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【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ『無理ですって』 『人前に出られる見た目じゃないですし』 『渡したいものって言われても、 僕もう触れないんですよ 代わりに行ってきてくれませんか』 『あと叫べば来るってどういうことですか』 いったい何がどうなってそうなったんだ。 返信。 息をしなくていいからこっちの方が楽かもしれない。 今のこの死に損ないにとっては。 (-15) 2022/03/08(Tue) 17:52:02 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ『ああ言えばこう言う』 『呼ばれてもないのに行く理由 ないですし』 自分から会いに行く理由はない。 一部を除いて、この場所でやり残した事の無い死人にとっては。 裏を返せば、呼ばれたらまあ、そうなんだけど。 『しょうがないから 応対はしますけど きみのせいで待ちぼうけはかわいそうですから でも』 『体よく追い払おうとしてません?僕のこと』 『なんてね』 (-20) 2022/03/08(Tue) 18:16:42 |
カミクズは、応対するとは言ったけど、その場を動くつもりはない。 (a15) 2022/03/08(Tue) 18:20:00 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユスメガホンでのお呼び出しの後、何件かのメッセージ。 『すみません』 差出人は、普通であれば有り得ないはずの。 『ちょっと今 人前に出られる状態じゃなくて 渡したいもの、も多分受け取れそうにないんですけど』 呼べば来る、という話になった時点で 死に損なっている事は薄々察されているんだろうな、と思って。 その辺りは説明を省くことにした。 『あと、なんか あの人は行きたくないみたいです』 (-21) 2022/03/08(Tue) 18:30:11 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ『目を逸らそうとしていませんか』 何からかはわからないけれど、何となくそんなふうに思った。 どれだけ傍に居たって認識されていなければ無いのと同じ。 どれだけ言葉を投げ掛けたって届かなければ無いのと同じ。 きみが埋めるだとか火葬だとか、そんな事を言った時もそう。 『思えばあの時もただそれがいやだった 僕がきみにとって見たくないものになったようで』 目の前の人が、こちらを見ているのに見ていないような孤独感。 『それでもずっと付き纏うから』 それがどんな形であっても。 『きみの言う通り 目蓋を閉じても、耳を塞いでも、そこに居ますからね』 もう気付いてしまった。 記憶の片隅で、綺麗なまま一人埃を被っていたくはないのだと。 自分がそう思っている事に。 (-23) 2022/03/08(Tue) 19:27:25 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス『え』 『ま』 『まちぼうけはかわいそうだから』 あれ……?これ、返事しない方がよかった……? そんな事を思ってももう遅いのだ。 実際たったそれだけの理由で死人から返事が来るなんて そうそうあってたまるかという話なわけで。 それだけの理由、ではないのだけど。 『ええと』 『お気遣い、ありがとうございます。 でも、自分にはもう必要のないものなので 適当に処分してしまうか、それか』 タイムスタンプに若干の間。可視化された少しの逡巡。 でも、やっぱりあなたは気にしないんだろうな、と思って。 『部屋に置いておいてください』 清掃員の部屋は、今も散らかった部屋のまま。 自分の名残を残すのは、あの場所だけでいいな。 (-35) 2022/03/09(Wed) 19:28:22 |
