93 【身内】星の海と本能survive -Ap-02-【R18G】
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処刑室。
いつも通りの笑顔で使用人は静かに座している。
何ら変わらぬ様子ではあるが、この時だけ身に纏うものを変えていた。
前で紐を結び、留めるタイプの入院着。
それだけを着て、微笑みながら皆を待っている。
| エメラルドグリーン。 誰のだったか。 視界から消えたと同時に響いた、アラート。
「―――シトゥラ!」
姿を消したその人を追いかけて、ロビーから駆け出した。 (9) 2021/09/04(Sat) 22:19:06 |
| (a4) 2021/09/04(Sat) 22:23:01 |
「やあどうも!皆の俺だよ!それじゃあ処刑を始めようか!」
人が集まる頃。
処刑対象はいつも通りの声で進める。
首に手首に足首に。
もしよかったら胴体も!
好きに切ってもらって失血死するまでを俺は観察したいんだ。
ほら、出血量の推移による人間の肉体の変化を理解しておけば他人の治療なり何なりに活かせそうだろう?」
「…………」
使用人はいつも通りだ。
いつも通りであると決めたのだ。
| 「シトゥラ」 ままを探す貴方の、手を取った。 「……駄目だ。それは、そうなる事はヌンキも望んでいないはずだ」 テンガンは、貴方の代わりをする事はできない。 テンガンは、貴方の赦しを貰えなくなっても構わない。 貴方は、望まぬ事を強いるテンガンを憎む権利がある。 (13) 2021/09/04(Sat) 22:27:01 |
| >>a9アラートが鳴り響き赤が視界を掠めていく。 泣きじゃくる幼子の腕を離す事は、ない。 「……それでも、だ。 シトゥラ。お前はまだ生かされている。 生きているならやるべき事がある。 ……やらなくては、いけない。 俺達はヌンキを送り出さなければ」 (16) 2021/09/04(Sat) 22:38:47 |
「……。シャト殿、俺の声って放送することできる?」
おもむろに処刑対象が口を開いた。
| そうだ。容易だった。 >>a15幼子の手を引いて、処刑室へ。 しかと握った手は震えていただろうか。 熱を失っていただろうか。 それでも。 まだ、綺麗なままのヌンキであった方がシトゥラの傷は浅いと思った。 物言わぬ、原型を留めない肉塊を見た時こそ、シトゥラの精神は崩壊する気がした。 処刑から逃れる事は、できないのだから。 (19) 2021/09/04(Sat) 22:48:22 |
「ああ、よかった。来てくれた」
微笑みながら安堵する。
処刑対象は基本的に両足を伸ばし、上半身だけを起こして楽な姿勢を取っている。
また、意識が残り動けている間は希望するなら相手の希望に合わせて立ったり座ったりと体勢を変えるだろう。
処刑対象は笑みを浮かべたまま、静かに受け入れる。
| 引き摺るように連れてきた男は、今回の処刑の方法を聞いた。 ちらと、傍らのエメラルドグリーンを見て小さく言葉を落とす。 シトゥラの言う「まま」がどういう意味を持つのか。 テンガンは、知らない。 >>23「……どの程度なら、できそうだ」 ―――望めば貴方が押せないナイフを上から押してやることもできると、暗に伝えている。 介助は……規則違反ではなかったと、思う。 (24) 2021/09/04(Sat) 23:05:59 |
「シトゥラど……」
いつも通りに口を開こうとして、やめた。
「シトゥラ」
二人きりの時にだけ捨てていた敬称をここでも捨てる。
決して本物の親子ではないけれど、母親のように穏やかな水面のような声音で話を続ける。
「大丈夫、俺は帰ってくるよ。ハマル殿もテレベルム殿もシェルタン殿もラサルハグ殿も、皆そうだっただろう?
ほら、果物包丁とかあるよ。それ持って、テンガン殿とこちらにいらっしゃい。
テンガン殿もぱっと済ませちゃおうよ!俺もサクッと起きるからさ、そうしたら3人でスイーツ食べちゃおう!ねっ?」
皆を受け入れる。道具だからではなく、自分の意思で。
| 「―――」
一連の流れを、見守った。 眉ひとつ動かすことなく。
「次は、俺がやってもいいな」
そう声を掛けながらダガーを手に取る。 そして返事を待たずにヌンキへ近づき、馬乗りになったままのシトゥラを引き剥がすように離れさせた。
「また、後で」
告げた言葉は、その一言。 シトゥラが切ったものと反対側の頚動脈を、ダガーで掻き切った。 (27) 2021/09/04(Sat) 23:24:26 |
| 返り血を浴びたまま、振り返る。
「……すまないな」
一言、詫びるように告げて。 テンガンも処刑室を退出した。 (28) 2021/09/04(Sat) 23:27:34 |
真白の入院着が赤いいのちの色に染まっていくのに反比例して、処刑対象の肌は青白く変化していく。海のような鮮やかな輝きを持つ色などではない。眠りにつく死者の色。
「……ぁ、う……たしか、全血液量の……20%が失われると……ね、ショック症状、が…………」
一人、また一人と『処刑』を行っていく間。
処刑対象はずっと唇を震わせ続けていた。
気を失わないように、誰に語りかけるわけでもなく話し続けている。
いつも通りの声……にしたかった。
いつも通りの笑顔……を浮かべたかった。
上手くできているだろうか。命はどんどん流れていく。何人目からだろう、判断が出来なくなっていた。
とめどなく血が流れる。
止血しないと。
痺れが霧散して、感じずにいた痛みが体を這い回る。
体が悲鳴を上げている。
頭痛がする。
「え、えと……は、ぁ……あせ、かいて、る?と、思……呼吸、ぁ、はやくな、て……は、くる、うまく、出来、」
頭痛がする。
「こど、が、……よく、聞こえ、どく、どく……て、あと、ずつ……」
頭痛がする。
「ずつ、な、て……症じょ……に、あった、か、な…………?ぁ、目の……ま、が、くら、……耳も、ぅ…………」
寒くなってきた。震えが止まらないような気がする。分からない。
自分ではもう何も分からない。
「……………………ぁ」
痛い。痛い。痛い。
苦しい。苦しい。苦しい。
止められない。止められない。止められない。
体が、頭が、押さえつける心を振り払って叫んでいる。
何かが心臓ごと自分の内側に纏わりついて、引きずり下ろそうとするような感覚。
急に叫びたくなってきた。
急に泣きたくなってきた。
どこにも行けないのに、逃げ出したくて仕方がない。
頭痛がする。
この感覚、知っている。
「あ、あ。あ」
頭痛が止まった。
何かが砕けた音がした。何かが押し寄せる。
ああ、こういうことか。
怖い。
笑え。
痛い。
笑え。
苦しい。
笑えってば!
