205 【身内】いちごの国の三月うさぎ
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あ。
[ 舌で追いかけそこねたそれを指の先で
拭って口の中へ戻すと、いつかと同じように
名残惜しげに、先端にちう、と吸い付いて
解放し、ごく自然に、喉を鳴らして。 ]
[ 背を丸めてしまうのは、強すぎる快楽に
怯えてしまうから、らしく。
背を逸らすのは、
より深く感じ入るため らしい。
聞きかじった話を思い出して、ひとり
小さく笑うと、 ]
良かった?
[ 聞いて、両腕を組んで、君の膝の上に
乗せて。落ち着くまではそうしていただろう。
冷える前にもう一度湯に浸かるように促してから
洗い場に向かい、髪と体、顔を洗って、
自分ももう一度湯船に浸かって。
星空と、君とを交互に眺めていたけれど ]
湯あたりする前に、あがろう。
[ ただでさえ燃え上がってしまったから
ゆっくり浸かるどころではなかったの
かもしれないな。
抱き上げるつもりで、膝の裏へ
片手を入れたけど、素直に甘えて
くれただろうか。* ]
[零れた涙が彼に落ちて、濡らしても。
気づくことができないくらい余韻が酷くて、
射精後の脱力感が一気に襲ってくる。
彼が口から溢れさせたそれも、
視界の端に留めてはいたけれど。]
……飲、……っ、 ……
[溢れたものまで、指で掬い上げ口に含むのは、
少し、いやかなり恥ずかしかった。
何度その光景を見ていたとしても。
ただ、上がった息を肩で呼吸しているぐらい、
口を挟める程の余裕もなかったから。
小さく呻くだけになってしまって、
その反抗は、彼には通じないだろう。]
[いくら湯に浸かっていたとしても、
濡れた肌を長い時間、夜風に晒していれば寒気も伴う。
自分も彼も吐き出したものを手で掻き出したとはいえ、
すぐにまた浸かるのはさすがに抵抗があったけど。
冷えた空気には抗えずに、少しだけ身を浸した。
肩口まで温もれば、外の温度に合わせて、
少し高めに設定されたお湯が心地いい。
温もってから身体を二度目の身体を洗い流して、
丁寧に彼が指で掻き出した場所は、
少しだけ、シャワーで洗い流していれば、
彼からもまた、手伝う声が上がったかもしれない。
少しだけ、また触れ合って。じゃれあって。
逆上せてしまう前に身体を冷ます。
彼に逆上せた頭と表情だけは、残ったまま。
]
[身体を気遣うように差し伸べてくれた手は、
気怠さを残した身体には、ありがたかったけれど。
足元が濡れた場所で寄りかかるには、気になってしまって。
やんわりと首を振って申し出を断った。
甘い雰囲気を壊したかった訳じゃないけれど、
二人して滑ってしまったら、元も子もないので。
手だけを借りて、脱衣所まで戻り、
水気を取り払った後、宿の据え置きの浴衣に身を包んで。]
…………けいと、さん
[つんと彼の浴衣の袖を引っ張ってから、
ン、と甘えるように両手を伸ばしたら、
さっきの誘いのお返しだと気づいてもらえるだろうか。
ドライヤーは部屋にも持ち運べるはず。
髪はまだしっとりと濡れたままだけど、
後で、彼に乾かしてもらうとして。
今は、先程断った彼の腕の中に甘えるように身を寄せた。*]
[ 問いに、言葉をつまらせるのを見て。
――問うべきではなかったのだろうかと僅か
不安になる。
軽い気持ちで問うたのを、後悔するより
少し早く、控えめに頷いてくれただろうか。
見上げる視線に不安が少しだけ、混じったのを
続く言葉が、ふわりとかき消していったから
反応は示さないまま、撫でられる手に
促されるように、目を伏せて。 ]
[ 内風呂に移動する気も起きず、
湯から身を上げれば、甘い香りのボディソープ
で体を洗って。髪を洗って、嗅ぎ慣れぬ匂いへの
違和感を感じつつ、
彼もシャワーで洗い流すようなら
手伝いを申し出て。
遠慮しないでだとかじゃれ合いながら
洗い場を後にして。
抱き上げるつもりだった腕は、支えるだけに
留めたが。 ]
[ 浴衣に身を包んで、濡れた髪を拭っていると
つんと袖を引かれて。
タオルを首掛け、微笑むと、
背中に手を回し、一度ぎゅうと抱き締めたあとで
抱き上げて、部屋まで向かい
座椅子の上にそっとおろして。
これではどちらが甘えているか、わからないなと
声を上げて、笑い
ドライヤーを手に戻ると、短い君の髪に
先に温風を当てていく。
さほど時間もかからずに、乾ききって
しまったなら、自分の髪も乾かして。 ]
[ 冷えたお茶で喉を潤して、
窓の外を眺めた後に、スマホに目をやって。
――夕食からこちら、結構な時間が経っていることに
少し驚きながら。
眠るまで、飽きもせず、腕の中の
ぬくもりを抱き締め、やさしく撫でているうちに
眠りについてしまったのだったか――。 ]
………ん…ぁ………?
