【人】 piacere ラウラ【マウロの部屋】 >>23 リカルド様 貴方の言葉に何かを答えようと顔を覆うままに口を開くけれど、喉が震えて上手く言葉を紡げない。 己の中でここまで大きな存在があることに初めて、気付いてしまった。 そう、これはきっと── 喪失感 。女にはまだその名前を理解出来ていないけれど、いつかにも感じたもので……忘れてしまったもの。 一度袖で涙を拭い、差し出されたハンカチを受け取る。 そこで見えた表情はいつも通り ではない だろう。貴方はベッドに腰かけているから、視線はやや下に向かうのだろうか。 であれば 涙は床へとポロポロと零れ落ちて、拭ったはずのそれもあまり意味が無くなってしまった。 ラウラは、知りませんでした。 マウロ様がラウラのために何かを残してくれようとしたこと。 知りませんでした。こんなにも考えてくださっていたこと。 知りませんでした。……マウロ様、ラウラは。…ラウラ は、 「マウロ 様……、………どう、して。 ……どうし て、…ずるい、です…………」 いたい、 くるしい。 かなしい。 置いていかれる事がこんなにも辛いことだと、わたしはまた 理解するのです。 受け取ったハンカチは、直ぐに涙で濡れてしまった。 声を上げることは無いけれど、貴方に迷惑をかけてしまうのではないかと思考するけれど。 どうすればこの涙が止まるのか、本当に分からないのだ。 「……ごめん、なさい………………………」 (29) 2022/08/19(Fri) 2:40:27 |