07:30:22

人狼物語 三日月国


169 舞姫ゲンチアナの花咲み

情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:


ソーネチカ3票

処刑対象:ソーネチカ、結果:成功

[犠牲者リスト]
該当者なし

決着:龍人族の勝利



   嫌だと言われても行く。
   その言葉にはいともいいえともいわず
   応えたのは指先の力だけで。

   手をつなぐ彼女を導いて。

         いや、導かれて。


   たどり着いた丘は
   静かな風に揺れて
   微かに泣いているようにも見えた。





   「なつかしいですよね。

    ここで初めて貴女を見つけた時には
    本当に驚きました。

    一目惚れは幻想じゃないんだと
    知ることができたんですから。」






   過去を指先でなぞっていくと
   サルコシパラは意を決したように

   被っていた仮面を外して
   丘の上に添える。

   そうすればきっと
   サルコシパラの哀愁と慈愛に満ちた
   顔が彼女にも見えるはず。





   その言葉の真意は

   この病気と真剣に向き合ってきた
   彼女にしか伝わらない。

   たとえこの選択が
   彼女の心に傷を残すことになろうとも

   彼女の生の幕を引けるほど
   サルコシパラは大人にはなれなくて。







   1歩、また1歩。
   彼女の元へ歩を進める。


         彼女の身体を抱きしめ
         その血の中を巡る毒を飲むために。*






   指先に込められた力が私の問いへの答え。
   貴方に導かれるように丘を目指して。

        
いいえ、導いていたのは…。


   あの日もこんな静かな風が吹いていた。
   揺られた花は花弁を散らして。

       
まるで運命に泣いているみたい。


 



    「えぇ、なつかしいわ。

     突拍子もない私の提案をのむ人が
     いるなんて……、思ってもみなかったもの。

 
     
まさか、
竜胆
に一目惚れする人に

     
出会えるなんて、ね。」


 



   思い出話をしに来ただけ、
ならよかったのに。

   仮面を外した貴方の顔を見れば
   そうじゃないことくらい、わかってしまう。

   哀しそうで、それでいて……。

 

   

   きっと逆の立場なら
   私もそうしようとしたでしょう。

   今まで、貴方に病気のことを隠して
   嘘をついて、騙してきた私に
   貴方を非難する資格なんて
   本当は何処にだってないのに。

   頭では、貴方の選択も
   間違いじゃないとわかっていても
   
やめて、やめて
と心が貴方の選択を拒む。


   



   間違ってなんていないけれど
   きっと正解だってない。
   
   貴方の願いは私を悲哀へと突き落とし
   私の望みは貴方を悲哀に晒すことになる。


       どちらをとっても幸せなんてない。
              
だから、私は……。


 



   1歩、1歩と後ずさって
   貴方から距離を取ろうとして。
   何かに躓いて私は尻餅をついてしまう。


    「
貴方も
、私を裏切るの……?
     独りにしない、のは
だったの?

             そんなの、
……。


  



   貴方を見上げて吐き捨てるように呟くと。
   自分自身の都合の良さに嫌気がさして
   吐き気すら覚えてしまうの。
   貴方の気持ちを裏切って出て行こうとか
   貴方に嘘を散々ついていた私が、
   今更何を言うのか、と。


   立ち上がることも出来ないまま
   貴方の瞳を見つめて。
  
 



   「貴方がしようとしていることは
    私の救いになんてならない。

    そんな形で助かっても…
    生きていても、意味なんてないわ……。

    貴方が傍にいない時間を
    独りで過ごすことなんて、耐えられない。

          寂しさを受け入れるなんて
             私には出来ない……。」


 



   病気を引き受ければ
   当然、引き受けた人は助からない。
   貴方がそれを選ぶことは、
   私が残されることと同じで。


   はらはら、ひらひらと。
   
花弁
が風に乗って空へとのぼっていく。

 



   涙で滲む視界の中、
   口にしたのは、決意であり、脅し文句だった。

   貴方の気持ちは尊重したい。
   でも、それだけは。
   犠牲だけは、受け入れられなかったから。*


  