[ 明け方近く一度目が覚めた時にはまだ、
窓の外は暗かったはずだが。
次に目覚めたときにはすっかり
部屋の中は明るくなっていて。
普段以上に長く眠ってしまったことに
ぼんやりとしたままで、驚きつつ
旅館の布団って寝心地が良いものだから
そのせいにしてしまいつつ、ごろりと
寝返りを打つ。
朝は弱い、と自称する恋人はどうして
いたか。引き寄せたスマホのアラームは
まだ、鳴らないし、朝食まではまだ余裕はある。 ]
うーん、
[ 二度寝の誘惑も捨てがたいが、朝風呂の
贅沢もまた……そんな風に悩んでいると、
カーテンの隙間から差した光が目に入って。* ]
[袖を引いて、少し高い位置にある彼を覗いて、
笑みを深くされて、腕の中に閉じ込められたら、
肩口に、ぽてんと頭を寄せて甘えた。
両腕に抱き込まれる大きさを覚えてしまったなら、
もう、抜け出せない。忘れられない。
着慣れていない浴衣は少し生地が薄く、
風呂上がりの温もった温度を伝えている。
其処に居ることを確かめるようにゆっくり瞬いてから。
名残惜しそうに、身体を離して。
膝裏に差し込まれた腕に身を預けて、
首裏に両腕を回せば、慣れた様子で運ばれていく。
……なんだか、出会った時よりも、
運び方が慣れてきたような、不安がないような。
彼がもし知らぬところでそれを意識していたとしても、
まだ、それは知ることのない、話。]
[窓際の座椅子に降ろされて、はふ、と。
風呂上がりの開放感にほっとした息をついて。
どちらが甘えているのかは分からずとも、
互いに触れ合い、離れがたいのは事実。
傍に居たい理由を付けて、隣を望む。
そういう時間が、付き合い始めた頃は、
もう少し、たどだどしかったように感じるから。
その頃に比べたら、甘え方は上手くなったと、思う。
少し、腰は重かったか。気怠さが纏わりついていて。
出されたままだった茶碗を取り、水分を補給して、
すっかり乾いていた喉を潤した。
姿を一度消した彼が、ドライヤーを手に戻るのに
気づいたら、座椅子に座り直して。
頭を垂らして、乾かしてもらっただろうか。
温風が心地よくて、無言になれば。
うつらうつらと眠気が襲ってきて、かくりと船を漕いで。]
[いつの間にか、ドライヤーが終わっていた。
一瞬手放した意識が、戻ってきて。
傍らで聞こえるドライヤーの音に、ごし、と瞼を擦る。]
変わる。
[と、申し出て、受け入れられれば。
動けない分、座椅子の前に俯いてもらって、
温風を当てて乾かしていっただろうか。
濡れていた髪をぱさぱさと揺らせば、水気が抜けていく。
正面から乾かしている分、視線が合いやすく、
手持ち無沙汰にした彼と目が合えば、微笑んで。
もう少し、と口パクで伝えて。
長い髪を、後ろに流して、乾かしていく。]
[大きかった一房が、さらりと流れるようになれば。
温風を切って、見上げ。
いつもの表情が覗いたら。]
うん、格好いい。
[……と、満足気に仕上がりに頷いただろう。]
[そんな穏やかな時間を過ごして、どちらともなく。
布団に入り込んだ。
二つ並んだ布団を、隙間なくくっつけて。
枕を隣り合わせ直して、床に入り。
待っていたように伸ばされた腕に、身じろぎ。
腕の中に身を収めると、閉じ込められる。
睡魔が訪れるのは思いの外、早く。
数度背中を叩かれるだけで、うと、と瞼が落ち始め。
ぬくもりに包まれながら、船は眠りへと旅立っていく。]
