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人狼物語 三日月国


124 【身内P村】二十四節気の灯守り【R15RP村】

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視点:


――冬至と――

そうそう。
柔肌に映える真っ赤な紐でねぇ。

ずいぶんと大人になったものでしょう、私も。

[言葉遊びのように拾われる会話のフレーズを、否定も訂正もしないから酷いことになる。
 が、そんな会話を楽しんでいるのも事実。
 まったくきのこのソテーの話がどうしてこうなるのだか。]

年単位で先のことをすぐだなんて言うの、歳がバレますよ。
なんて。私は冬至に会えない時間は、いつでも一日千秋の思いですけど。

[冬至は過ぎたばかりだし、来年の冬至が会合に当たるとは限らない。
 お互い歳は取りたくないものだね。]

いつでも来てよ。
私や麦がいる保証はできないけど、来るとわかってれば時間は作るし。

[慈雨のほうなら自由に出入りしてくれて構わないし、小満領の扉は、流石に只人は然程入れずとも、灯守りや蛍には、割合気軽に開かれているほうだ。
 食事に来たいというなら、拒んだことはほぼないだろう。
 小満手ずから振る舞うかは、その時々だけれども*]

[
   こ

    ぽ

   り

    。

ここは、海の中?
]

[あの時きっと、わたしはまた”捨てられる”ことが怖かったのだろうと思う
可愛く、綺麗に、欲しいと思わせる様な顔をしなければ
お人形わたしに価値はないのだから

だから、ほんの一瞬動揺を滲ませたことも
浮かべた笑顔が歪だったことも

わたしは、知らなかった]

 ― ぼくのおはなし ―

[ぼくは雨水の領域に生まれたごく一般的な家庭の子だった。勉強は出来る方だったけれど神童という程でもなく。ちょっと大人しいけれどそれも普通の範疇。


 ただ一つ、融解という能力以外は──── 



 ぼくはそれがなんだか幼いころはわからなかった。
 ただ、雪が寒いなって思った時ちょっとだけ溶かしたり。こっそりと。子どもの出来る範囲なんてたかがしれていたからその当時は発覚せず。

 ぼくの血縁上のお父さんはぼくが産まれる前に病気で亡くなったと聞いている。正直生まれる前の話だからぴんとこない。お父さんがいなくても、お母さんはおばあちゃんやおじいちゃんと一緒にぼくを一生懸命育ててくれた。

 ぼくもそんなお母さんを助けようと幼くてもお手伝いとか頑張っていた。]

 

 
[その能力は、不運と共にお母さんに発覚した。

 その建物が工事中で。運悪く木材の一部が落ちてしまったんだ。

 お母さんはぼくを守ろうととっさに抱きしめた。
 ぼくはお母さんを守ろうと─────

              その力を、
使った。

 

 
 
[ ぼくの世界が変わったのはその時からだ。 ]


 

 
[溶けた木材。それだけじゃなく、親子二人の周りも地面すらも溶けていた。怪我一つなかった親子。流石に騒ぎになりかけた。
 でもその親子が何処の誰か、等々は公には発覚しなかった。お母さんが、ぼくを抱きしめて即逃げたから。


 お母さんはぼくに帰るなりつめよった。
 何かした?
 と

 今にして思えば、知らないと言えばよかったのかな

 ぼくは素直に話した。融解の能力を。
 不思議な子は認知はされているけれど、人と違う。それにお母さんはひきつった顔をした。

 お母さんはぼくを守る。それだけを支えに必死になっていて限界だったみたいだ。
 その子が普通と違う。あんな、強く、下手をしたら人を巻き込んだ力がある。それを受け止める余裕なんてなかった。

 ぼくの能力は下手をしたら、誰かを傷つける可能性がある。お母さんはそんな事が起きたら耐えられない。そう思った。

 子どものぼくは、お母さんが怖がっているのが怖かった。今まで愛してくれていたのに、能力一つで恐ろしい物を、異物を見る目になったのが受け止められなかった。]

 

 
[ぼくがいくら感情に乏しい方でも、お母さんの拒絶は耐えれなかった。だから、
引きこもるようなった。


 お母さんは、ぼくを見なくなった。抱きしめなくなった。ぼくは、どうしていいかわらかないまま、おとなしく日々を過ごした。
 おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなってからはそれに拍車をかけた。

