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【人】 宮々 蓮司「 随分と、……貴方≠愛していたらしい。」 読み終わって口をついた感想はそれだった。 まさに今この状況を憂い、それでも彼女≠愛し、必ず彼女の元へ戻るのだと、そんな手紙の内容。 でも、それはすでに失われた愛情なのだ。 「 ……さあ? これは俺≠ェ書いたものじゃないから。」 そう。 同一人物ではあるが、今の自分とは別物。 どれだけその愛情が深くても、いや深かったがために、今その愛が失われたことが確かな事実なのだと判ってしまう。 昨日までのその心がその感情が真に恋や愛なのかはわからないけど、少なくとも今はそうではない、それだけが確かなこと。 (63) JohnDoe 2022/05/28(Sat) 17:10:56 |
【人】 宮々 蓮司「 瀬里、 ……俺のことが好きか? 」 彼女の様子を見るに、きっと自分と同じなのだろう。 だから、この問いの答えは否≠ナあるはずだ。 「 結局、 昨日までの俺たちはどこにもなくて、 今はもう昨日とは違う俺たちがいるってわけだな。」 俺≠ゥら彼女≠ノ宛てた手紙。 それを読んでなぜか申し訳ない気持ちになるが、それこそ昨日まで抱いていたらしい感情が他人事である証。 (64) JohnDoe 2022/05/28(Sat) 17:11:18 |
【人】 宮々 蓮司手紙を彼女へと返す。 きっと、これは彼女≠ノ宛てたものであっても、今この目の前にいる彼女に宛てたものじゃないだろう。 だから返されてもきっと困るだろうけど。 「 ……駅まで送るよ。」 昨日までとは違う自分はと彼女。 それは、昨日までの二人の関係が終わってしまったことを意味しているのだから。 答えはとうに出ている。* (65) JohnDoe 2022/05/28(Sat) 17:11:50 |
【人】 宮々 蓮司つられるようにスマホを開けば、彼女と同じ写真が全面に写っていた。 瀬里は撮り慣れているのか綺麗な顔を見せていたけど、その隣の自分らしき男は少しぎこちない。 でも、二人ともいい笑顔だった。 「 ああ、構わない。」 恋心は置いておくとしても、記憶がないのは確かに不安というか気持ちの悪さがある。それが極限定的であっても。記憶とは自分自身の歴史なのだから、それもそのはずだ。 「 きっと、昨日までの蓮司≠煌ぶだろう。」 そんな皮肉を口にした。 実際、その蓮司≠ェいないのだから、こうなっているというのに。 (71) JohnDoe 2022/05/28(Sat) 19:07:24 |
【人】 宮々 蓮司いっその事、もう一度恋矢で結ばれるのはどうか。 それを考えなかったわけじゃない。 だけだ、それでは結局また恋熱病に冒されてしまうかもしれない。 ゆえにその選択肢は取れない。 手紙にあった通り、もう一度瀬里≠ノ恋をしたのなら、もしかすると記憶も何もかも戻ったりはするだろうか。 だけど、それはあり得ない。 恋天使は恋をしてはならない。 だからこそ恋天使はお見合いをするのだ。 自然の恋愛ができないから。 結局のところ、昨日までの二人がどれほど互いを大事に想っていても、二人が結ばれる可能性は皆無なのだ。 それを昨日の自分はりかいできていたのだろうか。 (72) JohnDoe 2022/05/28(Sat) 19:07:45 |
【人】 宮々 蓮司車の窓の外を景色が流れていく。 車内には自動的にスマホと接続したナビが音楽を流していた。 どこかで聴いた歌。 スマホに入れているだから当たり前なのだけど。 「 これ、知ってる? clarity≠チて歌手なんだけど。」 歌手、というか歌い手≠ニいうのだったか。 今ではフェスなんかにも参加したりして、最近話題を耳にすることも増えてきた。 「 彼女の歌、好きなんだよ。」 それはいつからだったか。 いつから彼女の歌を聴き始めたのだろう。 いつ彼女のことを知ったのだろう。 その切っ掛けが思い出せない。* (73) JohnDoe 2022/05/28(Sat) 19:08:29 |
