59 【R18RP】花韮の咲く頃
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[そうして向かった、隆司さんの家。
今度は回数券を買っておこうと密かに決めつつ
今日は一先ず行きの分。
電車はまだ空いている時間だったから
隣り合って座りながら風景を眺めていた。
勿論、手は繋いだまま。
座ってる時も、歩く時も。
そりゃ、改札を抜ける時は自然と離すけれど
改札を抜けたらまた自然と繋ごうとして。]
む……。 私は文化部インドア派ですけど
体力には自信あるんですよ!
[そんな訳で少し眉を寄せてその挑戦状?を受け取った。
階段でも登り切れるだろうと。
実際、吹奏楽部は文化部の中でも体力を使う。
重い楽器を持つ担当なら尚更で
バリトンサックスは勿論重いものに入るのだ。
5〜8キロあたりが普通である。
流石にバリトンサックスを持っていたり
今のお弁当の中身が入っていたら難しかったが
無事に登り切ることができた。
できたが。]
ふーっ、流石に暑くなっちゃう……!
[赤い顔になって普段のパーカーを無造作に脱いだ。
汗をかく直前か、少し汗をかいてしまうくらい。
軽く畳んで腕にかけ、ノースリーブニット姿で
パタパタと手で軽く顔に風を送ってた。
隆司さんは汗かいたりしてなかったかな?
そして、鍵が開かれる。
そこに付いてる、お揃いのキーホルダーがきらりと光って
使ってくれてる、なんて密かに嬉しくなった。
そしてひょっこり、彼につく形で
その扉の中に入っていく。]
おじゃましまーす……。
へえ、片付いてるんですね。
散らかってるイメージも、無かったけど。
[神経質な感じはしないけれど、
きちんとしてそうなイメージが何となくあった。
そのイメージ通りだなと感心しつつ
部屋を進んでダイニングキッチンを覗き込む。
ああ、たしかに、]
……これは腕が鳴る……!
[とても狭くて。やりにくそうで。
けどだからこその工夫ができそうで!
とはいえ今日は何も材料は買ってきていない。
しかしキョロきょろ見渡せば
レンジにオーブン機能がついてるのを確認して
意外と色々できそう! と楽しくなってしまった。
今度は何か作りに来よう。
そんな事を思ってしまう。]
今度は、材料買ってきてのおうちデートも良いかも。
そうしたら、作り置きも少し作っていける……かも?
[炊飯器のサイズを確認しつつ、
思ったままのことを口にしていた。**]
[免許を取って、楽器を乗せて演奏会場まで。
そんな夢のある話を聞けば、上原はその車を運転するのが自分でありたかった気もした。
合格祝いに初めて飲むお酒は何がいいだろうと、これからたびたび思い浮かべることになるかもしれない。
改札で手を離して、抜けたらまた繋いで。
いつの間にか、外を歩くときには手を繋ぐか腕を組むかが当たり前になっていた]
[挑戦を受けて立った矢川と、9階まで一緒に階段を昇った。
上原も日頃よく歩くせいでスタミナはそこそこだが、平地を歩くのと階段はまた違う。
昇り切ることはできても汗ばみはするし、多少は息も上がるのだった。良い勝負だったかもしれない]
体力あんなぁ、さすがに。
[春先のノースリーブニットという若々しい服装に目を細めながら、素直な感想を口にした]
[そうして部屋に2人で入ってみると、想像していた通りに、少し窮屈な印象を受けた。
もし一緒に暮らすなんて話になればもっと広い部屋がいいだろうし、楽器演奏をしたいなら防音設備も要るのだろうか。
そんな気の早いことを考えながら、料理にやる気を出す矢川を眺めていた ]
家で料理作ってもらったら、
帰したくなくなりそうだな……。
[しみじみと思ったことを上原は呟いた。
そのまま一緒に暮らしたくなりそうだと思っての言葉だったが、他意がありそうに聞こえるのかもしれない。
ともあれ、そのくらいには矢川と共に過ごす時間を幸せに感じているのだった]**
えっ……、
[たとえ、他意がなかったとしても。
その一言に私は思わず言葉を失って頬を染める。
恋人に帰したくないなんて言われたら、
そういうのを想像するのは必然じゃないかな?