 本来人と触れ合ったり、心を育てる時間をぼくは独りで、ずっと過ごした──── ]**

 

ーー先代の記録ーー


「いや、どうしろと。」


[僕が小雪となった年、1人の赤ん坊が生まれた。
銀髪の子だったから、次期小雪とするため育てろと。
それが代々続けてきたこと。それも小雪の責務だと。
まずは顔合わせという形で今日、篠花家へと来たわけだ
それはいい。そこまではいい。

だが何故今、己は赤子と二人切りにさせられてるのか。]
 



「せめて乳母か誰か置いてってよ。
 どうすんの、このちっこい小雪。
 流石に赤ん坊の世話の仕方なんか知らないよ?」


[適当にやっててもできてしまう己だが、今回ばかりは難しい。
勉強だ何だで潰れた子供時代。年下どころか同年代とすら遊んだことがないのだ。

さっき“母親”から抱っこしてあげてほしいと言われて抱いてみたが。
結果は言わずともわかるだろう。
泣かれた。

それはもう、盛大に泣かれた。

抱き方が悪いとか指導が入ったが、よくわからん。
おまけにふにゃふにゃしていて、力加減間違えたら潰してしまいそうだ。
何だこのわけわからん弱い生き物は。]
 



「いいよねぇ、君は寝てれば良いんだから。
 こっちの気も知らず、気持ちよさそうに寝ちゃってさぁ……。」


[揺り籠の上で、こちらの気も知らずに眠る赤子の手をつんつん。
ちょっとした八つ当たりだったのに。
きゅ…、と握られた。]


「…………。
 ……僕がここにいるの、わかるの。」


[そんなこと聞いても、答えなんか帰ってくるわけないんだけど。
まあそれでも、容易に振り解けるほど小さな力は、
なかなか振り払うことができなくて。
必死に僕個人を求める人なんていなかったから斬新で。]
 



「……まあ、いっか。」


[可愛いとか思ってはいないけど。
このつまらない世界を変える力があるとは思えないけど。]


「期待してるよ、眞澄。」


[未来に期待するぐらいならいいかと思った。]
 

 
[尚、この後突きすぎてまた泣かれた訳だが。
先の指導を思い出して抱っこしてみるも泣き止む気配は一向になく。
結局乳母がやってきて、あやすのを眺めるだけとなっていた。]


「ねえええ! 赤ん坊ってどうすればいいの!?
 ホントわからないんだけど!?」



[後日、当時の灯守りたちに誰彼構わず尋ねる、
大声で泣き言を言う小雪の、世にも珍しい姿を見られたかもしれない。*]
 

─ 回想 ─

[お姉ちゃんが私を初めて抱き上げてあやしてくれた日の事を、
当時まだ赤ちゃんだった私は残念ながら全く憶えていない。

後からママに聴いた話によれば、
ほんのちょっとママが傍から離れただけで
この世の終わりのごとく泣き喚いていた私は
お姉ちゃんに抱かれた瞬間
驚くほどぴたりと泣き止んだらしい。

ママがお昼ごはんを持って戻ってくるころには
お姉ちゃんの腕の中でそれはもう機嫌よく笑っていて、
小さな手からは想像も付かない信じられないような力で
お姉ちゃんの服をがっちりと握り締めて
なかなか離そうとしなかったそうだ。]


  
ねえね、ねえね。
だっこ。だっこすゆの!



[そう言いながらお姉ちゃんに駆け寄って
よだれまみれの手でお姉ちゃんの服を引っ張っては、
両足に纏わりついて抱っこをせがんでいたのは
おぼろげに憶えている。]



  
ねえね、ねえね。あしょぼ!!
  
まちゅりがおりょーりすゆから、
ねえねはたびるひとね。
まっててね。んしょ、んしょ……

……できたあ!
おまたせしました、ほんじつのめにゅー
わふーはんばーぐとさらだです!



