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【人】 患者 アンネロズ[ 人はだれしも何か、秘密を持っている。 私もそうね、ひとつ。 秘密にしていることはあるの。 といってもこの秘密は私の親は知っている。 私を担当している医師も知っている。 私によく笑いかけてくれる看護師さんたちも。 知らないのは、私と親しい人たち。 私の病気を知っている人たちには 病気のことは言わないでって口止めしているの。 だって、病名を聞いたらどんな病気なのか 調べる可能性があるでしょう? ] (8) 2022/02/13(Sun) 15:17:53 |
【人】 患者 アンネロズ[ 嫌なのよ、 難病指定されているような、 死ぬかもしれない病気だなんて知られて 憐みの目を向けられるのも 腫れ物に触るような態度を取られるのも 頑張って、って他人事のように言われるのも。 ] (9) 2022/02/13(Sun) 15:18:50 |
【人】 患者 アンネロズ 私はそんなに強い人ではないから。 同情されたら、あなたたちはいいね、って 僻む姿を見せてしまうかもしれなくて でも、そんなの嫌なのよ。 死ぬかもしれないのならせめて 記憶に残る姿は、明るく笑ってる姿がいい。 (10) 2022/02/13(Sun) 15:20:03 |
【人】 患者 アンネロズ[ だから、対して強くもないくせに虚勢を張る。 私は大丈夫よ、って。 でも、そんな風に何でもないように 見せてたからかな。お見舞いに来てくれる人は 日に日に少なくなっていって。 当たり前なのは、解っているの。 みんな暇じゃないってことなんて。 わかっていても……。 ] (11) 2022/02/13(Sun) 15:21:49 |
【人】 患者 アンネロズ*** [ 専らベッドの上で本を読んで過ごしている 私だけど、その日は陽の光が浴びたいと思って。 天気のいい日だったから中庭で 暫く過ごそうと思ったの。 手に持っている本はよくある恋愛小説。 周りになじめない男の子と どこまでも明るい女の子の恋物語。 両親が買ってくれたベストセラーになった本。 本屋さんに行けば山積みしてあるような。 そんな本を左手に持って中庭へ行ったその日。 ] (13) 2022/02/13(Sun) 15:24:22 |
【人】 患者 アンネロズ どうしてかって? だって、彼の表情はどこか翳っていて。 息苦しそうな気さえ、してしまったのよ。 自由に演奏しているというより どこか型にはめられて窮屈そう。 そんな素人の意見がどこまで正しかったのか 知る機会はあったかしら? (22) 2022/02/13(Sun) 17:49:29 |
【人】 患者 アンネロズ*** [ あたたかな陽の光が照らすその場所で 私と彼は出会ったの。 眩し気に目を細めて、ベンチに腰かけている私と 礼装姿の貴方の出会い。それはただの偶然? ] (23) 2022/02/13(Sun) 17:50:33 |
【人】 患者 アンネロズ[ ふわり、とゆるく口角を上げて。 日焼けしていない白い頬は 少し不健康そうに見えてしまったかしら。 実際、不健康だからここにいるのだけれど。 礼装の彼とは対照的に私の服は病衣。 運命の出会い、というにはあんまりいい恰好は してなかったかもしれないけれど 服装を気にするのも今更よね。 ] (25) 2022/02/13(Sun) 17:52:35 |
【人】 患者 アンネロズ本は……好きよ。 ……ううん、 好きってことにしてる の。あんまりすることなくて。 退屈だから読んでる。 [ 手元の本に視線が移れば 題名が見えるように表紙を見せて。 代わり映えしない日々に退屈してたものだから つい、言わなくてもいいことまで 口走ってしまった私は、右手の指先を唇に当てた。 ] (26) 2022/02/13(Sun) 17:54:05 |
【人】 患者 アンネロズあ、これはひみつ、ね。 皆には本好きのアンネだと思われてるから。 名乗ってなかったわよね。 私はアンネロズ。 アンネって呼んでもらえたら嬉しいな。 (27) 2022/02/13(Sun) 17:54:36 |
