【人】 天原 珠月[儀式を行う夜がやってくる。 三日月は昼間の青い空にも見える月で、夕暮れ時には姿を明るくしていき、藍色の空にはくっきりと浮かんでいた。] ガク、服を乾かしておいてくれてありがとう。 この衣装、ワンピースを頂いていくわね。 [ここに来たときの巫女装束。 考えた結果、完全には着替えなかった。 ガクが用意してくれた小花柄の、あの世界の花畑を思わせたワンピースに、青に銀のきらめくローブを重ねた。 自分には巫女であった過去があるけれど、もう今はただのペルラであるという意志の形だった。 ワンピースのポケットには丁寧に書き連ねられたメモに、ちゃっかり傍らにはお菓子の包みまで。>>43 静かな湖畔の桟橋へとふたりで向かう。 広い湖であるし、近くに人の気配はちょうどなかった。 街灯が湖面を照らしている。 風のない夜だった。 波ひとつ立っておらず、水面は鏡のようだ。 昼間の太陽の下とは違う静けさと底の見えない恐ろしさがあるけれど、潜った経験がそれを和らげるだろう。] (49) 2023/03/10(Fri) 4:01:43 |
【人】 天原 珠月ガク、あの耳飾りをあなたの手の中に。 [祈ってくれとは言わない。 ガクならば何も頼まずともミツキを願うと知っている。] 今から儀式を始めるわ。 ……絶対に、成功させましょう。 [目を見合わせれば、笑い合えただろうか。 決意に満ちた視線が交わっただろうか。] (50) 2023/03/10(Fri) 4:02:02 |
【人】 天原 珠月[桟橋に膝をつき、湖面へと手を差し伸べて。 音もなく水へと浸して温度を通い合わせる。 そうして引き上げた両手を組むと、瞼を伏せ、ここまでの想いをすべて音に乗せるようにして、細くも途切れぬ響きで。 巫女時代とはまったく違う、願いの詩を紡いでいく。 いつしか銀に近づいた長い髪が、三日月と踊る星たちの輝きを吸い込んだかのように淡く光を帯びる。 満ちて外へ溢れ出す力に、瞼を薄く開ければ、風を待ち望む空色の瞳がきらめいていた。] どうか、会わせて。 [湖から、パシャン、と音が響いた。 真珠が落ちたような、涙が落ちたような、誰かの意志が働いたかのような、誰かが足を踏み出したかのような音。 そうして次に音もなく波紋が広がり、煌めく光が水面に散った後には、灯籠が浮かぶようにふわふわと灯がともっていく。 優しくあたたかな光だった。 熱く消えない光でもあった。 それらは自分だけでなく、ガクの想いの温度だろうか。] (51) 2023/03/10(Fri) 4:02:15 |
【人】 天原 珠月[意識が潜り、飛び、願いが世界の壁を越える。 頭の中に映る光景が、鏡のような水面にも映り、きっとガクにも遠見のときよりも鮮明に見えるだろうか。] ……見つけた。 [大きな湖。簡素な小屋。 見覚えのある風景。 水上に停められた飛行機に――ふたりの姿。] ……っ、 [見えているのに。 力を届かせ、まずはミツキを引き上げなければいけないのに。 ミツキ。気付いて、こちらに。 額に汗が滲み、願う唇が時折噛みしめられる。 急激に身体が重くなり、ふいに意識が途切れそうになった。 慣れない儀式の影響がすでに表れ始めていた。*] (52) 2023/03/10(Fri) 4:02:35 |
【赤】 片連理 “椿”近くの村は、ここ。 ここから、ずっと北に向かうの。 [カウンターの上のメモパッドを一枚千切って、鉛筆で地名を書きつけた。彼の知る地かどうかはわからないが、少なくとも、知らない言語ではないはずだ。 大事なことは伏せたまま一瞬の希望を選んでしまったことは、きっと罪でしかない。 それは彼を更に絶望に落とすかもしれない、おそらくは間違った選択で。 許されたいとは思わない。許されていいとも思えない。最後の最後まで、正しいことは何ひとつできなかったけれど。 それでも、“そうしたかった”。]** (*21) 2023/03/10(Fri) 8:30:05 |