[握り締めて固め(きれていなかっ)た
泥100%の"ハンバーグ"に
庭で搔き集めた草と花と木の実の"サラダ"を
蓮の葉の上に乗せて、
いちばん好きなごはんの再現を試みたり]


  

  ねえね、ねえね。
  きょうはね、おにんぎょであしょぼ!
  まちゅりがままでねえねがぱぱね。
  ねこちゃとわんちゃがこどもだよ。

  おかえりなしゃい、ぱぱ。
  おふろにすゆ? ごはんにすゆ?
  それとも、ねんねすゆ?



[──なんておままごともしたっけ。
眠る前に絵本の読み聞かせを強請ったりもしたな。

差し出すお気に入りの絵本は何冊かあった。
子ウサギが野原でいろんな春を探す絵本や
お料理上手なきつねがおいしいごはんを作る絵本。

その中でも一番のお気に入りだった
街を見守る幸福な王子様とつばめの物語はきっと、
今の私に多大なる影響を与えている。]*

 
  わたしのせかいは暗闇と雪の世界です。
  静かにねむる、淡いひかりのやみのなか。

  永らくお役目についている灯守り様なら
  ご存じでしょうか?
  前任の大寒も、わたしのように暗闇のような髪をもつ
  そんな方でした。

  閉ざされた雪の世界で、『大寒』は、
  一つの家系により受け継がれてきました。

  大寒域の者の髪は雪のような白です。
  けれどわたしの家――御明家には、稀に
  暗い闇色のような髪の者が産まれてきます。

  それが、次期大寒を受け継ぐあかし。

  わたしは産まれながらに、大寒となるさだめでした。
  先代様の弟子となり、
  わたしは、――大寒域のためになろうと
  先代様に沢山のことを教わって、立派な―――

 





 
押し付けられてせいせいした。




 
 



  ―― 先代様は、本当に永き日々の大寒域を
  見守ってくださいました。
  永くて、とても長くて。



  
――あのひとには、永すぎた。


  身体を苦しめる魂の在り方も、わたしがうまれるまで
  先代様は耐えるしかありませんでした。



  だからわたしのことを、とても愛してくださいました。
  
おなじくらい、憎しみもくださいました。



  人と戻られたその時に
  先代様は自ら、わたしのまえで―――


 

―― 先代処暑 ――


[ 私が生まれた頃の処暑域は、私から見れば先々代の処暑様が治めていた。
 先々代の処暑様は人々との交流が近く深いという訳ではないものの、統治者として申し分のない方で、処暑域は穏やかで安定した統治域であった。
 その先々代処暑様は数十年灯守りを務めていたが、今から60年程前に、人間の寿命の範囲で灯守りを引退することを選んだ。
 そして――後継として指名されたのが、先代の彼だった。
 先々代の処暑様の統治は何も問題のないものだったけれど、その事だけは、先々代処暑様の“失策”であったと思う。
 ]
 

 
[ 先代の彼は、先々代処暑様の蛍だった訳でも、弟子だった訳でもなく、
 只の年若い、処暑域の行政職員だった。
 処暑様の下で働いているのだから、処暑様と面識もあり、やりとりを交わす事も多かったようだが、
 それにしても、本人も、周りも、住民も、突然の指名に驚いていた。
 しかし先々代処暑様はこう言った決定を譲らない人であったし、灯守りの言う事に異議を唱えられる人は居ない。
 処暑域は少々慌ただしくなったものの、中央に迷惑は掛ける事もなく、やがて滞りなく灯守りの引き継ぎは成された。

 先代の彼が良き灯守りであった事は前述の通り。
 先々代様と統治の形は違ったが、人に寄り添う灯守りとして、住民に慕われていた。
 ……上に立つ者として、優しすぎるぐらいであったと思う程に。
 ]
 

 
[ しかし――それを良く思わなかった人間が居た。
 先々代処暑様の“蛍”達である。
 自分達が後継であると思っていた所に、灯守りが別の人間を指名し、
 更にその人間が灯守りとして慕われている。
 彼らはそれを
み、
んだ。

 更に先代の彼は先々代の蛍を自分の蛍とはせず、最初は蛍を置いていなかった。
 彼らは今までの立場を失う事となったのも、彼らの黒い思いに拍車を掛けたのかもしれない。 ]
 

