「やあやあカストル殿〜。ご機嫌いかがかな？今お暇かい？」

ふわっと穏やかな時間帯を狙い、使用人は貴方の元にやってきた。友人のような軽いノリで声をかけてくる。

「やあやあ〜ご機嫌はおはようだよ！いまひま〜」
今日はかなり遅くまでだらだら寝ていたのだ。学校がないとこうなる。
朝ごはんと昼ごはんを兼ねるご飯が今終わったところだ。

「なに〜ヌンキさんも暇なかんじ？」

「うんうん元気そうで何より。俺もね〜今暇！」

ゆるっとした調子で返す。使用人というよりは近所の友達なノリに近い。

「暇なんでね、挨拶回りをしようかと思って。それで君に会いに来たってわけ。
あとお礼も言いたかったんだよね。昨日俺の歌(>>0:104)作ってくれただろう？ありがとうカストル殿。歌で返礼なんて初めてだ」

にぱ！と笑う。嬉しそう。

「まじめだ！でもちょうどよかったなぁ〜」
同じような調子で、気楽そうに。ちゃんと敬語使いなさい！と言われまくる人生なので、それはそれは年上への口調ではないのだ。

「あっあれ！いいでしょ！よさわかるほうの人かぁ！
じゃあもう一回？もう一回やる〜？
ヌンキはきくだけじゃなくて歌うのとか鳴らすの好きなほうだったりする？」
もうさん付けやめちゃってるし。

「ちょうどよかった？それは僥倖。フフ、俺はとっても運がいい！」

ゴールドスリープや肉体の成長の停止を行わなければ貴方は恐らく年下なのだろうが、この使用人は敬語じゃなくてもまーったく気にしないのだった。

「えっ！？もっかいやってくれるのかい！是非是非！聞きた〜い！」

更には図々しくアンコールまでする始末。

「いや、ここだけの話なんだけどさ。俺色んなものをそつなくこなせると自負してはいるのだけど……芸術分野、正確に言うなら創作活動とやらがまるきりダメなんだ。何か自分で考えて、表現し、生み出すというのが苦手でね。
だから聞くだけの方が好きだなあ」

本当に秘なのかわからないくらい声がデッカい。

「朝起こしに行こうと思ってたのに忘れてた！起きれた？
オレは起きれなかった」

「いーよいーよ！観客も奏者も大歓迎！」
来た時と同じく、やはり持ち歩いているケースを引っ張り開けて、ギタロンを膝の間に置いた。

「んん〜……それならさ〜……合わせてくれるだけでいいよ！」
ケースからもうひとつ、輪っかに鈴がついたものをぽいとそちらへ投げ渡す。
「ソレ適当に振るだけでいいからさ、いいぞ〜！って思った時に鳴らしてよ。別にイチから作るのだけが音楽じゃないし」
6本の弦を順番に弾いたあと、返事の前に鳴らし始めた。


……昨日と曲が違う！

「うぇえ！？即興セッションかい！？
え、えーと……こ、こう！？こうでいい！？」

危なげなくキャッチしたものの、珍しく表情を崩して慌てて見せた。

「というか昨日と同じ曲じゃないね！？う〜ん君ってば才能の塊！」



リズムもへったくれもないまま、貴方の音に合わせて音を重ねる。ぎこちなさ全開だ。

ばっちり！とでも言うように笑って頷くと、元の曲に不規則な音を混ぜ込む。多少外れたリズムだろうといいアクセントになるだろう。


シャトも混ぜ込む。

近くにあったキュウリを見て驚いた猫みたいにびっくりした。

「ゲーム前にびっくりして死ぬかと思った。俺も声かけ行くか悩んで寝てたわ、結局起きたの昼過ぎ。おはよ！
なあ今暇してる？暇ならゆっくり話さねえ？」

/*お話しませんかー！

「ごめんごめん、そんなに驚くと思わなかった！おはよ！」

「いいよ〜オレもひま！
どうするかな〜座れるとこ？オレまだ部屋の場所よくわかんないんだよね〜」

/*あるある！お気になさらず！

「座れるとこ、ソファかベッドかが一番楽なんじゃね？とは思うけど。ちょっと待ってろーシャトに部屋の位置関係教えてもらうから」

暫くの沈黙もといシャトへの連絡時間があって、そちらの端末にマップが送信される。
なかなかに部屋が近い気配がしているぞ。バーナードの近いの概念がバグっているかもしれないが。

「おっしゃ、部屋近いじゃん。そっち行くわ、部屋散らかってるなら今のうちに片付けとけ？」

近かった！きっとここに来るまで時間はかからないだろう。
即ち、猶予はない。

「ちょいまち片付けアダッ」
バサバサゴッ　紙をまとめる音のあとに小指が犠牲になった音があなたの元に届いただろう……

「おっとこれは大丈夫じゃないやつ」

音を聞いて諸々察したらしい。部屋に向かう速度をほんのすこーしゆっくりにした。
とはいえ近いからまあ誤差の範囲ではあるのだが。現実は非情である。
ついでにあえて子どものような呼びかけをしながらノックノック！

「カーストールくーん！いーれーてー！」

ガタッガタッシューー。

「……おまたせ！どぞ！」
とりあえず全部ベッドの下にスライドさせてきれいな部屋を作り出したカストルがドアを開けた。
完璧だ。

「お、間に合っ……たな！えらい！」

あえて色々見なかったことにする心積もりだ。
他者への思いやりの心。大事な精神だ。多分。

「急に悪かったな、んじゃこれどうぞ。お疲れ様の慰労も込めて？」

そっと牛乳^drinkを差し出した。

「まあね！」
優しさは少年の体面を救った。たぶん。

「わ〜〜さんきゅ！好きなとこ座って！」
歓迎しながら中に入るように促す。この部屋も他の標準的な部屋と同じく、ベッドやソファが置かれている。
……ソファの上には片付け損ねた楽譜が一枚残っている。

「はーい、お邪魔します！」

促されるまま中に入りソファに座る。家具自体は大体自分の部屋と似たようなものだ。
が、その上に置かれていた楽譜は自分の部屋にはないもので。

「……お、これお前の？見ていいか？」

あっ。しまい損ねてた……。という顔。
「いいよ〜、……それなんだったっけ？」

もし読めるなら、それが昨日のバナナードの歌だとわかるかもしれないし、別にわからないかもしれない。歌詞は書いていないから。

「たぶん昨日歌ったやつのどれか！」

楽譜に目を通した上ですぐに口遊む。脳内再生もできていたけどとりあえず歌ってみて。

「……あ！これ9割バナナの歌だろ！これ曲自体は本当にいいよな、なんか楽しくなる感じする。即興曲、後から全部残してんの？」

すぐ思い至った。そして問いを投げかける。