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【秘】 飢えた狗 ムルイジ → 愛される"天使" ナフ廊下を、死人のような速度で歩くその姿を見て、眉根が寄る。 途端、凄惨な現場がフラッシュバックして、 近づこうとして鎖に繋ぎ止められる。 あらかじめ今日の鎖の長さを 身動きの自由を制限する長さにされていたのは、 この面会のためかと歯噛みした。 「……ナフ」 掛ける声の色がわからない、そんな声色で呟いた。 (-7) reji2323 2021/07/10(Sat) 15:38:49 |
【秘】 飢えた狗 ムルイジ → 愛される"天使" ナフ壮絶な叫びを、痛みへの拒絶や忌避を、 目の当たりにしているからこそ。 今のこの空虚な状態のナフに合点がいく。 何もかもに疲れた状態の少年は、 自分と共に堕ちてきた最初の彼とは――まるで違う。 これが一度、救われることを願った者の末路か。 腕を失い、翼に変えられた少年が。 あれだけ、何もかもを犠牲にしてでも 家族に会いたいと言っていた少年が。 泣き出しそうな笑顔を見せて、何もかもを諦める表情に。 奥歯が音を立てて鳴った。 ▼ (-10) reji2323 2021/07/10(Sat) 16:05:49 |
【秘】 飢えた狗 ムルイジ → 愛される"天使" ナフ多分他のやつなら。 自分で選んだやつなら。 己の生き方に納得しているやつらなら。 いつも通りの言葉を掛けられたかもしれない。 この不自由を与えられた少年は、 自分にとっては、まだ年端も行かない15の少年で。 心が。 大きく軋む音がして、全く同じような泣き出しそうな顔で。 「悪ィ……」 繋がれたまま、笑った。情けない、情けない笑顔で。 「同情しすぎて。 ……簡単な慰めが、出てこねェよ」 それでも希望はある、まだ家族にも会えるかもしれないなんて、 無責任で残酷に前を向かせる大人の言葉が。 ……どうしても、どう頑張っても、出てこなかった。 こいつの前では。 こいつだけの前では。俺は、ただの弱かった、 亡くした者を必死に探していた――。 金と運命に振り回されていた、15のガキに戻っちまう……。 (-11) reji2323 2021/07/10(Sat) 16:08:03 |
【秘】 飢えた狗 ムルイジ → 愛される"天使" ナフ首を垂れ、長い緑髪を前に落とし あーーーーーー……と、長い声を出す。 何が悪いかは、俺だって分からない。 急に理不尽に奪われることに折り合いをつけるのは、 15の自分には無理だった。 半身ともいえる相手と引き裂かれたことを、 何か正当に悪かった選択の結果だと思うことも 何も悪くなくてただ運が悪かっただけ思うこととすら ――当時の自分にはできなかった。 両腕に搔き抱く温もりを奪われた自分と。 温もりを搔き抱くための両腕を失ったナフが。 どうしても、どうしても重なる。 「……そうか。 ………ここから先のことは、オレも分かんねェんだ。 悪ィ……」 あの時も、15の自分はここから先が見えなくて、 何も信じられなかった。 今も、それと同じような状況だ。 きっとナフはこれから、その客に"天使"と呼ばれる。 自分が"賭け師"と呼ばれてきたのと同じように。 ▼ (-14) reji2323 2021/07/10(Sat) 16:59:14 |
【秘】 飢えた狗 ムルイジ → 愛される"天使" ナフ「……ナフ。 一個だけ、頼みがあンだよ」 それは、ギャンブラーとしてではなく、 ただ一人の男として、まるで懇願するように願われた言葉だった。 欲しいモノは勝ち取り、必要なものは奪って来た彼が、 たった一つだけ他人に懇願するように願ったもの。 「辛いなら。 辛いって言って。 ……泣いてくれねェか 。オレの前でだけでいいから。 ……オレの代わりに」 愛する者を失ったあの時から。 ずっと泣けなかった自分の代わりに。 泣くことすらできなくなるくらい 運命に翻弄されて汚れちまった自分の代わりに。 まだ子供で、涙を零せるうちに。 今も胸の中で涙をこらえている。餓鬼のオレの代わりに。 誰かが許してくれたら、きっと泣いていた自分の代わりに。 誰かの涙を目の前で見ているくらいしかできないけれど。 それでも、こいつが……"ムルイジ"にならないように。 (-15) reji2323 2021/07/10(Sat) 17:01:25 |
