【人】 piacere ラウラ【マウロの部屋】 >>3:77 リカルド様 こちらから向かう前にその手に写真立てを持ち、戻ってきてくれた。 だからまだ水の音は止まなくて、けれど懐かしむように語る貴方の声は水の音など気にならないほどにはっきりと耳に届く。 写真を見つめていた菫色は、語る全てをその目に、耳に残るようにと真っ直ぐに貴方に向いて。 大切な思い出なのだろうと察せられるのは語る口調が優しいからか。その表情に多くの感情が乗せられているからだろうか。 それとも今まで見てきたものがあるからだろうか。女は、賑わう人々を見つめていたものと同じように貴方を見ているだろう。 「……マウロ様は、あまり お変わりありません、ね。 リカルド様とツィオ様は、……ラウラの知る御二方とは、異なります が。 きっと、マウロ様しか知らない変わらない何かも あったのでしょうね」 己はただのアソシエーテ。それ以上にはなれるなどと思えなくて、過去を問いかける真似はせずにいた。 今はそれを悔やんでいるのだと思うし、こうして聞けることは何一つ聞き逃さないようにしたいと感じている。 「…リカルド様が そう仰るのであれば、その方がいいと ラウラも思い、ます。 ……、…ただ。………少しだけ、ラウラに お貸しいただけませんか」 だからかもしれない。肯定ばかりで、こうしたタイミングでの意見を発することなど無かったはずの女は、ここに来て己の言葉 で 紡ぎ出す。勿論断ったところで「分かりました」と頷くのみで、あっさりと引き下がるだろうが。 ベッド脇のサイドテーブルの上、そこに置かれた便箋についてはまだ──気付かない。 (0) 2022/08/17(Wed) 22:06:45 |