─空白の時間─
[最初は二人きりじゃなかった。
別部署の俺の友人と彼の知り合いとが顔見知りらしく
軽く一杯ひっかけた二人にそれぞれ別々に誘われて
居酒屋で鉢合わせて四人で飲み始めたのが、最初。
早々に俺がトイレに籠城することになったのは
酔払いが俺の薄いウーロンハイに何かの原液を混入したせいだ。
ウォッカをかぱかぱ水のように空けてた俺の友人か
ずっと泡盛を舐めてたあいつの友人か
犯人は二人のどちらかだと思う。たぶん。
不在の間に同じように酔わされたのか
いい具合にふらふらしてるあいつが用を足しに来て
小便の音をぼけっと聞いてるあいだにまたえずいて。
声で気付いたのか誰であろうと心配したのかは知らないが
あいつが個室を覗きに来た辺りから
たぶん、何かが、可笑しくなった。
如何にも上手く吐けなくて吐き気を持て余して呻いてる俺が
あいつの目に何か可笑しな具合にうつったのか
はたまたいつも通りにねちっこむ触れてくる掌に
俺の頭が誤作動をおこしたのか。
涎でべとべとの唇が気付けばあいつのと重なってた。
手を伸ばしたのがどっちだったか
唇を奪ったのがどっちだったか、
その辺は実に曖昧だった気がする。]