【人】 鈴木 深江[海までは持ってこれない。その通りだ。小さく笑いながら引っ越し先の条件の話に頷く。いっそ、山のある離島なんかいいかもしれない、と言ってみたが、コミュニティが狭ければ不都合も増えるか、と思い直した。 成長期を疾うに終えていたのは幸いだ。成長を怪しまれる度合いが減っているため。それでも長くて十年かそこらだろう。自分たちにとっては短すぎる。 ── けれど、そのたった十年の間。 また、世間や技術は目まぐるしく変わってゆくのだろうと思う。昔の、何百年も変わらぬ穏やかな山の生活が少し恋しくなることもある。もうそんな山が残ってないとは言わないが、下手な場所に家でも建てようものなら航空写真などでバレてしまうのが世知辛い。 狐の視線がみみずに向いた時には笑った。食うか?と訊ねても拒否が返ってくるだろう。面白い。狐なのに。 川の魚捕りでも狐の姿でばしゃばしゃやってもよかったんだが、ちゃんと釣り竿を使うあたり、人の姿になじんだなあ、と思う。ペースはこちらの半分くらいだが、きちんと釣れているし、何より食べるのは二人だ。帰って処理して冷蔵庫にいれるとはいえ、冷蔵庫に肉も野菜もある。ほどほどなくらいが丁度いい。] (54) 2023/03/10(Fri) 14:15:55 |
【人】 鈴木 深江[釣果対決はこちらの勝ちで終わったけれど、別にどちらにも不利益はない。勝ったと思う、負けたと思う、おいしい魚が食べられる、それだけだ。 悔し気で、でも楽し気な顔が見れたのは嬉しかったが。] (55) 2023/03/10(Fri) 14:16:07 |
【人】 鈴木 深江[コテージに帰り処理をして、はらわたをゴミ箱に捨ててよい事に何となく感心する。山の中なのに。頭を落とし腹をわる。わたを洗って除き水気をとる。慣れに慣れた作業はさくさく終わり、肉や野菜も出してきて、予定通りのバーベキューだ。] やっぱり塩焼きが一番うまい。 [醤油も好きだがやはり塩。用意しながら野菜を確認。大根おろしがほしくなるが、さすがにバーベキューの品揃えの中には見当たらなかった。 色々出して盛った皿は贅沢で、なんかの祭りでもやるんかと笑う。調整してもごちそうに変わりはなく、豪華な宴会が始まった。二人だけど。] (56) 2023/03/10(Fri) 14:16:24 |
【人】 鈴木 深江[しゃくしゃくした焼き野菜、釣りたての魚の身はしまっていて弾力がある。ふくよかな塩気に酒精の香りがよくあって、炭が焼けるにおいも音もまた食欲をそそる。改めて便利な世の中に乾杯だ。] 冷やいのもらおか。 天美も飲むやろ。 [上機嫌な狐に笑い、こちらもほろ酔い気分はいい。 ここに来てよかった、とのんびりする。食うものはいっぱいあるから、食べたり胃を休ませたり焼き直したり飲んだりとしていたら、あっという間に夜は更けた。 酒にそんなに強くないのは化生だからか個人差か。 個人差かもな。食い終わるころには満足気な眠気がこちらにもあるが、それを上回りふわふわとしている様子の天美がのしかかってくる様子に不快感もなく、ただただ今が心地よい。 火の始末、ごみの処理だけ最低限終わらせて、 残りの掃除や片づけはまた明日。*] (57) 2023/03/10(Fri) 14:16:40 |
【赤】 片連理 “椿”[突然抱き寄せられて、言葉に詰まる。 このまま黙って消えるべきだったはずなのに。ずっとそうするべきだと思っていたし、死ぬのは当然の報いだ、怖くはない。 人のように生きろ、という願いは椿にとっては呪いにも似たものだった。その言葉に縛られて、死ぬことも、生きることもできなくて、ただ蹲っていた。 本当は殺されたかったのだろう。 自分よりも強いものに。 けれども、彼はそうしなかった。 生きていてほしいと言い、そして、殺さなかった。 自分が生きていてもいい、とは、やはり思えない。 はじめから“いらないもの”であった椿には、それはどれだけ時間をかけても、経験を重ねたとしても理解できないことだ。] (*24) 2023/03/10(Fri) 14:38:16 |
