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【秘】 書生 シキ → よろず屋 シラサワ蒼き空、昏き空を舞い満たすのは、煤けた花弁。 彼岸の色を焼き焦がす朱と黒の帯を纏い この島に蔓延る忌まわしき祭事の記憶を纏い その "塵" は、おぼろげな想いに浸る青年の瞳を染め行く。「……これは……」 人と、妖と、神とが寄り交うこの島で ただ唯一、この腕に巻かれた忌々しき木の腕輪が その中で暗躍する者たちの繋がりを嘯く。 忘れることなど、ありはしない。 傷付いた男の瞳に満たされた 海の色 を。その波打ちが奏でる音への情を。 未だこの身に残った熱と安堵は 纏わり付く底見えぬ恐怖の陰りを 後ろ髪引かれるが如く残したままに。 「………あなた、は……」 ――その名を知らぬ筈の無い傷付いた男を前にして ぽつりと零れ落ちたのは、そんな曖昧な返事であった。 (-34) 2021/07/31(Sat) 0:00:25 |
【秘】 書生 シキ → よろず屋 シラサワ昏い獣たちの餌食となったあの時 知らず内に手放していた記憶の束。 その中に挟まれていた一本の栞。 島の記憶を焼き消して舞い散る花弁に似た色の 煌々とした紅は、その男の姿と声を寄り戻した。 「シラサワさん。」 ──燃え乱れる記憶の煤を払いのけ 暗夜の中でなお慈悲の色に満たされた海へ 再び、この身を浸していけるならと。 嗚呼、傷付き尚も在る唯の人よ。 早春を告げし瑞々しき花弁は 今や、黄色の想いで咲き誇っている。 「……俺に、まだ何かできますか」 青年は、暗赤い本を手に取り それを、胸の前へと掲げて、言葉を紡いだ。 (-36) 2021/07/31(Sat) 20:27:36 |
【秘】 書生 シキ → よろず屋 シラサワ「………。」 島の裏側で為される神への叛逆は はたして、その青年の預かり知らぬ事となった。 それは、あなたが空狐に生かされたということも同じ。 「俺は、『先生』の元には帰れません」 "人" として学びを得るに足るのならばそれが誰の元であろうとも、構いはしない。 それが、己に優しさの色をくれた者ならば、猶更。 「……はい。 少しでも力になってみます。 店のことも、シラサワさんのことも」 呟かれる不器用な言葉の端切れは、それでも 青年の内に宿る想いを綴るもの。 どうか、この姿を最後まで見届けてくれるようにと。 青年は顔を上げ、あなたと同じ色を顔に浮かばせた。 (-38) 2021/07/31(Sat) 20:51:48 |
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