。それから、緩い笑みを浮かべた。 気が抜けている時の笑みだ。 探られているとも取らず、警戒の一つもないのだろう。 グラスの中のワインをくるりと回して、 「ほら、乾杯」と風情も雰囲気もなくグラスを差し出し傾けた。 それから一つ口を付け、そのまま話す。 「あいつを拾ったのは俺だからさ」 「あるだろ。なんか、その。責任って奴とかが」 「……拾ったからには大事にしたいんだよ。大人まで」 「それに、」 視線が花の栞へと一瞬向いた。 「いや。姪に似てる……それだけだ」 (-113) 2022/08/21(Sun) 1:47:50 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド「そうだねぇ。僕も、見なければいけない相手が増えたし」 「────もちろん幸福なことだ。家族が増えるのは。……けど、ふふ」 楽しみが増えた、と君の言葉尻。そこを捕まえて、男は気分を良くしたようだった。 片眉を上げて口の端を持ち上げる。前傾していた身体を伸ばし、背もたれに遠慮なく体重を預ける。それから君を真っ直ぐ見据えて、見せつけるように足を組んだ。喉で笑いを転がして問う。 「僕が恋しかったかい、ドニ?」 君が恋しかったよ、と。 普段なら、その言葉を吐くのはこちらの方。寂しいのは自分の方で、会いたいのは自分の方で、愛したいのは自分の方だ。それを、男はよくわかっている。 ささやかな乾杯が行われるのであれば男も従うだろう。丸みのあるボディを軽く触れ合わせれば小さく音が立ち、透明な液体がグラスの中で踊った。その液面が静まる前に、君と同じように一つ口を付ける。気に入ったらしく、満足そうに頷いた。 「ああ。……そうだったの。道理で君に懐いてる」 「そりゃあ、可愛いわけだ。大切にしてあげなきゃね」 ▼ (-120) 2022/08/21(Sun) 3:25:43 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド合点がいったともう一度頷く。それからもう一人の子どもの方のことを思い出した。 アルバファミリーは横の繋がりを大事にする、家族のようなマフィアだ。だからだろうか、拾った拾われたがとかく多い。それ自体はほかのマフィアでもありうる話だが、拾われる側が本当に子どもであることが多いように思う。大抵はもっと年齢がいった半グレのような連中が、使い捨ての即戦力として連れてこられるものだ。 家族が増えることは男にとって好ましい。だからじわりとした満足げな心地のまま君の言葉を聞いて、その視線の先を同じに追った。 「へえ。それは」 「さぞかし可愛い子だったんだろうね」 ワインをもう一口。 緩やかな相槌は話を促すだろうか。閉じてしまうなら、それはそれで。 (-121) 2022/08/21(Sun) 3:27:52 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ「……なんだよ。ズルい聞き方するな。当然だろ」 「お前もだろうが」 悪戯な問いには拗ねたような言葉を返す。 少し苦笑を浮かべて、わざとふいっと視線を逸らした。 それでも、『当然だ』とは言うのだ。 完全に気を許せる相手というのは少なく、 一緒に居て気が楽なのはやっぱり貴方だから。 カチン、と控えめで軽やかな音。 ワインの味を気に入ったであろう様子を見て、 当たりだったなと自分ももう一つ口を付ける。 「俺なんかに拾われちまってさ。もっと幸せになれたんじゃないか、アイツ」 「出来る事はやるよ。やってるつもりなんだけどな」 「……可愛いよ。そりゃそうだ。俺のあげた花にいちいち喜ぶ」 なんとなく困った様な、この話題がむず痒いような。 頭を掻いて、もごもごとした語り口はそのままに。 ……昔から、貴方の前では会話の端々に 自分を卑下するようなことを言う時があった。 自分への評価が低いのも昔からだ。 平素はそんな素振りも見せないが。 「あ〜あ……巻き込まれないといいんだけどな」 ルチアも、あいつも、お前も。 ふとポツリと零した呟きは、今起こっている事に対してだろう。 その呟きに自分は含まれていない。 (-135) 2022/08/21(Sun) 11:03:07 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド「もちろん恋しかったさ。当然だろ?」 