【独】 の名残 カミクズ──鍵の掛かっていない部屋。 ベッドの上には脱ぎ散らかした衣類が散らばって、 テーブルの上にはいい加減に纏められた郵便物、 それから、下手でも上手くもないような一枚の絵。 床だけは一見何もないようで、 よく見れば隅にはごちゃごちゃとケーブル類が纏められている。 ごみはきちんと処分されているけれど、 とにかくあちこちものが出しっぱなし。 不衛生でこそないけれど、ただただ雑然としている。 そんな、控えめに言っても人を呼べないような部屋。 曲がりなりにも清掃員、のイメージにはそぐわない荒れた部屋。 上葛の自宅である、安アパートの一室が再現された部屋。 それは今もなおそのままだった。 名残を残さないように、迷惑を掛けないように。 現実での自宅は、もう綺麗に片付けてしまったから。 最初から、あの場所にはもう帰るつもりが無かったから。 それでもせめて、ここでくらいはこのままにしたかった。 この場所なら、時が来れば勝手に消えてしまうからな。 (-34) 2022/03/09(Wed) 19:29:42 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス──死人に口なし。 確かに死者は何も語らない。何かを新たに生み出す事はしない。 生者がそれに対して感じるのはどこまでも生者の感傷でしかない。 けれどそれは果たしてまったく無意味なものなのだろうか? 生者はただ死者の死を認め、弔い、送り出す事だけをすべきか? 葬儀を終えた瞬間、故人の存在性はそこで途切れるのか? であれば墓石とは、何のために存在する? 『生き返る、っていうのは少し 違うのかも』 『これは多分、夢の続き、みたいなもので』 『目が覚めたら 現実へ帰ったら、死者に戻るんです』 『なんとなく、そう思ってるだけですけどね』 死んだ人間から言葉が返るなんてパラダイムシフト。 他人の名残に、死者の痕跡に、過ぎ去っていったものたちに。 決して必要以上の感傷を抱かないあなたなら。 非科学的な、或いはVRのバグとして処理してくれるだろうか。 なんて、話半分に聞いてくれるかな、今はそんな気持ち。 死んでいなかった、なんてことはきっとないのだと思う。 そんな奇跡は存在しない。そんな希望は信じていない。 けれどメッセージログには確かに残されている、死者の言葉。 どこまでも曖昧な死と生の狭間、そんな夢の中よりのもの。 (-63) 2022/03/11(Fri) 7:19:52 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス『そんな少しの夢の続きを選んだのは』 無意味な引き延ばしは毒だと既に知っている。 ただ死への恐怖から惰性で生き続けた結果、後悔をした。 そんな失敗を経てなお自分がそれを選んだのは。 『あの人が、ずっと一人で泣いていたから』 誰が、とは言わずとも、それが誰かは文脈から明白で。 たったそれだけの、それでも十分過ぎる理由。 『あそこで死ぬ事は、事実受け入れていたんです それに 死んだらそこで終わり。死んだ人が遺すのは、名残だけ。 それもここでは本来片付ける必要なんてありません。 だから僕のことなんか放っておいて、 すぐにでも、誰かと、どこへなりと行けばよかったのに』 泣くほど悲しいなら、寂しいなら、辛いなら。 誰かの傍で泣けばいいのに。誰か一緒に泣いてくれるだろうに。 また意地を張っていたのか、そうでないかはわからないけど。 『ずっとすぐ近くで泣かれたら、寝ていられないでしょう』 人からすれば、そんな理由で、と思われてしまいそうな。 どこまでも、ただそれだけの理由が全てだった。 (-64) 2022/03/11(Fri) 7:20:50 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス『自分でも おかしな話だと思うんですけどね』 一度だけ、乾いて濁った呼吸音。 溜息とも、不意に零れた笑みともつかない音。 きっと誰も聞かない、曖昧な死者のノイズ。 『死んでいると、 生きている人には何もしてあげられない もう手が届かないんだな ってそんなわかりきっていたことが、死んで初めて実感になって』 『それが すごくいやだったんです』 だから一緒に死にたいのだとわかってしまった。 『あの人が僕の手の届かない所に行くの、いやでした 僕の手の届かない所で泣くのも、悲しい思いをするのも 一人で居るのも、思ったよりも我慢ならないことでした』 多分、これはよくない感情なのだと思う。 