【見】 吟遊詩人 フェリックス風がそよぐ墓場の最中、その小高い丘。 昼ですら、ここはあまり人が来ない。 休むにしても、場所が悪いからだ。 昔のことを思い出しながら、弦を爪弾く。 幽かな音色のことを、『あの老人』は『懐かしい』と言った。 このあたりにこんな楽器はないだろうに、と尋ねると、 『美しいが、寂しく、求めても手に入らぬもの』 皴だらけの顔で微笑んでいたように思う。 『そのように言う』、と。 大層その表現が気に入って、『私』はその一節を取り留めておくこととした。多分、あいつも気に入るに違いない。 「はたして、あれはもう孫か」 首を傾げる。 「それとも、息子なのか。」 「いやいや。無粋か。やれやれ………」 (@1) protea 2021/12/16(Thu) 19:01:21 |