[疲れ果てた身体は、睡眠を求めていたのか、
朝まで目覚める気配もないまま、ぐっすりと眠っていた。
瞼の向こうが少し、明るくなったような気がするけれど、
瞼はまだくっついていたいと、言うから。
逆らえないまま、言うことを聞いていた。
ただ、眠る前にあった温もりが、無いような気がして。
少しだけ、重い瞼を持ち上げて、姿を探し。
その背中を見つけたら、もぞ、と身動いで。]
…………んぅ、……、
[ぬくもりを求めるように、
ぴと、と両手と額を彼の背中に擦り寄せた。
夏が近づいているとは言え、まだ朝は春眠暁を覚えない。
要するに、もう少し寝ていたい。]
[無くしたものが確かに埋められて、
とろ、とまた瞼が落ちてくる。微睡みに落ちるのは早い。
寝乱れて浴衣が肩から少し下がり落ちている分、
ぬくもりと求めてしまうのは仕方がない。
腿まで覗いている脚も、
冷えた足先を温めるように、足首をすり、と絡めて。*]
[ 出会った頃よりすんなりと抱きかかえることが
出来るのは、多分、抱えられる側に心得が
出来たから、と思う。
協力的だと自分よりも大きな体であっても
持ち上がることがあるのだから。
信頼して首に手を回してくれるなら
前よりずっと手慣れた風になっても、おかしくはない。
温風を浴びて眠たげにする君が変わる、というから
ドライヤーを渡して、前から乾かしてもらうことにした。
世話を焼かれるっていうの、とても心地よかったから。
――弟妹はおらずとも、門下生は多く。
どちらかといえば兄の顔をしている期間のほうが、
長かったから。
髪が乾いて告げられた言葉には、
僅かに照れて、頷いただろう。 ]
[ そうして溶けるように眠ったため、
夢を見ることはなかったかな。
起きるか起きまいか、悩んでいると
側に在ったぬくもりが離れたことに、
気づいたのか、僅か数センチの隙間を
埋めるように、ぴたりと擦り寄ってくる君は、 ]
ん?起きる?
[ まだもう少し、眠っていたいようで。
体を起こすどころか、微睡みのなかへ
落ちていきそうだが。一応声を掛けて、
振り返ると――。
うわ、絶景。
声なき声で呟いた。 ]
そうだね、もう少し寝よう。
こっちおいで。
[ 浴衣で寝ると、そうなるだろうと昨晩
予測はしていたけれど。
寝乱れて肩からずり落ち、緩んだ合わせから
腿まで露出していて。
実際目にすると、大変悩ましいお姿で。
眠たげな姿もまた、あどけなさの他に、
壮絶な色気を感じて、長いため息をついた。
――これ以上見ていると、昨晩の反省すら
吹っ飛んでしまいそうなので。
あと三秒、と決めて、眺め終われば
布団の中に招き入れるように寄り添って。 ]
[ ――それが間違いだったと気づくのは
慌ただしく、着替えを済ませた朝食の直前。
布団の中に招き入れて、擦り寄ってくる
ぬくもりに、僅かな眠気が勝てるはずもなく。
と、いうか――、自分の節操の無さに、
呆れてしまわれても、致し方なく思う。
触るだけ、一回だけ。
それを遵守はしたけれど、今までにはない
起こし方をしてしまったことは、否めない。
朝の光を浴びて、浴衣の合わせから覗く
赤が鮮やかで、とは言い訳に違いないだろう。 ]
――ええ、とても
[ 浴衣を着直そうとしたところで、
それでは見えてしまうからと、慌ただしく
私服に着替えたところで、ドアノックの音がして。
布団の上げ下ろしと、朝食の準備に
伺いましたという仲居さんが、