死者から生者に向けるには、あまりにも。 『死んでも傍に居るなんて綺麗事じゃどうにもならなかった。 そんな当たり前のことに、死んで初めて気付いて 今更諦めがたいような未練ができるなんて』 『本当に、おかしな話ですよね』 それでももう、良いも悪いもないじゃないか。 (-65) 2022/03/11(Fri) 7:23:04 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス墓石は、弔いは生者の為のもの。 過ぎ去っていったものが確かに"そこにいた"事を証明する為の碑。 生者が時折遠い情景を懐かしむ為のきっかけとなり得るもの。 時に踏み躙られはすれど、その起源は決して邪なものではなく。 それでも、忘れたいのなら、忘れればいいのだと思う。 生者が目を瞑ってしまえば、死者の存在は存外容易く曖昧になる。 自らの手に余る重荷をその場へ置いていく自由は、 きっと誰にだってあるのだから。 ただ、置いていかないで、と叫ぶ自由もあるというだけで。 『死んでからしたいことができるなんて』 自分がそんな事をしたいだなんて思ってもみなかった。 この場所に来た時、自分にとってやりたい事は一つもなかった。 強いて言うのであれば理想的な形で死ぬ事くらいのものだった。 だというのに、今は蛇足にも等しい時間を自ら望んで繋いでいる。 きれいごとを求める人々にとって、不都合でしかない蛇足を。 『やっぱりおかしな話ですよ』 気付かなければ、"善い人"のまま死ねたんだろうな。 独善と自己満足に満ちた終わりの中、誰にも迷惑を掛けずに死ぬ。 そんなお利口な結末を描けていたのだろうな。 今はそれが、自分にとって 満足の行くものだなんて到底思えやしないけど。 (-93) 2022/03/11(Fri) 21:20:27 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス『死んだらそこで終わり、でも』 死んだらそこで終わり。死んだ人が遺すのは、名残だけ。 それに対して生者が抱くものはどこまでも生者の感傷でしかなく。 『死んだ人の時間は、そこで止まってしまうけれど』 死者ができる事は、思い出として傍らに寄り添う事だけ。 『生きている人は その先を歩き続けるんですよね』 振り返ればいつだってそこに居るけれど、それだけ。 『死んだ人の手の届かない所で、ずっと』 手を伸ばそうとしたって、どちらも一方的にしかならない。 『それでどこにも行けなくなって、一人で泣くくらいなら』 『一緒に来てくれればよかったのに、なんて思うのは 身勝手な結果論だって、わかってるんですけどね』 そんな、すぐ傍に居るのに触れられないあの距離が。 自分は、いやで仕方なかったんだろうな。 (-94) 2022/03/11(Fri) 21:21:00 |
【秘】 の名残 カミクズ → 規律 ユス『僕は』 『ここで人らしくいるつもりなんて、ありませんでした』 どうせ人らしく死ぬ事なんて許されないのだから。 自分という個人の人間性、人生を垣間見せる事に意味なんて無い。 だからこれら全ては本来口を噤み秘すべき事で、それでも。 『でも それできみ達が知らずに後悔をする事が減るなら』 『これでよかった、のかな』 『ねえ、ユスさん』 『この場所は、ここで誰かと過ごした時間は』 『きみにとって少しでも、納得とか、満足の行くものでしたか』 いつか98uの海できみに投げ掛けた言葉を、ふと思い出した。 一人では何の感慨もなくとも、誰かと一緒なら少しは違うはず。 そんな実にささやかな希望的観測。 願わくば、それが単なる願望でなければいいな、と思うし これから先の時間もそうであって欲しいな、と思う。 きっときみにとって限りなく他人に等しい人間からの、 実に一方的で無責任な願い、ではあるのだけど。 (-95) 2022/03/11(Fri) 21:21:44 |