【人】 患者 アンネロズ[ 慈善が集まることが悪いとは思わないし 音楽だったり人の優しさは患者にとって 勇気にもなりうる。 毒にも、なりうるけど。 私は、同情が入り混じった慈善は 毒だと思っているから 全部を受け入れることは出来ないの。 だからかもね。 全ては見えなくとも横顔だったり纏う雰囲気が 窮屈そうにみえた貴方は多少なりとも 頭の片隅に残り続けていたの。 ] (32) 2022/02/13(Sun) 21:11:57 |
【人】 患者 アンネロズ[ 本好きだ、なんてフィルターを通していないから 本好きのアンネ、なんて言われたら 首を傾げるのも当たり前よね。 そんな様子がおかしくて少し笑っちゃったわ。 ] こちらこそよろしく、エドワード。 [ 名前、全く知らないわけではなかったの。 だって、奏者の名前は コンサートの張り紙で見たもの。 知ってたとしても、本人から直接聞くのが 礼儀かなって私は思うから。 それに、彼が何もフィルターを通さずに 私の事を見ているように 私だって、彼を奏者というフィルターには 通したくなかったのよ。 ] (34) 2022/02/13(Sun) 21:14:47 |
【人】 患者 アンネロズ*** [ それから後、両親には出会った彼のことを 軽く話して、次また来てくれた時のために チョコレートを用意したい、なんて わがままを言ったりもしたわ。 それくらいなら、って喜んで両親は 私のわがままを叶えてくれた。 お友達と仲良くね、って両親に言われて 頬が緩んでしまったのは彼には内緒。 ] (38) 2022/02/14(Mon) 0:38:59 |
【人】 患者 アンネロズ[ さて、冷蔵庫の中のチョコレートが 貴方の目に触れるのはいつだったかしら。 私の病室に貴方が訪ねてきてくれたなら 笑顔で出迎えて、座って?って 椅子を指し示しながら、冷蔵庫からチョコを出した。 貴方が来るときのために用意してたの、 って少しだけ得意げにね。 ] (39) 2022/02/14(Mon) 0:39:44 |
【人】 患者 アンネロズ来てくれてありがとう。 お話の続きをしましょう? [ 貴方と向かい合うようにベッドに腰掛けて 話し始めることにするの。 そうね、この前の本は読み終わったとか そんな話を最初にすることになるかしら? 前は貴方の事を聞いて終わったから 私の事を聞かれるのなら、 病気のこと以外なら 何でも答えるつもりよ。 ]* (40) 2022/02/14(Mon) 0:40:20 |
【人】 患者 アンネロズ[ いつでも、私はエドの話を楽しそうに聞いていた。 だって、楽しいんだもの。 自分の話をしたくないわけではなかったけれど 話したくないことが一つある私と 聞いたことに応えてくれる貴方では 自分のことを話す時間に差が出るのは自然なこと。 本を読み終わった話をすれば返ってくるのは 見どころが知りたいという質問がきた。 ] (52) 2022/02/14(Mon) 11:08:06 |
【人】 患者 アンネロズ見所…そうね。 主人公の女の子が周りのことも自分のことも いつでも信じていられる強い心を持っているのは いいな、って思うの。 私は、そんなに強くないから。 主人公は私のためにしてることだから、って 好きな男の子を助けているから 男の子がそれを断れない場面も好きよ。 (53) 2022/02/14(Mon) 11:08:41 |
【人】 患者 アンネロズ[ 内容に触れすぎると楽しみが減るから 少し難しい質問だとは思ったけれど タブーだとは思わなかった。 口元に手を当てて少し考えてから 伝えたことが貴方の楽しみを奪うことに なっていなければいいな、と思いながら答えたの。 貴方の反応を聞いてから本を渡して、 読み終わったら感想をぜひ聞かせてね なんて笑って言うのよ。 ] (54) 2022/02/14(Mon) 11:09:48 |
【人】 患者 アンネロズ[ 楽しい時間を重ねていくたびに 自分が病気のことを秘密にしているのが 苦しくて、胸が痛くなってくる。 本当にその人を大切に想うなら きっと言わなければならないこと。 でも、私は言えなかった。 ] (55) 2022/02/14(Mon) 11:10:14 |
