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人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

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【秘】 黒眼鏡 → Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ

「あんたが正論を言ってると、
 鼻をつままれたような気分になるよ」

ははは、と笑い声を放り投げる。
間に置かれた距離はちょうどよくて、
それでもきっと短すぎる。

「はいよ。
 じゃあちょっと準備するから、大人しく座っててくれますかね」

店ならサイフォンを火にかけたりしはじめるところだが、
裏口から入れば店の外観からは想像もできないほど
狭くぎゅうぎゅうと物が押し込まれた部屋がひとつ。
あなたも何度か覗いた事くらいはある、事務所兼黒眼鏡の私室だ。

スチールデスクの上に置いてあった電気ケトルのスイッチを
ぱちんと指で弾きながら、

「あんたからなんか持ってくるなんて、
 明日は海が荒れるな。
 船は出すなといっておかにゃ」

二つ置かれたカップのひとつをひっくり返して、
口許だけで笑った。

「で、ご注文は?」

珈琲ではなく、と。黒眼鏡の隙間から、瞳が覗いた。

#Mazzetto
(-5) gt 2023/09/11(Mon) 21:20:14

【秘】 Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ → 黒眼鏡

「別にいつでも詭弁を口にするわけじゃあないさ」

長い脚を折り曲げて言われた通りにソファに座る。
手持ち無沙汰げに上げた目が散らかった部屋を見回して、そのひとつひとつを眺めた。
小言じみた声を聞き流しながら、明け渡されずに残された物を見つめている。

机なりがあるなら、その上にビニエを置く。紙袋から取り出すまではしない。
ご丁寧にふたつきりのそれを、どう扱うかは持ち込んだ先が決めるべきということ。
座った席の肘掛けに頬杖をついて、注文の為に口を開く、その合間に視線が戻ってくる。

「言っただろう。最後になるかもしれないから、って」

スカイブルーの瞳は色付きレンズの向こうをじっと見つめる。
冗談にしては、視線は外れないまま瞬きも少ない。

#Mazzetto
(-29) redhaguki 2023/09/12(Tue) 1:27:19

【秘】 黒眼鏡 → Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ

「そうとも。似合わないさ」

湯が沸く音、インスタントの珈琲が注がれる音、部屋を歩く軽い足音。
部屋は狭いなりに雑多な荷物が押し込まれていて、
いうなれば狭苦しい。

だが机の上はきちんと開けていて、
無秩序にちらかされているわけではないことは分かるだろう。

「皿」

さほどの時も置かず、コーヒーカップを二つ片手で鷲掴みに持ってきて、
もう片方の手で皿を一枚机の上にかちゃんと放る。
コーヒーカップもことり、と続き、
やっと空いた手でビニエの袋を吊り上げて、中を取り出し一つを皿の上に乗せた。
雑に手で押しやるように、その皿をあなたのほうに差し出す。

「――なんだ、ついに辞めンのかね。
 それとも転勤?
 勤め人は大変だね、旦那」

がぶり、とビニエにかぶりついて、瞳を合わせる。
視線が合わない時は一切合わないし、
合ったのなら外すことはない。当然だ。

#Mazzetto
(-30) gt 2023/09/12(Tue) 2:08:27

【秘】 Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ → 黒眼鏡

「燕が運ぶ黄金の元はここから剥いできているのか??」

言葉は暗に蔵の中身を空けたかのような部屋の様子を指していた。
いずれは此等も人々の手の中に明け渡されてしまうのか、
それとも難を逃れたものたちがここに残されているのか。

黒く帳の降ろされて色の見えない瞳を、見えているとでもいうように見つめる。
その癖見透かしているというには目元の険は鋭くはなく、望遠鏡を覗き込むようで。
しばらく見つめ続けたあとに、ふ、と満足げに笑って視線は外された。
何を悟って何に納得したか、なんて口にされることもない。

「お前のほうこそ景気はどうなんだ。市井が荒れると、書き入れ時だろう。
 それとも一丁前に店一本に絞れるくらいにはそろそろ腕も上がった頃か?」

貴方を見つめていた時には蝋のように動かなかった指は、すいとコーヒーカップの方を取った。
手間の少しも掛けられていないインスタントであるのを目の前にして知っているのに、
わざわざ一口啜って、皮肉っぽく片眉をあげた。