【独】 の名残 カミクズ思えば最初に一緒に死のうと言ったのは何故だっただろう。 ただ一人で死ぬのは寂しかったのかもしれない。 一人でもいいやと諦めてはいたけれど、できたら二人の方が良かったのかも。 或いはただ単純に別々に死ぬのは二度手間と感じただけ、そんな事もある? 今となってはよくわからない事だった。 その次は、確か。 きみを置いていきたくないと思って、これは今とそう変わらない。 一人で苦しんで欲しくはなかった。それから、少しの痛み分け。 互いに互いを失った苦しみを知らないままに死ぬ、そんな対等性。 あの時は多分、そうだ、死というものを分かち合いたかったんだな。 それで、それから、今は。 ただ、きみが自分の手の届かない所に行ってしまうのがいやだった。 自分の手の届かない所で、悲しい思いをして、寂しい思いをして、 辛い思いをして、自分以外の何かに傷付けられていくのが。 ただただひたすらに、我慢ならないな、と思った。 そんな我儘で身勝手でどうしようもない理由だ。 それが間違っているか否か、その分類や定義に大きな意味は無い。 もはや正しさなんかで救われやしないのだから。 出会うのが遅すぎて、出会ったのがこんな場所だった時点で、もう。 きっと僕達の間で重要なのは、互いに満足がいくかどうかだけ。 ねえ、こうも愚かである事は、僕達に責任があるのですか? 誰か教えられるなら教えてください。 ああ、でも、できることなら、もっと早くに教えて欲しかったよ。 (-98) 2022/03/11(Fri) 22:10:29 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ「────、……」 ただ静かで安穏としていて、特有の物寂しさに満ちた空気の中。 乾いて、濁った音。 いと深き眠りを拒んだ、夢見る死者が言葉を紡ぐ為の一呼吸。 「……45メートル…マンション…? ああえっと、10階建て以上の…15階以上?…」 唐突な問い掛けに、寝起きじみてもたくさと答えを返すのは 今や存在を疑う事は難しく、けれど居るとも証明できないもの。 微睡みの中にしか確たる形を保てない、夢の名残のようなもの。 「…もういくんですか?」 自らも問いを一つ投げ返し、死者は緩慢に身体を起こした。 (-99) 2022/03/11(Fri) 22:11:10 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワきっとこれは、住居としての役目は果たさないのだろうな、と。 がらんどうの建物を、一度見上げて。 「ひどい人」 それから、あなたの方を見て笑った。 物憂げで、陰鬱で、淋しげで、でもそれだけではないような。 「僕がいやだって言っても、きみがログアウトすれば勝ち逃げ。 わかってて言ってるでしょ」 複雑な笑みで、複雑な声色で、でも気心知れた仲のように。 わかっていなかったら、それはなんか、もっとひどいな。 なんとなくそんなふうに思う。 「一人勝ちなんてされたら、僕はきっとがっかりするよ」 「きみがいつか、僕が勝手に死んだら悲しくなるって そう言ったのと、多分だいたい同じ感じの気持ちなのかも」 まったく同一なんて思ってはいないからそんな言い方をする。 自分の気持ちは自分の気持ちで、きみの気持ちはきみの気持ちだ。 本人以外にできるのは、それを最大限汲み取ろうとする努力だけ。 「待っていたのも、きみと一緒に死にたいって言ったのも。 僕が勝手に期待していただけだから、いいけど。 きみが悪いわけじゃないってわかってるけど、でも」 「それでもやっぱり、僕はがっかりするんだよな」 (-105) 2022/03/11(Fri) 23:54:21 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ「うん、だから言うよ、身勝手な我儘でも」 不意に、すとん、と重たい笑みは抜け落ちて。 「一人で救われるなんて、羨ましい」 きみにいつか言われた言葉。 そっくりそのままの、意趣返し。 「やめてくれないかな、そういうの」 あるかもしれない未来へと手を引いて行くような。 今よりほんの少しでも明るい明日を夢見させるような。 そんな都合の良い言葉をくれる生者達とは対極の存在。 同じ夢ならば、覚めない夢だっていいでしょう。 「やっとわかったところなんだよ。 僕はただ、きみが自分の手の届かない所へいくのが嫌だった。 僕の手の届かない所で、僕にはどうする事もできないものに これ以上きみが傷付けられるのは我慢ならなかった。 