なぞるように言葉を返す。小気味いい笑いが零れる。 「素直で可愛いね、ドニ。おいで」 言って、男は腕を軽く広げた。左の手首に巻かれた時計が室内灯の光を弾く。光を吸うような重い色の衣服を纏った男の身体で、唯一明るい色をしているのがそれだった。嫌味のないゴールド。 「大切なものが出来ると、欲が出るものだね」 「幸せにしてやりたいんだ。いくらあげても足りない。もっと幸せになってほしい、苦しまないで笑っていてほしい────」 男は家族を愛している。 だからだろうか、愛を語る時彼は少し饒舌になった。自分の愛を示すように、或いは確かめるように、間違いを探すように。それは語るようでも独り言のようでもあった。 不器用に言葉を紡ぐ君に向けられる目は優しい。慈愛に満ちた赤みの紫。 「今度、ルチアの顔をよく見てご覧」 「悲しい顔をしていたら、足りない顔をしていたら────言っておあげよ。愛してるって。抱きしめて、花のひとつでもあげて」 「……いいや、君だと頭を撫でるくらいが関の山かな? あは」 こんな風に、と君の髪を撫ぜる手つきは普段より少し乱雑だった。君のそれを真似たつもりなのだろう。 ▼ (-137) 2022/08/21(Sun) 12:09:11 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド「全くだよ。誰が死んでも僕は悲しい」 「家族を失うのは、辛いからね」 誰が死んでも僕は悲しい。 昨日見た顔がいない。今朝会ったやつがいない。そんなことは、日常茶飯事だ。誰かがいなくなれば新しい誰かがやってきて、その誰かも結局またすぐいなくなったりする。この社会の常だった。 だから男の言葉は甘い。 ────甘い。 (-138) 2022/08/21(Sun) 12:12:35 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ「子ども扱い」 文句を一言。 けれどその仕草を拒む事も無く、 グラスを置いて広げられた腕に納まった。 少し預けた体重が体温を伝える。 「愛してる、ねえ」 「本当に、欲だらけだよ。何事も無く居て欲しいもんだが、 そんな訳にも行かないだろ。こんな所に居るんじゃあさ」 「……そんくらいは出来るけどよ」 じと、と貴方の顔を見た。くしゃりと撫でられた髪を整える。 いつもこうやって、なんだか貴方には敵わない。 せめてもの抵抗に、肘で軽く小突いた。 「俺は、……お前みたいに優しくないから 誰でもなんて言えないけどさ」 「本当に嫌なんだよ、今。……はあ、やる気出ねえな」 「…………」 「俺は巻き込まれる気がするんだよな」「はは」 なんとなく、なんとなく。そんな気がする。 (-139) 2022/08/21(Sun) 13:02:09 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド男の手が衣服の上から肌を撫でる。大きく、性別なりに硬いその手のひらで、指先で、素肌に触れられたこともあった。腰、背中、肩、項。 「恋人扱いの方が好みかい? ハニー」 笑みを交えて耳元で囁く。耳朶に軽く口づける。整えた端からまた乱す。 こうやって言葉で、態度で、体温で、男はいつも愛を伝えた。後から後から絶え間なく溢れ続けるものを注ぐように、そうしていないと死んでしまうかのように。 「伝えるべきことは伝えるべき時に伝えなきゃ。そうだろ?」 「家族なんだから追い出せやしない。でも、いついなくなるとも限らないんだから」 男は確信している。君があの子を愛していることを。 「騎士でいるのもいいけれど、王子様に掠め取られてから後悔しても遅い」 その形が、内容がどうであっても、愛であると。 男もまた、君を愛おしむ。 「────……」 「やっぱり、張り合いがない? 彼がいないと────」 (-141) 2022/08/21(Sun) 15:12:08 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ「そんな事言って……っ、おい。悪戯が過ぎるぞ」 撫でられるまではまだ大人しくしていたが、耳朶に口付けられれば 背筋を伸ばして少し身を離した。 こんな男とっ捕まえて何がpiccolinoだ、と貴方の額を指で突く。 その上げた手のまま、わしゃわしゃと今度はこっちが貴方の頭を撫でて。 「誰が追い出すかって。