#Mazzetto
(-35) redhaguki 2023/09/12(Tue) 7:43:38

【秘】 黒眼鏡 → Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ

「そうだったり、そうじゃなかったり」

ここにあるから渡している――だけではなく、新たに買ったりしているらしい。
意味不明だ。
彼自身が使っている電気ケトルなどは、簡素でシンプルなものでしかない。

目を合わせて、言葉もなくじいと視線が交わされて──
肩を竦める。
不十分だ。
だが、十分だった。

「客は来るよ。こないだも、警官さんが来たぜ。
 まったく、人気店は困るね」

客が来るのは当然のことだ。
珈琲については自分も口にして、眉だけをあげて、
…少しだけ笑ってから、腕を組んで。

「……うちは流通だ。
 何もなくつつがなく、ただ流しているのが一番儲かる。リスクもなくな。
 しばらくはやりづらいだろうな。
 俺の好みじゃない」

10年カポとして"真面目に"やってきた男の手腕は、
驚くほどに保守的で慎重なものだ。リスクを最も嫌う。
今の状況は、彼の指揮する"港"にとってはあまり好ましいものではないのだろう。

#Mazzetto
(-38) gt 2023/09/12(Tue) 8:26:54

【秘】 Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ → 黒眼鏡

曖昧な回答に対するのは、ああ、なんて対象も不明な相槌ばかり。
一度外した視線は自由に動きはじめて、外とは隔意の有る空間を眺める。
漠然と眺めるというよりかは、遠い昔の面影を探すようにゆらゆらと表面を動いた。

「客入りがあるのだったら市民の一員らしく歓迎するところだけれど。
 ……自動車工の素振りにしばらくは絞ったらいい。
 どうせそんなに長くは保たないさ。緊縮の似合う島じゃない」

軽々に言って、カップを持ち上げる。大して手間の掛かっていない味わいを口に含む。
黒い手袋を外せば肉の削げた指が垣間見えて、ビニエの表面に食い込んだ。
もったりとしたバニラクリームを引き立てるように、オーソドックスなアーモンドの生地が挟み込む。
見た目の甘ったるさに比べて存外軽い焼き菓子をゆっくり味わう。
この島に、街にありふれた光景だ。

「"港"を封鎖できるほどの力があるわけでもない。
 ……そんなこと出来たらとっくにお前たちのことなんて追い出せているよ」

#Mazzetto
(-106) redhaguki 2023/09/13(Wed) 6:52:17

【秘】 黒眼鏡 → Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ

菓子。電化製品。装飾品。酒。
高価なものから安価なものまで。共通点はない。
あえていうなら、必要とされていない、そのくらいだ。

当時から、飾り気や色気には興味のない男だった。
けれどそれは、先を焦り、目を向ける余裕がないだけだった。今は。

「税金は払えてるさ。…ンまあ、そうだな、長く続くとは思えない。せいぜい、身をかがめてドアをくぐるさ」

額をぶつけないようにな、と身をかがめる仕草。
ばり、と口の周りが汚れるのも気にせずに生地を噛んで、
少し溢れたバニラクリームが唇にしがみつく。
それをぺろりと舌先でなめとりながら、
ほんの3口程で食べ歩きの林檎のようにビニエを平らげてしまった。
味わう、という言葉とは程遠い。

「いつも警察の皆さんには、お世話になってます。ははは、そう、イレネオくん。
 "表"の仕事してるときにまで、港に張り込みに来てたらしいよ。
 国税局に転職したほうがいいんじゃないか、あの真面目さは」

言葉の内容ほどにはあざける様子はなく、むしろ好ましそうな語り口。
頑張っている若者。この男が明確に好意を示す、数少ないものだ。

「……で?」

そこでぱた、と笑顔を止めて。

「忠告は分かったけど。旦那はどうすんだい」

#Mazzetto
(-117) gt 2023/09/13(Wed) 9:17:10

【秘】 Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ → 黒眼鏡

眦は細く、無機質なガラスやプラスチックの表面を見つめた。
集合体の意図するところを理解したなら、それで視線は逸れてしまう。
聞いたふうな口を利き、悟ったような目をして、見知った街路を歩く足がある。