優しくない世界にこれ以上きみをくれてやるのがいやだった。 それは物質的なものじゃなくて、謂わば精神的な意味で」 「だからもう、ここで終わりにしよう」 「一緒に死のう、邦幸さん。 誰の手も届かない所で、今度こそ、一緒に。」 誰にも頁が捲られないなら、幸福にも不幸にもならないでしょう。 (-106) 2022/03/11(Fri) 23:56:35 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ「意地悪」 抗議の声と共に浮かべた笑みは自然なものだった。 死者は影を落とさない。死者の歩みは響かない。 けれど確かに傍に居て、それでも傍に居る事を証明できない。 ただ、生者にとって都合の良い夢にしては、随分と我儘なもの。 それが今ここにある夢の続きだった。 「…僕も、今はあの時殺しておけばよかったと思ってる。 多分、きみに触れられたらきみと似た事をしていたとも思う。 生かそうとしてるわけじゃないから、同じではないけど… 幻滅されても、ひどいわがままでも、そうしたいような事」 半ば独り言のように言葉を返しながら。 ぼんやりと灯るエレベーターのランプを見上げた。 最上階に辿り着いた時にはきっと、結末は決まっている。 そんな漠然とした予感があった。 「きみに死んで欲しくないのに、きみを殺したくて。 少しでも長く一緒に居たいのに、早く終わらせたくて。 きみと生きていたいのに、きみと死にたくて仕方ない」 二律背反、自己矛盾でいよいよおかしくなりそうだ。 これって死んだ事でおかしくなってしまったのかな。 或いは、案外本当は、自分ってそんな人間だったのかも。 自分でもわからないのだから、何れも定かではないのだけど。 (-115) 2022/03/12(Sat) 4:17:22 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ「僕はあの時、手遅れなんかじゃないときみに言って」 滅多に人の言葉を否定しない自分が、否定を叩き付けた時の事。 「今も確かに何もかもが手遅れではなかったんだと思うんだ」 それがたとえ願望じみたものであったとしても、 ただ願望ばかりというわけでもないのだとは、思っていて。 「でも多分、今にして思えば。 手遅れではなくとも、そこから先がなかったんだろな」 「いつからかはわからないけど、なかったんだ、僕達には」 欲しかったものは拾っても、踏み出す先がなかった。 互いにそれぞれの理由で身動きが取れなくなってしまった。 優しくない世界に引かれた、優しさで舗装された道の先。 行き着いた先、どこまでも優しく残酷な袋小路がこの場所だった。 閉塞感とぬるま湯に満ちた水槽のようだった。 「だから、二人で終わらせに行こう。 また失敗するかもしれないし、それに もしかしたらすごく後悔したくなるかもしれないけど、でも。」 茫とランプを見上げていた視線を隣のきみへと戻して。 触れられずとも手を重ねて、 心よりの笑顔と共に未だ名付けられない想いを贈ろう。 「それでも、そうだとしても僕は、きみと一緒に居たいよ」 (-116) 2022/03/12(Sat) 4:20:37 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ「一つだけ、曲解しないで欲しいのは」 一度重ねた手を引くように差し伸べたまま、 珍しくきみの先を行って、足音もなく屋上へと踏み出して。 澄んだ空気の中、冷たい風が一つ吹き抜けても、 死者の乾いた血に塗れた髪が舞う事はなかった。 「それは全部、僕がそうしたいから勝手にしてるって事」 まっくらな瞳は、今も変わらないままで、でも。 抱え込んだ暗闇は、きっと最初よりずっと重く澱んでいて。 ふと空を見上げて、果たして今日は死ぬには良い日なんだろうか。 そんな益体もない考えを抱いた。 「僕は多分それって、きみもそうなんじゃないかと思ってて」 「死人に口なし、死んだら終わり、それはそう。 生きてる人にわかるのは、今ここにある僕の事だけ 死んだ後の僕の事なんて生きてる人にはわからない ただ、今ここにある夢の続きの終わりが少し変わるだけ」 「だからこれが僕の救いになるだとか、 或いは、きみの救いになるだとか、それが良いか悪いかとか。 そんなふうに思うのは、きっとそれこそが逃げなんだろうな」 「だから── もういいよ。 死ぬなら死にたいってだけの理由で死のう。 あれこれ理由を付けて正当化するのも、もう終わりにしよう」 (-163) 2022/03/13(Sun) 0:23:39 |
