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【赤】 従業員 ルミ[ 叶っていくのに。叶っているのに。 どうしてこんなに虚しいばかりなのだろう。 ────どうして。 わたしは、 ] ………………っふ、あは、は お兄さん、……だいすき ……あいしてるんだよ、本当に…… [ 目から流れたものはただの汗で、 きっと目を閉じていれば彼は気付かない。 誤魔化すように笑って、身体を動かした。 中に彼の熱を吐き出させるためだけに、 それだけを目的にした虚しい動きで。** ] (*47) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 8:57:47 |
【赤】 従業員 ルミ[ 恋は万有引力なのだと誰かが言っていた。 ツバキの花が落ちるように音もなく、 りんごの実で堕ちたように先もない。 原初の罪というものがある。 禁断の果実を齧って神に背いた二人の話。 彼らには口にせず共に在り続ける未来があったのに 罪を犯してでも手にしたい何かがあった。 それならば、この恋は。 わたしと貴方、原初の罪の ──その対価は。 ] (*55) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:01:58 |
【赤】 従業員 ルミ[ 初めて食べたアイスの甘さも。 焼き芋の舌を焦がすような熱も。 名前を呼ばれることの嬉しさも。 誰かに花をあげることの情動も。 貴方と同じ名前の生き物がいることも。 痛みも苦しみも愛しさもなにもかも。 貴方が与えて、貴方は消えた。 ────忘れようとするたびに、あなたを思い出す。 ] …………なぁに? これでもまだ名前で呼んでくれるんだ。 そうすれば逃げられるとでも思ってる? [ 力も抜けて上手く喋れない状況なら、 いっそわたしに絆された振りをして 隙を突いて逃げる方が現実的かもしれないものね? ] (*56) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:02:33 |
【赤】 従業員 ルミ[ 今更男と女として知り合うなんて出来やしない。 もう一度最初からの幻想は夢のまま。 出会い方が選べないなら、 手離し方は選べるのが人間だよね? ────今度はわたしがそうする番。 一緒に同じ傷を負って。 何を見ても、なにに触れても、どんな日常でも わたしを思い出して、──死ぬまで傷の中で会おうよ。 制止の言葉は聞いてあげない。 かさぶたを剥がして傷口を抉って貴方を手にする。 夢すら果てる程に焦がれたこの結末が、 ──きっと何よりも喜べるはず、だった のに、 ] (*57) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:02:38 |
【赤】 従業員 ルミ…………? ……あぁ お兄さん、薬切れ始めちゃった……? [ 先程よりも明確な音になった言葉を耳に入れ、 わたしは問いに答えず小さく呟いた。 視界の端で彼の手がすこしずつ動いている。 身体でも押すか、力に任せて暴れるか。 薬剤の追加投与なんて危うい真似は出来っこない。 ならばと抑えつけるために、彼の肩へ そっと手を伸ばそうとして── ] (*58) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:03:08 |
【秘】 従業員 ルミ → 会社員 雷恩──────……、 は……? [ 虚空を撫ぜて落ちる手を見届けながら わたしは水面を波打たせるように声を震わせる。 ] (-22) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:03:14 |
【赤】 従業員 ルミ[ 真意が読めなくて、わたしは目を細めて動きを止めた。 滲んだ視界を晴らすように眦を拭ってから、 途切れ途切れに紡がれる言葉へ耳を傾ける。 ] 嘘つき。 そうやって、またわたしから逃げるくせに。 ストーカーにそんなこと言ってまで逃げたいの? ──殺さないって最初から言ってるじゃない。 ああもう、どいつもこいつも、そうやって……!! [ 唇を噛み締めて、自分の腕に爪を立てた。 傷付いてくれと願った以上大差はないだろうけれど、 物理的に傷を負わせたいなんて思ってはいない。 行き場のない激情を彷徨わせながら、 わたしはもう一度、彼の顔を じ、と見下ろして。 ] (*59) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:03:42 |
【赤】 従業員 ルミ………………………。 …………逃げたら死んでやるから。 [ 目論見通りにはいかないと続けることは出来ただろう。 けれど同時に、彼の幻影を、貴方へ見ていた。 撫でられたかったわけじゃない。 そんな夢はもう小人たちの家に置いてきた。 ただ、もしかすれば、と微かな蜘蛛の糸を手繰ったの。 わたしから逃げないお兄さん。 わたしを、忘れないでいてくれる、お兄さん。 ] (*60) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:03:52 |
【秘】 従業員 ルミ → 会社員 雷恩[ この期に及んでわたしは、 思い出として留めるべき過去を捨てられなかった。 昔の幻影に現在を重ねる。 ──ただ行為から逃れるための計算の色が、 彼にないことくらい分かっていた。 ] (-23) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:04:00 |
