【魂】 家族愛 サルヴァトーレ数刻の後。 男はまだどこに顔を出すこともなかった。出せなかったのだ。 アルバファミリーのコンシリエーレである彼は、感情を逐一表情に出すほど子どもではない。しかし愛する家族との時間を邪魔されて不機嫌にならないほどおおらかでもない。信号が赤になったのをこれ幸いと、目を閉じて一度深呼吸。ネクタイを緩めてリラックスを試みる。 気取られないように目線だけで後方を確認すれば、バイクが一台。(>>_2) ────つけられている。 視線を前に戻し、さてどうしたものかと座席に体重を預ける。 馬鹿正直にずっと後ろにいるわけではない。時々は見えなくなる、或いは遠くなる。軽く撒こうとも試みた。しかしいつの間にかまた、いるのだ。その決して素人ではない感じが、男を警戒させた。 相手はヘルメットをしていて、歳の頃は分からない。体格は小柄で女のように見えるが、或いは華奢な男かもしれない。敵対組織の者か、それ以外の手先かもまだ分からない。距離もあるし視界も限られた現時点で、相手の正体を特定するなんて、ただの人間には無理な話だ。 相手も街中で派手にやり合うつもりはないだろう。かと言って、逃げ続ければ諦めてくれそうにもない。 ならば尚更、愛する家族に近づけるわけにはいかない。自分だけで済む話なら、軽く始末しておくに越したことはない。 信号が青に変わる。 男は車を【埠頭】へと進めることにした。 (_4) 2022/08/12(Fri) 18:24:20 |