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【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 墓場鳥 ビアンカ「ああ、まったく。そんなふうに笑われちゃ敵わないな」 男は笑顔を曇らせない。自然な、あくまで自然な、飾りですらないように笑いながら、降参! そんな仕草で肩を竦める。恋人同士がじゃれ合うような無邪気でおどけた仕草だ。 「そんなこと言って────可愛い子じゃないか」 「最近はよく食べるようになったね。昔と比べれば、だけど」 君が入る前から男はここにいて。 君が入った頃に男は今の地位について。 だからあの子のこともはじめから知っていた。 少年といる時の君のことを、男は喜ばしく見ていた。 「誓いのキスは必要かい? ビアンカ」 かつ、かつ、と石畳を踏む。 君の好む音が導く先は鳥籠だ。それが、そろそろ姿を見せるだろうか。 (-99) rik_kr 2022/08/21(Sun) 1:03:46 |
【秘】 エースオブ―― ヴィオレッタ → 墓場鳥 ビアンカ>> ビアンカ あなたの口癖に、諦観と厭世の混じった弱音に 女はいつも困ったような微笑を返していた。 肯定はできず、否定もできず、慰めもできず。ただ曖昧に。 幾度目かのそれを聞いた晩から、見るようになった夢がある。 海辺のレストランで働く夢だ。 故郷の旧友が、ファミリーのみんなが、憧れの人が、笑顔で訪れてくれる。 作った料理を”おいしいよ”と言ってくれる、そんな夢。 夢に現れる人はさまざまだったけれど、あなたは必ず現れた。 時にお客さんとして、時に同僚として、時にオーナーとして。 夢はいつも唐突に終わったけれど、 私は……そしてあなたは笑っていた。潮風と陽光の入る店で。 そんな夢を見た日は、いつも支度に時間がかかる。 目元を冷やさないと化粧すら始められないから。 だから、こんな風に弱音を聞いたのは初めてじゃない。 それでも、投げ出すような言葉が使われたのは初めてだった。 ……なので、つい。 本音が零れてしまった。 [1/3] (-126) 968. 2022/08/21(Sun) 9:55:27 |
【秘】 エースオブ―― ヴィオレッタ → 墓場鳥 ビアンカ色んな愚痴を聞いたけれど、 拾い子の話を聞くのは、好きだった。 自分の事で精いっぱいなはずなのに、 子供を育てるあなたを密かに尊敬していた。 ――あのガキ、また飯も食わないで…… 心配させないで、って言ってあげれば良いのに ――だから、また借金を…… そうやって負い目を負わないようにしているのでしょう? 簡単に命を投げ出さないようにも 言ったら拗ねてしまうだろうから、黙って聞いていたけれど。 どう見ても心配する母親の顔で愚痴るあなたが、好きだった。 固まり始める卵をフォークでほぐして、整える。 耳慣れた調理の音に聞こえる筈のない言葉が、交じった。 はっと顔上げて、瞬きをひとつ、ふたつ。 胸を締め付けるような微笑を浮かべるあなた。 けれど、聞き間違えかと視線を手元に戻した瞬間にもう一度。 聞き間違えじゃないとで言うように、言葉が届く。 ”私だって愛称で呼ばれる相手くらいは選びます” 売り言葉に買い言葉で返したのは、いつだったか。 いつからだろう、それを許すようになったのは。 いつからだろう―― そう呼んで欲しいと、願うようになったのは。 [2/3] (-127) 968. 2022/08/21(Sun) 10:02:46 |