……そうなる時は、アイツが自分から離れて行ってからだよ」 「でも、まあ、何も言えなくなる前に、言っておきたい事は」 「……言わなきゃかあ。面倒臭い」 掠め取っていくのが王子ならまだかわいいものだ。 今は、死神に奪われるかもしれないのだから。 そしてそれは今に限らず今までもで、これからも。 だからアベラルドは、この世界の事はやはり好きじゃなかった。 家族は好きだ。それを脅かすのが、本当に嫌なのだ。 脅かされた過去がある故に。 「……見えてたゴールが目の前から急に無くなっちまったみたいだ」 「結局、敵は他の誰かさんが獲ったって訳さ。じゃあさて、 俺はこれから何をしましょうか、って思ってな」 「どうせ今までと変わらないんだろうが。はは」 元々気力の多い方ではない。快活な方でも無ければよく喋る方でもない。 けれど貴方の目には、やっぱりそういう風に見えるのだろうか。 実際、活力は前より無い。宙ぶらりんな気分が、 もともと投げやりだった性格をさらに助長させているようだった。 (-147) 2022/08/21(Sun) 17:37:54 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド身をよじるのではなくほんの少し離す。小突くのではなく指で突く。それだけなのだから君も甘いものだ。確かにそこにある信頼を受け取って男は目を細めた。 男の髪は年齢にしては柔らかい。薄い色は加齢や疲労のためではなく生来のものだと君は知っている。むしろ愛する家族に囲まれていて、健康的に艶めいているようにすら見えた。 再会した頃はこうではなかった気がする。 「そんなことを言ったって」 撫でる手を捕まえ、今度は手首にキスを。 「君は素敵だよ、ドニ。どれだけ変わったって、一目で君だとわかるくらいに」 出会ったのは高校生の頃。 少年期の一年は長い。どころか一月でさえ。彼らは一つの春、一つの秋で驚異的な変貌を遂げて成長する。ぴかぴかの顔をして入学した少年少女は、卒業する頃にはそのかんばせに大人の片鱗を宿しているものだ。 当時のふたりにそう関わりがあったわけではない。少なくとも密に連絡を取る仲ではなかった。そんな時期を越して五年以上の空白があった。それでも彼は君を見つけ、君は彼を見つけた。 『運命的だと思わないか?』 男が君を口説いた最初の文句は使い古されたような言い回しで、それでも妙に似合っていたものだ。 変に草臥れたような雰囲気と整った容姿のアンバランスさが古き良き常套句を体現したようだった。疲れているのかと君が問うていたなら、彼は素直に答えていただろう。「まさか。むしろ健康になったくらいだ────」 ▼ (-227) 2022/08/22(Mon) 10:24:27 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド「僕が代わりに言ってあげてもいいけどね」 手を撫ぜてくっくと笑う。面倒くさいと言いながらも心を否定しない君の様子を愛おしんでいるらしかった。ほら見ろ、と言わんばかりに。 「それじゃダメだろう。君だってあの子の笑顔を見たいはず」 「あの子だって、君から言ってほしいはず────」 よく笑う男だった。 その全ては家族への愛に満ちていた。揶揄うことこそあれ、馬鹿にしたことなんて一度もなかった。 手が手を撫でている。あやすように、宥めるように、 引き留めるように。 「墓でも掘り起こしに行くかい。付き合うよ」 「気が済むまで、僕が周りを見ていてあげる」 もちろん君は、そんな形での報復は望まないのだろう。 けれどほんの少しでもそれを望むなら、きっと男は言葉通りにした。 手を引いて墓場に向かい、或いは朝が来るまで、君が妨げられぬように守ったはずだ。 ひとえに、君への愛ゆえに。 (-228) 2022/08/22(Mon) 10:36:26 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ思い返せば、貴方に対して大きな拒絶をした事はあまり無いように思える。 指通りの良い髪を、なんとなく指で掬って、梳いて。 また、離して。 些細だろうが、過去との差異はやはり気に掛かるものだ。 それが貴方にとってどんなもので、どんな理由なのか、 アベラルドはまだ知らない。 それが、なんだか引っかかっていた。今もだ。 「言ってろ。