【人】 宮々 蓮司どうしてだろう。 どこで聴いたかもわからないのに、俺はこの歌い手を知っている。 とても、とても大事な思い出だったはずなのに。 その歌を聴くとひとつのシルエットが浮かぶ。 淡いブロンド、紫の瞳に紫の羽根。 黒のゴシックワンピースにヒールを履いた女の子。 顔には靄がかかってわからない。 (77) JohnDoe 2022/05/28(Sat) 19:53:05 |
【人】 宮々 蓮司信号が赤くなって車を停める。 停車中でも俺の視線は前を向いたまま、隣の子がこちらを見ていることにもまるで気を留めず。 ただ、スピーカーから聞こえる歌に合わせて指を鳴らした。 ─── パチン、パチン それもまた何処かで聴いた大切な音。 不思議だった。音に合わせて指を鳴らすたびに、脳裏に浮かんだシルエットが彩を増していく気がした。 その服はあまり趣味ではなかった。だけど、それは彼女によく似合っていた。 だから全く着なくなってしまったのなら、それはそれで少し惜しい気もしていた。 それなら誰にも荒らされたことのなかったルージュ。 それもまた、綺麗で可愛らしい彼女によく似合っていた。 そして、そう、そんな風に完璧に装っていた彼女の、意図的に作られた唯一の隙、それは──── 信号が青に変わって、車を発進させる。 自然、指を鳴らす音は途絶えた。* (78) JohnDoe 2022/05/28(Sat) 19:55:15 |
【人】 宮々 蓮司どうして? そんなのは決まってる。 命と恋を天秤にかけたのだ。 それで恋を取るほど馬鹿ではなかったということ。 誰だって命は惜しい。 「 死にたくなかったんだろうな。」 患った病は大した病気ではなくて、でも宮々の人間には致命的にもなり得るものだった。ただそれだけを伝えた。 それは当たらずとも遠からず。 恐れたのは死んで、永遠に瀬里を失うことだったけど。 それも今となってはわからなくなっていたこと。 (83) JohnDoe 2022/05/28(Sat) 21:12:09 |
【人】 宮々 蓮司恋をしている顔。 自分のスマホには二人の写真がそれほど多くはなかった。 風景だったり、それから瀬里≠撮った写真。 確かに写真の中の彼女は今横にいる彼女とは違って、とても楽しそうに、そして幸せそうな笑顔ばかりだった。 きっと、それをカメラ越しに見ていた自分も同じ顔をしていたのだろう。 「 少し、……羨ましいな。」 恋矢が重篤な病を引き起こすなら、 自分は二度と恋なんてできないことになる。 今はもう恋に憧れも何も抱いてはいないのだけど。 胸には後悔のような昏い水底へと沈むような感情がある。 結局、瀬里を失ってしまうことへの後悔が。 (84) JohnDoe 2022/05/28(Sat) 21:12:23 |
【人】 宮々 蓮司車は駅前に着くと静かに停車した。 「 着いた、な。」 いつか「どこにも辿り着きたくない」そんな風に言った男がいた。そいつは今のよう場面を想像していたのだろうか。 ここで、彼女が車を降りればそれでおしまい。 さっき彼女が言った通りたまに連絡が来るかもしれない。 でも、きっとしばらくすればそれもなくなる。 だからと言って何もできないし、何かしようとも思えない。 なあ、蓮司 お前はこんな終わり方も想定していたんだよな? エンジンを切ると、助手席の瀬里へと視線を向けた。* (85) JohnDoe 2022/05/28(Sat) 21:13:55 |
【人】 宮々 蓮司それは何か考えるよりも先の行動だった。 気づけば手を伸ばしてその涙を拭っていた。 どうしようもなく切なかった。 そして、彼女が涙を流しているのが、そうさせているのが自分なのだと思えば許せなかった。 (91) JohnDoe 2022/05/29(Sun) 0:49:20 |
【人】 宮々 蓮司昨日まで瀬里を愛していた事実は消えない。 彼女を愛していたのも、それだって俺なんだ。 記憶を失っても、恋心を失っても。 ──── 全部俺なんだ。 (95) JohnDoe 2022/05/29(Sun) 0:51:58 |
【人】 宮々 蓮司「 こんな終わり方は嫌だ。」 理由を聞かれてもわからない。 だけど、こんな終わり方は絶対に嫌だった。 昨日までの蓮司≠ェとかじゃない、昨日も今もなく俺が嫌だと思っている。* (96) JohnDoe 2022/05/29(Sun) 0:52:15 |
