【人】 黒崎柚樹[きらきら、さらさら。 朝の光が川面を照らし、視線の先、そこそこのサイズの川魚がチャプンと小さな水音を立てて跳ねるのを、私はぼうっと眺め続けていた。 ここはきっと(いや、絶対)夢の世界で。 共に来ている武藤は、美術館での事故後の記憶を全部失っていた。 "美術館の悪夢からの使者"とも言えそうな"あれ"は、もしかしたら救世主なのかもしれないけれど。 "あれ"がこの世界を壊してくれたなら、私と武藤はあっさりと元の世界に戻れるのかもしれないけれど。] ……でも、あんなのに好き勝手されたくはないよね。 [そう結論づけて、ならやっぱりコテージに戻るべき────と、立ち上がりかけ、て。] (29) 2023/03/05(Sun) 6:04:05 |
【人】 黒崎柚樹……ッ!? …………む、とう……? [肩にぽん、と置かれた手。 囁かれた自分の名前に、大きく目を見開いた。 "柚樹"って。 ……いま、"ゆずき"って。*] (30) 2023/03/05(Sun) 6:04:35 |
【人】 黒崎柚樹────……おかえり。武藤。 [全部の緊張を解いて、改めて武藤を見つめ、どちらからともなく抱き締め合って。 もう、なんで武藤が実家で飲んでるココアを再現できるのかとか、なんで温泉に行くのを嫌がったのかとか、小さな嘘や言い訳を積み重ねなくて良いんだなと、そんな、愚にもつかないことがまず頭を過った。 あんなものが出てきたくらいだ、武藤の記憶喪失もきっと不可抗力なものだったんだろう。 戻ったならそれでよし、と、もちろん武藤を責めるつもりはなく。] (46) 2023/03/05(Sun) 15:13:54 |
【人】 黒崎柚樹コテージ帰ろう、武藤。 [半ば駆け足で帰れば、並んで走る武藤は、あっちへ走りこっちへ走りと、朝から良い運動になったんじゃないかなと思うよ。*] (47) 2023/03/05(Sun) 15:14:56 |
【人】 黒崎柚樹[────カチャ。 コテージ入口で武藤と一瞬視線を交わした後、持っていた鍵でコテージの扉を開ければ、鼻に馴染んだ──実際のところ、こんなものに馴染みたくもない──甘い匂い。 思った通り、"それ"はまだ室内に居た。] (49) 2023/03/05(Sun) 16:37:19 |
【人】 黒崎柚樹終わった……、かな。 [傍らの武藤に視線を投げたら、頷いてくれるだろうか。 とりあえず私、めちゃめちゃお腹空いてるんだよね。 朝御飯……ていうか、もはやブランチの時間帯になるんだろうかこれは。 ホットサンド作ったら食べる?と問いかけて、あ、そういえば、と。] 武藤は、"あれ"に何かされた? [まあそのあたりの話も、ホットサンド食べながらかな。*] (50) 2023/03/05(Sun) 16:43:04 |
【人】 黒崎柚樹[台所の棚にあった直火式のホットサンド型を取り出して、冷蔵庫内のマーガリンを出していたところで、どこか慌てふためいた武藤に、手を取られ、耳に触れられ。 言われて初めて、自分の左手指に銀色の輝きが、両の耳朶にも同系色の銀の光が戻っていたことに気がついた。] …………あ……、 [武藤も戻ったの?と左手で左手を掴めば、私とは色の異なる金色の、でも同じデザインの光る輪が指先に触れてきて。 お互い、相手に金色が似合うから、銀色が似合うからと相手に合わせたいと選んだ指輪。 金と銀が絶妙に入り混じるデザインが、私たちらしいと選んだ品だった。 将来の約束を誓ったものとかではないけれど、互いの名前が刻まれている、大事な指輪。] ……そ、か…………。 [耳に触れれば、無い方がもはや不自然に感じられていた銀の輪がついていて。] (65) 2023/03/05(Sun) 20:30:16 |
【人】 黒崎柚樹[両耳の穴は誕生日の朝、武藤に開けてもらった。 武藤のくれた青色のファーストピアスを1ヶ月弱つけ続け、武藤の誕生日、武藤がくれた銀のピアスに替えたもの。 武藤とお揃い、輪の形をしているもので。] …………戻った、ね。 [良かったね武藤、と囁いて。 でもね。とりあえず。 私は(きっと武藤も)、とにかくお腹が空いていますので!?] (66) 2023/03/05(Sun) 20:31:18 |