【秘】 エースオブ―― ヴィオレッタ → 墓場鳥 ビアンカとんとん 半熟に固まった卵をフライパンの端に寄せ、形を作る。 紡がれる言葉に耳を傾けながら。 出来上がったものを皿に移して、 赤ワインをフライパンの火にかける。 アルコールの香りと歌うように紡がれる戯言に酔って 心地よさげに目を細める。 「えぇ、いいですよ。あなたを偲んで泣いて、 Pollo Neroの子たちを慌てさせてあげます」 煮詰めたワインにケチャップを足しながら、冗談を返す。 ――ほんとうは冗談ではないのだけれど。 そういう事にでもしないと ソースの塩気がきつくなりそうから。 出来上がったソースをふわふわのオムレツに。 「……でも、その前に、もう一度うちに来てください。 しっかり用意してあげますよ。BiancaVignaの白を」 ことん、机に突っ伏すあなたの目の前に皿を置いて。 じゃれあいと小さな約束をあなたへ。 [3/3] (-128) 968. 2022/08/21(Sun) 10:07:37 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 家族愛 サルヴァトーレ「でしょう?」 ふふん。 そんな声が聞こえそうな笑顔とともに、あなたの降参を認める、とばかりに頷く。 くるくると変る立場。組織としての立ち位置、男女としてのまぼろし。 自然なような、不自然なふるまい。 けれどその幻想が、あやふやな真実としてふたりの間でかたちをつくる。 「どうだか。ガキは嫌いなの。 はーあ、どうやって放り出せばいいんだろうか」 4年前。ファミリーの傘下に娼館に身を寄せた彼女は、身を売ることになれた様子だった。 ――いや、それしか知らないかのようだった。 彼女は何かを失って、この街へと追い立てられるように逃げてきたのだ。 その何かを、ゴミ捨て場で拾った少年との日々で取り戻していた。 そんなことは、一言も言わないけれど。……あなたが見る限りは。 「いらない。 そういうのはもうこりごりなの」 横を見上げて、べ、と舌を出して。 「男との約束なんて、誓たってしょうがない。 ──守れるかぎり、守ってくれたら、それでいい」 かつ、かつかつ。 ほんの少し足を速めて、鳥籠を背に振り返る。 「ありがとう、トトー。……エスコートはもうおしまい」 (-149) gt 2022/08/21(Sun) 18:05:26 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ出会うのはいつも、太陽のすっかりと沈んだ夜のことだった。 ふたりとも、そういう仕事だ。 だからその夢は、なんとも奇妙な光景だったろう。 けれど、もし。 ――もし、その夢が叶うなら。 波濤のさんざめく水平線に、蜃気楼が浮かぶよう。 ゆらゆらと、夢か現か曖昧な笑みが、浮かんでは、消えて。 「……約束だよ、ヴィー。 ………まもってね、…」 オムレツと、約束と。 心地よく優しい香りと、酒精がもたらすふわふわとした高揚。 すべてがまるで、夢のようで。 夢は泡沫のように、ただの空想に消えて行く。 「うん。……ぜったいに」 ↓[1/3] (-150) gt 2022/08/21(Sun) 18:21:06 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ今日の彼女は、とても素直だ。 だけど、それでも嘘をつく。 「ぜったいに、もう一度、あなたとデートしにくるよ」 ゆっくりとあげた顔は、メイクでも隠し切れないくらいに青ざめていて。 目許にはアマルフィの海面のような、美しい涙がにじんでいて。 ――それなのに、童女のように笑っていて。 アンバランスで、こっけいで、美しくて、覆い隠されて。 彼女の生きざまそのものを刻んだ貌が、あなたとのひと時を楽しむように綻んだ。 ↓[2/3] (-151) gt 2022/08/21(Sun) 18:21:33 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ ↓[3/3] 「……ん。おいしそ〜。 いただきまぁす」 皿にそっと手を添えながら、口を開く。 ちろりとのぞく赤い舌。充血した瞳。 血の気はすっかりと引いているのに。 彼女の身体のそこかしこが、流れる血を想起させるように赤らんでいるよう。 「……真面目な話、さっさと逃げる準備はしたいんだよね。 旅行券の手配はしたけど、うちの子たちの分まで用意できるかどうか──……」 うちの子、と彼女がいうのなら、それはPollo Neroの娼婦たちのことだ。 彼女はいつだって、いらない責任を背負い込む。 そういう性分なのだ。 本当はそんなに、強くなんてないのに。 結局、彼女が今日ここにきたのは、甘えるためだ。 