【人】 因幡 理恵おばあちゃん、行ってくるのじゃ〜 理恵たちが帰ってくるまでいい子にしとるんじゃぞ! [おばあちゃんに挨拶して、出発したのは夜明け前。白のもこもこコートと茶色のもこもこブーツ、それにもこもこオレンジ色のマフラーと全身もこもこ姿で駅に向かう。黒いロングコートを着たフウタと並ぶと、黒と白でかえって統一感がある。 電車の中は暖房が効いていて、鈍行になってからはコートもマフラーも外した。クリーム色のニットワンピースに、黒のタイツ。その頃にはすっかり明るくなっていた。 冬の日差しは眩しい。がたがたと揺すられながら窓の外を眺めていると、やがて民家が減っていく。深まる木々の間を縫い、暖房に曇る窓ガラスを何度も拭う。フウタはうつらうつらし始めて、時折ハッと目を覚ました。「寝過ごしてもだいじょうぶだ、ちきゅうは丸いらしいぞ」無責任に勇気づけたけど、ついていってるだけです。 途中、山を抜けるのか、トンネルに入った。一駅一駅の間隔が長い。何度も通り過ぎる誘導光が数えきれなくなった頃、やっと暗闇を抜けた。慣れない光に目を細める。 世界の半分が白くなっていた。ちらつく雪で、空よりもむしろ地面の方が明るい。並走する川を眺めれば、やがて流れに湯もやがかかる。せせらぎの音も、どこかとろみがついて柔らかい。 やっと駅に着いた頃には、体中バキバキだった。 ホームに降りると大きく伸びをして、温泉郷の空気を吸う。鼻をひくひくさせて、「なんか変なにおいがするのじゃ」硫黄系ではなさそうだが。 建物や道の脇には雪が積もっていたが、きちんと除雪されているおかげで歩きやすい。肉まんやら温泉饅頭やら温泉卵やらを蒸していて、あちこちから美味そうな湯気が流れてくる。潤沢に温泉が湧き出ているのか、マンホールや側溝のあちこちからももやもやが立ち上り、町全体が心地よく煙っていた。] (6) 2020/12/28(Mon) 18:23:58 |