訪れたことも多くはない部屋を一個一個理解したように頭の中に入れてしまって、
もう分かったとばかりに帰った視線はアーモンドのまぶされた生地の行き先を見ている。
スカイブルーの目は澄んだ空のような色ほどには冴え渡ってさえもなく、
曇天めいて淀んだ色が閉じ込められているだけであるのを、分かっている者は少ない。
春霞の向こう側にぼやけた焦点は今は貴方の所作だけを追っていた。

「ああ、あの子か。まだ若いだろう、あまり焚き付けないでやってくれ。
 彼の熱心さが彼の足元をおろそかにさせるようにはしてやりたくないんでね」

ふ、と表情が緩む。庭の花でも見るような穏やかな皺が目元に寄った。
己の手の届く範囲にあるかれらに対するときの男は、一層ありふれた老成を現す。
老いさらばえていくもののように緩めた表情が、どれほど実を伴っているものか。

「どうも」

笑う表情は変わらない。
『いい警官』になってから、余裕のあるかのような表情が鈍ることは少なくなった。
他愛なく進む会話が時計の針を押すごとに、いつしか皿もカップも底がまあるく顔を出している。

「為るように為るものだよ」

#Mazzetto
(-224) redhaguki 2023/09/14(Thu) 2:58:42

【秘】 黒眼鏡 → Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ

言葉も四肢も、その間に立ち塞がるものを埋めようとはしなかった。
ただ視線だけが互いの色を、その粒子のひとつぶひとつぶを見極めるように交差する。
直接その双眸を見やること、それすらも最近はできてはいなかっただろうから。

「いじめたように言ってくれるなよ、こっちはオフの日に話しかけられたから応じただけだって。
 旦那の教育方針を疑うわけじゃないが、あれはそのうち痛い目見るぞ。
 普段ならともかく、今はいささか状況が悪い。
 怪我せず転べないのなら、子供の手は握るべきじゃないか」

年を取ったなあ、などと柄にもない言葉が意識をかすめる。
そしてそれはきっと自分もそうなのだと思い、
苦笑しながら黒眼鏡を指で押さえた。



「それも、そうか」

だから、帰ってくる言葉も素直にすとんと、腹の奥に落ちてくる。
そういうものだ。

「じゃあしょうがねえな。
 何かやることは?」

明日の話はできない。
だから、とりあえずは今の話をしようと思った。


#Mazzetto
(-235) gt 2023/09/14(Thu) 5:39:28

【秘】 Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ → 黒眼鏡

「痛い目に合わないように支える人間は幾らもいるだろうよ。
 まあ、けれど。出来るだけの教育くらいはしておくとも。
 知らないおじさんが心配していたよって伝えておいてやろう」

からかうような言葉が苦言を受け流す。少しも真艫に捉えていないようだった。
そうでなかったとしても、仮に、そうだとしても。
犯罪組織の渦中にてその重責を担う貴方の見えないところで行われることだ。
周りの労苦や心配が実を結ぶときが来たとしたって、きっとずっと先のことだろう。

水を向けられた、如雨露の首を返すように視線は流される。
既に短いやり取りで、多くに納得をして、多くに満足した。
そこから先を、この部屋においていく必要はお互いに無い、そうだろう。

「何も。お前の顔を拝みに来ただけだ。珈琲の腕前もお目にかかれたようだしな」

皮肉っぽい言い回しとともに、長い指と素爪がカップをつついた。
ほんの少し小麦の粉がついた指を軽く払うと、手はそのまま机について立ち上がるのを助く。
用事はそれで済んでしまった。
部屋をいっそう狭く見せるような長駆が伸びて、入ってきたばかりの扉の方をつま先が向く。
帰りの見送りは、さて。『いい警察』を厭うなら、必要かもしれないけれど。

#Mazzetto
(-282) redhaguki 2023/09/14(Thu) 20:49:46
 


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