怒りと不安と、寂しさと、絶望と。 なにもかも足りないなかでひといきに溺れてしまわないように、ばたばたと足掻いている。 ――ほんとうは、あなたにだって縋りたくはなかった。 本当は助けてほしくても、それをかたちに出すことはいやだった。 それが、彼女の意地だった。 それすらも、そのかたちすら保てなくなったから、 彼 女 は死 んだ のだ。 (-152) gt 2022/08/21(Sun) 18:26:45 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 墓場鳥 ビアンカ二年、と。 やけにあなたが繰り返すから、少年は首を傾ぎ、あなたへ視線を向けた。 その整った相貌が歪んで、かたちのよい唇から乾いた声が零れ落ちる。 そんな様子を見て、聞いていれば、あまりいい話ではないのだろうと想像もつく。 「……あんた案外オヒトヨシってやつなの」 「それとも、あんたもおれみたいに拾われた?」 前、というのがどれほど以前なのかは窺い知れない。 ならば、あなたも若いのだし、子供の頃の話だろうかと考える。 続く言葉のわりに強く握られた手を、少年もすこし、握り返していた。 「金はそろそろちゃんと返せたらって思ってるよ」 「ま、でも、旅行いかされたらまた嵩むのか――」 「……そんな急ぎの話?」 きょとんと瞳を瞬く。 (-170) beni 2022/08/21(Sun) 20:40:34 |
【秘】 エースオブ―― ヴィオレッタ → 墓場鳥 ビアンカ>> ビアンカ そう。夜でしか生きられない二人の”Se”。 ありえない夢――ありえて欲しかった、夢。 だからいつも目覚めては、現実に帰って来ては、泣いていた 夢でなら、誰もが笑って過ごせるのに。 夢でなら、あなたに口癖なんて言わせずに済むのに。 しあわせで、ざんこくな、ゆめ―― 「……。」 空気に溶けるような声に、僅かに頷く。 すこし困ったような微笑を湛えて。 「……はい。待っています」 今度は確かに、頷く。 その時は、もっと色々作りましょうか。 材料も手間もかかりますが、とっておきのコース。 アレであなたお驚く顔を見てあげます 青い顔を、湛えた涙を、”次”の時は別の色に変えたくて。 遠く離れるあなたの門出を祝う計画を。 それが叶う事がないなんて思いもせずに―― [1/2] (-180) 968. 2022/08/21(Sun) 22:30:52 |
【秘】 エースオブ―― ヴィオレッタ → 墓場鳥 ビアンカ「どうぞ召し上がれ」 この言葉もいつぶりだっけな、なんて思いながら あなたの食事を見守る。 少しでも、元気が戻ると良いのですが 次の料理に掛かる前に、またワインを傾ける女に とんでもない計画の話。 咳き込みそうになるのを何とか堪えて。 「それを私に言わないでくださいよ。 店総出で夜逃げだなんて、知れたら騒ぎですよ」 呆れた声と視線で返す。 下っ端でもマフィアの一員だ。 そんなことを看過するわけにはいかない。 「……多少なら、手伝いますよ。おいくら必要ですか?」 ――のに。 口をついて出るのはそんな言葉。 自分に対しても苦笑が漏れる。 少々”臨時収入”もありましたし、ね 一瞬の後ろめたい苦笑はすぐに隠して。 甘えられているなんて、頼られてるだなんて ちっとも気付かない女はいつもの通りに淡々と答える。 [2/2] (-181) 968. 2022/08/21(Sun) 22:32:48 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 墓場鳥 ビアンカ「煩わしいようなら、僕が面倒を見てあげようか」 きっと君は頷かない。 「出て行きたくなれば、勝手に出て行くさ。寂しいけど」 つい、と細めた目を街路に走らせる。鋭いものではなく、懐かしむような色をしていた。 寂しいよ、というのは男の口癖のようでもあった。誰かが巣立つ時、彼は決まってそう言う。心からの祝福を贈り、与えられる限りの贈り物を与え、最後の抱擁と口付けをして、眉を下げてはにかんで。 寂しいよ、寂しいね、寂しくなるね。 いつだってその口の端には、家族に対する愛慕が滲んでいた。 