村の更新日が延長されました。

村の更新日が延長されました。



   手折られた花は
   平野に放たれる未来を拒む。

   一度折れた根が繋がることはなく
   それでも花の未来を繋ぐために
   自分に何が出来るのか。

   サルコシパラの答えは不幸なのか。

   いや、初めから、幸せに溢れた道など


               なかったはずだ。





   「いいえ。僕は貴女に救われました。
    貴女が気づいていなかったとしても

         貴女がいたことで……僕は……。」







   望んでいない。
   救いになんてならない。

   怯えたように後ずさるウユニの望みは
   サルコシパラとは真逆のもの。

   こちらを非難する言葉は
   サルコシパラの心を深く抉り
   それでいて、男にとっては愛すべき
   あまりに無力な正論であった。







     「えぇ、貴女の言う通りです。

         でも僕らが反対の立場なら
         きっと貴女も、こうするでしょう?」








   「僕も貴女も変わらない

      愛した人を守りたいと願う
      無知で無力、自分勝手な、人間だ。」







   サルコシパラは歩み寄り
   怯える彼女の前で膝をつくと
   彼女の手を取る。
   最終防衛となるべき脅しに
   寂しげに笑って。



     「貴女は……僕の生きる意志だ。
      大丈夫…僕はいつでも貴女の傍にいる。」



   ポケットから取り出した箱の中から
   ウユニの薬指のサイズにぴったりの
   指輪を取り出すと取った指先にはめて。






   サルコシパラは願いに反するように
   彼女の身体を抱きとめて。


         その左目の花へと、噛み付いた。*






   貴方を傷つけてでも
   貴方がしていることを止めようと思ったのに。
   貴方を傷つけるような言葉を選んだのは
   そのため、だったのに。


 



   貴方の問いかけには何も返せず。
   黙しているのは肯定と同じだった。
   そう、私達がしようとしているのは同じことで。

   私達は変わらない。
   愛した人を守りたいと願って
   でも、相手を傷つけずに守る術を知らないの。
   
   たとえ傷つけてでも、自分の望みが叶うのなら
   そうしようとする、自分勝手な、人間。


       
そんな自分がたまらなく嫌いなのに。


 



   手を取られても振り払えないのは
   その寂し気な笑みを見てしまったから。
 
   どうして、貴方はそんな顔、するの……。
   本当に、ほんとうにそうするつもりだったのに。


     
     
「いや、いやよ。こんな、ことっ……。」



   駄々をこねる子供のように言ったところで、
   もう、貴方の意志が揺らがないのは
   今までの言動から、明らかで、
   それでもささやかすぎる抵抗をして。
 
 



   でも、その抵抗も
   指輪を見て、少しの間止まる。

   あの時、聞かなかった箱の中身は
   なんとなく、予想はついていた。
   貴方が言ってくれていたから。

   
 



   抱きとめられて、逃れようと身をよじれば
   袖口から隠していた
が覗く。
   それでも、覆せない力の差を、
運命を、

   私は身をもって思い知ることになるの。

 



   左目の花に噛みつかれて、
   力が抜けたように私達は倒れ込んで。


 



      ぽ
      ろ
      り
      と。



             倒れ込んだ拍子に
             袖口から、花が落ちた。


  



   それが合図だったかのように
   今まで私を蝕んでいた花たちが
   私の身体から落ちていく。

   病気に打ち勝った証でもあり、
   この身をめぐる毒が
   貴方へとわたってしまった、証。


  



   治った、なんて喜べるわけもない。
   あるのは、深い後悔と、絶望。

   あの時、私がW治療法Wなんて口にしたから。
   あの時、私が病について明かしてしまったから。

   貴方と出会ったあの日、
   貴方に悪魔のような提案をしたから。


   私が、貴方にこんな選択をさせてしまった。
   全て、私のせい。


  



   私は誰とも一緒にいるべきじゃなかった。
   独りで生きて、独りで終わるべきだった。


   この身が周りを不幸にする。
   そして、誰かに関われば、自分自身が傷つくと。
   知っていた、はずなのに。

   あぁ、それでも
   貴方に出会わなければよかったなんて
   それこそ、死んだって言えるはずもないの。


   
誰よりも、貴方を愛しているから。


  



