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【赤】 医者 サキ───診察以前 介護施設 [ ぽたり、ぽたり、と小さな点滴筒の中を 規則正しいリズムで栄養剤が滴り落ちていく。 母に与えられた個室の内装はとても、簡素だ。 抜け殻のようになってしまった母は 何をすることもないし、望まなかった。 まともに食事をとりすらしないから、 点滴で無理矢理生かしていると言っても過言じゃない。 窓から注ぐ光が瞳に射そうとも 母の目はこちらを捉えることなく、 靄然と空を見つめている。 ] (*0) 2022/06/17(Fri) 13:52:07 |
【赤】 医者 サキ母さん、 [ 偽りの幸せに浸り続けて 管に繋がれて生きることが、 本当に幸せだといえるのか ずっと、ずっと考えていた。 LH法──幸福追求法。 エデンが悪いとは思わない。 それによって救われた人は、必ずいる 俺だって、使ったことはあるんだ 廃人になる人間とそうでない人間。 違いは、何か。 ] (*1) 2022/06/17(Fri) 13:52:39 |
【赤】 医者 サキ[ 弱い人間ほど、依存する フェイクをフェイクと割り切れない リアルに目を向けることが出来ない 弱い自分を見たくないから 強い誰かに壊されたくないから 生まれつきの環境 与えられた足場 狭い足場を踏み外して落ちるのは何より容易く。 ────… 崩れて、しまう。 ] (*2) 2022/06/17(Fri) 13:53:26 |
【人】 医者 サキ…そうか。わかった [ 同じような幸福感を得られなかったからのめり込んだ。 どこか母に重なる影を感じて、ため息をつく。 ] どうして得られないのか、理論的な説明は出来るよ。 聞きたいなら話すし、どうでもよければ省略する。 ただ1つ間違いないのは、 疑似体験を続けても感じ方は変わらない… どころか、酷くはなるだろうね。 (0) 2022/06/17(Fri) 13:55:18 |
【人】 医者 サキ[ 人の身体が分泌する、幸福物質。 幸福感は幻想じゃなく、 物質の分泌によるもの。 心と身体の健康に由来するセロトニン、 人との触れ合い、つながりのオキシトシン、 一時的成功など高揚感が生むドーパミン。 これらは積み重ねなければ、満足な効果を得られない。 考えて見れば何となくでもわかるだろう、 酷く気分が落ち込んでいる時と絶好調な時では、 何か嬉しいことがあった時の 感じ方が少なからず違うはずだ。 エデンで得られるのは、成功体験。 つまり 一時的高揚感 。 そして、セロトニン、オキシトシンが 阻害された状況で得る ドーパミンの幸福効果は低い。 だから、得られていないと感じてしまう。 ] (1) 2022/06/17(Fri) 13:57:02 |
【人】 医者 サキ[ 治したいと願う。 けれど、人が幸福でいるには 本人の自己肯定感が何より不可欠だ。 船越亜結実は幸せになっていい。 それだけの事を理解してもらうのが、酷く難しい。 時間は巻き戻らないんだ 応援するしかないだろ 沈んだ船の名前が 決められてしまった今となっては。 ] (2) 2022/06/17(Fri) 13:58:24 |
【人】 医者 サキ『 そしたら、明日。 駅で待ち合わせてから行くか …ああいうとこって何時から行くもん? 13時とか? 』 [ 夕方、診療後の作業をしながら メッセージを返していた。 前は夕方券だかで行ったからなぁ。と 怪しい記憶を辿りつつ、 これでも遅いとは思ってもいない時間を提案していた。 ツッコミが来るかはさて。 仕事を終えればパソコンの電源を落とし、 帰路へつき。 ] 楽しめればいいな [ 話を終えれば早々に寝ようとしたが 年甲斐もなく寝付くのに時間がかかるという 要らんおまけつきの夜を過ごし。 ───翌日。 ] (4) 2022/06/17(Fri) 14:01:15 |
【人】 医者 サキおはよ、ユミちゃん。 [ どれほど元気になったのかは分からないが、 お洒落するだけの気力が戻ってるようなら 「可愛いね」くらいの褒め言葉は 直ぐに出すつもりで。 ]** (5) 2022/06/17(Fri) 14:02:26 |
【人】 女子大生 マユミ私、死んだあの子に誓ったんです。 あの子の分も、ちゃんと生きるって。 それなのにこんな有様で、 面目の欠片もありませんけど。 今はまだ引き返せる段階。 そう信じて、今度こそちゃんと生きます。 [ 亜結実に幸せになる権利がないとしても、 そうなることでしか真結実が幸せになれないのなら、 どちらを優先すべきかなんて、考えるまでもない事。 「ご面倒をおかけしますが、宜しくお願いします」 改めて、頭を下げた。 ] (7) 2022/06/17(Fri) 22:33:50 |