【人】 宮々 蓮司それは提案。 恋心がなくても、かつての二人に関する記憶がなくても、二人が恋人同士でお互いを深く愛していたのなら。 中身が伴わなかったとしても、 その形がもしかすると何かのキッカケになるかもしれない。 そうは言っても、恋心のない二人だ。 だから、少しずるい理由を付け加える。 「 きっと、 瀬里≠熈蓮司≠烽サれを望んでいるはずだ。」 たとえ、まるで別人の様に感じていても、 やはりそれは二人にとっても過去であることに変わりはないはずだから。 * (102) JohnDoe 2022/05/29(Sun) 10:37:20 |
【人】 宮々 蓮司涙が止まったのを見て手を頬から離した。 「 宮々蓮司だ。 よろしく、っていうのも何か変だな。」 はにかむ瀬里に同じ様な笑顔を見せていたと思う。 不思議なもので、恋をせずに恋人になるというのに、恋人になったと思えば、そうであることが当然の様に思えた。 (106) JohnDoe 2022/05/29(Sun) 19:09:23 |
【人】 宮々 蓮司「 ドライブデートか。 恋人の第一歩としてはいいかもな。」 そうと決まればシートベルトを着け直して、車を走らせようか。 ドライブのBGMには聴き覚えのある歌、透明な歌声。 お互いの知らないことを話しながら。 不思議な感覚は知らないのに新鮮味がないこと。 本当は知っていたはずのことだからか。 そんな他愛のない話。 無くした記憶を埋めていく様に。 そうやって全てを埋め直したら、また以前みたいに慣れるのだろうか。 (107) JohnDoe 2022/05/29(Sun) 19:09:37 |
【人】 宮々 蓮司そんな時間はきっとあっという間に過ぎていく。 そして気づけば瀬里の家まで辿り着いて、辺りはもう昏くなっていた。* (108) JohnDoe 2022/05/29(Sun) 19:10:17 |
【秘】 雨宮 瀬里 → 宮々 蓮司…だから。というわけではない。 それは、随分と自然に、 最初からそうしたかったかのように 私の右手が勝手に、動く 手のひらを差し出す動き 貴方が手を取ってくれるなら、 添えるように、貴方の左手に重ねる (-5) ししゃもん 2022/05/29(Sun) 20:04:57 |
【秘】 雨宮 瀬里 → 宮々 蓮司 とん、 色のない人差し指が貴方の掌を叩く 誰かに褒めてもらった、大好きな爪 とん、 いつかも、こんなリズムで 暖かな掌を爪で弾いた、懐かしい記憶 とん、 掌に、重ねた想いは、なんだっけ 離れがたい、どこにも着きたくない 記憶がすこしずつ、色づいていくような * (-6) ししゃもん 2022/05/29(Sun) 20:06:46 |
【秘】 宮々 蓮司 → 雨宮 瀬里俺の左手が勝手に呼応する。 お前の手を、それが当然という様に、そっと。 それからお前の左手がさらに重なる。 (-7) JohnDoe 2022/05/29(Sun) 22:13:48 |
【秘】 宮々 蓮司 → 雨宮 瀬里オーディオから透明な声が恋の詞を歌う。 とん、とん、とお前が掌を叩く。 いつしか俺はその指を捕まえる。 掌を合わせて指を交互に絡めて、ぎゅっと握る。 お前の柔らかな手を。 (-8) JohnDoe 2022/05/29(Sun) 22:14:25 |
【秘】 宮々 蓮司 → 雨宮 瀬里相変わらず記憶は曖昧なまま。 だけど、色づいていくものがある。 もっと触れていたい。 手だけじゃなく、もっと瀬里に。 この気持ちは誰のものだ? (-9) JohnDoe 2022/05/29(Sun) 22:14:56 |
【恋】 宮々 蓮司助手席の方へと身を乗り出す。 着けたままのベルトが伸びる。 「 フライングするぞ。」 顔が、唇が、ゆっくりと近づいていく。* (?3) JohnDoe 2022/05/29(Sun) 22:16:12 |
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