【人】 患者 アンネロズ[ 好きな食べ物はリンゴのタルトだったり、甘い物。 でも、食べ過ぎるとよくないから そんなには食べてない。後は魚より肉が好きとかね。 変わった好みではないし ありきたりな答えだったかもしれないわね。 どんな演奏を聴きたいかって言われたら 貴方の演奏、って返してしまったから 少し困らせてしまったかしら? どんな、とは違うものね。 ] 貴方が自由に演奏しているのを聴きたいの。 行ってみたい場所は……海、かな。 砂浜を走り回ったり泳いだりしたいわ。 [ 貴方の心の赴くままに演奏している姿が見たいと。 そう言う意味で言えば納得してもらえたかな。 行きたい場所は叶わない夢を乗せて伝える。 激しい運動は、今はもう出来ないから。 でも、夢見るだけなら私にも許されると思うの。 ] (56) 2022/02/14(Mon) 11:14:00 |
【人】 患者 アンネロズ[ きょとんとしていたら、 貴方は誤魔化すように笑った。 聞いた方がよかったのかもしれないわね。 貴方のどこか強くないのか。 でも、それを聞いてしまえば 私達が越えずにいる最後の線を 越えることになりそうで、言えなかったの。 ] ううん、エドは優しいわね。 それに、貴方と同じならいいかもって思えるの。 返しに来てくれるの、待ってるね。 [ また一つ、会う約束を重ねて。 願っていた通りにそれが叶うことが嬉しかった。 ] (62) 2022/02/15(Tue) 2:12:12 |
【人】 患者 アンネロズ*** [ いつのことだったかしら。 私は長い事入院しているけれど 病院から全く出られないわけではないのよ。 身体の調子がいいって検査でわかれば 外出だってできるのよ。 そう、私が外出できるかもしれないと 貴方に伝えた日が、確かにあったのよ。 外に出てもいい日が久々に訪れるとして、 叶うなら、貴方のコンサートに行きたいなって。 私は、そう考えたものだから。 ] (64) 2022/02/15(Tue) 2:21:49 |
【人】 患者 アンネロズねぇ、聞いて、エド。 いい知らせがあるのよ! [ なんて上機嫌でそのことを告げたの。 貴方が前に約束してくれた、 演奏を聴かせてくれるって話が叶うかも、なんて。 海にだって、いけるかもしれないわ。 その時の私はそう思っていたの。 ]* (65) 2022/02/15(Tue) 2:22:27 |
【人】 患者 アンネロズ*** [ ボランティアとして病院に来たことがあって 多少なりとも顔が知られている彼が 病院へと見舞いに来ているというのは 私を知る看護婦さんたちも知っていること。 ちゃんと私から言うから秘密ね、って 口止めはしておいたはずなのに! ニヤついていたなんて貴方から聞けたなら 貴方が見ていない所でこっそりと 文句を言いに行ったと思うわ? ] (72) 2022/02/15(Tue) 12:17:42 |
【人】 患者 アンネロズふふ、本当よ! 最近は調子がいいから もしかして、って自分でも思っていたの。 [ 労いの言葉には嬉しそうにしつつ、>>70 貴方が予想以上に喜んでくれたから くすくす笑いながら、付け加えた言葉。 回復が近いようにも聞こえるそれは きっとあなたの勘違いを招いてしまったのでしょう。 調子がいいのは回復が近いから ではなくて 神様がくれた最後のチャンスだった …なんて 当の本人ですら予想してなかったのだから その解釈を責めることなんて 誰にもできはしないのよ。 ] 私達同じこと考えてたのね。 私も、外出できるって聞いた時 真っ先にあなたを思い浮かべたのよ? (73) 2022/02/15(Tue) 12:21:03 |
【人】 患者 アンネロズ*** [ 約束をした日が迫ってきたある日。 その日は、お母さんが見繕ってきてくれた 服を試しに着ていたの。 黒を基調にした裾にフリルのついたワンピース。 胸元にリボンがついていて、それを後は結ぶだけ。 そんなときに病室のドアが開いたの。 訪ねてきた人が貴方だと分かった時は それはもう、びっくりしたわ。 だって今日は来ないと思っていたんだもの。 ] エド……!? な、なんで、っ……。 (74) 2022/02/15(Tue) 12:24:46 |