【赤】 従業員 ルミ[ 熱を引き抜き、けれど警戒するように跨ったままで わたしは動向を見守った。 撫でられたかったわけじゃない。 だって、この恋が実らないのと同じで 撫でて貰えるわけがないって理解してるから。 撫でて欲しいなんて望めない。 * ]それだけのことをしてるって、分かってるから。 (*61) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:07:27 |
【赤】 従業員 ルミ[ あの時間を忘れて、過去の貴方を記憶に埋めて。 きっとそうするのが一番良い道だったかもしれない。 わたしは貴方を傷付けないし、 貴方も忘れた過去を思い出すこともない。 諦めるのは生きていくだけならとても楽で、 ]けれど選べたのは無様でも縋りつくいばらの道。 思い出すたびに惨めで痛くて腕を切った。 血を流すたびに生きている実感があって でも、そこにはいつも、貴方はいない。 (*68) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 22:48:31 |
【赤】 従業員 ルミ[ 彼の声は震えながらも、言葉の輪郭を形作る。 持ち上げられた手を見やり、動向を注視しながら うそではないと紡ぐ声へ目を細めた。 ] そう思わせて逃げる算段かもしれないじゃない。 [ 理性では彼の言うことが正しいと分かっている。 感情が、一度消えた相手のことを信用できないだけだ。 ちがう。 信用できないという言葉すらも正しくはない。 これ以上、期待して傷付きたくないと 自己防衛に徹しているだけ。 ] (*70) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 22:48:41 |
【赤】 従業員 ルミ……諦めさせたのはお兄さんなのに、 なんでそんなこと言うの? わたしから離れて、勝手に消えて、逃げて 新しく女まで作って幸せそうで── 忘れてしまえるような昔の子どもひとりが、 …………ッお兄さんには他にたくさんの人がいても わたしには、わたしにはずっと、 昔のお兄さんしかいないのに!! [ どうして勝手に大人になったの。 どうしてわたしの知らない顔を他の女に見せてるの。 今からの貴方を諦めなかったとして、 貴方はわたしのモノになってくれるの? ] (*71) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 22:48:47 |
【赤】 従業員 ルミ[ 叶わない夢なら最初から星屑になって落ちてしまえ。 咲かない花なら最初から枯れて朽ちて消えてしまえ。 わたしのものにならないお兄さんなら、 いっそ過去に執着していた方が楽だった。 ────なのに結局今の貴方の傷を欲しがっている。 相反した感情と憎悪と愛情。 矛盾を抱えていることくらい分かっていて、 途方もない夢だけは見ないように自制して。 ] (*72) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 22:48:50 |
【赤】 従業員 ルミ…………おかげさまで。 [ ここで可愛く愛想を撒けるような女の子だったら、 ここで、強がって突き放せるくらい強ければ。 なにかを探すように持ち上げられる腕を見やり、 そ、とすこしだけ頭を下げる。 ────撫でられたいなんて、思う資格はないけれど ふれられたいと、願ってしまって。* ] (*73) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 22:52:34 |
【赤】 従業員 ルミ[ 女は彼と違って、経験してきた物事が少ない。 生きてきた世界とてそもそも狭いような生き物だ。 多くの人々と経験を知るよりも、 閉じ切った閉鎖的な世界で身を守ることを好んだ。 思い出のウェイトは過去に寄り過ぎた。 痛みも重みも麻痺するほどに時を重ねて、 昔を反芻し、飲み込み、追体験でこころを誤魔化す。 過去を今に当てはめて息をしているだけ。 そうするのが楽で、なにも傷付かずにいられるから。 ] (*80) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:41:48 |
【赤】 従業員 ルミ…………なにそれ。 今更そんな、 体のいい言葉で騙されたりなんか…… [ ────死んでしまうのが一番楽だと考えたこともある。 こころを殺して生きていくより、 身体ごと死んでしまえばいいのかと。 けれど。 どうして苦しいばかりの世界で生きて来たのか。 死ぬことを別に恐ろしいとは思わなかったのに ──……それならば、なぜ。 ] …… [ 愛されようと色んな人に愛想を振り撒いて、愛を買った。 金を渡して夢を買った。 いくら繰り返しても満たされないまま大人になって、 ] (*81) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:42:09 |
【赤】 従業員 ルミ[ 目的もなく生きていくのなら、それでも良かっただろう。 けれど傷を付けながら、 生きるために彼のアカウントを探って彼を見続けた。 それは間違っても感動する類の話ではない。 犯罪として背筋を凍らせることはあったとしても、だ。 ] ……べつに、最初から泣いてない。 [ 嘘だ。今更繕っても意味のないこと。 涙で罪を誤魔化すみたいで、それは── そんなことはしたくないだけ。 ちっぽけなプライドだ。 わたしが泣いて許されるのは簡単だけれど それを見せられる彼の気持ちはどこにいく? ] (*82) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:42:32 |