いつも通りに振る舞わなくちゃ!
……。
「……。
しに、たくな、い……………
…………………………」
……
…………
………………
ロビー・・・に来ましたが、少ししてからすぐにどこかへ向かいました。
中庭のベンチに座り、キャラメルひとつ。甘いでございます。
通信をきいていた。だから、君の発言は知っている。
…淡い夢は覚めたのだと。
その時は思って。すべてがどうでもよくなったのに。
今の僕は知っている。
君が。僕のために泣いてくれたことを。
…もう僕には、祈る事しかできないけれど。
君の心が、命が。どうか無事でありますように。
| テンガンは、役職名を使う。魚の音が消える事を、泡となる事を、彼の名前と共に推測したくない。 (a52) 2021/09/05(Sun) 15:30:23 |
| 「貴方の覚悟を無為にするような占い・提案を貫き本当にすまない……」 これはすまないさんになりかけているテンガン(ママではない) (45) 2021/09/05(Sun) 17:51:49 |
これは空気読まずにローズヒップティーdrinkを頼むシェルタン。
ぱちり、目が覚める。
体を起こしてまず初めに首に手を当てた。
首を裂かれた傷がない。シトゥラが、テンガンが与えた傷がない。
胴に手を這わせる。キューが与えた傷がない。
両手首を観察する。バーナードが、カストルが与えた傷がない。
足を持ち上げる。レグルスが与えた傷がない。
肩の周りを調べる。キファが与えた傷がない。
肩から胸を撫でる。サルガスが与えた傷がない。
脇下を探る。ムルイジが与えた傷がない。
綺麗な体。何一つ傷はない。
スペアボディへ正常に切り替わったことを知覚する。
──頭には今もなお、底なしの沼に引き摺り込まれそうな死の恐怖がこびりついているのに。
「・・・金平糖sweetをお願い致します」
冷静になりました。とりあえず 何か食べます。
| (52) 2021/09/05(Sun) 19:18:18 |
「シャト様〜」
金平糖いただきました。キャッキャ
お礼もちゃんと言いました。ありがとうございます。
体を起こし、顔を上げた。
スペアボディは死ぬ前と同じような入院着を纏っていたが、愛用していたバンダナまでは用意してくれなかったようだ。
顔をあげた際、かすかに音を立てて金色の髪が地に向かって流れていく。
「……これが、俺たち人間が忘れ去っていたもの」
「…………実に不可解だ」
「古今東西、人間の中には不老不死を求めて研究を重ねた者がいた。倫理道徳を人の命と共に焼べて禁忌を犯してでもその領域に辿り着きたいと躍起になるものがいた」
淡々と、かつて己がアーカイブから得た情報をまとめていく。
「そうして人類はたどり着いた。
大気の檻を抜け出して絶対的な終わりに満ちた宇宙さえも遊泳できるようになった。
人の限界を超え、死という生物にとって覆しようのない運命からも逃れられるようになった。
俺はこれをある種人間の進化の形、終着点の一つだと思っている。
──例えその結果人類が生きる肉塊になったのだとしても。きっとそれは進化した結果、新世代の人間の姿なのだろう」
「故に、我らがいる。……いや、いた。
尽くして尽くして尽くして尽くして、寄り添い使われ人を支える為の道具を生み出そうとする者がいた。
……俺は、もう関係のない話だけどね。
もう俺は元の家とは疎遠になったのだと、ようやく思い出せたのだから」
「人よ、傲慢な進化を遂げた生き物よ。
あらゆる苦痛から逃れる術を手にし多くの不可能を轢き潰してきた生命よ。
どうしてようやく忘れた苦を呼び起こそうとするのか。
どうして人以上の力を手に入れたのは君たちなのに、今更人のような感情を欲しがるのか。
眠りについた本能を呼び起こし!
君たちは何を手にしたいのか!
……俺は、君たちにそう問いたい」
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