【人】 花屋の主 メルーシュやがて、 大騒ぎする彼女が落ち着くのを待って聞いたところ、そのソファは、彼女が【心から幸せを願った人】のものだったという。 カエデの木を抱えたまま、その古めかしい革張りのソファの横に膝まづくと、彼女はそうっと、そのソファを撫でた。 「ほら、ちゃんとお会いできましたよ」 というわけで。 先代は、そのカエデの木を育てることを引き受けた。 そのカエデの木が長い時をかけて育ち、やがて自分が大切に育てた花屋を引き継いでくれるまでは、恐らく長い長い時間がかかったことだろう。 その木を育て始めてから、自身の体の齢のとりかたがかわったことには気づいていた。 でもそんなことは意に介さず、 カエデの木であった愛しい存在、メルーシュという名をつけたその者が、どうかどうか、しあわせであってほしいと。 この街で、コンセールカリヨンで、 長く長く人々とともにあってほしいと、ただ願うばかりだった。 * (347) maru33s 2020/09/30(Wed) 21:45:43 |