幼げな仕草を見て緩めた頬は、同じ形。 「なら、この誓いは僕の胸に秘めておくとしよう」 「……ああ、そう」 男の歩幅は広く、歩みは遅い。それは君が足を速めてなお、いや一層、緩慢になったように見えた。 「楽しい時間は早く過ぎるね。残念だ」 こつ、こつ。 君のそれより幾分低い音が鳴って、止まって。 「じゃあビアンカ、約束通り、夜に」 「オルサキオットのチョコラータを買ってくるよ。みんなで分けるといい」 (-270) rik_kr 2022/08/22(Mon) 17:24:14 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「そう見える?」 ふ、と。 気取ったように笑う姿は、いつもの顔だ。 ――いつものとおりに、作ったような、澄ましたような顔。 「大したことじゃあ、ないよ。 他に行く当てがなくて、どうすることもできなくて―― 好きになるしか、なくて。 男の元にいた」 過去のことなんて、女はめったに話さなかった。 だからそれはきっと、気まぐれ。 あなたの手の暖かさにぽたりと溶けた、 かたちのなく静かな結露にすぎなかっただろう。 本当のことを言っているかどうかも、わからない。 それでもその表情は、 懐かしげで。 ――そして、もう失った何かが、そこにあったのだ。 ↓[1/2] (-373) gt 2022/08/23(Tue) 3:34:31 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「当然でしょ、借りたら返す。 ……まーそうね。 けど、うん」 瞬く瞳に、僅かに笑みをたたえた口許が映る。 「急ぎ。 ……急ぎだよ、ヴェルデ。 やっておけばよかったなんて後悔、私はもうしたくない。 どこかに行くのはね、早い方がいいんだよ」 その日のビアンカは、あなたの手を離さなかった。 もういいと言ったって、なんだかんだと言い訳をして握ったままで。 [2/2] (-374) gt 2022/08/23(Tue) 3:34:51 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ一夜の夢を見せる。 そんなロマンチックな言葉を、女はめったに口にしなかった。 娼婦という職業にある種の誇りをもち、 春を鬻ぐことで生きて、 そして自らを嫌悪する。 矛盾だらけの夢は、そんな彼女の――あるいはあなたの――生き様のようであった。 「……ん」 あなたの微笑と頷きに、吐息のような声が漏れて。 ビアンカは、唇をゆがめた。 ゆがめたようにしか、見えなかった。 ――なんと下手くそな笑顔だろう。 曲がりなりにも男を蠱惑することを生業とするものが浮かべていい顔ではなかった。 けれど、あなたの前で、ビアンカはそのようにして微笑うのだ。 今日の彼女は素直だ。 ぞろりとした布を幾程纏っても、メイクを肌に塗り重ねたても、隠せないものがある。 あなたの胸中を、夢のような計画を知ってか知らずか。 笑顔めいたできそこないの表情を浮かべながら、ビアンカは目の前で掌を開いたり、閉じたりしている。 酒精を含んだにも関わらず、その指先は真っ白いままだった。 ↓[1/2] (-375) gt 2022/08/23(Tue) 4:13:38 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ↓ 「だあって、現実的に考えたらそれしかないでしょ? うちの会社は国外の伝手が弱いからさあ」 濡れた唇の前で匙を無作法に揺らしながら、非現実的な話を語る。 籠の鳥が空を望むのは、道理に合わないことだ。 誰しもが持っているありきたりの現実すらも 決して叶わない夢になる。 たとえこの食卓がどれほど和やかで温かくとも、 女たちが生きているのは、そういう場所だった。 「……お金は平気。 って、言いたいトコだけど、…… ………。 ……………ガキひとり、 大学にいれるのって、いくらかかるか、ってわかる? 」ああ、これは非現実的だ。 叶うはずのない話を、彼女はしたいのだ。 [2/2] (-376) gt 2022/08/23(Tue) 4:14:06 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 家族愛 サルヴァトーレ「ヤ」 一言だけ、微笑って。 赤い舌が、悪戯気にまた揺れて。 「ちゃんと送りだして、カタギに戻してやらないと気持ち悪いったら、ないでしょう」 ビアンカは、寂しい、なんてめったに言わなかった。 あなたが口にするならば、それを慰めるように抱擁するし。 ――商売中は、寂しい、会いたかった、と何度も言ったけれど。 本当の意味での寂しさを、口に出すことはなかった。 それが多分、彼女がここで生きていくために必要なことだったのだ。 ↓[1/2] (-377) gt 2022/08/23(Tue) 4:23:09 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 家族愛 サルヴァトーレ↓ 「そうして。 ……ん、……うん。 まあまあ楽しかったよ」 靴音が止まる。 彼女は微笑う。 楽しい時間は、早く過ぎる。 たとえそれがまぼろしでも、それを確かめるすべなどない。 ――だから、やっぱり。ビアンカは、そのくだらないまぼろしが、 「はあい、よろしく。 ──……愛してまあす」 わりと。自分自身ほどには、きらいじゃなかった。 わざとらしくそう言って、手を振った。 ――あなたが去るまでは、そうしている。ここは、店の前だから。 彼女は娼婦だ。 望まなくても、苦しくても、寂しくても辛くても──……そう生きてきたことを否定できるほど、器用な女ではなかった。 [2/2] (-378) gt 2022/08/23(Tue) 4:23:51 |
【秘】 花で語るは ソニー → 墓場鳥 ビアンカまだ、朝も明けたばかりの早い時間のうちだった。 花屋に顔を出して、草木の準備をしながら電話を取る。内容は、娼館からの伝達だった。 ソニーが努めているのは何も知らない表の店ではなく、裏稼業のものとのやりとりもある店だ。 資金洗浄の窓口であったり、連絡役との伝達だったり。仕事に事欠く立場ではない。 だから直接組織の人間から店に対して連絡が来るのだって、不思議な話ではなかった。 「……カテナ? なんでこんな時間にウチに……」 電話先の女性の声は、まくし立てるような速さで喋る。焦っているようだった。 従業員の一人が、不穏当な話を小耳に挟んだということ。 まだ、組織の方との橋渡しとして顔役を請け負っている女性と連絡が取れていないこと。 不安を掻き立てるような噂の実際が、確認出来ていないということ。 焦燥のせいか脈絡もなく前後してまとまらない話を、頭の中で整理して、 息を、呑んだ。 宥める言葉もそこそこに電話を切り、店主に短く事情を説明して店を出る。 通報とどれだけ前後したのやら。いずれにせよ朝の街はまだ、呑気な風景を広げているだけ。 ひょっとしたらこの街の中で何人かが消えたということも、耳にしてはいるのかもしれないけれど。 死んだマフィアの人間のことなんて、市井は気にしてやくれなかった。 花の積まれていない配達車を走らせ、目撃情報を精査して。 その間に、通報された下半身の話も耳に入り、車が通ったのだろう道筋を精査する。 ひとりきりで探しているのでよかった。みっともない顔を誰かに見せずに済んだから。 最終的に車を走らせた先は街の漁場、何度か訪れていた埠頭のすぐ傍。 おそらくは、きっと。"使いで"のない上半身は、下半身よりひどい状態なんだろう。 探し出してやっと対面した頃には、元の形を想像するのも難しいのかもしれない。 それでも、ジャケットで包んで、震える手で、持ち帰った。 ……誰にも見せず、荼毘に伏そうかと。そう、わずかに頭をよぎった。 (-423) redhaguki 2022/08/23(Tue) 18:03:02 |