【人】 黒崎柚樹[鉄板に当たる側の食パンに、マーガリンを全面しっかり塗って。 ツナにみじん切り玉ねぎとマヨネーズを和えたもの、スライスしたゆで卵、たっぷりチーズを層にしてホットサンドメーカーにしっかりセットしたら、あとは焼くだけ。 "たま"は結局、卵と玉ねぎ、両方にすることにした。 自宅にあるものは電気式のだけど、まあ直火でもなんとかなるよとコンロにかけてみたら、実際、なんとかなるもので、きつね色に美味しく焼けたホットサンドが出来上がり。 牛乳多めのミルクティーと、オレンジジュース、果物は簡単に苺を山盛り、ボウルによそってテーブルの真ん中に置いた。] …………いただきます。 [空腹極まりの中、温かいサンドイッチを口にしたら、漸く、強張っていた心も頭も動き出した気がする。 色々話したいことも聞きたいこともあった気がするけれど、武藤が"柚樹"って呼んでくれるだけで、なんだか充分な気もしていた。*] (67) 2023/03/05(Sun) 20:32:42 |
【人】 黒崎柚樹[牛乳は……というか、乳製品全般は大好物。 だからミルクティーは元より好きだし、牛乳の割合とかを武藤の好みにちょっと寄せてるとかは、多少はあるものの。 ココアとかオムライスとか、そのあたりも私の元々の好物だしというのも大きいので……うん。 オムライスに関しては練習は多少したけれど、でも全体、努力というほど努力じゃない。 好きな人が喜んでくれたら嬉しいなと、いう。ただ、それだけのこと。] うん。ちゃんと焼けて良かった。 ちょこちょこ確認はしたけどね。 [直火のホットサンドメーカーは初めて触ったからどうなることかと思ったけれど、火の当たりは思っていたよりも柔らかいものだったらしくて、初めてにしては上出来の焼き上がりだった。 むしろ電気式のより耳のところがカリッとおいしく焼けたくらい。 ぶっちゃけ、マヨネーズ味のものとチーズ入れておけば大概のホットサンドは美味しくできるという雑な頭もあったりするけれど、玉ねぎと卵と両方入れてもちゃんと美味しくできた。良かった。] (88) 2023/03/05(Sun) 22:49:51 |
【人】 黒崎柚樹────……うん。 戻ってくれなかったらどうしようかとは思ったけど。 [武藤の謝罪の言葉 >>77 には、小さく頷いた。 でも武藤がずっと武藤だったからけっこう大丈夫だったよ……とは、武藤本人が聞いたところで不思議に思われてしまうかもしれないけれど。 触れないように気を張っていた手。 あえてそっけなく見つめるようにしていた瞳。 全部戻ってきたのだと改めて思うと、やっぱり泣きそうにはなるのだけど。 つ、と触れられた >>77 手の甲が、その瞬間、熱を持った風に感じてしまった。 ────で。うん。武藤の偽物。 やっぱり気になるよね、とは。] (89) 2023/03/05(Sun) 22:50:42 |
【人】 黒崎柚樹だったらお話してみたら良かったのに。 [告げたところで、武藤には難しかったんだろうなあ、と。 えっと、まずね……、と、どこから話そうかなと私は首を傾げる。 順序立てて話すことはあんまり得意ではなくて、いつも、心に浮かぶまま話すから聞く側は解りづらいかもしれないのだけれど、ぽつぽつと口を開いた。] 偽物の私は、確かに"こうだったら良かったのにな"というのは、あったよ。 [でもそれは、あの美術館での事故があった時点の思いでね……と言えば伝わるだろうか。 武藤に、見た目まんま男な恋人が出来て、それが実は女だとなったら、刺激的な話題に何かと飢えてる大学生たちの間で、どんな尾鰭のついた噂になるかは想像に難くなかった。 背の高さは今更変われないけれど、せめてもう少し見た目、女の子らしかったら、と。 肩の線、胸の膨らみ、低い声、いかつい手足、きつく見えがちな眼差し。 どれか1つでも、2つでも、女の子っぽかったら……て。] (90) 2023/03/05(Sun) 22:51:20 |
【人】 黒崎柚樹今はもう、ね。 そこまでの思いはないけど。 私は私だって……思えてるけど。 [でもやっぱり、心のどこか、武藤の隣で微笑む"絵に描いたようなかわいらしいお嫁さん"を夢見てるところはあるかもしれない。今も。] そんな感じでね。 武藤のも、多分……、 "こうだったら、もっとくっきーに好かれてたのに"みたいな感じ、した。 …………ふふ、顔合わせて早々、"愛してる"だって。 [武藤が素面の状態で、そこまで甘い雰囲気でもない雰囲気の中、その言葉を囁いてくる筈ないのにね?……と言ってしまうと、武藤に失礼かもだけど。 そして案外と狭量な武藤は、私の反応どうあれ、私に"愛してる"などと愛の言葉を告げてくる存在自体、許せないものであるのかもしれないけれど。] (91) 2023/03/05(Sun) 22:52:24 |