……サヴィも見た目はあまり変わらなかったな。 雰囲気は変わったけどさ。本当に……」 縁は知らぬ間に繋がり、固くなっていくものだなと思った。 運命だと言われたとき、まあ、確かにそうかもしれないな、とも思った。 こんな事もある。あるのだ。 自分を知る者が居て、酷く安心したことを覚えている。 アベラルドはと言うと、やはりそんなに変化があった方ではない。 高校を発ち、一人で暮らして、ここに来るまでの間の事は誰にも話していないけれど、それでもアベラルドは変わっていなかった。 重ねた年月の分は、そりゃあ人並みには変わっているけれど。 強いて変わったと言うのならアルバファミリーに入ってからだろうか。 疲れているのはきっとこっちの方だ。 手首にキスをされたって口だけで振り解きもしない。 貴方から受け取る愛は心地良い。 変わらず与えられるそれに、浸っていたかった。 ▼ (-266) 2022/08/22(Mon) 16:41:15 |
アベラルドは、変化が嫌いだった。これでよかったのに (c25) 2022/08/22(Mon) 16:41:58 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ「なんでだよ。それはまたなんか……違うだろ」 「分かったよ。言うから。言うから……」 掴まれていない方の手を、降参とでも言うように上げた。 撫でられるまま、やっぱりそれは振り解かれずに 貴方の気が済むまで続けられるのだろう。 「無理だよ。だって俺、墓の場所知らねえし。 探るにしたって、ノッテの奴らに変に思われたくない。特に今は」 「……いいんだ。死んじまったもんは仕方がないだろ。 俺がやろうと思ってたのに、本当に余計な事─────」 不意に。 撫ぜられていた手を強く握り返した。 「………………………………」 それなのに、何も言わない。 ふと視線を遠くにやって、何かを考え込むかのようだった。 手ばかりが強く握られている。…………引き留めるかのように。 (-267) 2022/08/22(Mon) 16:55:13 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド「そうかな? 僕は元々こうだろ」 己の過去と比べられる度、男はいつもそう言った。 隠すような仕草はない。誤魔化すような違和感はない。本人が、心からただそう信じている────そんな風に。何もおかしなことはないというように言った。 今も昔も、この男の笑顔は変わらない。 ……こうも振りまくものだったかという疑問が残るけれど、作っているようにも見えないはずだ。 愛撫にも満たない触れ合いで親愛を示す。男は君を抱くことに遠慮しなかったが、そう毎度そればかりを好む性質ではなかった。今日は気分ではないのだろうか、ずっと生ぬるい触れ合いを続けている。 「Bravo.」 手を撫でていた手が再び頭へ。そうやって何度も、何度も、刻むように示す。目を細めながら、君の言葉を聞いているのだ。 冷静な君の言葉。 死体と言えど、いや死体だからこそ、それは相手のものである。マフィアの所有物に、プライドの象徴に、安易に手を出すものではない。誰だってわかっている。 わかっていて、男は口を開く。 「うん」 開いて。 力を込められた手首に視線がつ、と動いた。君の視線をなぞって、もう一度手首に。 「……」 君は口を開くだろうか。 それとも、こちらが先に? (-291) 2022/08/22(Mon) 20:10:02 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ「そうかな……」 またいつもの返事だ。 その返事を聞く度に、少し貴方を案じるような気持ちになる。 ……何を案じればいいかもわからないけれど。 そして結局、貴方がそう在るのであればいいか、と落ち着くのだ。 これも、いつもの思考。 なんで褒められるんだ、と言いたげな顔をした。 こうも撫で擦られていると犬にでもなったような気分になる。 今日はあまりやり返すことも無い。 ▼ (-309) 2022/08/22(Mon) 21:32:17 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ手首に込める力は緩めない。 ただ、遠くにあった視線は貴方へと再び戻って。 「お前」 「なんでこの世界に来た?」 