本当は君の指先を見てたんだ、なんて
　　　そんなことは口が裂けても言わないよ。


　　　なんで指先なんか見てたかって？
　　　それは、そう、綺麗だったから。それだけさ。*

　　　
　　　

　　

　　

［　名乗ったら貴方の名前もきけたかしら。
　　まさか指先を見られていたとは
　　思っていないけれど、
　　もし、私の口元に視線が移るようなら。

　　私の指、何かついてたかしらって
　　たてていた指を二本に増やして
　　あなたにピースサインを送ってみましょうか。　］*
　　

　　　僕の意図を知ってか知らずか
　　　君の口元を向く僕に示されるは二本の指先。
　　　
　　　透き通るような真っ白なそれは
　　　僕にとっては魅了の対象であり
　　　同時に羨望の対象でもあった。

　　　いいピアニストは指先が綺麗だと
　　　僕はそう教えられてきたのだから。

　　　不思議そうにしているアンネに
　　　僕は小さくふふっと笑う。

　　　それでお相子だよね、って。

　　　　　　　　　　君は納得してくれたかな？*

＊＊＊


［　誰が着るかを見ているのが男だとしたら
　　一秒でも可愛く、美しく見せたいのが女だと思う。
　　

　　話す機会はあったんじゃないかしら。
　　服を気にするそぶりを隠しきれるほど
　　私は器用じゃないんだもの。　］
　　

　　　私の指に……？面白いこと、言うね。
　　　私は貴方の指も綺麗だと思うわよ。

　　

　　　そうね……内緒にする代わりに
　　　


［　小さくわらう貴方に向かって
　　何処か子供のように悪戯に笑ってみせるの。
　　本当は、貴方の秘密をばらすつもりなんてないし
　　貴方が示した条件で十分お相子なのに
　　さらに我儘を上乗せしてしまう。　　］

　　

　　　なんてね。
　　　安心して、これは私たちだけの

　　
［　貴方の反応はどうだったかしら。
　　いいよって即答でもされない限りは
　　私は冗談だよって空気で
　　我儘を誤魔化そうとするでしょうね。
　　貴方の手を取って、
　　自分の大きくない手で包み込みながら、
　　秘密はこの手の中、って言わんばかりに。

　　即答されたら？
　　それなら勿論、喜んでお話するわ。
　　普段何してるかとか、好きな物とかを
　　貴方に聞いてみようとするはず。　　］**
　　

　　　　「これでも一応ピアニストだからさ。
　　　　　指が綺麗な人は、羨ましくてね。」


　　　そう本心を伝えて。
　　　自分の指を褒められれば意外そうに
　　　今度は自分の指先を見つめてしまう。

　　　もちろん光栄ではあったが
　　　君からそんな言葉を貰えるほどの
　　　自信はなかったからね。

　　　けれど付け加えられたわがままには
　　　僕は思わず目を丸くしてしまったんだ。