   貴方の深い愛情が、
   痛くて痛くて、堪らない。
   ぽろぽろと、耐えかねたように
   涙がこぼれおちて。  
 

    「私の家族には…
     裏切り者しか、いないのね……。」



   
ひどい、ひどいわ、
と同じ言葉を繰り返しながら
   少女のように泣きじゃくっていた。*

  



   身をよじるウユニを捕まえて
   サルコシパラはその悲痛な叫びに
   耳を閉じると、噛み付いた花弁を
   喉を鳴らして飲み込んでみせる。

   愛しき人を身体の一部に取り込む
   ただそれだけのことなのだ。
   それが結果的に己を死に至らしめるだけのことで
   本質は何も変わらない。


   それから倒れ込むウユニを手で支えて
   サルコシパラはただ目を細めてみせるだけ。





   「ウユニさん……
    どうか…自分を責めないでください。

    これは僕が選んだ結末ですから。
    貴女が悲しむことは何も…………。」






   激情の渦に飲み込まれたウユニを
   守るようにサルコシパラは手を伸ばす。

   裏切り者だと涙を流す姿に
   心痛まないとは言わないが

   けれど彼女の言葉を否定することは
   サルコシパラにはできなくて。





   「ほら、見てください。
    何も症状が出ていないでしょう?

    感染ったからといって
    すぐに死に至る訳じゃないんです。」





   花一つ咲かない自分の身体を
   ウユニへと見せれば


     「貴女の苦悩と比べれば
      こんなのは安いものです。」


   そう言って彼女を落ち着かせようと
   その荒む心を宥めていく。





   荒むウユニを案じたサルコシパラは
   思いついたようにウユニの瞳を覗いて


     「私の部屋にもうひとつ贈り物があるんです。
      よければ…持ってきてもらえませんか?」


   そんな提案をする。
   丘の上からサルコシパラの自室までは
   数十分でたどり着ける。

   しかし発症のきっかけが分からない以上
   自分が不用意に動くのはあまり得策ではない。

   もしもウユニが渋るのなら
   そのような理由もしっかりと告げるが
   彼女は受け入れてくれるだろうか?*






   「私のせい、なの……

        私なんて、いなければ、……。」


  



   責めないで、と言われても
   その言葉が私を守ることは出来なくて。

   守りたいと願ってくれるのなら
   こんなこと、しないでほしかった。

   そんな恨み言は辛うじて声に出さなかったけれど
   貴方への恨み言を抑えれば、
   抑えた分、後悔も何もかも、自分へと向く。

   
私のせいでなくて、誰のせいだというの?

   
きっと誰だって、そう言うに決まってる。


  

   
   
    「でも……、
     いま、さいてなく、ても……。」



   涙を流したまま、促されるままに貴方を見て
   症状が出ていないことを確認すると
   ほんの少しだけ安堵して
   でも貴方の未来を思って目を伏せた。

 



    「そんな、ことない……。
     貴方は、何も、わかってない……。」



   安いものだ、と言って私を宥めてくれても
   荒ぶ心は落ち着くどころか
   ますます、荒れていく。

   花咲病が甘い病気じゃない、なんて
   私が一番よく、わかってるから。
   幸せを感じた次の日には、
   それを嘲笑うように花が命を脅かしていく、
   そんな、苦悩に満ちた病。


 

   

    「傍に、いて……。
         ずっと、ずっと……。」

   
   泣き顔を隠すように
   ぎゅう、と貴方に抱きついて
   
叶わない
願いを、口にして。
   貴方に、貴方の言葉に、縋るの。

   もう、独りになりたくない。
   私にとって、たった一人の家族を
   失ってしまったら、
私は、もう……。


  



   瞳を覗かれて、視線が交わる。
   吸い込まれるように、見つめていると
   貴方に一つの提案をされて。


    「贈り物……?
     でも、それなら……、
     二人で帰ればいいのに、どうして……?」



   どのみち、行きたい場所は此処が最後のはずで。
   取りに戻るくらいなら、
   
貴方を一人にするくらいなら、

   一緒に居たかったから、当然渋った。

  