 
[ さて、数年のうちに先々代は亡くなり、
 しかし先代処暑はその地位を確固たるものとしていた。

 そんなある日、先々代の蛍だった人間の一人が、彼の領域を訪ねてきた。
 彼は元蛍彼らに対し悪い感情は持っていなかったし、むしろ当初は、自分が灯守りとなったことに申し訳なさを感じていたようだ。
 蛍のひとりであった彼も……その時は友好的に、それから彼が処暑を継ぐ時に心無い言葉を浴びせてしまった事を謝りたいと、そう言っていたらしい。

 ……彼は、その言葉を疑うことなく受け入れた。
 それ程お人好し、だった。
 ]
 

 
[ しかし蛍であった彼が訪ねてきたのは、詫びなどではなく、とある計画のためであった。

 ――自分達の立場を奪った、処暑の灯守りへの
復讐
である。

 ……領域に職員が駆けつけた時に見たのは、既に事切れた“処暑様”の姿であった。
 死因は食事に仕込まれた毒。
 物理的な傷では直ぐ癒えると思ったのか、もしくは反撃されると思ったのか。彼らは彼を騙し、内部から攻撃することを選んでいた。


 当然処暑域は大混乱となったし、周りは騒動を収めるために奔走した。
 犯人は捕らえられたものの、それで処暑の灯守りたる彼が戻る訳でもない。
 職員も、住民も、皆、彼の死を悲しんでいた。 ]
 

 
[ 彼が先々代の蛍に殺された、という事は、会合等で大っぴらにされる事はなかったものの、
 秘されてはいない事であったから、当時の灯守りや蛍は知っていることであろう。 ]
 

 
[ さて、加えて、起こっていた“非常事態イレギュラー”がある。
 処暑の灯守りの『証』が、彼が死ぬ前に受け渡されていた事だ。
 ――職員が駆けつけた事切れた彼の隣に居た、彼に似た“私”に。
* ]
 

 

  「 “  ” 」



[ 私の名を呼ぶ彼の声が蘇る。
 他の人に名を呼ばれなければ、彼のその声が永遠になるのではないかと、
 そんな根拠のない、滑稽な事を考える。
 でもそれを信じて、縋って、私は名を伏せている。 ]

 

 
[ 先代処暑と親しかった者なら知っているかもしれない。
 彼が照れくさそうに話す“  大切な人”の存在を。** ]

 

─龍池紫明と小雪の兄妹─


「眞澄のような可愛くて良い子の傍で、か。
 お兄様が直々に言ってくれるとは。
 篠花紫明……字面も良い。悪くない提案だ。

 だ が 。

 俺が菴のことを「
お義兄様
」と呼ぶことになるのが問題だ。
 もう一つ。
 お前が去るならば、その提案は飲めないな。
 中央域の連中のストレスが減るのは喜ばしいことだが、
 その分俺や眞澄が苦労することになるだろう。」


[ 先代小雪である菴と紫明は、冗談を普通に交わす
 気心の知れた仲だった。
 勿論冗談だとはわかっていたが
 
 言われずとも彼に何かがあった時は
 代わりに眞澄の面倒を見る気概は当然備えていた。
]
 

 
 「お褒めの言葉どうも。
  君からそう言われたいと願う者は
  山ほど存在するだろうのに。
  これも無欲の勝利というものかな。
 
  だが、その言葉を聞いたら……と。」


[ 言葉尻が芝居がかかって聞こえるのは、
 隣に君の兄が居たからだが
 彼の表情が見えて、言葉が止まった。
 
 ──本気でショックを受けている顔だ、と。


 だが、頼られて悪い気はしないのは事実。
 灯守りとして初めての任務の時も、
 右から左まで徹底的にレクチャーした。
 彼女が初めての会合に出席した時は、
 見守る立場とはいえ、ほぼ心配はしていなかったのだ。

 ──眞澄なら大丈夫だろう、と。]
 

 
[ 兄から妹への別れの手紙を見せて貰った時
 普段見せることのない感情的な様子に、
 何も言えずただ黙って聞いていた。
 全てをぶち撒け、落ち着き始めた頃に漸く口を開き]