【秘】 飼い狗 ムルイジ → 愛される"天使" ナフ「………」 顔を、寄せる。 相手が手を腕を使えないのならば、 自分も動く範囲で顔だけを寄せて、 お互いの髪を絡ませる距離で、静かに呟く。 一粒、二粒、零してくれるナフの涙は、 年相応のもので……それでも、もっと壮絶な痛みや苦しみ、 離別の悲しみや先の不安さを抱えているはずで。 「……よく我慢したな。 すげェよ、オマエは……。 痛かっただろ……辛かったよな。 これから先、どうなるかもわかんねェのは、 気が狂いそうなことも、知ってんだ」 それは。 目の前の少年に。 涙を零す少年に向けた言葉。 「……救うことはできねェ。 助けることも、できねェよ。 人は、そう簡単に救われるもんじゃねェのも、 オレは……知ってるからな」 ▼ (-21) reji2323 2021/07/10(Sat) 21:18:25 |
【秘】 飼い狗 ムルイジ → 愛される"天使" ナフ互いの頬を擦りつける。 そこには温度があり、感触がある。 相手がそういう形でしか触れられないのなら、 こうやって触れるのがいい。 対等な勝負に拘る男のなかには、そういう美学がある。 「だから、辛くなったらそのたびに上手に泣けよ。 ……我慢すんのは、大人になってからでもいい。 痛ェって口にしたらまずいなら、 辛ェって口にしたらまずいなら、 ここにきて全部吐き出していけよ。 オレは、そういう弱いやつを、 絶対笑わねェからよ。 それまで、ここに無敵の"ムルイジ様"としていてやるよ」 負けたことも弱かったこともある男は、 穢れた躰と傷だらけの肌と罅割れた心で囁き。 最後に、こつ、と額同士を付けて、 ニッと、鎖に繋がれたまま笑った。 「……ああ、今の笑顔はノーカンで」 (-22) reji2323 2021/07/10(Sat) 21:19:56 |
【秘】 飼い狗 ムルイジ → 陶酔トリッパー バーナード鉄格子で囲まれている以外は普通の内装の部屋を訪れた男に 壁に鎖で繋がれた滑稽な男は怪訝な顔をする。 ――ああ、こいつは、地上でも見た。 そしてモニタ越しにも、何をされたかを見ている。 その上で。 「……お前、よくその感じで来れたな。 他人の事言えるほど、こっちも気落ちしてねェが」 呆れ半分共学半分といったところで、 相手を上から下まで眺めた。 (-30) reji2323 2021/07/11(Sun) 2:39:00 |
【独】 飼い狗 ムルイジ「最高にアガる賭け場で会心の手を上がって、 観客に喝采を浴びてきたギャンブラーのオレが…… 12年間、飲んでたのが…… ソフトドリンク ……」2ダビーはもう四捨五入したら0なんだよ。 (-51) reji2323 2021/07/11(Sun) 3:12:48 |
【秘】 飼い狗 ムルイジ → 陶酔トリッパー バーナード「………。 すげェな。全人類テメェだったら、 戦争とかなくなンじゃねェのか……」 そこそここの世界に居ると、たまに居る。 二つあるものの一つが亡くなったとき、 失った一つを想うのではなく、 もう一個あるからまあよしと考えるやつが。 「鎖で繋がれてるやつに将来のこと聞くの、 かなりブッとんでんな。鎖で繋いだ奴に聞けよ。 まァ。そうだな……。 逆転の目がありそうなら、そーするってだけだ。 逆に"気に入られ"てんならやりようもあるって話だ」 そのためにベットを釣り上げてきたというのもある。 賭け台に十分な金子を載せることが出来るようになれば、 ここに居る理由ごと買い取ることだってできる。 「っていうのを、テメェに漏らしたんで、 多少計画が遅れるかもしんねェけどな。 それとも何か、テメェがランプから出てきた魔人様で、 カワイソウなオレの願いを聞き届けて外に連れてってくれんのか?」 相手がこの調子で従業員にオレの動向を探れと言われた、 情で絆すスパイではないとは言い切れないので笑った。 別にそれも関係ないと、豪胆に。無思慮に。 (-71) reji2323 2021/07/11(Sun) 12:17:03 |
【秘】 飼い狗 ムルイジ → 凶つ"嫉妬"の悪狼 サダル「よォ」 ――こんなところで、奇遇じゃねェか。 信じられないことに両手同士を鎖で繋がれた状態で、 あなたの入れられた部屋に『男が訪ねてくる』。 幾分薄汚れた顔で、その薄汚れの顔にした張本人に、 軽薄な笑みを浮かべながら、無思慮に、無遠慮に。 今度は鍵の掛かってない部屋に侵入して、笑う。 「随分とまァ、大きく張ったじゃねェか。 ……お陰で、こんなところで逢えることになって、 心から嬉しいぜオレは。 どうだよ、気分サイコーだろ。 独り占めするには、勿体ないくらいによ」 皮肉気に言うが、幾分相手への当て擦りは少ない。 同じ立場になった以上、どうしようもない現実が、 否応なしに互いの周囲を取り囲んでいるから。 (-74) reji2323 2021/07/11(Sun) 13:48:16 |