【赤】 片連理 “椿”(正しいかどうかが道を選ぶ理由になるのか?) [彼の言葉を思い出す。 正しくても、間違っていても、ただ心のままに。 今の自分は、差し出されたその手を取りたい、と思った。たとえ短い間でも。その先、彼を傷つけることになったとしても。] (*25) 2023/03/10(Fri) 14:38:49 |
【赤】 片連理 “椿”[自分はヒトではないと言いながら、ヒトであることに縋り続けていた。ヒトとしての規範でもって、自身を断罪しつづけてきた。その思いを捨てることはきっとできないけれど、それでも、違う道を歩いてみたい。 だから、彼女は狼の声で、囁く。]** (*26) 2023/03/10(Fri) 14:40:21 |
【人】 鈴木 深江[朝。二日目である。 今日は湖に行く予定だが、昨日の釣果の残りもありそんなにたくさん釣らずとも良いなという判断だ。けれどしっかりと準備はする。実際、魚の種類はそんなに変わらないだろうとも思うし。 単純にロケーションを変えたいだけのただの釣り好きだった。 酒盛りで夜更かししたため、また今日も起きたのは昼前だが問題ない。軽く湯浴みをしたのちに、残しておいた野菜や魚を焼いて朝食にし、昨日の片づけを終えてから準備をする。湖へ歩くまでの準備運動になって良い。 湖に着くと思ったよりも整っているなという感想を抱く。船着き場が見える。ボートもあるらしい。街灯もそろっており、これなら夜に来てもよかったなと話した。] おお、船が、…船か? [いわゆるスワンボートだ。 普通の手漕ぎボートもあるようだが、スワンボートを見てほうほうと興味をひかれた。永い人生、以前にも見たことはもちろんあったが乗る機会はどうだったか。] (58) 2023/03/10(Fri) 14:52:38 |
【人】 鈴木 深江[せっかくだからこれに乗って釣りがしたいというくそ無謀な事を言い出した。絶対に危ないし無理げなことは解っているのだが。一応。一応な。 実際乗った後に立ち上がろうとし、うまく立ち上がれず、屋根のせいで竿も触れず、おそらく魚がかかっても竿を立てられないだろう事が早々に解りあっさり諦め、足漕ぎボートで遊覧するに鞍替えした。 いくら不死といえども水に沈んで上がってこれなければ、永遠に死に続けるだけである。天美がいるため救出はされるだろうが、ボートがひっくり返れば天美も巻き込むし、さすがにごめんこうむりたい。 しかし手漕ぎボートならば専門である。 やはり海と勝手は違うものの、いろいろと思い出す事はあった。さすがに投網で漁はやらないが、自分の原点はこれである。 船釣りだ、と笑いながら手漕ぎボートの上で釣りをした。 そしてキャンプから帰ったら、ちゃんとした海釣りに行こうと決心する。海が恋しい。 なんだかんだのんびりと湖を堪能し、 あとはボートが来ないだろう端っこで釣り糸を垂らした。 今日の釣果は数字にすると24くらいだった。] (59) 2023/03/10(Fri) 14:53:00 |
【人】 鈴木 深江[きちんと手加減できていてえらいとこれは褒められるべき。 夕暮れまでのんびりして、 陽が落ちたら街灯の明かりをぼんやり眺める。 夜釣りも楽しいのだが、もうそろそろ魚はいっぱいだ。 そちらは次に行く予定の海でやる事にした。] …… いい場所だなあ、ここは。 海が近ければ、この辺に住むのにな。 [そう笑った。] (60) 2023/03/10(Fri) 14:53:50 |
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