  「大丈夫、あいつのことだ。   
  『 眞澄に会えなくて寂しくて死んでしまう〜! 』
  とか言って、また戻ってくるさ。」


[ 気休めだけを吐いて微笑む。
 その後、彼女の気が済むまで、とことん付き合う気でいた。
 飲み明かしたか、話は続いたか、何処かに外出したか。
 それとも一人になりたい、と申し出があったか。
 後者ならば、意思を尊重し帰ることにした。

 「寂しければいつでも話は聞くから」と言い残して。]  
 

 
[ 灯守りを引退すると告げた時
 彼女は、止めることはしなかった。

 だが、一瞬口を噤んだ様子が見えて。
 紫明の意思を尊重する言葉を聞けたが
 祝福、背を押してくれるような感覚は感じられなかった。
 思い過ごし────では無いのだろう。

 
今思えば、眞澄は菴と紫明。
 二人の近しい灯守りに、似たような形で
 急に去られていたのだから
]


 「眞澄。
  君には本当に長い間、世話になった。
  君と、菴と過ごした日々は、楽しかった。
  ……済まない。菴との約束を守れなくて。
   
  君も、自分が幸せになることを、
  自分のことを一番に考えても、罰は当たらないと思う。 
  
  ……葵を頼む。」
 

 


 『 君は強く立派になったから。
   俺の助けはもう必要ないだろう。 』


[ 
そのような残酷な言葉は飲み込んで。

 
 あの時、姿を消した友のことを怨んだりもした。
 だが、まさか自分が似た道を歩むことになるなんて。
 同じようなことをして、苦しめることをするなんて。 ]



  ( ──人を幸せにするのは、難しいな。 )



[ 斯く男は女の前を去った。
 理由は、半分程度真実を伝えている

 何故このタイミングだったのか。
  ──数年前から決めていたこと。
 
 別れを惜しむ悲しい時間は、少ない方が良い。
 それだけの理由で、伝えるのが直前になっただけのこと。]

 

 
(  ああ、でも。
   自ら去ることを決めたというのに
   もうこの気の強い友の妹と会い、
   話が出来なくなるのは、少し惜しいが。)


         ……大丈夫。きっとどこかで会えるから。


 ( これは今生の別れでは無い。
   だから「さよなら」とは言っていないんだ。 ) *

 

 ― ぼくのおはなし2 ―

[先代の雨水に出会ったのは引きこもってから何年かした頃。
 ある日突然、彼はやってきた。]


 「やっと見つけた。手間かかったな。悪かったな遅くなって。
  お前は今日から俺の後継者だ。

  大丈夫、悪いようにしないからついてこい」


流石に混乱した。

 でもお母さんが雨水様、と呼んで灯守りという存在くらいは知っていたぼくは目を丸くした。]


 こうけいしゃ……?
 どうしてぼくが?


[首を傾げた質問に彼はにっと笑って返した。]


 「俺もそろそろ引退時でな。
  なんでも溶かす能力者がいたって噂を探したんだよ。
  雨水の季節にぴったりじゃないか」


[ほれ、と手を差し出された。]

 


[─────唐突過ぎてよくわからなかった。

 でも、この手を取れば一人で引きこもっているこの状況を変える事が出来るんじゃないかって。それだけはわかったから。



      ぼくは、その手をとった。


 

 
[そこからはなかば強引に、ぼくは彼に引き取られた。
 お母さんが納得していたかは知らない。半ば拉致じみていたとかそういう話も広まったらしいし中央の人の頭痛のタネになった可能性は今にして思えば高い。

 蛍もいない彼の後継者候補が見つかったのは、悪い事じゃなかったんだろうけどさ。それでもね。


 ……それから数年。ぼくは言われるがままにお仕事やお勉強を教わって。しっかり一人で仕事を回せるよう教育を受けた。その当時の日々はぼくはまだ奥に引きこもりがちだったから他の灯守りと会う事はそうはなかった。
 当時は正直選ばれる意味すらもよくわからなかった。
 でも、いつまでも引きこもっていても仕方ないのはわかっていた。

