79 【身内】初めてを溟渤の片隅に【R18】
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[ がつがつと余裕なく貪り口付ければ、
鼻から抜ける吐息混じりの。
声は低く、甘く。
鼓膜から脳髄を溶かすように響く。
呼吸ごと奪うように弄っていた舌が吸われ、食まれ、
ぞくりと欲が迫り上がる。
混ざり合った唾液を飲み込む彼の喉の動きにさえ
どくんと心臓が激しく鳴いた。
噛みつきたい衝動を、レンジの電子音のせいにして
どうにか押さえて。 ]
[ 余裕なんてあるわけない。
余裕あるフリすら出来ない。
二日すらモたない、お前の空気を吸わないと
息ができない、なんて。
見透かされているように撓む目元に負けた気がして
眉間に皺を寄せてちょっと睨む。
熱と欲を携えた瞳では、きっと迫力など
ないだろうけれど。 ]
[ 腰に触れていた手がするりと滑らかに動いて
後頭部を包む。
傾げられた首、浮かぶ笑み。
余裕の無い自分を嗤うような表情で囁く熱っぽい声、
おいそれはずるいだろ─── ]
─── ん、 ッ……
[ 忘れる筈のない、あの日と同じような
頸動脈にじんと重い圧迫感。
引き寄せる力の強さ。
荒い吐息と、あられのない水音。
飲み込むタイミングを失った唾液は唇から顎へ
伝うだろうか。
それでも離してもらえそうにないなら、
こちらからも整った綺麗な歯列、
裏側から口蓋をも丹念に探る。 ]
[ あの日と違うのは、自由を得た己の右手が、
同じように彼の頸に触れること。
柔らかな髪が、指の間を擽ること、
名前を呼ばれると甘い痺れが脊髄から
脳へ駆け上がって、
自分のものじゃないような声が漏れること。
押し付けられ布地越しに感じるお互いの兆し。
酸欠でくらくらしそうなほど繰り返し贈られる
口付けが、ようやく少しずつ落ち着きを取り戻し、
後頭部の掌の力が緩んだ。 ]
……ッ、は、───
[ 肩で息をしながら唾液を飲み込む。
ゆっくり瞼を開いて見つめればその瞳は
興奮の灯を灯したまま、潤んで、微笑んで。
力の入らない手を彼の頸からそっと動かして、
その唇を親指で拭う。
そのまま自分の唇も拭った。 ]
っ、 なっ……
[ ごちそうさま、とどこか楽しそうに
語尾の上がる言葉に思わず絶句して。
それでも、わずかに離れた身体が惜しくて。]
─── わかってるくせに
Two winsのベーシストは意地が悪りぃ。
[憎まれ口をひとつ。
己の口はぎこちなく動く。]
[ 意地っ張りで素直になれないはずの自分が、
珍しく曝け出す本心。
寝不足のまま空きっ腹に煽った鎮痛剤のせいか
下半身で主張する欲望のせいか、
どうにも溢れて止められない想いのせいだろうか。]
ずっと、先に進みたくて、
……前から聞こうと思ってた。
けど、お前、どうしたい?
……その、あー……
[ 言葉に詰まって彼の髪をぐしゃ、と掴んだ。
大事なタイミングでまたピーピーレンジが鳴って、
うるせぇな!と八つ当たりを投げた。]**
[唇から溢れて、落ちて、伝う、互いの唾液が
白い首筋に見えて、ぞくぞくする。
余裕なんて、ない。
本当ならこのまま、全てを味わいたい
そんな欲を抑えて、笑んだ。
飯を食うと先に言ったのは、彼だから。
食う気ないだろ、といいたくなるほど、
熱っぽく応えてくれたことは、まあ、さておいて。
だって、その親指が唇に触れるだけで。
拭ったそれで、彼の唇が拭われるだけで
どきどきして、下腹部に血が集まるのがわかる。
だけど、理性をなくしたいわけじゃない。
だから、その身体を離したのだ。
ごちそうさま、と弾んだ声をなげれば
不服そうに、憎まれ口が飛んでくる。
それすらも愛しくて、破顔した。]
ふは、 そう?優しくしてるつもりだけど
[そう、目を細めるのに。
ぎこちなく続けられる言葉に、簡単に心臓は打って
目が開いて、一瞬揺れて。
伸ばした手が、彼の髪に触れて、梳く。]
───…うん
[珍しく曝け出された彼の欲に、
茶化すという選択肢がなかったわけでは
なかったのだけれど。でも、それは、
素直に嬉しくて。愛おしい、から。