だから、私は言葉が少なくなる。
そそくさと手に持っていたパーカーを羽織り直したりして。
一緒に暮らせたら。
そうしたら、隆司さんの食生活もきっと
安心になると思うなあ。
でも、家から通える距離の大学だったら
同棲なんて学生のうちは許してもらえないかも。
両親の食生活だって気になるし。
でも、……うん。]
……帰らなくても、風邪ひきませんもんね?
[今は夜じゃない。
夜になったとしても外じゃない。
だから帰らなくても、大丈夫。
少なくともその言い訳は使えない。]
でも、あっ、
材料とか、道具とか、どうですか?
一通りあれば良いけど……。
[ちら、と冷蔵庫の位置を確認する。
あと、台所の中の棚とかも。
とはいえそれぞれの中をいきなり確認は
流石に気が引けてしないけれど。
ああ、顔が真っ赤になってる。
何を想像したと思われてしまうだろう。
……でも、……でも。]
……、隆司さん。
[ちょっと、呼ぶ声が震えてしまった。
近づいて、ぽふっと飛び込むようにして抱きつく。
ぎゅっとそのまましがみついた。]
……え。
[赤面されてやっと、上原は言葉選びの問題に気づいた。
確かに今は昼間だし、家の中にいては風邪も引くまい。
冷蔵庫には朝食用の食パンと、ハムやチーズなど保存のきく食材が数種類程度。
調理器具は小さい鍋とフライパンとヤカンが1個ずつに、包丁1本と菜箸とフライ返しとしゃもじという必要最低限の構成である。
そんな状態だから、狭いキッチンとはいえ収納スペースは半分以上余っていた。
キッチンを気にしていた矢川が、震える声で名を呼んで抱きついてくるのを見て、上原は急な行動に目を瞬きながらも抱き締め返した]
[舌が触れ合うことはなかった。
だから、少し舌先を出した私の顔は
きっととても間抜けな顔だったと思う。
勿論すぐに舌を引っ込めたけど
顔は真っ赤になったし、言われた言葉に胸を締め付けられて
私はぐっと泣きそうな顔になって顔を俯けた。
実際、泣きそうだった。]
……。
好きな人と、そういうことがしたくなるのは、
いけない事……かな。
[ましてや今回は前回とは違う。
気持ちを確認しあった恋人同士……の、はず。
場に流されて、大切だからという気持ちに惑わされて
そのまま溺れてしまったあの時とは違う。
でもそれは、若気の至りなのだろうか。
確かに、この身を持って知らされた。
男の子は、好きでもない女の子とセックスできる。
……まあ、女の子だって。
春を売る子達もいるけど、それはお仕事で、
仕事でなかったら……でも世界は広いから。でも。]
好きだから、キスもしたいし、
抱きしめてもらって嬉しいし。
その先だって……。
[あ、ダメ、泣きそう。じゃなくて、泣く。
声が震えてその先が紡げなくなった。
ぎゅ、ってそれでもしがみついて、
隆司さんの胸元に顔を埋めてたから
じんわりとそこが濡れてしまったかもしれない。
今までだって、大事にしなかった訳じゃない。
大事にしなかった訳じゃないのに。
……ああ、私はその先を知っちゃってるんだなあ。]
……ごめん、なさい。
[ぐす、ぐす、と泣きながらの謝罪。
意味がわからなくても仕方がない。
でも、なんだか訳がわからないくらい悲しくて
それ以上に、申し訳なくて。
こんな訳わかんない状態で泣いてる私に
しがみつかれても困るだろうなって。
わたしは隆司さんから腕をはなした。
離して、流しに向かう。
そのまま飛び出して行ってもよかったけど
こんな顔で女の子が飛び出した、なんて言われたら
隆司さんに迷惑かかるかもと思ったから。**]
[たった一言、断りを入れただけで泣かれてしまって、上原は途方に暮れた。
その上、なぜだか謝らせてもしまった。
どう答えたらいいかと考えている間に、彼女は離れて流しに行ってしまう。
思わず懐に手をやって、煙草の箱に指が触れたところで、そんな場合でないと思い直した]
蛍。
[名を呼んで流しに歩み寄って、矢川に両腕を伸ばした。拒まれないのなら、そのまま抱き締めたかった]
俺も、望んでないわけじゃない。
けど……妊娠する可能性はゼロにはできないって
どうしても考えちまうんだよ。
……学校に産休はないよなって。
[何を思って踏み止まるのか、それを伝えなければいけないと思って、上原は必死に言葉を選んだ。
けれど思うように伝わる気がしなくて、片手で頭をかいた]
万が一のときに、俺は産んでほしいと思うだろうし……
蛍もそう思ってくれるんじゃないかと思ってたから。
……「結婚しよう」で済む歳じゃねえよな。
[そこまで言ったとき、抱き締めることを拒まれていたならもう一度腕を伸ばしただろうし、抱き締めていたなら腕に力を込めただろう。
学校は休学か退学か。
出産前に働いていなかったなら、働けるようになってから仕事の探し直し。
そこまで考えてしまうくらい、上原にとって彼女は大切で、将来を守りたい女性だった。
いつの間にか、そのくらいに想いが強まっていた]**
[だって、拒絶されるとは思わなかった。
好きなら、その次に進んで当然だって。
それは若さゆえの浅はかさだったかもしれない。
でも、やっぱり。
好きな人だから、触れ合いたかった。
……自分の全部を見て欲しかった気がする。]
ひっ、く、
[水を流して顔を洗う。
バシャバシャと二度くらい洗ったところで
名前を呼ばれて後ろから抱きしめられた。
キュ、と蛇口を締めながら抵抗はしない。
抵抗するつもりなんてなかった。
でもすこししゃくりあげながら耳を傾ける。
そして、思いがけない言葉に目を瞬かせた。]
にん、しん?
