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【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → 花で語るは ソニーかたちにならないものが、いかに確かであるか。それは誰にも分らない。 けれど確かに思う気持ちが、そこにあるというのなら。 ――きっと、そこに。同じく言葉にならない、思いやりと気遣いはあったのだ。 それを互いに、自覚していたかどうかは分からないけれど。 「私にとっては、私の命が一番だけど」 窓に映るあなたの横顔に、一度視線が引っかかる。 ん、と軽い息が漏れて、太腿を持ち上げるように座り直した。 「うん。お願い。 ドライブは、……そんなに好きじゃないのだけど」 文句を言うわけじゃない。ただ、窓の外に送る視線はどことなく硬いものだった。 「……」 そうして、沈黙の先。ビアンカは、あなたが語る答えを聞く。 行き交う車が通りすぎるたび、びりびりと微かに窓が揺れた。 求めていた答えを得たというのに、彼女はまだ沈黙の向こう側に暫し、佇んで。 「ふたり」 溜息。細く。細く。 「…じゃあ、もし。ふたり。お願いするなら、あなたは頷いてくれる?」 「うちで一番若い子と、うちで預かってる子──ヴェルデ。ふたり」 窓に映る彼女の顔は、微笑っていた。いつもの、仕事の時に見せる顔で。 (-239) gt 2022/08/17(Wed) 0:10:03 |
ビアンカは、裏切った。 (a23) gt 2022/08/17(Wed) 0:10:22 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → ヒットオアスタンド ヴィオレッタ「うん」 あなたのうしろで、かつかつと石畳を踏む足音が響く。 ――素直な時は、疲れているとき。 彼女がかつて、自分でそう言っていた。 はたして街灯に照らされた化粧の奥には、隠し切れない疲労の色が滲んでいる。 けれどそれを見せないように、いつもよりさらに濃く、しっかりとメイクがされていた。 ただ灯った橙の灯りだけが、あなたのあとをついてくる。 バッグもポシェットも、鞄の類は何も持っていない。 ただ、いつも持ち歩いている日傘だけが、彼女の手の内で揺れていた。 「最近どう?」 特に意味のないような質問。 ゆらゆらと揺れて、尾をひいて、掠れて消えていく紫煙のように。 (-250) gt 2022/08/17(Wed) 0:50:53 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → ヒットオアスタンド ヴィオレッタ「そう。よかったじゃない。 商売繁盛、なにより」 どこか遠くから、ひとびとの喧騒が聞こえてくる。 祭り。 皆が浮かれ、楽しみ、ひとときの夢を追い混ぜている。 ─その夢を提供する側は、こんなところで女二人、近所迷惑にならないくらいの声量で話しながら歩いているのに。 そして、あなたの4歩目を聞いて。 「それを笑うと、次は自分で自分をわらう羽目になるんだよね」 …苦笑を返した。 どうやらこちらも、部屋に酒瓶が増えているようだ。 「あなた、料理できたの」 かつ、かつ。 足音が僅かに間隔を狭める。 ほんの少し歩く速度をあげてあなたの横に並んだビアンカは、ちょっと失礼なことを聞きながら首を傾げた。 (-258) gt 2022/08/17(Wed) 2:33:28 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → ヒットオアスタンド ヴィオレッタ「ふふ。 お部屋であんまり、かっこういい料理を出されてもびっくりしちゃう。 ……トラットリアくらいが、楽でいいの」 いつも酒の席でかわされるような気安いやりとりに、随分と楽し気だ。 ころころと軽い笑い声が響き、街灯に照らされた影が伸びて、また縮んで揺れていく。 階段を上がる時も、なんだか興味深いあちこちを眺めながら後に続いて。 「ん。…いいお店ね」 扉をくぐって、ぐるりと顔を巡らせて。 なんだか楽しそうな声で、芝居のような言葉を返した。 声量はそれほど大きくはないけれど、どこかはしゃいだ様子を隠そうともしない。 「ひとり?」 上着を脱いでくるくるとまとめて、傘と束ねて手の中で弄ぶ。 さすがに、主人よりも早く我が物顔で部屋の中を歩んでいくほど傍若無人ではないようだ。 (-274) gt 2022/08/17(Wed) 12:21:54 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → 翠眼 ヴェルデ「…危ないから、ここを離れたいかなと思って」 あなたをここにしばりつけているのは、私でしょう。 ↓[2/3] (-276) gt 2022/08/17(Wed) 12:29:52 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → 花で語るは ソニー「勝手にすればいい。死にたがりなんて。 面子も仇討ちも、…血の掟もなにもかも、 くそくらえだ。 私は、そうじゃない」 呪詛のように吐露をする。 さんざんに噛んで味のしなくなったガムのように、 そんな拘りはもう彼女の人生には必要ないのだ。 ただでさえ、苦々しい鉄と泥の味ばかりが口の中に残って、今でも忘れられないのに。 ごう、と窓が風を裂く音。 青、金、緑、紫、オレンジ。 揺れる海は、うねる髪のようにさまざまに姿を変える。 すぐに太陽が沈み、その色のいくつかは失われてしまうけれど。 ――太陽は、また明日も登る。 けれど、同じ波が見られるとは限らない。 「知らない。 エリカの方は若いつっても十八。どうとでもするでしょう。 ヴェルデは──……」 それは、優しさなんかじゃなかった。 相手のことを考えない、押しつけがましい、一方的なものが、 優しさや思いやりなんかであるはずはなかった。 彼女は、 ▼ (-293) gt 2022/08/17(Wed) 18:25:18 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → 花で語るは ソニー▼ 「私が拾ったガキに、私を不快にさせる権利なんてないの。 笑って送りだすつもりもない。 ケツを蹴り上げて追い出すから、安心して。 二度とこんなところくるんじゃないって。 この2年、ずっとずっと、面倒くさくてたまらなかった。 万が一死なれでもしたら本当に、最後まで面倒じゃない。 そこまで私の人生を左右する権利なんて、あのガキにはない。 絶対に、ない」 女でもなく、娼婦でもなく。 母親のような――それも、子育てなんて全くうまくない、最低で最悪な――顔で、悪態をついた。 本当のことなんて何一つ言わない女は、 自分自身にその顔を見せつけるかのように、 窓をじい、と見つめていた。 (-294) gt 2022/08/17(Wed) 18:27:45 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → 翠眼 ヴェルデ「…………」 「私は」 捕んでみれば、その腕はなんとも細く、頼りない。 あなたは男だ。 数年もたてば──いや、今でさえ、彼女を組み伏せることすらできるかもしれない。 彼女は非力だ。 弱く、愚かで、そしてなんの能もなく、 この街を離れる勇気すらもなかった。 「私はいい。 体を売る以外、もう何もできない。 十年もすれば売れなくなって、あなたのかわりにゴミ捨て場に転がる。 けど、あんたは違う。 ……違うよ。 本なんて、私は読みやしなかったもの」 こちらを見つめる目を、見下ろす女の瞳は潤んでいた。 そこに浮かぶ感情を、なんと表現するべきだろう。 ――悲しそうで。 ――嬉しそうで。 笑うように、おんなは泣いていた。 涙なんて、決してみせはしないけど。 ↓[1/2] (-300) gt 2022/08/17(Wed) 20:06:02 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → 翠眼 ヴェルデ↓ 「 私 、旅行は 嫌いなの」「私は大丈夫。守ってくれる男なら、いるし」 「――仕事してるだけ」 あなたの問いに、答えることはできない。 答えにもならない答えを押し付けて、歩き出そうとする。 「いいから黙って、街を離れなさい。 一回爆発しないと、こういうのは収まらない。 へたくそなセックスと同じ。男ばかり、馬鹿みたいに騒いで、あちこち犯して、そうして終わったら素敵な思い出みたいに語るの。ああ、くたばれって感じ」 溜息。血を吐くような。 「死にたくはないでしょう?」 死にたくなんてないのだ。 [2/2] (-301) gt 2022/08/17(Wed) 20:07:30 |
ビアンカは、ここは大嫌いだった。 (a38) gt 2022/08/17(Wed) 20:08:51 |
ビアンカは、けれど、ここに居続ける。 (a39) gt 2022/08/17(Wed) 20:09:10 |
ビアンカは、旅行になんていかない。 (a40) gt 2022/08/17(Wed) 20:09:23 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → ”昼行灯” テンゴ「そ。 まあ、女ですからね。 いつだって身の危険は感じてる」 冗談めかして笑いながら、自らを抱くように腕を組む。 寒くもないはずなのに、強く圧された指先が白んでいた。 「大切なもの?」 あなたの忠告を、レコーダーのように繰り返す。 ――そのレコーダーはノイズ混じりでがりがりと歪んでいて、きっとずいぶん昔に壊れてからそのまま、置かれているのだろう。 別に、珍しいことじゃない。 「処女なら、随分昔に無くしたわ」 他にはなんにも持ってない、と嘯いて。 握り締めた掌を、今度はひらひら、無責任に振ることはなかった。 「………あんまり営業妨害するのは気が引けるな。 ねえ、おすすめはある? これ、どこのお菓子? チャイナ?」 (-304) gt 2022/08/17(Wed) 20:16:19 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → 翠眼 ヴェルデ「ばか」 ふ、と笑う。 「教えなかったっけ」 「男は、女を置いていくもんだよ」 手を引かれて、ゆっくりと振り返る。 肩越しの顔が、あざけるように歪んだ。 「その時私は三十四。 十年体を売れば、もう売るものなんて残ってない。 積み上げた借金は、きっともう返せない額に膨れ上がって、 私の女としての部分を全部ツケと利息でぐしゃぐしゃにする。 あんたも十年たてば、きっと大切なものがたくさん手に入る。 素敵なものがたくさん。 そんなとき、ごみを拾いに戻る必要なんてないんだよ」 はあ、と。 溜息に、どこか甘い香りが混じる。 ――酒の匂いだ。 「死にたくなんてないよ。 けど、生きていてもそんなに、よくはない」 (-309) gt 2022/08/17(Wed) 20:42:55 |
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