   渋っていたけれど、
   貴方に理由を言われてしまえば
   私はそれに納得してしまうの。

   まだ、発症していない。
   そう信じていたかったから。


   貴方を悩ませるくらいなら、
   そう遠くもない家まで取りに戻るくらい
   なんでもないはずだ、と。
   自分自身に言い聞かせて、
   貴方の願いを聞くことにしたの。
   
でも、離れがたくて、時間を稼ぐように


 




    
「ねぇ、サルコシパラ……。」



  



   永遠の様な一瞬の後、
   立ち上がって、哀しそうに笑うと。
   私は一旦その場を後にするの。**

 



   丘から家まで、数十分。
   急ぎ足で戻って、貴方の部屋まで向かう。

   机の上にあったのは、一通の手紙。
   
手に取った瞬間、嫌な予感がした。


   わざわざ私一人に取ってきて欲しいと
   頼むようなものではないような、気がして。
   そもそも、理由がどうあれ、
   取りに戻らせるのは不自然だったのに、私は……。


 



   
さぁっと血の気が引いていく。


   手紙を読みもせず、手に持ったまま
   私は丘の上へ戻ろうと走り出した。

   急いでいた拍子に花瓶を落としてしまって
   ガシャン、と大きな音が響いたけれど、
   今の私には気に留める余裕もなく。


  



   走って、走って、走り続けて。
   息せき切って、たどり着いた丘の上で、
   
           私が見たのは―――――。*

  



   「大丈夫ですよ、ウユニさん。

      私はそう簡単には死にません。」







   この先の未来に怯えるように
   しがみついて涙を流す
   ウユニ背を優しく撫でて

   彼女の不安と善意に
   サルコシパラは付け入るように言葉を被せて
   彼女が願いを受け入れてくれると静かに笑う。

   初めて言葉で伝えられた愛情は
   毒々しくなってしまった身体と心に
   深く染み渡っていって。


   受けた愛情を返すように
   サルコシパラはその口付けに呼応するように
   誓いにも似た口付けをし続けるのだった。



   