[そう言えば保健の授業で聞いた。
コンドームの避妊率は8割程度で確実じゃなくて
避妊よりは性病予防の観点が強いって。
避妊を確実にするならピルや避妊具を合わせて使うって
そう言っていたはず。
……そう頭にあっても、ゴムしてれば良い。
そんな思いが確かにあった。
それは慢心だったのかな。
……と、言うか。]
……それは、たしかに、そう。
妊娠"しちゃった"って言い方、きらい。
できれば望んで"授かりたい"と思うし、
授かったら、……ちゃんと産みたい、けど……。
[まだそこまでの未来を描いていなかった。
描いてもどこか絵空事で、
具体性のない夢のようなものだった。
でも。それだけ大切に思ってくれているのか。
将来を思い描いてくれていたのか。
そう思うと、自分の態度がどうしても拙くて。]
ごめん、なさい、隆司さん。
……でも、……好きだから。
[好きだから、次のことをしたかった。
好きなら自然と触れ合いたくなると思ってたから。
回してくれる腕をぎゅっと握りしめる。
今までの自分は、無意識のうちに
自分の体を無碍にしていたのかな。]
大好き、だから。
……結婚するまで、待っててくれる?
[結婚か、婚約か。わからないけど。
一つとおい約束をしたい。
待ってて、と言うのもおかしな話かもしれない。
むしろ今回のことを考えると
自分がおあずけ、かもしれないけれど。
なぜかそんな言葉になりながら
私は隆司さんの手を握り締め続けていた。**]
[妊娠、結婚。自然とそれを意識するのは、上原がそういう年頃だからなのだろう。
高校生の矢川がピンと来ていないことを責める意思は上原にはなかった。その頃の自分を思えば、それが当たり前だと思えるから]
やっぱ歳の差なんだろうな、これは。
……それだけ本気になった、とも
言えるんだろうけどさ。
[それでも、本気になろうが、高校生で結婚までは考えない気がした。
だからこそ「授かったら産みたい」と言ってくれることはとても嬉しくて、抱き締めた彼女の頭を撫でた]
謝ることはない。
俺も触れ合いたくなるから。
でも、待ってるよ。
俺が言い出したんだしな。
[待つのも、おあずけもお互い様だろう。
お互いに望むことなのだから。
好きだから、その先を。それは上原も同じなのだと伝えて、もう一度唇を寄せて、触れ合うだけのキスを求めた。
もし待ち切れなくなるとしたら、大学卒業が視野に入る頃だろうか。
避妊はした上で、それでも妊娠してもその後の生活に支障が少なそうな時期。
その頃には互いの好む酒も把握し合って、一緒に飲めるようになっているのかもしれない]**
[それだけ本気。
……こんなに短い期間で? そんな疑問はある。
でもそれは自分だってそうだ。
本気で好きだから、好きになったから
その先へと進むことを選ぼうとした。
恋人同士でそれが当たり前かと思ったから。
さらにその先までは描けていなかったけれど。]
……私も、待ってる。我慢する。
でも、さっきみたいなキスも……だめ?