 それに、ぼくが必要として貰える居場所を作れるのなら、嬉しい と

 少しずつぼくの心を溶かしてくれた彼の跡継ぎになりたいと
 段々とそう思うようなっていった─────。 ]**

 


 「──やぁ。ふむふむ、成る程成る程。
  君が紫明の話していた蛍さんだね。
  僕は"立春"の灯守り、蘭花。
  蘭の花と書いて蘭花。以後お見知りおきを。

  あはは! そう畏まらなくて良いよ、葵ちゃん。
  こんなに愛らしいお嬢さんなら大歓迎さ。

  甘い物は好きかい?
  ちょうど椿餅を作ったところでね、
  君さえ良ければ是非とも味見して
  忌憚のない感想を聴かせて欲しい。

  うん? 紫明の分? 
ないよ、そんなの。

  僕は料理は可愛い子の為にしかしないって決めてるんだ。

  僕の作るお菓子がどうしても食べたければ
  可愛らしく生まれ変わって出直してきてくれたまえ?」

 


[蘭の花びらのように滑らかな白い肌。
目鼻立ちのはっきりした華やかな美人。
涼やかな空色の髪は短く切り揃えられていて
一見して性別がどちらかはわからない。

春の陽射しを閉じ込めたような明るい色の瞳が、
挨拶に訪ねてきた少女を柔らかく見つめただろう。

自分が食べるより作って食べさせる方が好きで、
自分が喋るより話を聴く方が好き。
いつでも穏やかな笑みを絶やさない、とても優しい人だった。]

 


[私が師匠から立春を継承したのは
雪が徐々に解けて日々大地が目覚めゆく啓蟄の頃だった。

その年の立春の大役を終えた後、
祝福を受けた生命が活き活きと芽吹いていくのと相反して
師匠は──蘭花様は、目に見えて衰弱していった。

雨水の季節が終わる頃にはもう
身を起こすことも難しくなっていて、
黄鶯さんが付きっきりでお世話をしていた。
師匠の傍から離れたがらない私を引き剥がすように、
氷魚さんが私を連れて日々の業務を代行していた。

自分の弱っている姿を他の灯守りたちに見せたくない、と
師匠は最期まで頑なに元気な振りをしていたから
余程注意深く見ていなければ、師匠が弱っていたのは
亡くなる直前までわからなかっただろうと思う。

親しかったご友人の皆様や
近しく親交も深かった春の統治域を持つ皆様にさえ
「それじゃ、僕は念願叶って山奥に楽隠居するから
 愛弟子をよろしく頼んだよ☆」

なんていつもの調子で別れてから床に臥せられた。
報せが遅くなってしまったのは、
それが師匠の遺言だったからでもあった。]

 


 「そんなに悲しそうな顔をしないでおくれ、東風はるかぜちゃん。
  僕はもう十二分に生きた。
  そろそろ休みたいな、って、思っていたんだ。

  ……以前話した話、憶えているかな。

  僕らが司るのは"立春"、すべての始まりの暦……
  長く厳しい冬を越えて暖かな春を迎える
  希望を象徴する季節でもある。

  人が心折れてしまうのは希望を失くしたときだ。
  だからね、君は俯かないで。顔を上げて、前を向いて。
  どんなに辛いことがあっても笑顔を忘れないで。

  これからは、君自身が
  此処に住まう人々の希望になれるように。
  僕はいつだって君を見守っているよ。」

 


[そう言い遺して去っていった師匠の手前、
どんなに悲しくても、辛くても、淋しくても
少しでも気を抜くと泣いてしまいそうでも、
人前で泣くことだけは絶対に出来なかった。

だから、

何も言わずに葵ちゃんがただ私を抱きしめてくれた時に
それまで押し込めていた感情がぐちゃぐちゃに溢れ出て、

両目を酷く腫らしてしまったあの日の思い出は
二人だけの秘密にしておいて。]*
 

  
――小満と


 大人は紐の扱い方で
 その成長の仕方を察されると聴きました

 私はこどもなので
 その意味はまだぜんぜんわかりませんが
 フェイはどんどんと大人になっているのですね
 ぜひ大人のことを教えてください、ぱぱ。

[ つぶらな紅で小満を見上げるのも束の間
 きゅぅ…と 丸いボディは悲し気に身を丸めた ]

