196 【身内】迷子の貴方と帰り道の行方
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[彼女の言葉にしっかり耳を傾ける。
やはり帰りにくい理由は婚約だった。そこは納得。
不可解な事があるから不安。
それに納得して頷いて話を促す。]
……成程ね。それは確かに不可解だ。
この世に一目ぼれって言葉があるのは否定しないし
男って素直になれない生き物としてもなぁ……
ないなぁ
双方の家の利益が大きかったりする?
[双方にメリットがあるから縁談は結ばれる。
それならまだ政略結婚としてわかる。
そういうツンデレが皆無とは言わないけど
女性に言わせればはた迷惑なんじゃないかな。]
ひとまず、なんで話せないか
そっちの方が理解出来ないかな?
君の親は話を聞く限り、いい人だという印象だ
なら下民と言われた事を相談しない理由は
一体どこにあるっていうんだい?
君はここに迷い込んだ。即座に帰ると言わなかった。
君の心は思う以上に惑ってると言えるんじゃないかな?
親への恩義で我慢や遠慮をする限度を超えてると
まず自覚したほうがいい。
優しい親がいるのは恵まれていることだ。
言葉が届く相手がいるなら頼るべきだ。
あと、相手の情報を集めるのは出来るんじゃないかな?
本人が他国で会えないとしても
彼の友人や家族とか夜会や茶会で会えないの?
婚約者なんだ。相手の事を知ろうとして
不可解なことは無いだろう?
情報は力だ。
君の不安を解消するにはまずは知る事が大事だ。
婚約者の事も、"Louis"さんの事もね
ただ黙って耐えるだけで幸せになれる人は多くない
ここに来たのを幸運にするか、不幸にするかは君次第だ。
婚約に口は出せないけど、
何も手伝えないなんて言わないよ?
[迷った事についてはそうだね。
心情的な事を聞きたかったんだけど
難しい質問だっただろうからひとまずはそれでいい。
今まで迷い込んだ相手にあれこれした事は少なくない
使えるものは使ったって構わない。
それをはねのけるならそれもまた、選択の一つだ。]*
[わたくしは此度の縁談について、
"政略結婚"という言葉を使ったことは一度もありません。]
子爵家側には勿論、メリットが御座いますわ。
二つも格上の爵位を持つ家と婚姻が結ばれれば、
それだけで箔が付くというもの。
ですが、あちらにメリットはないでしょう。
その辺りのことは伺っていませんが、
反対されてもおかしくはない……。
いいえ、普通なら反対するでしょうね。
[そうですね。あくまで政略結婚と考えて、
わたくしが侯爵家の嫡男の縁談を考えるなら、
公爵家のご令嬢あたりを選ぶのが妥当なのではないかと。]
お父様もお母様も、この縁談をとても喜んでいます。
ですが、政略結婚として
メリットがあるからという感じではないのです。
「あの方になら娘を安心して任せられる」
その様に言っていました。
わたくしたちが既知の間柄で、
且つメリットのない相手を
敢えて見初めたからだと思います。
あの時わたくしを下民と言ったこと、
その理由が分からないと、
わたくしとしてはこの話はしづらいです。
何かの間違いであるとか、
わたくしをよく見ないで言ったことで、
後で失言を内心で悔いている……という理由だった場合、
余計な心配をかけてしまうことになります。
[折角このような破格の縁談が舞い込んだのです。
つまらないことで水を差すのは、気が引けます。]
ご友人やご家族と茶会ですか。
確かに出来ない訳ではありません。
ですが、それはあくまで相手から招待を受けた場合のみ。
こちらは家柄で言えば格下ですし、嫁となる娘が、
婚約者の人となりを探りに行くなど不作法ですわ。
相手を疑っていると、取られてしまいますからね。
勿論、ただ我慢してやり過ごすだけで、
幸福な未来を掴めるなどとは思っていません。
ここへ来る前のわたくしは、
そうする他ないと思っていましたけれど。
わたくしなりに、ここへ来ることで
この問題に向き合って考えることが出来ました。
それだけでも、ここへ来た甲斐はあったと思っています。
[偉大な魔法使いに幸せへの道を切り開いて貰う。
そんなお姫様の物語は、いくつもありますけれど。
それはズルをしているようで、
なんだか気が咎めてしまうのです。
そんなチートを使って幸福を掴むのは、
フィクションにだけ許されることでしょうから。*]
[その辺は貴族の結婚の常識でそうなんだろうと
思い込んでるのは否定しない。]
ま、子爵家はそうだよね。
成程。取引相手とかそういうのじゃないんだね。
それを押して婚約申し込み……不思議だね。
[うーん、と考える。
相手のメリットが本当に見えない。
余程一目で気に入ったというのなら
その暫定従者の方がわかるんだけどね。]
成程……
君の家族がそういうなら評判も悪くないのかな?