[ダメだから止められたんだろうけど
それなら自粛しなければならない。
触れ合いも我慢できる範囲内にして
……口で、とかやり始めたらキリがないから。多分。
触れ合うだけのキスをされて、向き合いながら
首を傾げてそんな問いを投げかける。
今まで通りのキスだけでも大丈夫。
頭を撫でてもらって、抱きしめあって、
そうしてそばにいられたなら。
でもアレもダメなの? と、
そこから直ぐにえっちに結びつかなかった私は
本気で不思議そうな眼差しを向けた。]
[確かに短い期間だった。
けれど、この先も共に過ごしていきたいと思う機会が上原にはたくさんあった。
一緒に暮らしてみたいとも。
そこで望まない妊娠が彼女の将来を閉ざしてしまわないかが気がかりで仕方なくなる程度には、真剣であると言えるだろう。
そして、キスのことを不思議そうに言われると、今度は年齢差のほかに性別差を意識することになる上原だった]
……俺が抑えられなくなるからダメ。
[実際には耐えることはできるだろうが、抑えがたい衝動を起こされる可能性を極力排除しようとして、上原は素直に申告した。
矢川が素直に守り続けてくれれば何事も起こらないであろうが、そうでなければ、数年の間に際どい場面はときどきあるのかもしれない]
[凛は信じてくれているけれど
他の友達は、プラトニックなお付き合いを
あんまり信じてはくれていない。
とは言え、私もあまり言いふらす事はないけど。
際どいシーンは……
例の、初めて家で深酒したとき?
海に行くからと部屋で水着を見せた時とか。
合鍵をもらえていたら、うっかり
部屋でうたた寝してた時とか、かもしれない。
積極的にこちらから際どいシーンは
作ってるつもりはなかったし。
そうして、もう私も四年になった。
今の生活が幸せで当たり前になりつつあった。
もう、あの時から数えて5回目のバレンタイン。
今年はチョコのカップケーキを作って
それを綺麗に包んで待ち合わせ。
……美味しく食べてくれると良いな。**]
[矢川の初めての深酒のときは、それまでで一番理性がぐらついて危険だった。
不幸中の幸いと言っていいのかどうか、上原はアルコールが入るとできなくなる体質である。
それに加えて、想いの通じた恋人とはいえ、酔った女性を手籠にする気にもなれなかった。
それでキスまでに留まったのだが、濃厚なものではあった。
思わず応じてしまったとき、上原は彼女の唇を舌でなぞっていた。
かつて指でそうしたように。
そのことが矢川の記憶にあるかどうかは不明である]
[水着が可愛くて抱き締めたことも、うたた寝に気付いて毛布をかけたこともあったが、そのくらいなら上原は割と平然としていた。
少なくとも表面上は。
矢川とのバレンタインも5回目になると思うと、そんなに付き合いが長く続いたことが感慨深かった。
積み重ねた日々を思いながら待ち合わせに向かう前、コーヒーを淹れてボトルに詰めた。
矢川の手作りお菓子でコーヒーを飲むのは上原の楽しみの一つになっていた。機会があるたびに淹れているうちに、少しずつ上達もしていった]**
[彼女の頸を引き寄せて、唇に舌を伝わせた。あのときそうしたように。
その後に唇を深く重ねて、隙間に舌を滑り込ませた。応じてくれることを求めるように、舌先で口中を擽って]
ん……っ、
[その傷は覚えがあった。
お酒によって夢見心地で、そのあと目が覚めた時には
そんな夢まで見てしまったかと恥ずかしくなった夢。
いや、きっと夢じゃなかったんだろう。
唇をかつてのあの日に指先でなぞった様に舌先が辿る。
ほんの少し震えて、けれど深い口づけを受け入れた。
むしろ私の方からも舌先を伸ばして
口腔を探る舌先に触れ合わせる。
粘膜と粘膜の触れ合いに、ジンと頭の芯が痺れた。]
[ストーカーの被害を感じなくなって何年にもなって、矢川をひとりで家に帰らせる日も増えていた。
上原の移動距離が長くなるというのが理由のひとつだった。
矢川ももう子供ではないしと、上原の部屋の前で別れる日も増えて、矢川の家まで送る日と半々くらいになっていた。
この日もちょうどその例に漏れず、おやすみのキスは上原の部屋の玄関で。
それから矢川をひとりで帰す予定だったのだけど。
予定に反して、寝室に彼女を連れ帰ることになった]
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