【秘】 の名残 カミクズ → 不運 フカワ滔々と穏やかに言葉で最期を綴りながら、 夢のない夢の縁へ、ゆるりと足を進めていく。 足取りは迷いのないものだった。 「今の僕は心から笑えてるんだと思う、それは本当の事。 でも、あの時置いていかれたくないと思って泣いたのも 触れられなくたって、涙も嘘じゃない、本当の事。 きみに誕生日を祝ってもらえて嬉しかった事も、 きみに殺されるなら、それでもいいと思えた事も。 きみと生きていたかったのに、きみの死を願っているのも」 「また失敗しても、後悔したくても後悔したくない事になっても。 それでも一緒に居たいと思うのも、本当の事」 「それくらいきみの事が好きで、大好きで きみじゃないと嫌なのも、本当の事」 「きみにずっと僕のものになって欲しいのも本当で、」 「でも、ここできみと死にたいのは、 ただここできみと死にたいからだ」 そうして今際の縁へと辿り着いて、振り向いた。 そこにあったのは、多分。 きみへの重たい感情だけを残して、全てを投げ出したような。 行き着いてしまった先の、けれど晴れ晴れとした笑みだった。 (-164) 2022/03/13(Sun) 0:24:46 |
【秘】 亡骸のツバメ カミクズ → 不運 フカワ「ずっと考えてたんだ。」 この行き止まりで語るべき事と言えば、あとはそう。 「僕はあの時きみに、 わかりやすい言葉で言うなら、きみの事が好きだと言ったけど 正確にはきみの事をどう思っているんだろうって」 誰の代わりにもならない人。 一緒に生きたかった、一緒に死んで欲しい大好きな人。 これが恋愛なんて、 実にわかりやすく伝わりやすい言葉で言い表せたなら。 どんなにかよかっただろう、とさえ思う。 「──結局はわからなかった。 僕にもわからなかったから、全部あげる事にしようかなって」 「四つの愛も、その中には分類されない愛も、 それからもっと大きな枠組みのものも、愛以外も全部。 僕がきみに抱く、感情のすべて」 「ああ、結局ここでは喧嘩はできなかったけど」 「きみが持っていきたいものだけ、持っていくといいよ」 きみにとってのツバメには、なれなかったかもしれないけど。 それでもせめて、きみのさいごに寄り添うツバメの亡骸に。 なんて願いは、分不相応なものでしょうか。 (-165) 2022/03/13(Sun) 0:25:56 |
【置】 亡骸のツバメ カミクズ「──そうだ、そういえば。」 「そう、失敗した時の事は、一応考えてて。 だって人生って思い通りにいかないものだし、 確実に死ねる方法なんて、正直他殺くらいしかないから。 だから僕は次善の策になり得るものを 今度はちゃあんと考えておいたんだ。聞いてくれる?」 「あはは…笑わないで聞いてくれるといいな」 「あのね。これで上手にきみが死ねなかったら、その時は」 「──僕、きみの事を殺しに行くよ。」 「記憶転移が僕に味方してくれれば、だけど… どれくらい待たせる事になるかは、わからないけど でも、何となくできる気がしてるんだ。 僕じゃない僕が、きっときみの事を殺しに行くから ここで一緒に死ねなかったら、その時は。」 「待っててね、邦幸さん。」 (L3) 2022/03/13(Sun) 0:26:48 公開: 2022/03/13(Sun) 0:30:00 |
【置】 亡骸のツバメ カミクズもう幸運も不運も祈らない、ただきみの確かな死を祈ろう。 祈るばかりは癪だけど、死者にできる事はそれだけだから。 全部自分のせい、生きて苦しんで罪悪感を贖うなんて選択肢 僕にはもう選べない選択肢。 それを一人で選んで自分勝手に満足するなんて、 ずるいから、羨ましいから、やめてくれないかなぁ。 そんな綺麗でも何でもない、どこまでも身勝手で我儘な、 それでも、心よりの気持ちで。 ──本当は、罪悪感に耐えられないのは、僕ではなくて。 ──きみの方だったんじゃないかと、今となってはそう思うんだよ。 (L4) 2022/03/13(Sun) 0:27:22 公開: 2022/03/13(Sun) 0:30:00 |