【秘】 花で語るは ソニー → 墓場鳥 ビアンカ/* お疲れ様です。諸々連絡が遅れてしまい申し訳ありません。 上半身についてなのですが、ひとまず提示のあった漁場で発見することにしました。 あともう一往復で終わるとは思うのですが並行して確認したく、 ・上半身はどんな状態でしょうか(これはロールで返答いただいても構いません) ・他の方々に見せず、こちらで処分することは可能でしょうか (想定される今後の話もあると思いますので、誰かに渡す予定があれば従いますし、 ふつうにクリスティーナのところに持ち帰るのでも構いません) 手が空いたときにでもご返答いただければ幸いです。 (-425) redhaguki 2022/08/23(Tue) 18:06:30 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 花で語るは ソニーいつも海辺を通るたびに耳にする海鳥の声が、空々しく埠頭に響く。 港に身を寄せ合うようにして停泊する小型の漁船の一艘。 その舟艇に引っかかるように、彼女だったものは漂っていた。 いつも外出する時は結っていたはずの髪はばらばらに解けて、波にさらわれた海藻のように髪の毛だけが水面に浮いている。 朝早く動く漁師たちが騒いでいないところを見れば、まだ放り込まれてそれほど時間もたっていないのだろう。 絶望の中に希望を見つけることにどれほどの意味があるかは分からないが、 幸い、死体の状態は水死体としてはそれほどひどいものではなかった。 衣類はない。両手首はダクトテープで何重にも締め上げられ、いつも気を使っていたネイルは根本から剥がれ落ちていた。 全身の肌は、悍ましい程に白い。そこかしこに痣や煙草を押し付けたような痕があり、右腕はあらぬ方向に曲がっている。 腹部から電動の工具かなにかで荒々しく寸断され、血や内臓はほとんどが流れ落ちてしまったようだ。 その顔だけが、まるで武装するかのように施された耐水性のメイクが意地をはるように残る。 歯のいくつかが折れ、左頬が醜くはれ上がってはいたものの、少しだけ、見慣れた顔色をしていた。 内蔵を損傷するような負傷を何度も負ったせいか、鼻や口元にはどろどろとした血のかたまりがこびり付いている。 血の気の失せた唇を、どす黒いルージュが彩っているようで。 そのありさまは、不器用な娼婦の死に様、そのものだった。 海鳥たちの声が、悍ましさすらもなく埠頭に響く。 力の抜けきった顔の中で、瞳だけが力いっぱい閉じられている。 ――死の間際、彼女はどんな顔をしたのだろうか。 ↓[1/3] (-439) gt 2022/08/23(Tue) 19:28:06 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 花で語るは ソニー死体を引き上げるならば、まず目に入るのは乳房の間に書きなぐられたメッセージだろう。 『女の穴で金稼ぎする、名誉ある男たちへ。 下だけあれば続きができるだろ? 返しておくよ、チャオ。 ↑下も不良品だ、9mmを一発挿れたらもう壊れた!』 ビアンカ・ロッカの直接の死因は、下腹部に打ち込まれた弾丸による大量出血とショック死だったという。 下半身にも、同じメッセージが描かれていたらしい。 それは彼女とファミリーを、著しく侮辱するメッセージだった。 ――そんなものを生前書かれたなら、もっと怒りちらしていただろうから、 きっとそれは彼女が死んで、物になったあと描かれたのだ。 ↓[2/3] (-440) gt 2022/08/23(Tue) 19:29:59 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 花で語るは ソニー/* お疲れ様です、ご配慮ありがとうございます。 上半身はこのような状態です。 処分していただくのも問題ありません。店の娼婦たちはみな見つかったら教えてくださいとは言いますが、彼女たちには埋葬の伝手などもないので結局はファミリーに泣きつくことになるでしょう。 ほかは、ご自由に。 なにとぞよろしくおねがいいたします。 (-441) gt 2022/08/23(Tue) 19:31:43 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 墓場鳥 ビアンカ引き上げた体を腕の中に抱く。タオルでも持ってくるべきだったろうか。 こうなってしまった貴方を見てすぐに、どうするべきかなんて考えられるほど男は冷静じゃなかった。 