【人】 女子大生 マユミ[ 二人の幸福を心から願ってくれている。 そんな人はきっと、目の前の先生くらいなもので。 それこそが今の私が持つ、 得難い幸福なのではないだろうか。 ] (8) 2022/06/17(Fri) 22:34:22 |
【人】 女子大生 マユミ[ 診察が終わり家に帰れば、母にまず事情を説明した。 スマホは外出する時以外は、母に預けるようにして。 久しぶりに摂ったまともな食事は、 真結実の好物だった母のお手製のポトフ。 口に含めば、温かさとコンソメの旨味が広がる。 エデンの疑似体験では決して味わえない感覚だ。 ] (9) 2022/06/17(Fri) 22:34:57 |
【人】 女子大生 マユミ[ 夢の国に来るのは私もかなり久しぶりで、 一応事前にアトラクションや レストランは調べておいた。 テーマパークを歩くだけで、十分楽しい。 まだ本調子とは言えないし、 人気のアトラクションは控えた。 映えそうなスポットで写真を撮ったり、 レストランで可愛く作られた料理に舌鼓を打ったり。 傍から見たら恋人同士というよりは、 年の離れた兄妹に見えたのではないかと思う。 ……だから心配いらないと言ったでしょう? >>2:42私の様子はどう見えたかしら? 元気な風は装ってみたつもりだけれど、 本当に元気な人と比較すれば、 空元気感は否めなかっただろう。 ] (12) 2022/06/17(Fri) 22:36:29 |
【人】 女子大生 マユミ[ パーク内を歩き回って、そろそろ陽が沈むころ。 黄昏色に塗り替えられた景色に、 一つまた一つと光が灯っていく。 ] 先生、今日は付き合ってくれて有難う。 ……ううん。 私を見捨てないでくれて、有難う。 あの時、先生が踏み込んでくれなかったら、 多分私は、ダメになっていたと思う。 (13) 2022/06/17(Fri) 22:37:04 |
【人】 女子大生 マユミ私ね、今日一つ宝物を沈めようと、 そう覚悟して来たんだ。 最後まで、付き合ってくれる? [ バッグから、スマホを取り出す。 外出時だから持っているそれを、 先生に見せる様に掲げて、 私は静かに、返事を待った。 ]** (14) 2022/06/17(Fri) 22:37:28 |
【人】 医者 サキ[ たかが3文字。生きる、と それだけでも重いのに、 ちゃんと生きる、か。 増えたのは4文字だというのに、 含有された重さは比べ物にもならないな。 息をしていることが、生きることか 幸せをつかむことが、生きることか 意味を説明してくれる人なんてのはいなくて、 手探りで答えを探していくしかない。 難しいという言葉に頷けば、 「そうだね」と小さく呟いて。 ] (15) 2022/06/18(Sat) 18:35:52 |
【人】 医者 サキ[ ただの持論だけどね、と微笑んで。 引き返せる段階の手を掴めたこと、 ちゃんと生きる、と言ってくれたこと。 その裏に、どんな事情があったとしても 彼女が、幸せにしたいと思う人のために 努力することは、間違いではないと思うから。 助けられなかった自分の方を いつまでも見続けている俺も 頬を張らなければと思う。 ] (16) 2022/06/18(Sat) 18:36:40 |
【人】 医者 サキ[ 今日の調子はいい。 テーマパークは何年経っても変わらず 賑やかで、時に少し騒々しい。 人気の長蛇の列を見てやめとくかぁ、なんて 苦笑いしつつ、それなりに乗って、食べて。 彼女も楽しんではいるんだろうけど、 少し無理が見えたような気がしたから ] 装わなくていいよ。 それとも、マユちゃんは 無理して笑う子だっけ? [ そんな問いかけはしたな。 ] (18) 2022/06/18(Sat) 18:37:55 |
【人】 医者 サキ[ 13時から向かえば、 空が茜色に染まるのも早く 街灯に明かりのつき始めた園内で、 光に照らされる彼女の方を見た。 ] あぁ ……こちらこそ、ありがとう [ アタシじゃなく、私か きっと、船越真結実である彼女自身の話 俺は、助けられたんだろうかと ずっと不安だった。 余計なことをしたかもしれない。 手折ってしまうのが、怖い。 沈まないでいてくれてよかった 付け加えた感謝は、彼女に 向けて。 ] (19) 2022/06/18(Sat) 18:38:11 |
【人】 医者 サキ…宝物を? [ 一瞬では意味が理解出来ず、繰り返す。 手に持たれたスマホ。 沈めるとは、単に、物理的にか……何か。 …手が、脱力する。 どうしようか。何が最善か。 考えて、出した答えは ] (20) 2022/06/18(Sat) 18:38:30 |
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