【秘】 亡骸のツバメ カミクズ → 不運 フカワ「じゃあ、いこうか」 ふ、と。 穏やかに笑みを零して。 「先にいくから──ちゃんとついてきてね」 きみに向けて両腕を広げて、後ろへ、さいごの一歩。 「おいで、邦幸。」 ──あ、やっぱりこれはちょっと恥ずかしいかも。 そんなどこまでも場違いな照れ臭さを感じながら。 ぐらり、視界が傾いで、 浮遊感に身を委ねる。 消えた柵の向こう、縁の向こう、広がる空を背に、身を投げ出す。 今度は、自らの意思で。 不思議と、もう怖いとは思わなかった。 死ぬ事よりもずっと怖くていやだと思う事を知ってしまったから。 (-166) 2022/03/13(Sun) 0:27:53 |
カミクズは、きみに手を伸ばして。 (a48) 2022/03/13(Sun) 0:28:00 |
カミクズは、さいごの一歩を踏み出して。 (a49) 2022/03/13(Sun) 0:28:05 |
カミクズは、世界を手放した。 (a50) 2022/03/13(Sun) 0:28:09 |
【秘】 亡骸のツバメ カミクズ → 怪物 ユス当然ながら覚えのある言葉に、少しの間。 『あはは』 『そうですね 夢でくらいは』 『夢でくらいは、幸せになったって、いいですよね』 眠りから覚めれば消えるような、淡く、脆く、幸せな夢を。 二度と覚めない眠りの中に閉じ込めて、 誰にも話さずそっと抱いて眠るのだ、なんて。 ああ、言葉にするだけなら、随分綺麗な夢物語だな。 (-181) 2022/03/13(Sun) 6:57:30 |
【秘】 亡骸のツバメ カミクズ → 怪物 ユス『そうじゃなかったら そうだなあ』 『きみにとってはそうだったんだなって、思うだけ、かも』 少し残念だとは思うかもしれないけど、結局は他者の感傷だ。 あなたのいいえ、の仮定にはそんな答えを返して。 それから、あなたの話に、また少しの間。 『そうですか』 『無駄な命なんて、僕は無いと思いますけど』 『少なくとも、本人以外の誰かが決めることじゃない』 本人が、嗚呼人生は無意味だったと嘆く事は、良いのだけど。 生きる事も死ぬ事もその人の自由で、その舵取りは本人次第。 少なくとも他者が勝手な評価を下して良いものではなくて。 無味乾燥な生はあったとしても、無駄な死は存在しない。 そもそもの話、意味ある死など本来存在し得ないのだと思う。 仮にあらゆる死に意味を見出そうとするならば、 災害、事故、病気、唐突な理不尽に命を奪われた多くの人間は。 ただただ、うつろへ向かって走っていた事になるのだから。 或いは、そうだな。 それに優劣を付ける事そのものが間違い、というよりも。 そもそもの話、全ての命には。 最初から、大した意味なんて無いのかもしれないな。 ただ、その過程に何かを見出す者も居るというだけの話。 (-182) 2022/03/13(Sun) 6:58:22 |
【秘】 亡骸のツバメ カミクズ → 怪物 ユス『でも、そっか』 『きみにとって、少しでもなにか得るものがあったなら』 『僕の勝手な感想ですけど、よかったなって思います』 清掃員は、あなたの得たものを知らないけれど。 仮に知ったとしてもきっと、あなたがそれに満足しているのなら。 何を思っても、きっと『よかった』とは言ったんだろう。 何せ今のあなたの気持ちは今のあなたのものなのだから。 あなたがそうだと言うのなら、それは誰にも否定できないものだ。 始まりと終わりそれそのものには、大した意味は無くたって。 その過程に何かを見た事は、決して無価値ではないはずで。 その時の感情は、その時抱いた気持ちは、たとえ遷ろえども。 決してそれが嘘だった事にはならないはずで。 ならきっと、それで良いのだと、そんなふうに思うから。 『これからを生きていくきみ達に、 暫くは手も声も届かなくなってしまうのは悲しいけれど』 『でも きみが振り返れば思い出は変わらずそこにあるから』 『それは、ここでの時間も、それから僕も』 『きみが覚えている限りは、ずっと。』 (-183) 2022/03/13(Sun) 6:59:26 |