【人】 患者 アンネロズ[ いつもの病衣姿じゃないことに 気づかないわけ、ないわよね。 貴方との約束の日に着ようと思っていて 当日までのお楽しみにしたかったのに。 予定外の訪問で貴方に見られてしまって。 少しだけ唇を尖らせて拗ねたように、 ] ……この服のことは当日まで 秘密にしようと思ってたのに。 [ なんて言って、ふい、と目をそらした。 ] (75) 2022/02/15(Tue) 12:25:51 |
【人】 患者 アンネロズ*** [ エドとの約束の日。 私は朝からずっとそわそわしていたわ。 いいえ、前の日の夜から、ずっと。 綺麗に髪を梳かして いつもはしないお化粧だってして 褒めてもらった服を着て。 貴方の演奏が聞ける って、子供のようにはしゃいで待っていたの。 ] (82) 2022/02/15(Tue) 23:19:47 |
【人】 患者 アンネロズ[ 貴方から連絡を貰った後、 私は窓の方に立って、貴方が来るのが見えないかと ずっと景色を眺めてたの。 舞い上がってた気持ちは、胸の痛みに邪魔される。 ] いっ……いた、い……。 [ 昨日まで、私の体調は安定していたし 今日だって、大丈夫だろうと言われたから この日をずっと待っていたのに。 嫌だ、嫌だ、約束があるのに。 立っていられなくなって、胸を抑えながら倒れ込む。 近くで待っていた両親が慌てて ナースコールで医師を呼んだ。 ] (84) 2022/02/15(Tue) 23:22:42 |
【人】 患者 アンネロズ[ エドとの約束を破りたくない嫌だ、 そんなふうに心が叫ぶ一方で。 死が迫っているのを感じたの。 死にたくない、って強く思う。 ] (85) 2022/02/15(Tue) 23:23:15 |
【人】 患者 アンネロズ[ きっとそれは音にはならなかった。 最後に名前を呼ぶことさえかなわず。 苦しくて、目をつぶれば、脳裏に浮かぶのは貴方の顔。 会いたいな……。 それが叶わないとどこかで思ってしまったのは 死期を、悟ってしまったから。 自分の身体のことは自分が一番わかる。 そんな言葉の意味を死ぬ直前で知ることになるなんて。 私は薄れゆく意識の中で、 遅すぎる 後悔 をしていた。 貴方に病気のことを伝えればよかった。 貴方にもっと我儘を言えばよかった。 ] (86) 2022/02/15(Tue) 23:25:26 |
【人】 患者 アンネロズ[ 後悔なんてしてもすべてが遅い。 ねぇ、エド。 もし、私が秘密を抱えず、 全部貴方に打ち明けていたのなら。 何かが変わっていたのかしら。 私には、わからないの……。 ] (87) 2022/02/15(Tue) 23:27:48 |
【人】 患者 アンネロズ[ 私が意識を失った後も 医師は処置を続けてくれていたけれど。 貴方が病院にたどり着く前に 私の心臓は止まってしまった。 ] (88) 2022/02/15(Tue) 23:28:20 |
【人】 患者 アンネロズ *** [ 貴方が到着したとき。 私は病室のベッドの上で永遠の眠りに落ちていた。 何が起こったのか、空気でわかったかもしれない。 わかっていてもいなくても、 私の父が、震える声で娘の死を伝えたはず。 母はずっと泣いていた。 でも、貴方に気づいたなら ] 「 ごめんなさい…もっと早く、言えば…。 」 [ そんなことをずっと、繰り返したでしょう。 両親は私が貴方に病気のことを伝えていないと 知っていたし、伝えるべきか悩んでいた。 でも、娘の意思を尊重して、 自分の言葉で伝えるのを待っていたのだ、と。 そんな説明を聞いたら、貴方はどう思ったのかしら。 説明すら、聞く余裕もなかったかしら。 ] (90) 2022/02/15(Tue) 23:30:05 |
【人】 患者 アンネロズ[ 私の両親は娘を喪った悲しみに暮れながらも 貴方のことを、ずっと心配していたはずよ。 私の想い人だと、知っていて。 もう付き合っているとすら思っていたはずだから。 そして、どこかのタイミングで 貴方にこう告げるの。 ] 「 今まで沢山気にかけてくれてありがとう。 アンネのことは、もう忘れていいのよ。 」 [ それは、両親の気遣いだった。 でも……。それが貴方にとって 果たして、慰めになったのかしら、ね。 ]* (91) 2022/02/15(Tue) 23:32:36 |
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