【赤】 従業員 ルミ[ 彼の手が僅かだけ、体温も移らないほどかすかに触れる。 頭を少し下げただけでは届かなかったのか、 力の抜けた腕は、頭の代わりに醜いわたしの手首を撫ぜる。 長袖を着て見えないように誤魔化した過去の傷痕。 現在を生きるために過去で裂いた血肉の痕。 ────ひきつれた皮膚越しに感じた彼の指は おんぶして背負ってくれた時とは程遠い。 弱々しさだけが胸を打つ。 ] ────────……ッ [ なにをするのかと見ていれば、貴方は。 あの甘えとはまた違う懐古を連れてくる。 ] (*83) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:42:48 |
【秘】 従業員 ルミ → 会社員 雷恩で、でも、かわりにお兄さんがいたくなっちゃう…… ルミいたいのへいきだよ? ……あ、もうっ、お兄さん! そういうこと言っちゃ、めっ!なんだから! [ 知識のない子どもでもわるい言葉だと分かる。 だめ!と年下のくせに妙なところでお姉さんぶって、 そのくせ怪我の痛みに両目を潤ませていた。 痛い、とあまり動きたがらなかった幼い子どもも、 不思議とおまじないの後は軽快に歩けるようになり 痛みを食べてくれた人の後ろへ引っ付いて。 ] (-25) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:42:57 |
【秘】 従業員 ルミ → 会社員 雷恩……お兄さんって いたいのとんでけーじゃないんだね。 お兄さんがいたくなるのに、たべてくれるの? えへへ……やさしいねぇ。 あのね、でもね、ルミもおっきくなったら お兄さんのいたいの、たべれるようになるから! [ だから待っててね、と言って笑った。 その頃には彼も同じだけ時間を重ねて大きくなって 子どもの手助けなんていらなくなるのに。 どこにも彼は行かないと信じていた幼い頃。 撫でられては無邪気に喜べていた甘い記憶。 ] (-26) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:43:46 |
【赤】 従業員 ルミ[ 噎せたように笑う姿が理解出来なくて、身体を引いた。 どうしてこの状況で今彼は笑えるのか。 なにも覚えていないくせに、 どうして二人のおまじないだけ鮮明に見せてくるのか。 ここで都合よく受け止めて幸せになれるような、 お気楽で軽くいられる性格はしていない。 ] ……なに、お兄さん、意味わかんないよ 今痛いのは、そっちの方でしょ……? 上手く腕も動かせないのに、 [ 自分の頬を殴ってしまっていたのを思い出して 恐る恐る、頬の怪我を確かめようと指を伸ばす。 触れられるのは、彼にとっては怖いことだろうか。 躊躇うように指先が空を彷徨って、 ] (*84) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:43:59 |
【赤】 従業員 ルミ[ 迷子のような、悪さをした子どものような。 顔立ちばかりが大人に近付いた女のかんばせは、 どんな言葉も似合わないマーブルカラーだ。 背後から急激に匂い立つ過去に戸惑って、 責め立てるのではない彼の反応に怯えている。 ] ………………せっかく今日の為に お金も貯めて、お兄さんのことたくさん調べて チャンスをモノにしようと思ったのにな。 いいよ。もう。 ────なんにもしないし、抵抗しない。 警察でも何でも、連絡して良いよ。 [ やめてよ。 今更どうしてこっちを見ようとしてるの。 頭のおかしい犯罪者で、ストーカーなんだから、 昔と同じ仕草で、言葉で、やさしくしないで。 ] (*86) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:50:40 |
【赤】 従業員 ルミ……わたしの十数年なんか 嘘でも食べちゃだめでしょ、お兄さん 痛くなっちゃうよ……ほんとにさ。 [ 呟き落とすように咎めて、目を伏せる。 相変わらず跨ったままの体勢だと 彼の顔が嫌でも良く見えた。 ] ………… ほっぺた、怪我は? [ 自分が気にしていいことではないかもしれない。 けれど、自分の仕込んだ薬の影響ともなれば 資格がないなんて理由で放置もしたくはなくて。 両腕を下ろしたまま、小さく尋ねる。 敵意がないと示す唯一の手段だった。** ] (*87) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:56:57 |
【秘】 従業員 ルミ → 会社員 雷恩[ 誰から好意を向けられても満たされなかった。 対価を払い続ける愛もあったし、 中には本当に自分に恋をした客もいたと知っている。 愛してくれるなら誰でも良かったわけじゃない。 なのに着飾って、好みの女を演出して、 埋まらない隙間を見ないで済むように 多くの好意を欲しがった。 偽物のひかりが目を焼くたび、思う。 ──愛を得るたびに擦り減っていることを。 ] (-32) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 21:27:59 |
【赤】 従業員 ルミ[ 幼い頃は子供騙しにもならないことばかりだった。 隠れきれず、丸わかりの状態でかくれんぼをしたり お花の指輪は、すぐ編めるくらい簡単だと偽ったり。 傷付けるための嘘には乏しかったはずだ。 ────気付けばすっかり嘘つきに育ってしまったが。 ] だから、……ッ、 [ 泣いてないと否定しようとして、言葉を呑む。 彼の声音に宿った確信を感じ、 言葉の投げ合いをするよりも引くことを選んだのだ。 多く語るほど、過去の傷が痛むから。 ] (*92) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 21:28:04 |
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