 ……。
 私だって いつでもあなたを待っているのですよ

 お口の達者なすけこましを想い
 長々し夜をひとりかも寝んしています…

[ この嘆きの丸みを癒すには
 もう一切ればかしのキッシュが必要だろう ]


  …くふふ。
  では 冬至の雪がとける頃に。
  フェイの料理で雪どけを祝います

[ 返すのは 一見不確かな社交辞令 ]

[ その意が もう百年以上も前から続く
 "冬至域の雪の一切が消える日"の頃である事
 小満ならば伝わると思っているし 伝わらぬならばそれはそれ ] *


[ 代りに、私もうっかりクッキーを焦がしまった折りに、
 あなたの先代の蛍に慰められたり、失敗作を食べてもらったりしたものよ、なんて話もしたでしょう。

 自分よりも経験の長い蛍たちに手伝ってもらって、
 灯守りの仕事に慣れた頃、だったかしら?
 彼等にカフェを開いてはどうか、と提案された、という話も。

 だから、あなたもなんでも言ってね、と*]

ーー先代の記録ーー


「お、義兄、様……! 君から、お義兄様………!
 いい響きだね! 義弟よ!」


[目に涙を湛え、呼吸困難になりそうなほど大笑いしている。
その冗談はツボに入るぐらいウケたらしい

可愛くて良い子? 半分僕が育てたようなもんだし、当然じゃない。]


「無・理♡」



[滅茶苦茶いい笑顔でさらっと何でもないように答えた。
これを本気と捉えるか、いつもの悪ふざけと捉えるかはおまかせモード。
言わずともやってくれるだろうとは思ってるけど、念の為。
肩の力を抜く的な意味では小満の君しんゆうがやってくれるだろうけど、
真面目なところは君に任せた方が円滑に進みそうだから。
兎も角、僕は言いたいことは伝えたからね!
]
 



 …………? どうかした?


[芝居がかったようにも思えるそれが中途半端に止まったのなら、何か変なものでもあったのだろうかと辺りをキョロキョロ。
兄が固まったせいだとは気付いていない

それが素の行動だからこそ、更に拍車をかけたわけだ。
後日、飲みながら気付いた紫明に

「小さい頃なんか
 僕と同じ灯りの器にしたいって言ってたのにいいい!
 なのに何で……何で……!!」

腹癒せに中央にダーツバーを設置するよう計画書書いてやるうううう!!
等とガチ泣きして絡んだわけだ。
中央に遊技場ができたかは、さて。


頼れる相手は他にもいたでしょうけれど、真っ先に思い浮かんだのは貴方だったものだから。
初の灯守りの仕事の時は、真っ先に彼の元へと飛んでいった。
無事完了したのなら、お礼とお詫びを兼ねて統治域内の酒でも持っていったかしら。]
 

 
[兄が出ていってからしばらくしてだったか。
彼が訪ねて来たときに、溜まっていた鬱憤を全て吐き出した
彼はただ、静かに聞いてくれていた。
傍にいてくれた、それだけで充分だった。
気休めでも、心遣いはありがたかった。
言いたいことを全て吐き、泣き疲れてぐったりしたころに。]


 ……付き合わせてごめんなさい。
 でも、もう大丈夫。落ち着いたわ。


[一人になりたかった。
これ以上、彼の時間を奪いたくなかった。

かけられた言葉を聞きながら、見送ったの。]
 

 
[そんなお世話になった人だから、葵のことを任せられたなら頷く以外の選択肢はなかった
祝福の言葉を掛けようとしてーー声にならなかった。

兄に比べれば挨拶の時間があるだけ、まだマシだと思うけど。
それでも
置いていかれることには変わりなくて。
]


 わかった。葵のことは任せて頂戴。
 私も楽しかったわ。


[彼の言い分はわかるもの。
新しい風を入れるなら、古いものは去らなければ。
古いものが残ったままでは、入れ替えても変わらない。
だから引き止めたりしない。
隠れた理由の存在には気付かないまま。


でも、もう少し早く言ってくれても良かったと思うの。
そうすれば、ゆっくり時間をかけて心の準備ができたのに。
……ねえ。]