【秘】 飼い狗 ムルイジ → 凶つ"嫉妬"の悪狼 サダル部屋のあちこちに、これ見よがしにカメラがある。 ここも自分の部屋と同じように、プライバシーなどない。 環境としちゃ、どっちもどっちだなと口の端を持ち上げた。 「そうかよ。そりゃ重畳。 熱狂も怒号も侮蔑も嘲笑もありゃ、 勝負師冥利に尽きるってもんだな。 何をしに来たかと問われ、 やることは一つと言われると鼻で嗤い。 「……だよなァ。 狭い密室に、互いを知らないわけじゃねェ男女が二人、 ヤるこた、いつだって一つだな」 適当に椅子を取って、座る。 ようやく、目線が合う位置まで、辿り着けた。 「……約束を果たしに来た。ほら客が席に座ったぜ。 何でキメるよ……ディーラーさんよ」 オレの、こいつとの賭けは。 ――まだ終わっていない。 (-76) reji2323 2021/07/11(Sun) 14:24:45 |
【秘】 飼い狗 ムルイジ → 凶つ"嫉妬"の悪狼 サダル言っとけ。じきに強請るようになると言いかけて、 微妙な、本当に些細な言葉尻の変化に眉根が寄った。 「………」 相当に。 自分の打ち込んだ楔が効いたとみた。 ……こんな女だったか……? いや……こんな女だったんだろうな。 だからオレは――。 「卓囲んで目の前の相手以外の別のモン見てる暇あるかよ。 少なくともテメェと向き合ったとき、 オレにそんな余裕は一匙もねェ。 ディーラーを前にしたギャンブラーはそういうもんだ。 ああ、ただ……そうじゃねェとき。 賭け台に向き合ってないときまで、 全ての時間の視線や思考を釘付けにしたきゃ……。 お前しか見えねェようにしたきゃ」 舞台の上で、お前がやったように――。 ▼ (-79) reji2323 2021/07/11(Sun) 15:46:07 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → 凶つ"嫉妬"の悪狼 サダル「――賭け、勝ち、奪うしかねェだろ。 オレ達は、そういう生き物なんだから。 ただ、正式に、言葉にしてほしいなら、 ちゃんと言ってやる」 軽薄な笑みが、スと消える。 それは恋人には絶対向けない表情で、 恋人に向けるよりも強く、濃い感情。 一人のギャンブラーであり続けた男が、 その人生全てをテーブルの上に乗せる、 熱病に似た灼熱の感情と妄執の"告白"。 「――サダル。 お前と勝負がしたい」 一人の賭け師と、賭け師として。 (-80) reji2323 2021/07/11(Sun) 15:47:43 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル余りにも温度の高すぎる焔に触れると、 人は肌に冷たさを覚えるという。 このディーラーを前にしてオレが覚えていた、 絶対零度の透徹した思考と理論はやはり、 その奥に潜む情念の緑色の炎の裏返しだった。 皮膚の表面を炙られるような緊張感に、 己の中の賭け師としての血が騒ぐ。 差し出された鉄の塊。 引き金を引けば弾が命を奪うそれを見て。 ――ああ。成程確かに。 これなら、どんな結果が出ても、 二度と忘れることはできないだろうな と思った。このディーラーの。 この賭け師の。 この女の執着と執念を、鉄の温度で感じた。 「………」 ――命を。――間違いなく、乗せてきやがった。 それは、自身がめちゃくちゃにされてきた 可愛い女の稚気のように。意趣返しのように。 オレ自身を――オレの心を、めちゃくちゃにするために。 ▼ (-85) reji2323 2021/07/11(Sun) 17:47:51 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル必要な情報は与えられない。 必要な幸運に縋りつくことも許されない。 選ぶのは自分で、それを選ばせるのが目の前の"賭け師"だ。 選択肢は山ほどある。 ――弾が込められているのか。 ――引き金を引いたとき銃の挙動は。 ――撃った後に起こることは何だ。 ――これ自体が罠の可能性もある。 ――イカサマが含まれているか。 ――この"賭けの真意"は何だ。 ――真の、勝利条件とは。 ――どこに向けて。何を撃つかが――オレの手の中にある。 ニアの言葉が脳裏をよぎる。 『……だから、次からは賭ける前から。 それがギャンブルかどうか、よぉ〜く確かめるっすよ』 分かってる。 今度はしくじらない。 だけどな……ニア。 本当に勝ち取るためには、 先に賭け金をテーブルに置かなきゃいけねェんだ。 ▼ (-86) reji2323 2021/07/11(Sun) 17:49:05 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル銃口を。 ―― 己の頭に向ける 。「……一つだけ、聞かせろ。 サダル。 それで、このギャンブルに決着をつける」 相手が命を差し出す覚悟なら。 こっちも相応の物を支払わないといけない 。これは"賭け"なんだから。 どんなに不平等だろうが不条理だろうが、 それに勝つには、自分の心すらも何もかもを捻じ伏せなければ。 ――そこに勝利なんて、ない。 嫉妬の怪物に。 豪運の調伏者は問うた。 「オレに――勝てると思うか?」 かつて自分を地獄に落とした女に――問うた。 (-87) reji2323 2021/07/11(Sun) 17:51:18 |
ムルイジは、ギャンブラーだ。 (a40) reji2323 2021/07/11(Sun) 17:58:50 |
ムルイジは、その引き金に、指を掛けている。 (a41) reji2323 2021/07/11(Sun) 18:00:47 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → 陶酔トリッパー バーナード「大して変わんねえだろ、この船も世界も……。 ……何言ってんのか全っ然わかんねェけど、 いっぺん雨に濡れたら傘とかどうでもよくなったって気分か?」 何かを亡くした状態で来やがるやつ多すぎんな、と呆れた。 バーナードの指摘を受けると、眉根を上げる。 「あー……? そんな風に見えてんのか? オレは世界中の人間全員に博愛の感情を持ってるナイスガ、 まぁ、いいか。そういうのは。 ……自己中心的で間違いねェと思うぞ。 オレはあいつのこと救ってやれねェよ。同情はしてもな」 このザマの人間がソレ聞かされて、 何が出来るってんだと鎖を鳴らす。 目の前の男とナフの関係は知らないが、 首を突っ込む気もさらさらない。 「その上で個人的な、勝手なこと言うなら、 ガキに良い大人がムキになってんじゃねェよ。 アイツから何の被害も受けてねェ オレの勝手な意見だがこれがスタンスだ、オーケィ?」 ▼ (-95) reji2323 2021/07/11(Sun) 18:42:56 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → 陶酔トリッパー バーナード「……んで。 オレも相当な気分屋なんで、アイツ殺したら教えてくれよ。 気が向いて人生に暇が出来たら 殺してやる から」殺意はない。 ただ単に。 通り道に邪魔なもんがあったら蹴飛ばすくらいの感覚で、 気が向いたらお前を殺してやるよとつまらなそうに言った。 邪魔はしない。 守る気もない。 ただ平等に、奪うやつは奪われる世界であってほしいと願う、 ギャンブラーのスタンスを示した。 「……この忌々しい鎖がなけりゃって前提、 いちいち入れるのクッソ面倒だけどよ……」 何度も言うが。今のオレを買い被りすぎじゃねェか? (-96) reji2323 2021/07/11(Sun) 18:43:54 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル仮面がねェと。 ……本当に、可愛い女だなこいつ。 ただ、その反応で確信した。 その言葉で、その笑顔で確信した。 この勝負が、どういう勝負なのかを――。 「――そうか。 ありがとよ 」▼ (-97) reji2323 2021/07/11(Sun) 18:50:11 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダルだったら。 これが。 これしか。 オレが出す答えは、ない――。 オレ達は今。 誰にも、邪魔なんてされないから――。 激動すぎて―― もっと別の出会い方が出来たらなんて、 思う隙間もなかったな。 ▼ (-98) reji2323 2021/07/11(Sun) 18:51:31 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル息を止める。 オレは、自分のこめかみに向けていた銃を。 その銃の引き金に指を掛けたまま。 ―― 銃口を、サダルに向けて、 引き金を、引き絞った。 (-99) reji2323 2021/07/11(Sun) 18:53:50 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル銃弾は、発射された。 ――血の色の睦言を耳にして。 重ねられる唇の感触に、 籠った温度に火をそのまま口にしたような痛みがあった。 指先が。 銃弾を発射したその反動で、 痺れていて。 力なく、紅を零しながら倒れ込んでくる身体を。 唇を噛み締めながら、抱き留めた。 最後まで、嘘吐きが。 いや違うな。 これでもう。オレがお前のことを。 この感触を、指先と唇から忘れられなくなることが。 ――最初から勝利だったっていうのだろうか。 『すきだよ』 耳に残るその言葉がずっと、ずっと脳内を駆け巡る。 ▼ (-104) reji2323 2021/07/11(Sun) 19:32:34 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル胸の中の女に向けて、 小さく、囁く。 聞こえているかは分からない。 聞こえていなくとも構わない。 これは、そういう言葉だ。 「サダル。 ……オレの愛した女が、 お前に似てるなんて、―― 嘘だ 」――それは呪いでもあり。 ――答えでもあった。 "似てるだけの顔の女"を。 ――"オレが覚えるもん"かよ。 似ても似つかねえよ、お前の顔も、生き方も 。一個も似てねェし、そう言やテメェが嫌がるかと思えば、 別のとこに刺さりやがって、本当、面倒で簡単な女だ。 ケツの下から聞こえる負け惜しみに、まんまと騙されやがって。 それこそが ブラフだ って言ったら、今度こそ怒り狂うかもな、テメェは。 ▼ (-105) reji2323 2021/07/11(Sun) 19:33:39 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダルお前は、誰にも似てなかった。だから覚えてたんだ。 オレがお前に重ねたのは。 ―― オレ自身の中に芽生えた、お前への好意 だ。それが、どこかでお前と会えないかと願っていた俺の本心だ。 しっかりもう。 "アイツ"が残していった穴に、 しっかりと四文字を埋め込んでいきやがって。 本当に、お前は厄介な女だよ、サダル。 腕の中から、温度が失われていく。 呼吸もか細くなっていく。 ただ――それが、それこそが。 オレが選んだ。 オレ達の、"賭け札"だ。 ――あまりに不平等で不条理で。 聞けばきっと、誰もが指さして嗤うような、そんな選択だ。 ▼ (-106) reji2323 2021/07/11(Sun) 19:35:32 |
【秘】 "お前の愛した" ムルイジ → "賭け師" サダルオレは、銃弾を撃ちこんだ。 その上から、コイツが一番気になる言葉を捻じ込み蓋をした。 サダルの心に未練という形で存在していたとするなら、 それが『嘘』だと言われれば、次を求めるはずだ。 それしか。 それだけしか、オレが選べる手札はなく。 その銃弾が本当に貫き殺したかったのは、 こいつ自身が見に纏っていた『嫉妬』そのもので。 ――それが成功したのか、失敗したのかは分からない。 間に合うかも、助かるかも分からない。 その選択が全て間違いであることもあるかもしれない。 ただ。それがオレ達の。 "賭け師の生き方"だから。 「……オレも。 オレが勝つことを、信じてんだよ。同じだな」 オレはだから。 もう少しだけ"愛せたかもしれない女"に。 静かに――長く、唇を重ねた。 眠り姫は――まだ、目を覚まさない。 (-107) reji2323 2021/07/11(Sun) 19:39:37 |
【人】 "ギャンブラー" ムルイジそっと、その体を寝かせ。 「……………クク。 ハハハ。 ハァーッハッハッハッ!!! 」仰け反って、大声で叫び笑う。 部屋に据え付けられたカメラに向けて、 熱病に冒された子供のように狂い笑う。 「……見たかよッ。 見てんだろ、サイコーのショウをよォ! ムルイジ様をこんな地獄に落とした、 生意気なクソ女にギャンブルで勝ったぜオイ!! 見てるヤツらの中にゃ、 こいつにイライラ来てたやつもいるだろうよ!! 見たかよこいつの銃弾食らった時の顔、 絶望に塗れて、こんな掃きだめで、 自分の落としたやつに復讐されて、 サイコーにキマるだろ、チョーシに乗ってるやつが、 思いっきり地べた這いつくばる様はよォ!!」 カメラのマイクではサダルの小さな囁きは拾えず。 その細かい表情までは見えないはずだ。 だからオレはあえて、煽るように嘲るように 両手を真上に上げて挑発するようにカメラに向かって叫んだ。 ▼ (57) reji2323 2021/07/11(Sun) 19:47:13 |
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