ひとまず言っておくけど
余計な心配をかけないようする行動が
かえって心配をかける事もある。
それだけは心にとめておいて。
[結果として昨日誕生日だった娘がこんな場所に
一生閉じ込められるかもしれない。
そんな状況になっているんだからさ。]
[知らない相手を知ろうとするのが不作法なんだろうか
夫婦になる相手なんだ。
相互理解はそこまで蔑ろにされてる風潮なんだろうか。
わからないな。
この辺僕が生粋の貴族じゃないから思うのかな。]
……うん。
君がね、ただ我慢するって選択肢をとるなら
こっちも納得はしないよ。
だからそう言ってくれる方が嬉しいかな。
あ、納得しなくても帰す約束は果たすけどね
[情報を集める位
君の知りたい過去の真相を見せる位
それ位僕にはなんてことはない。
でも、君は選ばなかった。
ならその選択を尊重しよう。]
僕の質問はこれで終わりかな。
これからどうするかは、ネリリと一緒に話すとして
じゃあ次は僕のターンだね。
[何をどう話そうか。目を閉じて考える。]
ネリリはさ、本当に子どもだったんだ。
体が成長しないせいか、精神年齢も止まってる
だから、僕といても平気なんだろうね
異質を異質と理解してない子どもだから
そうだね。まずは僕の名を名乗ろうか
僕の名前は“ラサルハグ”
子爵令嬢なら教育は受けてるよね?
過去の偉人として名を遺した魔法使いだ
[彼女の反応を見ないように目をそらす。]
歴史書にのるような人間がいくら魔法使いでも
生きているのはおかしい。そう思うだろう?
それは正しいよ。おかしいのは僕だ。
なぜ今でも生きているかは僕にも謎なんだ。
ただね、そんな存在がいれば不老不死を願う人も出てくる
それは避けたい。だからこの世界から隠れて生きている
それは国も了解しているよ。
僕はね、
人が好きだよ。
だからネリリの我儘も可愛いものだし
誰かが来てくれて、その願いを叶えるのも構わない。
最初は本当ただ衣食住が満たされる。
取り込まれだってしない。それだけの場所だった
でもね、残ってくれた人は僕の異質さに気付けば
怖くなって逃げだすんだ。
君も言っただろう?
未知のものに恐怖するのは本能なんだ。
僕がそれで満足出来てればよかったんだ。
でもね……人は贅沢な生き物だから。
いなくなった事を僕は嘆いてしまった。
……そうしたらネリリが逃げることを許さないようなった
あの子は僕が傷つくのを嫌がったんだ。
止めたよ。でも聞かなった。
あの子は自分の体と同じように
人の体を取り込むことでこの場に人を繋ぎ留め始めたんだ。
……それが、ここの真相。
[満足? と軽く自嘲した。]**
[フィリップ様の悪い噂は、
わたくしも特に聞いたことはありません。
かと言って殊更お人柄が良いとも聞いていませんが。]
噂で聞く限りでは、
とても優秀なお方ではあるようです。
お人柄についてはあまり語られることはありませんが、
少なくとも悪評は聞きません。
[ルイ様は良いお家柄の嫡男は、高慢に映るよう
振舞う必要もあるのだと言っていました。
本当にそれだけで、根はそれほど悪くない説も
あり得なくはないでしょう。]
[確かに、現状のことを言われれば
返す言葉はありません。
しっかりと肝に銘じることにしましょう。
双方にとってメリットがある訳ではないので、
わたくしはこれを"政略結婚"とは言いませんが、
基本的には貴族同士の婚姻は政略結婚であることが殆ど。
政略結婚に相手の人間性を理解し合う必要はありません。
相手のことを知りたがること自体が、
この場合異質であるのです。]
納得してくださるかどうかはお二人次第ですが、
わたくしの中では答えははっきりしております。
心配には及ばない……と思いますわ。
[情報収集のお手伝いくらいは、
してもらっても良かったのかもしれませんが……。
いいえ、それも問題ないでしょう。]
["ラサルハグ"
流石にその名前には、目を丸くしました。
見た目年齢は当てにならないとは思いましたけれど、
そもそも生きている事すら
あり得ない存在だとは思いませんでしたから。
口を挟むことなく、耳を傾けます。
不老不死ですか……。
わたくし個人は
何故そんなものを欲しがるのか理解に苦しみますが、