ようやっと口から出た言葉は、唐突ともとれる問だった。 「………勿体ないな。つくづく思うよ。 俺の周りの奴らがこんな所に居なければ、こうやって神経擦り減らして命の無事を、毎日祈ることも無い」 「自分からこんな所に来ておいて言う事じゃあないけどさ」 「向こうのボスが死んでから、薄々気付き始めたんだ。 俺って恨みがましいんだって。」 「思うんだ。何もかも、なんだか憎たらしいよ」 滔々と小さく溢れる言葉の最後は、ほとんど吐き捨てるようだった。 何もかも後手に回り、手を伸ばしても届かず、 掬おうとしては指の間から零れ落ち。 そんな気分をずっと味わっているような気がする。 今この状況が自分の精いっぱいだった。 それが今崩れそうなことが、何よりも嫌で。 『家族』が向けられる銃口や刃に脅かされずに、 普通に暮らしてくれればどんなにいいだろう? (-310) 2022/08/22(Mon) 21:33:09 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルドいくら触れ合っても傍にいても信頼しあっていても、心の中の全てを知りあうことは出来ないのだ。 だから、必要以上に詮索しない君の姿勢はきっと賢い。そうしていればきっと、不要な疑いや争いが生まれることもなかった。 男は君を真っ直ぐに愛している。 結局、それだけはどう足掻いても真実なのだ。 彼の瞳に淀みはない。 彼の言葉に影はない。 彼の表情に澱はない。 彼の行為に毒はない。 男は君の目を真っ直ぐ見ている。 男は君の声を真摯に聞いている。 「……」 「どう」 「だった かな……」 それが、 初めて、乱れた。 それでも。 彼の瞳に淀みはない。 彼の言葉に影はない。 彼の表情に澱はない。 彼の行為に毒はない。 ▼ (-348) 2022/08/22(Mon) 23:44:16 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルドほんの、束の間。 束の間の、空白。 すぐに、消える。 消えて。 「どうしたの、ドニ。……怖いことがあったのかな」 「聞かせて御覧。僕に教えて?」 いつも通りの元通りだ。 彼の瞳に淀みはない。 彼の言葉に影はない。 彼の表情に澱はない。 彼の行為に毒はない。 男は君の目を真っ直ぐ見ている。 男は君の声を真摯に聞いている。 (-349) 2022/08/22(Mon) 23:44:57 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ「本当にわからないのか?こんな所に来た理由が?」 貴方の瞳を見つめたまま。 その瞳は揺れていて。 貴方の腕を掴んだまま。 その手は少し震えていて。 「怖い事なんか今まで沢山あった。 『家族』が死ぬのも脅かされるのも誰かの勝手にされるのも 俺は全部怖い。怖かった」 「だから殺して回ってた。俺たちの邪魔になる奴ら、 消す必要のある人間、俺は必要なら全員、」 堰を切ったように早口で話し始める。 その声すら少し震えている。 殺しが一番楽だった。引き金を引けばすぐ終わる。 相手は必ず自分たちの敵で、容赦をする必要もないと言われた者たちばかり。 後腐れも無い。気に病む必要も感じなかった。 アベラルドが選んだ、一番『面倒臭くない』仕事だった。 「俺が藻掻いてもお前らが俺の知らない所で死ぬのが怖い」 「奪われんのがもう嫌だから、俺は奪う側に居るのに、」 「……なあ。俺、おかしいこと言ってるか?」 これだって結局は愛の一言に帰結するのに、 なんでこんなに貴方と違うのだろう。 ▼ (-364) 2022/08/23(Tue) 1:03:44 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ「お前が知らねぇ奴に奪われるんなら俺が先に奪ってもいい」 「…………」 「いや」 そこでやっと手を離した。 (-365) 2022/08/23(Tue) 1:05:36 |
