148 霧の夜、惑え酒場のタランテラ
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[どの話題の合間だったか
どぶろくの話題を出したのよりは後だったと思う、
褐色の肌、ターバンの男性の言葉を小耳に挟んだ
『戦争で村が焼かれた時』
……そわっとした感覚が一瞬項を駆け上る。
アタシは村を焼く大きな“仕事”は請け負ったことはない。
その結果が齎すであろう哀しみに目を瞑り
そう、あえて“仕事”と言おう。
ギョクトの部隊は……もしかしたら…あるのかもしれない。
ギョクトは“陽忍”。
派手で、大きな“仕事”もこなし、各地に名を遺す。
対して“影忍”は名を記さない。
怖れられることも厭わない。
『ギョクト』の部隊が来る
──むしろ、それを聞いて逃げてくれればいい。
しかし、シノビの部隊は国の駒である。
個人の感情は許されない。
“無我”、といえば聞こえはいいが
心を殺すことが是とされる。
母国にとってはギョクトは『英雄』(功績)
敵国にとっては、ギョクトは『大罪人』(悪行)
けれどもアタシは知らなかった。
歴史の中に埋もれた
『メルヴェイユの大罪人』の真実を。
まさか自国の中で、そんな汚名を自ら被る、
勇気ある哀しい人がいることを]**
[ これは 公に知られている
美しい王女の話である。 ]
[ ───王様と妃様の間には、
三人の子どもがおりました。
二人の王子と、一人の王女。
皆、御二方に似て容姿端麗でありましたが
王女様は、その中でも特段美しく。
金糸のような色に絹のように滑らかな髪
コバルトブルーの海より鮮やかな瞳
噂伝いではありましたが
国中が彼女の美しさを知っておりました。 ]
[ ようやく両手を使い歳を数えるようになったころ
王女様は剣を選びます。
自分のことを守る大切な剣。
選ばれたのは水色の髪が特徴的な
少年
でした。 ]
[ 夢を捨て、王女様に仕えることになった少年。
王女様と少年の仲が深まるのには、
かなりの長い、長い時間がかかりました。
少年が青年へと成長し
王女ではなく、一人の少女として
王女のことを見続けようと決めてから
時が経ち、指を折り返し数えて、
王女様12の誕生日を迎えた後のことです。─── ]
[ ────いつものように、
青年に甘い笑顔を向けて町へと向かい
喧騒の中でも美しい花を咲かせていたお忍びの王女様。
"貴女が振り向く場所へ私がいよう"
そんな騎士の誓いはあっけなく、
破り落とされてしまうのです。 ]
[ どれほど御本人が
忍びたいと言っていても、一国の王女。
まさか本当に忍んでいたわけもなく、
護衛は近衛騎士以外にもおりました。
安全な環境にいた。
間違いのない時間だったのです。
ですが。 ]
[ 王女様の美しさに目が眩んだ賊が、
禁じられた魔法を使って
王女様を攫ってしまったのです。
手がかりはほんのわずか。
辿れるような魔法に長けた者を
探すにも時間がかかります。
悠長にしていたら
王女様は二度と帰ってこないのではないか?
そんな不安が、王室中を襲いました。
突如として消えた王女様。
王様へ報告に駆けつけたのは、
彼女の近衛騎士─────では、ありませんでした。
彼女の近衛騎士も、居なくなっていたのです。
「 必ず見つけてくる 」
そう伝えて貰うよう、言い残して。 ]
[ ───そうして二人が消え、
1週間ほど経った頃。
水髪の近衛騎士は、王女様を背負って現れました。
騎士は確かに、誓いを守ったのです。
幸い、王女様はずっと気を失っていたのか
以前とお変わりのない様子で
また国民達の光となりました。
王女様を助け出した騎士は、
その功績を持って罪を免れることにもなったのです ]
― ■年前 ―
「じゃあさようなら」
[人生最後に聞いた言葉がそんななんて
あんまりじゃないか──── ]
……ぁ?
[気づいたら崖の下。
一体どれ程気を失っていたのか。日が、眩しい気がした。
ゆっくり体を起こす。]
生きて……る、のか?
[信じられない、といった風に周りを見渡す。
胸に受けた筈の傷がない。
血だまりが己のいる場所に見える。
体は、おそらく動物に持っていかれたのだろう。この場で見つかる事はなかった。
もしかしたらその後、人の味を覚えてしまった狼の討伐依頼がギルドに入ったかもしれない。]
……!
アイシャ!
[どうして助かったとか気にするのは後にした。それよりも、何よりも愛娘が危ない。
あの女は彼女を、娘をどう扱うかなんて
わかったものじゃない。
体がやけに軽いのに気づかず。
その場を飛び出した。]
[そうだ、薬草を持って帰らなくては。
急いで崖の上に、
何でもないよう登れたのに疑問をもてなかった。それだけ余裕がなかった。
先日取った場所になくて、奥深くにもぐって
木々は冒険者時代の身のこなしでかわした
魔物が一体も自分の元に来なかったのには僅かに違和感があったが、時間が惜しかった。
探して、探して探して探して
時間の経過で起こる筈の空腹も、眠気も
何も感じないのに気づかない。
やっとで見つけた時、空がどれだけ色を変えていたとか分からなくて
上手く手に掴めないのにイラついて
魔法で草を刈り取って、手にした
その手からすり抜けたのに気づかない。]
[ どんだけ余裕がなかったのか。
己の手から全て、すり抜けていたのに
全く気付かなった馬鹿野郎だった。 ]
[それから走った。
不思議と息は切れなかった。
走って走って走って走って……]
おじさん! おばさん!