そういう人が多くいることは知っています。
最後まで、わたくしは口を開くことなく聞きました。
こうなるのも致し方なし。
というような内容で、まず何を言うべきか少し迷います。]
[手を伸ばします。
彼の手に触れることは出来たでしょうか。]
分かりました。
[「満足?」という言葉には、そのように返しました。]
知らない方が生きやすいと、言いましたね。
そしてわたくしは、未知は恐怖だと言いました。
どちらが正しいかは、この場合は後者なようです。
ネリリさんを除く、他の方々は違ったのでしょう。
けれどわたくしは、
貴方のことを知りましたので、怖くはありません。
[瞳を閉じて祈るように、
寄添い合う二人の幸福を願いました。]
貴方が貴族社会を知らないように、
わたくしは魔法使いの人生を知りません。
けれど、生まれてすぐに国に保護され、
一生人の為に生きることを強いられる。
幸せな人生を送ることが難しいのは、
想像がつきます。
ネリリさんのやり方が
大分強引であることは否めませんが、
貴方の”人と共に在りたい”と言う我儘は、
叶えても罰は当たらないものだと思いますけれど。
[わたくしから言えることは、一先ずこの位でしょうか。**]
[フリップ氏の評判については
へぇ、と返した。
身分があるから表立って言われないのか
それとも本当に一回の失言なのか。
はたまた、彼女が知るフィリップと本当に同一人物なのか
憶測はいくらでも出来るけど、結論は出せない。
婚約者の前で根拠のない事はやめておこう。]
そういう事にしておくね。
[しっかりしてるようだけど
僕に魔法使いだろう? と踏み込むし
それなのに自分の人生に必要な情報は欠けてるし
そもそもここに迷い込む子が大丈夫、と言っても
僕は大概信頼なならないと思っている。
情報についてはやっぱり、と言ってもいいけど
そこは僕から口にしないよ。]
[年月を考えれば不死は兎も角かなりの不老だ。
欲しがる人が理解出来ないのは僕もかな。
人間老いや死を恐れるのは普通の事ではあるけど。
伸ばされた手はそのまま拒絶はしない。
人の輪郭、人の温度が手に伝わる。]
……うん。
[続く言葉を聞く。
今、この場で恐れないならそれで十分だ。
僕の恐ろしさは長い年月共にいない限り
本当の意味で理解することはきっとない。
それは言わない。]
これについては本当に機密だからね
[ありがとう、と小さく加える。]
……衣食住は保証されてるから
不幸にはそうならないけどね。
[罰はそれはそう。
僕の願いはささやかなものだ。
でも、それは叶えるのが困難な事。]
さて、湿っぽい話はこれまでにしようか。
[結論を聞く前に君の方に情が移るのは良くない。
だから言葉はここまで。
僕なりに君に言葉は告げたつもりだ。
あとは彼女の答えを聞き届けてから。]
ネリリは多分すねてるだろうな。
エルメス嬢、行こうか。
これ以上君は迷ってはいけない。
帰り道を見失う前に、結論を告げるべきだ。
[行先は館の出入り口の門だ。
手はどうなっていたかな。
触れたままならエスコートするよう歩くし
離れていたらそのまま先を歩くだけだった。]**
[その手を取れば拒絶されることはなく、
当然ですがその手はわたくしのものと同じように
温かみと弾力を湛えています。]
口封じの魔法をかけるのですもの。
ご自分の魔法は、信頼が出来るでしょう。
[機密であることについて、改めて答えを返す。]
[話が終われば、彼に導かれ向かうは館の出入り口。
わたくしは一瞬きょとんとして立ち止まりました。
手は、その時に離れました。
"分かった"なんて軽率に口にしましたけれど、
そんなものはきっと氷山の一角。
そうですね。わたくしは客人ではなく、一夜限りの居候。
分は弁えるべきです。
最後にきちんと別れを告げられれば、それで十分。
「何でもありません」と言って、共に門へと向かいました。
足を止めれば、館を見上げ口を開きます。]
ネリリさんも、聞こえていますね?
[念のために一声かけて、確認をしておきました。]
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