せめても彼が大事にしていた彼に見せることにはならずに済む、それが幸運か幸いか、なんて。 彼らひとつひとつの末路を考えれば一概に言えるものでもないのだということさえわからないほどに。 引き上げた体は、濡れたままジャケットに包まれた。それだって十分じゃない。 人目をはばからずに配達車まで引き上げると、助手席に渡すように彼女の上半身を寝かせた。 顔に這うように固まった血をアルコールの入っていない使い捨てのウェットタオルで拭いた。 メイクの上からでも使えるリフレッシュシートだ。香水みたいな、いい匂いがした。 ダッシュボードの中から櫛を取り出して、あの綺麗だった髪にいつも通りに通そうとして。 海水でからまった髪は、無理に引っ張れば柔い皮膚ごと離れてしまいそうだったから、やめた。 少しずつ、少しずつ丁寧にきれいにしていった。無心で、無言のまま。顔貌には表情も無い。 ただ、それだけが出来ることであるように、出来る限りのことをした。 クーラーを効かせた車の中に満ちていた花の残り香は次第に死臭に追いやられていった。 時折通りかかる漁師が車の中を覗いている気配があっても、気にもとめないまま。 ベルトに着けた隠しポケットから、Tハンドナイフを取り出して肌の上にすべらせる。 書き殴られたメッセージを、ナイフで削いだ。それは彼女には相応しくなかったから。 刃を通しても、血が出ることはなかった。 外の気温の安定してくる頃には、最初よりはずいぶん見栄えするようになった死体を見下ろす。 あの日相談を受けたその日に、彼女と彼を外へ逃がせばよかったのだろうか。 呆然と考える。合理性や確実性を加味する余裕もない、思考の逃避でしか無かった。 「……綺麗に、……しなきゃ」 働かない頭のままに考える。誰かに、こんな彼女は見せられない。ただ、それだけの考え。 何度も体を合わせた彼女との間にあったのは友情に近いもので。果たさなければならない義理があって。 だから、彼女のことを。誰よりも死体に対して礼儀を向けてくれそうな彼に、託すことにした。 マフィアの烏に渡したなんて言ったらきっと夢で悪態をつかれるのだろう。力なく笑いながら、配達車のエンジンを掛けた。 (-452) redhaguki 2022/08/23(Tue) 20:25:41 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 墓場鳥 ビアンカ美しく繕われた澄まし顔。 いつも通りの表情。 ほかに知っているのは、機嫌を損ねた顔。結構口が悪いところ。 少年が知っていることは、多くない。 「……ふぅん」 「ほかにどうしようもない、か」 これまで、あなたの過去を尋ねることはなかったし、あなたも話さなかった。 同様に、あなたが少年の過去を尋ねることはなかったし、少年も話すことはなかった。 けれど、ふと。こぼれるのは。 「どうしようもなくて、それしかできなくて」 「嫌なことでもそうするしかないの、おれを生んだヒトとおんなじだ」 翠の瞳が瞬く。 すこしだけ、遠くを見るように。 どこかへ行くなら早い方がいいと言うなら、多分、クローゼットから出るのが遅かった。 遅かったけれど、だからここに、今があって。 それでもあんたは行かないんだろ、とよぎった言葉は胸に仕舞う。 少年は今この瞬間、すこしだけ、いい男であろうとした。 「……ん」 だからそう、短く頷いて。 あなたの手を離さないまま、家路を辿る。 (-456) beni 2022/08/23(Tue) 20:38:19 |
【秘】 エースオブ―― ヴィオレッタ → 墓場鳥 ビアンカ>> ビアンカ 一夜の夢を見せる。 そんな騙し文句を、女はよく口にした。 ディーラーはそうやって客に夢を見せ、 客から夢を奪う仕事だ。 そう、見せられるのは一時の夢だけ。 いくら己の仕事に誇りを持っていても、 夢破れて去る背中を見送るのは、いつになっても苦しかった。 だから目の前の女にだけ、その言葉を零していた。 自らを嫌悪して、嘲る様に。 くすり、小さく笑いを零す。 ヴィオレッタはその下手な笑い方が、好きだ。 男には決して見せない微笑み。 そこにあなたの”ほんとう”を見た気になって。 いつもは少しずつしか見れないあなたの素直。 今日はそれがたくさん見れることに、 少し驚いて、楽しくて、とても嬉しくて。 だから、見逃してしまったのかもしれない。 助けを求めるサインなんて、たくさんあったのに―― [1/2] (-460) 968. 2022/08/23(Tue) 20:47:43 |