よく眠れましたかと、問うのでそう答えたあと。
――……あら、と小さく零した仲居さんが
恥ずかしげに目を逸らしたところで、
頬のそれ、に気づいたけれど。
朝食を終えて、合流する際には、
マスクをつければ、隠れてしまうだろうから
特に何を言うこともなく、ごゆっくり、と
彼女らが去れば、何食わぬ顔で、熱いお茶を啜った。* ]
[ぬくもりを求めるみたいに擦り寄った時、
彼が起きているのかどうかは、確かめていなかった。
眠っていたなら問題なかったし、
起きていたら、もう少しと布団の中を長引かせたかも。
だから、降り掛かる声には、]
……んー…… 、
[ぐずるように返事とも否定ともつかない反応を返して、
身体はより、近づけるように額を擦りとぶつけて。
絡めた脚を、もぞ、と動かして。
脚に挟んでもらって、ぬくもりを求め。
もう少し、うとうとと船を漕いでいて。]
[誘いの声に、ン、と寝ぼけたまま頷いて。
眠ったときと同じように向き合う形になれば、
もぞもぞと、胸の内に身体を落ち着けた。
包まれる温かさが好ましい。
身じろげば尚更、浴衣がずれて肩を露出して。
腰元には帯が纏わりついている程度。
邪魔な裾は後ろに残した分、
顕になった腿でぴとりと片脚を挟み込んで、
抱き枕のようにすれば。
瞼を下ろしたまま、夢見心地にふにゃりと、笑んで。
抱き込まれた安心感に満足して、
くぅ、とまた眠りに誘われていく。]
[揺蕩うようにゆらゆらと、眠気に誘われるまま。
しばらくの間、寝息を立てていた。
もぞりと、動く手は抱き直すものだろう。
その手が、悪戯に動くのに気づかないでいたら。]
……ン、
[鼻から抜けるような甘い声が溢れる。
一度だけじゃなくて、数度。
胸元がすぅすぅして、くすぐったくて。
顕になった腿の間に彼の太腿が割り入れられて、
朝の兆しを見せていたものを、下から押し上げられて、
吐息混じりのあえかな声が、喉を突く。]
[約束していた朝風呂は、予定していたよりも、
少し短く、慌ただしいものになったかもしれない。
寝乱れた布団を仲居さんに直してもらうのは、
とても居た堪れなくて。
対応は彼に任せてしまって、少し長めに湯に浸かり、
脱衣所でそのやりとりを聞いていた。
何食わぬ顔で対応しているその人。
朝から悪戯を仕掛けてくるような人です。
仕事慣れから来ているのか、そもそもの性格なのか。
今はその対応に助けられながら。
彼女たちが部屋を後にしたタイミングで、
ようやく脱衣所の扉を開けて、
様変わりした部屋の眺め、タオルで口元を抑えながら。]
……上がりました、
[湯気を立ち上らせつつ、彼の向かい側に
腰を下ろして、朝食を共にする。
いつもとは、少し、――――違う朝。*]
[ あたたかさを求めて、擦り寄って
いるのは知っていたし、眠たげな声が返ってきたから
二度寝にしけ込む、つもりだった。のに。
ぐずるような反応をして布団の中へ入ってきて。
脚を絡めてくるのも、ぬくもりを求めての
行動だとは分かっていた。
寝ぼけたままで、頷いて、胸にぴたりと
張り付いて、ほとんど意味を成していなかった
浴衣が更にずれ込んで、布団の中で
剥がれていく。露出した腿が、挟まるように
脚を割って、抱き枕よろしく抱き込まれれば
あちらはほっとしたのか、ふんにゃりと笑うから。 ]
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