アベラルドは、……アベラルドだって、家族を愛していた。 (c26) 2022/08/23(Tue) 1:08:41 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド揺れる瞳も、震える腕も、男は静かに受け止めていた。 濁流のような言葉も、それでもまだ震える声も、男は静かに受け止めていた。 いて。居て。 君の言葉が途切れた頃、ようやくその頬に手を伸ばす。それから。 色の薄い唇を、君のそれに重ねた。 時が止まったように感じたかもしれないし、与えられる人の体温が不快だったかもしれない。 或いは、それとも。 離れたのは君が拒んだからかもしれないし、男が自分からその身を離したからかもしれない。 或いは、それとも。 どうあれ男は君に口付け、それから微笑った。 「随分と熱烈な告白をするじゃないか。誰に教わったの?」 「妬けるな、少し」 笑っている。 それは、少し。あまりにも。 「僕は死なないよ、ドニ」 ────滑稽だった。 人はいつか死ぬ。いずれ死ぬ。必ず死ぬ。誰だってわかっている。ここじゃ子どもだってそれを知っている。 それなのに男は、心から信じているように言うのだ。当たり前のように言うのだ。まるで陳腐な映画の主人公のような朗らかさで。 「君たちを愛しているから」 男の言葉はいつも甘い。 ────甘い。 ▼ (-386) 2022/08/23(Tue) 10:41:55 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド「だからね、ドニ」 咲う。 「欲しいならいつでも言えばいい。いくらでもあげる」 酷く滑稽で、愚昧だ。 思えば男には欲があまりなかった。 食欲だとか、性欲とか、そういったものは人並みにある。辛いものは苦手で甘いものが好き、なんて選り好みはするし、ワインだって赤よりは白が好き、だと零すけれど。何かを欲しいだとか、足りないだとかと、強請ることはなかった。 ただいつも与えた。際限なく与えた。 与えられるものをいつも探していた。 欲しいものなんてなかったのかもしれない。 彼の瞳に淀みはない。 彼の言葉に影はない。 彼の表情に澱はない。 彼の行為に毒はない。 ただ、愛だけがある。 (-387) 2022/08/23(Tue) 10:44:15 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ放した手が自分の頬に触れて。 少し下がった顔が貴方に向いた時唇に伝わる感触で、口付けられたと分かった。 やっぱりそれは跳ねのけられずに受け入れられて、唇が離れていくまではそのままだ。 唇が離れた時の、「死なない」と言われた時の、 「いくらでもあげる」と言われた時の、その笑顔を見た時の、 自分の顔は。 一体どんなに情けない顔をしていたか。 「お前はそうやっていつも」 「俺の欲しいものをくれるよな」 小さい声。 「お前は? 奪われてもいいって言ってんのか?」 「嫌じゃないのかよ。お前、他にも大切な事とか、あるだろ」 「大切な人も、ものも」「あるだろ」 今までだってそうだ。与えられるだけそれに甘えてきた。 自分が貴方に与えられたものは、貴方がくれたもののどれだけを返せただろうか。 昔から、大事なものを大事にするのが苦手だ。 ただ揺らがずにそこに在って、愛を配る貴方の姿が酷く眩しい。 「……俺もサヴィみたいになれたら」 「こうはならずに済んだかな」 真似して笑ってみたって、やっぱりそれも、滑稽だろうか。 (-402) 2022/08/23(Tue) 12:24:38 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド/* こんにちは。 続きを送る前に、時系列の確認だけしてよろしいでしょうか。 こちらが話しかけたのは一日目ですから、現在の時間軸は 【一日目:夜】 であると認識しております。死亡は 【三日目:夜】 ですから、少し時間が空くと思っていて(この晩はひとまず平和に終わって)よろしかったでしょうか。もうこのまま殺すという感じなら、話し始めたのも三日目だということにしてもいいかと思います。 (-408) 2022/08/23(Tue) 13:30:36 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ/* こんにちは!私もその認識でいます! この場は一度閉じて、後日迎えに行って殺しましょうという事にしようと思っています。 なのでこの場ではとりあえず何も起こしはしませんね! (-409) 2022/08/23(Tue) 13:38:23 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド「奪うだなんて、面白いことを言うんだね、君は。