【秘】 エースオブ―― ヴィオレッタ → 墓場鳥 ビアンカ「そこは否定しませんけれどね」 少々のお行儀の悪さを咎める事はなく、ただ頷く。 ノッテのような伝手があれば、違ったのかもしれない。 でも、それは逃がしてあげられないということで―― だから、アルバが外は弱かったのは、良かったのだろう。 自分が逃げられないからこそ。 逃げる事をとっくに諦めていたたからこそ、 せめてこの美しい鳥には空で自由を得て欲しかった。 似た者同士の、でも抗い続けるあなたにこそ。 言い淀んだ答えの続きを待たずに、 オムレツを切り分けて、小さく口を開く。 ぽとり 手元の皿にケチャップが落ちた。 それにも気付かずに、口へとオムレツのかけらを運ぶ。 数度の咀嚼は口の端が緩んだままで。 「料理学校ならわかるのですが、大学ですか。 正直なところ、総額は分かりません。 ……が、入学費用くらいなら、工面できると思いますよ」 にまにまと緩んだままの口元を傾けたワイングラスで隠す。 水面に映りこんだ緑の瞳も楽し気に細められていた。 [2/2] (-465) 968. 2022/08/23(Tue) 20:52:26 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → 天使の子供 ソニー死体は何もしゃべらない。 死体は何もうったえない。 寂しさも、哀しさも、 苦しさも、嬉しさも、 悔しさも、愉しさも、 怒りも、 幸せも。 彼女はいつも全てを内包して、あの店先に立っていた。 そんなすべては流れ出してしまって、 もうどこにも残っていない。あなたが最後に施した死化粧が、醜い死体を僅かに彩る。 もし、彼女が生きていたのなら。 ――なんだかやと喜び、けれど余計なことをするなと唇を尖らせたかもしれない。 もし、彼女が生きていたのなら。 ――綺麗でしょう、こんなになっても? なんて、冗句になっていない冗句を飛ばして、子供のように笑ったかもしれない。 もし、彼女が生きていたのなら。 ――ありがとう、ごめんね、最後まで迷惑かけて。 けっこう、あなたのことは嫌いじゃかったの、なんて、ほんとうかうそか最後までわからないことで微笑んだかもしれない。 もし、彼女が生きていたのなら。 もし、彼女が生きていたのなら。 ――君の前で、笑顔以外をうかべることはなかっただろう。 彼女は、意地っぱりだから。 だから、彼女はもう死んでいた。 くしゃくしゃになった髪がぺとりと肌に張り付いて、 がたごとと揺れて、眠っているように傾いた。 (-467) gt 2022/08/23(Tue) 20:56:20 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「……」 足が一度だけ、止まる。 あなたの、どこか大人ぶった態度に、ぱちぱちと瞬きをして。 「――誰が、あんたの母親なんかになってやるかっつうの」 そんなこと、言ってない。 あなたはそんなこと、言ってないのだ。 それなのにそんなことを言って、 ビアンカは手を揺らした。 家へ帰ろう。 あの狭苦しくて、不自由な籠の中に。 過去も未来も現在も、私たちをぎゅうぎゅうと押し込めてくるのだから、 せめてそこだけは心安らぎ、雨風をしのげるようにしよう。 「ん」 「ヴェルデ、あのね──」 ▼ (-468) gt 2022/08/23(Tue) 20:59:11 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「いっしょにかえってくれて、 ありがと、ね──……」 彼女は、さびしがりやだ。 (-469) gt 2022/08/23(Tue) 20:59:46 |
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