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【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド殆ど一縷の乱れのないその亡骸にも、 ほんの僅かな苦痛の跡は残っていて。 何度も爪で掻いたスラックスには皺。 きっとその下の肌には赤い傷がある。 それでも。 暴れも逃げもしなかったその身体は、 君が求めた。 抵抗も反抗もしなかった彼の亡骸は、 彼が与えた。 泡を吐くことも血を流すこともなく、 君が奪った。 傷を負うことも身を失うこともなく、 彼が渡した。 他殺体とは思えないほど綺麗だった。 君が護った。 眠っているよう、なんてやっぱり陳腐だ。 擦り切れて満ち足りた空間に、一つのネックレスが落ちている。 遺体のすぐ傍にあるそれは酷く汚れてみすぼらしかった。あまりにこの場に似つかわしいそれはしかし、はじめから此処に打ち捨てられていたものではない。 ▼ (-105) rik_kr 2022/08/28(Sun) 22:11:41 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレ「うん? ああ────いや、そういうわけでもないんだけど」 「どうしてかな、捨てる気になれなくてね……持ってるんだ。邪魔になるものでもないし」 男はそれをいつも持ち歩いているらしかった。 金具がひしゃげ、チェーンもちぎれたそれは、もう元の装飾品として扱えそうにない。古いものなのか、ところどころ錆びたような色がこびりついてもいた。大切なものなのかと問われれば首を振り、実際大切にしているわけでもないらしく、誰かが興味を持てば簡単に貸して寄こした。 けれどもやっぱり、最後には手を出して返すように促した。それからまた、スラックスのポケットに仕舞ったのだった。 (L13) rik_kr 2022/08/28(Sun) 22:20:13 公開: 2022/08/28(Sun) 22:20:00 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド細いチェーンは銀色。 ペンダントトップはデフォルメされた白い花のモチーフ。 その中心には小ぶりのダイヤモンドがはめ込まれている。 それだけの、酷くシンプルなネックレスだった。 ────君が気にする必要はない。 (-106) rik_kr 2022/08/28(Sun) 22:23:00 |
【秘】 金毛の仔猫 ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ「そういうところ。 もっと自分のこと気にしろっていうのはさ」 などと言う少年は、やはりあまり表情を変えないから、平気そうに見えるだろう。 ひと口、ふた口と食べ進めるごと、口内が熱くなるのを感じてはいるのだけれど。食べられないほどではなかったから。 撫でられても、瞬くだけで。 けれどそう、嫌ではないのだ。いつも。 言葉を交わしつつ人波の中を歩き、スープの屋台に立ち寄って。 あたたかな液体を啜り、ウインナーも食べきって。 のんびりと食べ歩くふたりは、最初の目的地だったジェラートの屋台へとたどり着く。 そこでもあれやこれやと並んだフレーバーに、少年は悩む姿を見せるのだ。 (-108) beni 2022/08/28(Sun) 22:46:47 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 愚者 フィオレロ紡がれる言葉をあまさず受け取って聞いている。じい、と目線を外さず、表情はあくまで明るく。きっとそれは人の話を聞くにあたって、この上なく正しい態度。 饒舌の語りはすれ、相手の言葉をかき消すことはしない男だった。会話はキャッチボール。それをよく知って、体現する男だった。 「なるほど」 君の言葉を消化するように頷く。少しの間を置いて、また口を開く。 「教科書じゃないからね。僕だって全ての答えを持ってるわけじゃない。……僕には、そういう願望はないし」 「でも、そうだな。もし僕のせいで、相手が不自由になるようなことがあったら」 その時の言葉は、珍しく。 君に語ると言うよりは、自分自身で何かを確かめているように噛み締められながら。 「不自由だと思わないくらい、全部をあげるんじゃないかな」 先程までの練り上げられた答ではなく、大雑把で曖昧な、答えとも言いづらいような答え。 きっとこれ以上に掘り下げられることもないのだろう。だからこそただの一意見として、男は無責任にそんなことを口に出す。 それから君の話をやっぱり機嫌よく聞いて、時にはその容赦のない形容に笑いを漏らしたのだろう。 「正確ね」 「それだけ彼女に詳しいなら、君の方が余程正確に選べそうだけど。……そうだな」 それでも、この光栄な役割を投げ出すような男ではない。 店先に並ぶ花々をじっと見る。それから君の顔をじっと見る。もう一度花々の方を向いて、紅色の一輪を手に取った。 「これなんか、どうだろう」 「ケイトウだよ。僕は好きだし、華やかで情熱的だ」 「なにより、アッシュブロンドによく映える」 (-124) rik_kr 2022/08/29(Mon) 4:23:49 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 翠眼の少年 ヴェルデ一つを選びかねるなら、「二つにするかい」。 それでもまだ悩むなら、「三つでもいいよ」。 ……なんて、段階を踏みやしないのだ、この男は。 伝える言葉はいつだって、こう。 「どれがいい? ヴェルデ。好きなのを選ぶといい」 「それで足りるの? ほら、これだっておいしそうじゃないか」 うんうんと悩む君の後ろから、男は毎度そんな声をかけた。 それから君が選び終えれば自分の分はさっさと決めてしまって、君の手を制止して二人分の代金を払うのだろう。きっと今だって。 いつだって男は、君に何か与えようとしていて。 いつだって男は、君が何か選ぶのを待っていて。 君が選んだものを否定することは、絶対になかった。 (-125) rik_kr 2022/08/29(Mon) 4:33:20 |
