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【人】 砂の民 スティグ― 夜のあと ― きれいさっぱり、だな。 [さて、あの故郷での友人との夜の後。 自分はまた別の村人の微かに喋った一言を頼りに、南の方へと旅をしていた。 歩いて、馬車に乗って行った先に、彼女が探していた様々ないろどりの木馬のある街外れの小さな公園を見つけた。 昔はサーカスや、地元のお祭りででも使われていたのだろうか。 華やかなりし頃の雰囲気は感じられるのだが、今はさびれて木馬たちも色褪せ、その木々は所々抉れてささくれていた。 そこで地元の絵師に話を付けて、絵を描いて貰った。 若い絵師だったが、想像で描かれたであろう華やかな頃、人々が沢山集っていた頃の公園の絵は見事だった。 その絵を持って、今、自分はもう何十回目かの帰郷をしていた。 帰る度に残った壁も崩れ、草に覆われていく。 友人が近くに居た壁も今はない。 ただ、夏草が生えているだけだ。] (182) 2022/05/29(Sun) 23:15:01 |
【人】 砂の民 スティグ[あの日、彼と酒を飲んだ。 彼は当然グラスは持てなかったから、酒の入った瓶をゆっくり開けると、まだ空いていた瓶に半分移し替え、地面に置いた。 最初は全然反応がなかった。 何も言わず、ただ焼けただれた顔のまま俯いていただけだった。 だから、自分だけ飲んだ。 飲みやすい果実酒だった。 うまい。] こういうの、好きだよな。 [一口味わって飲んで、隣を見た時、ああ、と思った。 彼の顔が、全くあの時のまま、戦争前の、あの村の酒場の夜のままそこにあった。 彼は、瓶を持てない。 だから当然酒も飲めない。 だけど、自分を見て、笑っていた。 涙が出てきた。 でも、今日が彼と会える最後だから、だから、楽しい夜にしよう。] (183) 2022/05/29(Sun) 23:15:49 |
【人】 砂の民 スティグあっ なんだこれ! 花が… 消えた。 ほんと僕らには洒落すぎてるだろ 女と飲むと思われたのかな [調子に乗って次の瓶を開けて、もう一つの空き瓶に注ぐと勝手に乾杯した。 その時ぱあっと舞った花に、びっくりしつつ笑った自分に友人も頷いた。] 最後のはさ、ほら、星 [最後の瓶を鞄から取り出して、彼に見せた。 彼は全然動かない。 ろくに喋らないし持たないし飲まない。 だけどその言葉に反応するように、彼が顔を上げた。 自分も星空に視線を向ける。 その日も夜空は満天の星空で、全天に星が輝いていた。 そしてその中の星が一つ落ちる。] (184) 2022/05/29(Sun) 23:17:23 |
【人】 砂の民 スティグあっ あー 早すぎて無理だった。 知ってるか、流れ星ってさ、祈り方があってうまくやると… [星空から彼の方に再び視線を向ける。 穏やかな温かい風が吹き、彼が、立ち上がっていた。 お別れの時だ。 彼がこちらを見て口を動かしていた。 何を言っているかよくわかった。] うん… [彼に答えた次の瞬間、彼の姿は掻き消えた。 幸せそうだった。 良かった。貰えてよかった。行ってよかった。 …彼らと会えてよかった。] (185) 2022/05/29(Sun) 23:18:33 |
【人】 砂の民 スティグ[しかし… と、にやりと彼の居た土地の方を見て笑う。] ははは、酒全部残してったな。 お供えでお前の居たとこにでもかけると思ったか? 僕が全部飲みまーす うまいから…! [もはや友人の居ない土地に酒を注いでやる道理はない。 美味しい酒を飲みながら、今日も長く尾を引く流れ星を探してみよう。 故郷の村での最後の酒盛りは、夜が更けるまで続いたのだった。] (186) 2022/05/29(Sun) 23:19:18 |
【人】 砂の民 スティグ[そんな風に過ごした場所も、今はもうどこかわからなくなりそうなほどに草に覆われてしまった。 無性に、懐かしかった。] …手紙でも、書こうかな。 [また次に、大きな街に行く機会があれば、手紙を出してみようと思う。 もしかしたら、もう誰も居ないかもしれないし、手に取ることが出来ないかもしれないし、最悪届かないまである。 それでもそうやって、自分の気持ちを伝えておきたい。 あの夜はありがとう。 今でも僕は、祈りながら、元気に過ごしている。]** (187) 2022/05/29(Sun) 23:20:18 |
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