【人】 黒崎柚樹でもそれより、"嫌なことは忘れればいい、忘れさせてやる"みたいなこと、言われて。 [ああ、これ、武藤じゃないなって思ったよ……と。 他にもいろいろ。 "身体を傷つけない"とか"嫉妬しない""束縛しない"とか。] ……ああ。 武藤より、"中身がある"って胸張ってた。 [つまり武藤は本当、そういうところ気にしてたんだなあ、って。] えっと、ねえ……正直、普段の武藤より、全然、薄っぺらく感じたよ。 [だから、うん、"あっち"に縋るは無いです。10000%くらい、無い。] 武藤も、"そのままの柚樹が好き"ってずっと言ってくれてるのに、ね。 だから、"あれ"を呼んだのは、私だったのかもしれない……なんて。 (92) 2023/03/05(Sun) 22:53:20 |
【人】 黒崎柚樹[紅茶もうちょっと飲む?と、まだいくらか中身が残っているミルクパンと茶こしを持って互いのカップに注ぎ入れ。] なので、"ごめん"はもうおしまい。 それじゃあ気が済まないとか言うなら、帰ったらケーキでも奢ってもらおうかな。 [状況は全然違えど、前にも似たことあったよね。スーパーモンブラン。 あいにく今はモンブランの季節ではないけれど、幸い(?)今は"新エクストラスーパーあまおうショートケーキ"という舌噛みそうな名前のケーキがあるみたいだよ? くすくす笑いながら告げたら、いくらか残る武藤の眉間の皺もすっかり綺麗に消えてくれるかな。*] (93) 2023/03/05(Sun) 22:54:19 |
【人】 黒崎柚樹["ひとめ?ふため?惚れ"だったとは、聞いている。 美術館へと向かうバスに乗る前。 同じ研究室に所属して半年後、初めてまともに雑談らしい雑談をしたあの時。 笑った私を"かわいい"と思って、もっと笑ってるところを見たいと思ったんだって。 武藤を疑うわけではないけれど、でもあの時の私はまだ男としか見られていなかったのだから、そういうものかなと不思議には思っていた。 このキャンプに来て、私を女と認識していない"あの時の武藤"と沢山おしゃべりして。 女と知っても知らなくても武藤は良い奴で、優しくて、楽しくて。 性別を知って、これは女の子に対する"好き"だったんだ、と気付いた風なのがあちこち見てとれてしまったのは、きっと自惚れではないと思う。] ……うん。それは、そうと思う。 [武藤の言葉 >>99 には、だから私も頷いた。 性別を知って、さして不思議とも思っていない風だったし、むしろとても腑に落ちた風な言動になったのもそういうことなのだろうし。] (112) 2023/03/06(Mon) 6:45:45 |
【人】 黒崎柚樹私のこと忘れちゃってても、男だと思ってても、武藤のこと、好きだなあ……って、思ったよ。 [だから武藤の記憶がこのまま戻らなくても、この武藤ともう一回日々を重ねていくのでも良いやとは、覚悟決めつつあった、とまで言ったら、表情を曇らせてしまうかな。言ったけど。] ………………。 [あ、やっぱり、偽の自分にも嫉妬、するんだ。するんですね。 不機嫌になったり怒ったりした武藤が漏らす「は?」 >>100 が繰り出され、やっぱり"あれ"と会話の成立とかは望めないことだったんだねと肩を竦める。 "忘れる"ことに対して、武藤がそこまで脅迫観念レベルに私のことを覚えていようとしているとまでは知らぬまま、でも本当に、武藤は私のちょっとした言動や出来事を覚えているから、そんな彼が「嫌なことは忘れろ」と告げてくるのは何よりの違和感だったかもしれない。 色々全部、"あれ"の言ってくることは薄っぺらかったよと頷いて。] こうすれば"好かれるオレ"のできあがり!って感じで。 ものすごく、うさんくさかった……。 [思い返しながら、渋いみかんを口にした時みたいな顔になってしまう。ああ美味しいミルクティーで口直ししよう、と立ち上がり。] (113) 2023/03/06(Mon) 6:46:18 |