【秘】 愚者 フィオレロ → 家族愛 サルヴァトーレ「答えを持っていそうな風格はありますけどね。いえ、単純に貴方の答えを聞いてみたいと思っただけなので、気楽に……、……」 彼の言葉の紡ぎ方がほんの僅かに違ったから、一瞬これはさすがに不躾な質問すぎたかと過ぎり、解答を聞いてすぐに思い直す。その答えの精細さが違う事にむしろ安堵したような気がして、笑い交じりに言葉を返す。 「全部って滅茶苦茶な無茶を言いますね。いや、」 「……それくらい、必要だったのかな」 それを望むのならそのくらいの覚悟と責務が、なんて思いはしたけれど、貴方の思惑通りこれは独り言のようで貴方に更に詳しく問いかける事はない。ただ、この答えがこの男が考えていた何かを呼び起こさせた事は事実だった。 「──確かに」 「俺じゃ思い浮かばないくらい情熱的だ」 改めて、随分と面倒見のいい人だなと感じる。それは聞く態度や姿勢、言葉の受け取り方も勿論入るし、投げている自分が言うのもなんだがこの手の話題を突然振られても引いた様子一つ見せる事がないところもだ。 実際にどう思っているかはさておき、見た目に出ないのではなく出さないようにしている在り方は見習いたいと話題の隅で強く思う。それこそ、向いてそうだと思ったのは秘密だ。実際は向いているどころか遥かに上の立場の人だったのだが……それを知る日もついぞこなかった。 それから、唐突に「付き合わせてしまったお礼にお礼でもと思ったんですが、……折角の花ですから引き留めるのもよくない。だからまた、機会があればその時はお礼をさせて下さい」 なんて一方的に告げて、唐突に声を掛けた時と同じように貴方に答えて貰った花を機嫌よさげに買って帰ったのだろう。その"機会"も結局は来なかったのだが──とある無人の空き家に、燃える鮮やかな赤の花が贈られる事になる。 (-131) poru 2022/08/29(Mon) 13:38:26 |
【秘】 翠眼の少年 ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ二つと聞けば、「そんなに食べられない」と。 三つと聞けば、「なんで増やすんだ」なんて。 そんなことを言って、少年はかすかに笑う。 早く決めてしまおうと目についたものにしようとすれば、他のものを示されたりして。 それはきっと、慌てなくていいことの裏返し。 あなたは少年が選ぶまで待っていてくれるし、きちんと選べば何も言わない。 「……ん。じゃあ、これ」 そうしてたっぷり迷って選ぶのは、紫色のぶどう味。 結局また支払いはさせてもらえないから、困ったような、呆れたような顔で。 なんでもない普通の親子のような、或いは兄弟のような気安い距離で。 ひんやりと甘いジェラートを食べ、祭りの喧騒を楽しんだ。 迷子の仔猫みたいに所在なく立ち尽くしていた少年は、確かに。 あなたに誘われて、この騒がしさを楽しむことができたのだ。 (-132) beni 2022/08/29(Mon) 13:54:19 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ折り畳み式のナイフなら、万一の際に備えていつも持ち歩いて居た。これで人を殺そうとするにはあまりにも心許なく、そういった用途で使われたことは一度も無いが、よく砥がれた刃は人の肉を裂く事なんか容易だ。 「…………ん、」 それをポケットから取り出す傍ら、ふと視界の端にネックレスが映った。最初は何かわからなかったが、すぐに貴方の持っていた物だと思い至る。どういった経緯で持ち歩いているのかは知らなかったが、手放すつもりはないらしいことは知っていた。 ……今ここで持ち去っていくのはこいつに悪いと思い、触れずにおく事にする。 だから、それはそのままだ。 地面に手を広げ、関節部分にナイフを当てがう。 刃を通せば薄い肉を断つ感触がした。流石に骨までは斬る事は出来ない。だから、体重をかける必要があって。 心の中で詫びながら柄に両手を添え、思い切り体重を乗せた。 ぱきゃ、と嫌に軽い音がした。 少し勿体ないと思った。仕方のない事だ。 ▼ (-152) susuya 2022/08/29(Mon) 19:01:26 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ手を離せば小指はすっかり手から離れている。 心臓の止まった今、流れる血の勢いも鈍いのだろうか。 アベラルドはほう、と息を吐いてそれをつまんで持ち上げて、目の高さで眺めて見せた。 ……ああ、自分のやる事は終わったな、と心中独り言ちて。 清潔な藍のハンカチでそれを包んで──そういえばこれも貴方がくれたものだったか────上着のポケットに、そっと入れた。 命は貰い受けた。後は去るだけだ。 貴方のその整ったかんばせを見るのも、これで最後になるのだろう。 「……サヴィ。 またな 」「Sei nel mio cuore」 もう一度貴方の頭をゆったりと撫でて。 すっかり冷え切った唇に、もう一度キスをして。 