僕の心はもう君のものだって言うのに!」 「……奪わなくたってあげるさ。君になら、なんだって」 甘い。 甘い。 酷く、甘い。 言葉を吐く口元は、柔和に弧を描いている。 「僕はね、ドニ。君たちを愛してる」 「だから大切な人も、ものも、全部あるのさ。ここにね」 わかるかい、と瞳が問いかける。言い聞かせるように覗き込む。アメジストの双眸は君から目を離さない。君だけを見据えて逃がさない。 触れた頬から男の体温が伝わる。周囲の空気は冷えているわけではないのに、その手はなお熱い。肌の下には、確かにあたたかな血が巡っているのだろう。 「……なんて顔をするんだい」 眉を下げて目を細めるそれだって、一つの笑みの形ではあるのだ。 俯く君の顔を、さらりと流れた髪が少し隠した。それを丁寧に分ける男の手つきは、怒られて隠れてしまった子どもを探す親のそれに似ていた。 「まったく君は、僕を捕まえておくのが上手いね。今夜は少し話したら帰るつもりだったのに」 「君が君でいてくれて、僕がどんなに嬉しいか────」 (-418) 2022/08/23(Tue) 16:19:30 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ自分には、それが本当にどこまでも、どこまでも甘く感じて。 本当に許された気になってしまう。いや、許しているのだろう。 自分は責めて欲しいのだろうか。受け入れて欲しいのだろうか。 それすら考えるのが怠惰になるほど、貴方に与えられるものが甘くて。 絡め取られている気分になる。 スノーホワイトの髪が貴方の手に分けられて揺れる。 なんだか少し恨めし気な視線が、その間から覗いた。 けれどその表情は、薄く笑んで。 「変われないのは得意だからな」 「……お前の心が俺のものなら」 「付いて来て貰うよ。……地獄まで」 一つ、深く息を吸い込んで。 「明後日。迎えに行く」 「いいかな」 そう伝えた。 あの路地に、夜に来てくれないかと。 そう伝えて、また、手を握る。 「サヴィ。……悪いなぁ」「よかった」 貴方にしてもらったように、手首にキスをする。 「お前の命を貰えたら、俺は何にも寂しくないよ」 「俺と一緒に居てくれるんだ」「よかった……」 (-421) 2022/08/23(Tue) 17:45:35 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド「明後日ね。空いてるよ」 こちらは緊張した風でもなく、やっぱり笑っている。 場違いな程いつも通りに笑っている。 「……」 「ああ、非番はその次か……」 そんな、緊張感のないことすら口にしてみせるのだ。 「どこにも行かないよ、僕は」 「ここ以外のどこに行くって言うのさ」 君からのキスを享受する。 親鳥から飛び方を真似たような、親猫から獲物の取り方を習ったような、そんな君の愛し方。歳はひとつしか違わないのに男は君をよく可愛がったし、君は男によく甘えた。 二人でいる時々は逆転もしたけれど、概ねその関係は変わらなかった。 それから、君が満足する頃。 「ドニ」 男は、何度目かのその名を呼んで。 君に、今度は深く口付けるだろう。 (-451) 2022/08/23(Tue) 20:17:22 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ「ああ。……はは。行けないかもなぁ、二人で」 それは残念だな、と合わせたように暢気に言う。 「分からないだろ。何があるか、どうなるかも」 「な」 貴方の事は信じている。 絶対に貴方は裏切らないし、どこにも行かないと。 でもそれでも、放しがたくて。 これが貴方の真似なのはそうだ。そして貴方よりも拙いものだろう。 それでも伝えようとするとき、愛したいと思う時、自分は貴方の真似をした。 身近にある、一番明確な愛の形だったから。 「ん? …………、あ」 名前を呼ばれればまた貴方の瞳を見て。 再び重ねられた唇と差し込まれる舌に、薄く口を開けて答えた。 貴方の気が済むか、こちらの気が済むまで、きっとそれは続く。 ……やっぱり、甘い。 (-457) 2022/08/23(Tue) 20:41:28 |
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