【人】 黒崎柚樹なら、武藤の分の必殺技は私が御馳走しようかな。 [それで手打ちになるのならと口にはしたものの、今回、武藤は何も悪くないのだし。] "新エクストラスーパーメロンショートケーキ"もあるらしいよ? [あと"エクストラスーパーイスパハンショートケーキ"って……必殺技いっぱいだね?と、くすくす笑う。 でもお店に行って食べるのなら、いざメニュー見たらパフェ食べたいとかパンケーキの方が良いとかはなりそうだけど……まあ、それならそれで。つまりは、それを口実にデートしたいなという、ただそれだけのことなんだけど。 前回のスーパーモンブランは、武藤が買ってきてくれて、武藤の家で一緒に食べた。 私は純粋にケーキをいただきに(だけ、と言うと語弊があるけれど……でも、まあ)あがったのだけど、流れで私もいただかれてしまった……という、気恥ずかしい思い出。 いつかしようね、という意思疎通というか認識摺り合わせというかみたいなものは事前にあったのだけど、そこまで武藤が、私としたいと思ってくれているとは、あんまり思っていなかったんだ。 色々芋蔓式に思い出してしまって、頬がいくらか熱くなり。 武藤の「ありがとな」 >>103 には、こくこくと頷くことしかできなくなった。*] (114) 2023/03/06(Mon) 6:47:12 |
【人】 黒崎柚樹[半年前は、気付いていなかった >>117 というのも多分にあるけれど、気付かないようにしていたし、気付いてはいけないと思っていた────というのが多分にあったかも。 自分はどう足掻いても"かわいい女の子"にはなれないし、だから男の人を好きになっても不毛だし、そもそも男の人にそういう意味で好いて貰えるはずがない、って。思い込んでいた。 武藤と"友達"として仲良くなれたことが本当に嬉しくて、その関係を崩したくないと強く思っていたのもあったんじゃないだろうか。多分。] そうだね……記憶が戻らなくても良いとは覚悟したけど。 何かというと泣いて、武藤を困らせてたかもしれない。 [今の武藤は半年前の武藤なんだよ、と、真実を告げれば理解はしてくれたかもしれない。 でも武藤のことだから嫉妬が"消えた自分"に向かうのもなんとなく想像できてしまったし。 本当、"めでたしめでたし"で済んで良かったなと、心から思うよ。] (120) 2023/03/06(Mon) 10:47:08 |
【人】 黒崎柚樹うん。分けっこ、しよ。 [別に必殺技的呪文ケーキに拘らなくても良いし、私の好物の苺の季節だから、それ系のスイーツがいっぱいあるだろうし。 なんだか結局デートだね?と笑ってしまえば、もう日常は手の届くところまで戻ってきていた。 とはいえ、ここは夢の世界に違いないというのは、武藤と私の共通認識。キャンプに来る約束はしていないし、約束を忘れただけにしても、現実の私たちとは齟齬がありすぎる。 泊まりがけで遠出できるほどの軍資金は無いし、近場と仮定したら、これほどに心地よい気候はまだまだ先のお話という感覚があるし。 "偽物"が眼前に出てきたというのが何よりあり得ない事象だし。 それならそれで楽しめば良いよねとは、そろそろこの不思議な現象に慣れつつある、私たちならではの余裕だったと思う。 バーベキューもしたいし、温泉も入りたい。 あと川にね、魚がいたんだよ?捕まえて焼いて食べても良いのかなあ、なんて。 ごく当たり前な、恋人同士のキャンプ休暇。それはそれで、気恥ずかしくなる……わけで。*] (121) 2023/03/06(Mon) 10:48:11 |
【人】 黒崎柚樹今朝も、私のこと探してたの? [いや、探してくれたのは勿論知っているし、武藤が私の名を叫びまくってくれたから合流できたのだけれど、それはあの偽物云々ゆえだとばかり思っていたから。 武藤から"いつものやつ" >>122 と言われて、心底、驚いた。 だって、つまりそれって、] じゃあ、あの武藤は、巻き戻ってしまった"過去の武藤"じゃなくて、"半年分の記憶を失くした武藤"だったんだね……。 [かつて言われた事、された事をなぞらえるような事が何度かあったから、その度、もしかしたら、とは思っていたけれど。 ならやっぱり、"絶対忘れない"と豪語した武藤のことだから、いずれ自力で思い出したに違いないなと、改めて思った。 本当、武藤の記憶力は、それはそれはすごいんだから。] (129) 2023/03/06(Mon) 15:17:00 |
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