「A presto」 それからは、何も言わずにこの路地を去る。 一人分の固い靴音が遠ざかっていく。 そしてここに残るのは安らかな骸と傍らのネックレスだけ。 貴方が誰かに見つかるまでの時間は、穏やかな眠りたり得るだろうか。 もはや、それは誰にもわからないのだろう。 (-154) susuya 2022/08/29(Mon) 19:05:12 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレこれはいくらか昔の話。 そのマフィアにはある女がいた。 大口を開けて笑う豪快な女だった。縮れた赤毛に咥え煙草がトレードマークで、話す言葉には異国の訛りがあった。 彼女は組織の人間とよく付き合った。酒を酌み交わし、よく人と話した。その陽気な様子は、この国のマフィアに相応しかった。 ────カタギに惚れられちゃってさ……。 初めはそんな言葉。 彼女には、休日に図書館に行くという日課があった。幼少期を異国で暮らしたために、この国の絵本なんかが珍しいのだという。そこでよく会う学生に声をかけられたのだと。 ────ガキのくせにね……。 侮るような口調はしかしあたたかい。眉根を寄せながらも口元はにんまりと笑んでいて、つまりはまんざらでもない様子が伺えた。 程なくしてそのガキは彼女の傍に現れるようになる。図書館の外でも彼女に話しかけるようになる。────つまりは、そういうことだ。 社会の厳しさも汚さも微塵も知らないような少年はその無知ゆえに彼女に付きまとった。贈り物と共に甘い言葉を携え、行く先々で慕うように後に続いた。君を守りたいと言った額を女が小突く。少年はいつだって、薔薇色の頬をして女に笑顔を向けていた。 いつしか少年は青年へと成長する。 家族が増えるのだと女はその腹を撫でた。 (L24) rik_kr 2022/08/29(Mon) 20:10:08 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレ笑い声が聞こえる。 笑い声が聞こえる。 誰かの声が聞こえる。 銃声が聞こえる。 罵声が聞こえる。 慟哭が聞こえる。 幸福は脆く崩れ去る。 路地裏に倒れる。 何人かが死んだ。 うち一人は女だった。 男はそれを見ていた。 見ていただけだった。 脳漿が滴って落ちる。 (L25) rik_kr 2022/08/29(Mon) 20:10:36 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレ ────目を覚ました男がどう振る舞うかはファミリーの中でも注目の話題だったという。 血の掟、その7。妻を尊重しなければならない。 血の掟、その9。ファミリーの仲間、およびその家族の金を横取りしてはならない。 マフィアとて妻の命は大事にする。仲間の家族の命も大事にする。とりわけその男が女を深く愛していたのは誰もが知っていた。最愛を奪われた家族が狂うのは、蛮行に走るのは、復讐に傾倒するのは、何も珍しいことじゃない。 家族を処分するのは当然気分が悪い。 誰もが狂ってくれるなと願っていた。 果たして。 男は、狂いはしなかった。 彼は蛮行に走ることも、復讐に傾倒することもなかった。 恨み言のひとつも吐かず、怒りを見せることもなかった。 ただ笑っていた。 ただ明るかった。 不自然な程に。 彼はいくらかの肉と頭蓋骨の欠片、 それから脳みそ数グラムと一緒に、 記憶の一部も路地裏に落っことしてきたらしかった。 男の記憶にあの女はいない。 ちぎれた鎖は戻らない。 落とした螺は戻らない。 (L26) rik_kr 2022/08/29(Mon) 20:11:20 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレ細いチェーンは銀色。 ペンダントトップはデフォルメされた白い花のモチーフ。 その中心には小ぶりのダイヤモンドがはめ込まれている。 それだけの、酷くシンプルなネックレス。 ────それは10年と少し前に流行ったものだ。 それを首に輝かせた女がいたことを、もう誰も覚えていない。 亡くした人は還らない。 幸福な終わりじゃないから、おとぎ話にはなれない。 語る口などどこにもないから、物語にすらならない。 (L27) rik_kr 2022/08/29(Mon) 20:13:05 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
サルヴァトーレは、家族を愛している。 (a7) rik_kr 2022/08/29(Mon) 20:18:33 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレサルヴァトーレは、傷の入ったレコードだった。 サルヴァトーレは、四小節のオルゴールだった。 穴の空いた記憶を無理矢理埋めて。 解れた矛盾の糸を無理矢理繋いで。 足りない部分をただ愛で満たして。 不純物がない宝石は硬く透き通る。 男の中には家族への愛だけがある。 最期までただ愛だけが残っていた。 (L28) rik_kr 2022/08/29(Mon) 20:18:47 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
サルヴァトーレは、家族を愛している。 (a8) rik_kr 2022/08/29(Mon) 20:18:57 |
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