言葉の続きを促すようにじっと見つめると、
半ばしどろもどろになりながら、羞恥を微かに浮かべ
ゆっくりと選ぶように紡がれる言の葉。
迷うように、なんていったらいいのかわからない、と
それだけはあからさまに。
最後の最後、八つ当たりするみたいに電子レンジに
怒鳴って締め括る彼に、また、笑んで。]
…おれは、触れられるなら、それで。
どっちでも。雨宮の好きにしていいよ。
こんな図体のでかい俺ですけど。
[少しだけ離れた身体をそっとまた寄せて、
両手を彼の腰に回し、そのまま組む。
背中を曲げて、窺うように、見上げれば。]
[ 細く、柔く、撓む目元。
太い四弦と共にある指が、毛足のぱさついた
己の髪を梳く。
楽器を奏でるような優しい手つきが妙に心地良くて
目を伏せて凭れかかり、そっと頭の重みを預けた。
茶化されるかな、と内心思っていたけれど。
そんなことはなくて、伏せた瞼を持ち上げれば
静かに頷いてこちらを見つめる瞳が、
ほんのすぐ近くで、
やっぱり、綺麗で。 ]
[ やり場のない感情を八つ当たりで電子音に
ぶつければ、また穏やかな笑みが降る。
好きにしていい、
なんて。
懸命に紡いだ言葉に、あっさりとそう返されて、
顔が熱くなるのが自分でもわかる。]
……優しくは、ねぇな。
[ むぅ、と唇をへの字に結んでそう言えば
またひとつ、距離が近くなった。
背に回された両手が組まれて
己とてさほど小さくはないはずだけれど、
不思議にすっぽりと収まってしまう。
包まれた腕の中、心臓が跳ね回って、痛い。]
[ 長い身体を折るように曲げて
下から見上げてくるのは、
広い海のように穏やかな双眸。
瞬きもせずに見下ろし見つめ返せば
出会ったころから変わらない、煌めき。
ガキ臭い己のアップダウンを受け止めてくれる、
いつだって荒んだ心が凪いでいく。
そしてそのたびに、甘えているなぁと思う。
己は彼に、なにを返せているのだろうか、と。
]
……っ、───!
[ 小さく、低く、
色と艶と、甘さと毒と。
いろんなものを含んだ声が、脳を直接嬲る。
ぞく、と背中を震えと汗が伝った。
彼のニーズや欲求を、何より優先したいと思う。
他の人には感じたことのないそんな気持ちが
彼にだけは湧いて溢れて、ブレーキが効かない。
なのにあっさり選択権が手渡されて、息が止まった。]
……ず、っりぃな、ぁ───
[ 絞り出した言葉に呼応するように身体中が熱い。
きっと赤に染まってしまった顔も耳も、
隠すように彼の胸に押し付けて、伏せた。
窓から、明るい陽が差し込んでいる。
きちんと整えられたベッドを、ちらりと目で追った。]
――――――――
ふふ、やっぱり美味しい、ですね
[ 潤さんが洗い物を終わらせて
二人でグラスを傾けていると幸せだなあって
そんな気持ちが溢れてくる。
すり寄るようにぴったり横にくっついて ]
潤さん、
大好きです
[ ふわっと笑って言えば
いつの間にかグラスは空になっていた。 ]**
[弦よりもずっと細くて、柔らかな髪。
そのぱさつきさえも、肌を撫でると
くすぐったくて、心地いい。
かかった重みに彼の熱を感じて、愛おしさは増す。
じっと見つめながら、本心として、
答えを告げれば、その唇がへの字に曲がるから
かわいらしくて、触れるだけの口づけを。
そのまま背を折って見上げれば、
瞬き一つせず、じっと見つめ返してくる瞳。]
[もしも、その思考が読めたならば、
返すものなど、必要ないと告げただろう。
己とて、彼に与えられてばかりだと、
そう思っているのに。
あの日、彼と共に奏でられた音楽。
同時に知ることができた、己の気持ちと
今こうして、共に歩んでくれること。
何もかも、全て、彼がいたから。
いまだって、この幸せは、己の人生における幸せは
雨宮、お前がいてこそなんだ、と。]
[低く、甘く、問いかけた言葉に、
彼の息が詰まって、それから、WずるいWと
紡がれるから、目を細めた。
そう、俺はずるい。
ずるくてもいい。ただ、雨宮の欲しいものが
与えられたら、それがいい。
もっと依存して、もっと、俺に落ちて。
離れるなんて、考えられないくらい。