悪い! 今帰った!
アイシャは! アイシャは無事か!?
変な女剣士は来なかったか?
[いつも通り宿屋に入って
落ち込むようなおばさんを
旦那さんが背をさすっていたのを見た。
彼らは、こっちを見なかった。]
おい、遅かったの怒ってるのか?
悪かったよ、ちょっと色々あって
なあってば!
────── あ?
[己の手をまじまじ見る。
何の変哲もないように、見える
だけの
手。
もう一度、目の前の夫婦を見る。
自分の存在に欠片も気付いてない
彼らは優しいから、無視などする筈がない
彼らは、通常通りに宿の営業を行っている
客であろうか。
誰か、知らない人が通り過ぎた。
自分の体をすり抜けて。]
……待ってくれ
[目の前の世界に、分厚いガラスが張られたかのようだった。
寒くなんて感じないのに、体が震えた。]
────なん、だ、よ……これ
[ふらり、と体がふらついて。
その場にあった壁すら通り抜けた。]
……俺、は
俺は────
[はた、と気付いて大急ぎで二人で使っていた部屋に走っていった。
あれからどれだけ日が過ぎていたのだろう
娘はどうなったのだろう。
頼むからいて欲しい。
そんな願いは簡単に打ち砕かれる。]
アイシャ!!
[宿代を少しでも浮かすために、空いた時は従業員もしていた。アイシャも働いていたのもあって使わせて貰っていた従業員用の日当たりの悪い部屋。]
[そこで二人で生きていた。
寒い日は二人で寄り添って眠ったり
一緒に美味しいレシピを考えたり
家を買ったら何をしようかって
そう、最近あげたリボンも喜んでくれて……
この扉を潜れば
娘がいつも通りに「お帰りなさい」と
笑ってくれると信じ
たく
て───── ]
[ 声は、返ってこない ]
[ 二人がいた生活の証すら
何一つ残っていなかった。 ]
……あ、あ、あ、…………
ああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああ
[その慟哭は、誰にも届かない。]
[その日から、一人の亡霊は彷徨い続けた。
アイシャ、アイシャ、と愛娘の名を呼びながら。
呼び続けながら
街中を彷徨い、気付けば外に出て
居る筈もない場所を彷徨い迷い
彼女の名をただただ呼んだ
どこを探せばいいのかもわからず
人間らしい感覚を失った彼は
人間らしさをどんどん失くして
ただ妄執一つがその存在の足を進め続けた。]
― 半年前 ―
[その日も、小さく
彼女の名を呼びながら歩いていた
気力はとうにすり減っていた
限界なんてとうに超え、それすらも気づけない
そのままだったらおそらく
最後に残った己の記憶すらも零した事だろう
そうして、本当にただ彷徨う亡霊……
下手をしたら悪霊に堕ちたのだろうか?
気付いたら、その場にいた。
霧の夜にだけ開く酒場
]
……酒場、か
[その扉は死者を拒まない。
娘はいないか。それだけを求めて扉を潜った。
そうして、彼はこの場に辿り着いた。]
[それは、間違いなく幸運だったと思える。
そうでなければ娘の前に立てるような
自分でいられなかった。そう思うから。
ここで飲んで
、食って
知り合いに再会してさ
人間の感覚を思い出して
久しぶりに笑えて
| [パンを求める声をどこへともなく掛けた後、すぐに店員が来るでもなかったので改めて店内を見回す。 水色の髪の青年と話し込む店員、3人の客を接客する店員、外に立っていた青年は店の中に入っていただろうか。 そして恐らくだが、店の奥にもそんなに大人数ではないが、店員がいるのではないか?と思う。 と、3人の客の方に先ほどブイヤベースを持って来てくれた少年の店員が近づいて行った。 一人の年若そうな青年に、少女二人と少年一人。 実際の年齢はわからないものの、彼らが集まって酒の話をしている様子は何となく楽し気で華やかだ。 皆それなりに酒を知っていそうな様子から、やはりそれなりの年齢ではあるのだろうとは思いつつ、自分の知っている「酒場」の様子とは一味違う様に、こんなのも悪くないなあ、と眺めつつビールをもう一口飲んだ。 と、気が付けば、自分の飲み物もそろそろ切れそうだ。 その時3人の接客をしていた店員が、パン籠を持ってこちらに来てくれた。 >>45] (58) 2022/05/25(Wed) 20:38:33 |
| 忙しいところ悪いね。 へえ、パンも色々あるんだな。 僕は固いのが好きでねぇ…
[と籠の中を眺めつつ、選んだのは滞在中の城下町でよく食べているものとそっくりの黒麦パンだった。 どこで食べてもいつも同じようなものを選んでしまう。 なぜなら間違いないからだ。]
そうだな… あとは、酒をもう一杯欲しい。 うーん、ビールかな…
[ビールのことも嫌いではないから頼んでいるのだ。 あとは、酒の種類に疎い自分がどこでも出てくる飲料として認識しているためである。 そして、やはりこのチャンスを逃す自分ではない。]
ところで、店員さんは、何か好きなお酒あるんですか?
[と、目の前の彼に聞いた。]* (59) 2022/05/25(Wed) 20:40:28 |