【秘】 亡骸のツバメ カミクズ → 怪物 ユス『でも、だから、ユスさん』 『ここで一度、お別れですね』 夢の続きという今の距離は、懐かしむには近すぎるから。 現実を生きていくきみ達は、夢の名残だけを持っていけばいい。 『僕も、その、情けない話ですけど。 きみには何かとお世話になっていましたから。 最初に気を遣ってくれたのもそうですし、 一緒に掃除をした事も、それから今も。だから』 『ありがとう。それから、さようなら。』 『帽子は、テーブルかベッドの上に。』 『僕の部屋の中の事は あまり気にしないでくださいね』 ──雑然とした、ある種の生活感に満ちた部屋。 もう帰る主の居ない、現実には存在しない部屋。 VR内に今この一時のみ再現された、部屋の主の人らしさの縮図。 床に落ちているのは、優しい色使いで描かれた一冊の絵本。 めでたしめでたしで終わる、誰もが知っている物語。 変わった所と言えば、一つだけ。 最後の── 神さまが、天使に貴いものを持って来させる頁。 それ以降が切り取られただけの、 何の変哲もない、未完の絵本。上葛掃守という人間が、最後に遺した憎悪と失望のかけらだった。 (-185) 2022/03/13(Sun) 7:02:28 |
カミクズは、『幸福な王子』の絵本が嫌いだった。 (a56) 2022/03/13(Sun) 7:02:37 |
カミクズは、正しくは、ふたりをそっとしておかなかった神さまが。 (a57) 2022/03/13(Sun) 7:02:42 |
カミクズは、それをうつくしいものと持て囃し吹聴する読者や世間が。 (a58) 2022/03/13(Sun) 7:02:47 |
カミクズは、物語を都合良く脚色する傍観者が、嫌いだったのだと思う。 (a59) 2022/03/13(Sun) 7:03:08 |
【秘】 亡骸のツバメ カミクズ → 『 』の フカワ結局のところ、許す許さないの話ではなかったんだ。 「──もしも、仮に。 生きていたくないと思うことが、悪いことなのだとしたら」 だって僕はそもそもの話、それを咎める事はできないのだから。 「僕ってとんでもない大罪人だ」 夜明けはいつも憂鬱だった。 けれどきみの隣であれば、憂鬱なばかりでもなくて。 だからきっと、今日は死ぬには良い日、だ。 ──さあ、誰の手も届かない所で死のう。 何処にも行かず、死んでも離れず、ずっと同じ夢を見よう。 他の誰に捲られる事も無い、さいごのページをふたりじめ。 誰にも観測されない物語の結末は、幸福でも不幸でもなくて。 誰に"めでたしめでたし"で締め括られる事もなくて。 エンドロールが流れなければ、 声を潜めて口々に感想を囁き合う観客だって居なくって。 それってきっと、この上なく満足のいくものだ。 (-241) 2022/03/13(Sun) 19:22:53 |
【置】 亡骸のツバメ カミクズああ、でも。 重力に身を委ねる瞬間の、更にそのほんの僅かな間だけ。 少しだけ、投げ出したものが追い付いて来たらしい。 ──ただ生きたかっただけの少女に本当に必要だったものは、 きっと隣で一緒に考えてくれる人だったのだろうな、とか。 ──僕の事を友人と呼んでくれたきみは、 僕がこんな選択をしても、悲しんでくれるのかな、とか。 ──この場所で死ぬ理由を失い、生きる理由を得たきみは 僕と近"かった"きみのこれからが、少しでも長く続くといいな、とか。 ──ああ、きみのくれた花の事を聞き損ねてしまったな、とか。 ──誰かからきみのことを奪っていく事は、 本当にひどい事で、それだけは確かに僕の罪、なんだよな、とか。 きっと誰もが誰かにとっての生きていて欲しい人だった。 でも、お利口にしていたって、奪われるばかりなんだ。 喜劇のように報われやしない、この優しくない世界では。 一方的に奪われて、報われる事なんて一度もなかった! 嫌だ、嫌だ、嫌だ!どうかさいごくらい、我儘を言わせて! いつまでも僕ばかりが奪われる側なんて、不公平じゃないか── (L7) 2022/03/13(Sun) 19:23:40 公開: 2022/03/13(Sun) 19:30:00 |
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