触れる形なんてどうだっていい。
彼を、この腕の中に閉じ込められるなら。]
[真っ赤になった耳の淵を撫でようと腕を
ほどきかけたそのとき、彼の喉が震える。
胸に押しつけられる額。
半ば懇願するように響いたそれに、
どく、と心臓が一つ打った。
微かに、付け足された言葉が空気を震わせる。]
───わかった
[萎えるわけない、と言ったところで、
信じてもらえるか定かではない。
間違いなく、萎えることはない。
そんなこと、わかりきっている。
そうじゃなければ、欲情もしない。
けれど、続いたそれに、こくりと唾を飲む。]
───俺は、
雨宮に触れられるなら、
どんな形だってうれしいよ。
ただそれは、雨宮が望んでくれる形がいい。
…それは、わがままかな。
[そう、あくまで優しく、問いかけて。]
[ ずるい、と、駄々っ子のように責めても、
変わらず穏やかに細められる瞳。
焦れて焼けつくほどに、愛しい。
ライブできゃーきゃー言われていることにも
嫉妬してしまうほどに、とっくに堕ちて、
求めているのに。
本当にずるいのは、きっと自分のほう。 ]
[ わかった、と言う声と、ほんの少し緩んだ手の隙間。
身体を捩る。
右腕を動かして、己の左肩を掴んだ。
自身を抱いて、まるで肌を隠すように。
極力人目に晒さないようにして過ごしてきた。
傷も、心も。
そういや林間学校で風呂に入ったなと思い出すけれど、
今あの頃より彼はずっと近くて、
だからこそ、怖い。
]
[ 乙女かよ、頭の中で嘲る声に、
わがままかな、と優しく問いかける声が重なった。
目を見開いて小さく、首を振る。 ]
……目が、覚めたら、
大事なもんが、急になくなってんだ。
俺は、それが怖い、
お前もいつか、
居なくなるんじゃないか、って
求めて、萎えられたら、ってびびってる。
……ずるいのは、俺だな。
[ 俯いたまま、訥々と口を動かして紡ぐ本心。
応えるようにとん、とん、と背中に軽い振動。
あくまで優しい声は、形が見えるほど
凄艶でさえあった。 ]
─── 俺も、おんなじ。
けど、いまは、
[ すう、と息を吸い込んだ。
首元のシャツのボタンを、ひとつ、外して
ゆっくり、顔を上げる。 ]
[
だ、い、て、く、れ、
と、
唇だけを動かした。
笑ったつもりだったけど、
きっととても情けなく崩れた表情で。]**
[嫉妬の話がでれば、そんなものキリがない、と
いくつだって挙げることができる。
林間学校の時のキスだって───
ああもう、あれはなんか、あのあと
小っ恥ずかしいからやめよう。
彼の手が触れる、その左肩に、腕に、
残る傷をきちんと直視したことはない。
きっと、あまり見られたくないだろうと
勝手に思っていたし。
体育の授業の更衣室なんかでも、
目を逸らしていた。
ただ、今は、今からは───]
[腕の中の彼が、小さく首を横に振る。
続いていく言葉は、ただ黙って聞いて。
「ずるいのは俺だな」と一度締められたそれに、
開きかけた唇はなにも言葉にすることなく、
そのまま、背中をとんとんと叩いた。
ずるいのは、俺だよ。
だって、どうしたって聞きたい。
心の中では決まってるくせに。
どっちでもいいって言いながら、本当は
雨宮のこと、思いっきり抱いて、俺のものに
してしまいたいっておもってるくせに。
それを、隠して、それでもなお問いかけるのは、
彼が選んだと自覚して欲しいから。
逃げることの、できないように。
こんな欲を彼が知ったら引かれてしまうかも。
怖がられてしまうかもしれない。
だから、口には出さないで。
あくまで、優しいふりをしてる。
ほんとに、ずるい。]
[だまって、待っているのだ。
獲物が自らこの腕の中に入ってきてくれるのを。
いなくならないで?いなくなるわけない。
離すつもりなど毛頭ない。
促すように、あやすように、優しく叩く背中。
ゆっくりと開く唇の動きひとつ、見逃さぬよう。
取りこぼさないよう、見つめて。
晒される首筋に、こくりと唾を飲んだ。
まだだ、まだ、もうすこし。]
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