   そうして永い永い逢瀬が終われば
   彼女がその場から立ち去るその時まで
   サルコシパラは微笑み続けていただろう。**





   途端、サルコシパラの背中から
   まるでその身を食い破るように

            大きな竜胆が咲いた。






   「ぐっ…ぁ…うあああっ…!」



   自分が自分でなくなっていくような
   恐怖を感じれば、頭の中はウユニとの
   思い出に満ち溢れていく。

   その度に背中の竜胆は羽化する蛹のごとく
   大きな成長を遂げいき、腕先や身体の節々には
   色とりどりの薔薇が咲き誇り。


        そして左目に咲いたのは、勿忘草だった。






   サルコシパラは血液のように
   花弁を身体から散らしながら
   丘の橋に生えていた木にもたれかかる。

   しかし花咲みが留まることはなく、
   やがてサルコシパラはその身体を
   自分から咲いた花々に包ませて

   遠くなる意識の中、蒼空を仰いだ。



【置】 サルコシパラ





   「ウユニさん。
    私は貴女に謝らなければなりません。

    きっとこれを読んでいるということは
    僕が今、貴女を哀しませているということ。

    何も言い訳はできません。」



(L0) 2022/08/27(Sat) 8:14:24
公開: 2022/08/27(Sat) 8:30:00

【置】 サルコシパラ





   「貴女から病気の事を聞かされた時から
    私はずっとこの道を考えていました。

    決して貴女がこれを望まないことも
    全てをわかった上で、僕は貴女の命を
    未来に繋ぐことを選ぶことにしたのです。」



(L1) 2022/08/27(Sat) 8:15:20
公開: 2022/08/27(Sat) 8:30:00

【置】 サルコシパラ





   「ウユニさん。
    貴女は僕の宝で、誇りだ。」
    


(L2) 2022/08/27(Sat) 8:16:07
公開: 2022/08/27(Sat) 8:30:00

【置】 サルコシパラ




   「だから叶うならどうか…
    今は生き延びてください。

    そうして好きなだけ寄り道をして
    好きなだけ生き抜いてみてください。

    また数十年後、貴女に会えることを楽しみに
    私は蒼空で貴女を見守っています。」
   


(L3) 2022/08/27(Sat) 8:20:06
公開: 2022/08/27(Sat) 8:30:00

【置】 サルコシパラ






   「私はこの魂が朽ち果てるその時まで
    貴女を生涯、愛しています。」




(L4) 2022/08/27(Sat) 8:20:53
公開: 2022/08/27(Sat) 8:30:00


   苦悩の日も、健やかなる日も
   蒼空はいつだって壮大で青い。

   蒼空を見上げたまま
   サルコシパラは小さく笑い独り呟くと
   そのまま意識を手放して。
   
   いつも被っていた仮面が
   滑り落ちるように地面に投げ出される。





   彼女が戻ってきた頃には
   そこにはサルコシパラの姿はなく
   あるのは木にもたれかかるように
   咲いた竜胆や薔薇と


            たった一輪の、勿忘草**





   目に映るのは、
   木にもたれかかるように咲いた竜胆や薔薇。
   最愛の人の姿は、そこには、なかった。

   貴方がいなくて、
   さっきはなかったはずの花が咲いている。
   その意味なんて、一つしかなくて。


 




「いやああああああっ!」



 



   縋るように駆け寄って何度見ても
   貴方の姿は、ない。
   足に力が入らなくなって
   がくり、とその場に座り込んでしまった。


   
   なんでなんでなんで、
   どうして、さっきはなにもさいてなかったのに
   
             どうして―――――。


 


  

   脳裏によみがえるのはさっきまでの貴方の姿。
   泣きじゃくる私を優しく撫でてくれて。
   私から初めて言葉で伝えた愛情を返すように
   誓うように、口づけを交わして―――――。

  

           
そっか、わたし、が……。
 


 




    
私が、貴方を殺したのね。



  



   貴方が私を思ってついた嘘は、
   私を救いはしなかった。


           生半可な言葉では語れない
           絶望へと、私を誘うだけで。


        



   自身の病が悪化したことを悟った時だって
   貴方に病が感染ったことを知った時だって
   確かに絶望を味わったはずなのに。

   絶望には底なんてない、と。
   私は、思い知ってしまう。


         
知りたくもなかった、そんなこと。


   

 

   貴方に向かって何を言ったのか、
   もう、わからなくなるくらいに
   何度もなんども言葉にならない音をこぼして
   涙を流し続けて。


   手に持ったままだった手紙のことを 
   ようやく思い出したときには
   もうずいぶん長い時間が流れていて。
   震える手で、中身を取り出した。


 



   綴られていたのは、
   貴方が静かに固めていた
覚悟

   私への、
想い。


   そして、今の私には、
   あまりに酷な願いだった。


 



   貴方を失った私は
   今、死にたくて死にたくて仕方ないのに。


   好きなだけ生き抜けと言われたって
   隣にあなたがいない日々を過ごすと考えただけで
   辛くて、辛くて、幸せなんて見いだせないのに。


   貴方の命を奪った罪悪感が
   この身を蝕んでいるのに、それでも
   耐えて生きろ、と貴方は言うの……?


   ぽたっ、と手紙が涙にぬれていく。
   濡れる度に文字が滲んで、
   それでもあふれる涙は止まらない。


  


   
   風に吹かれて、何かが転がるような音が
   微かに聞こえてそちらに目をやれば
   貴方がいつも付けていた仮面を見つけた。

   
   
「……どうして、って聞けなかった。」



   仮面を拾い上げて、
   泣き腫らして酷い顔を貴方から隠すように
   それを身に着けると、貴方の方を見て。

  



   たった一輪、咲いていた勿忘草を


                 ―――――手折った。


 




   
私を忘れないで。


         
貴方が遺した想いをこの手に。**



 



   そのあとの記憶はおぼろげで
   どう家に帰ったのかすら、曖昧だった。
   思い出そうとしても、思い出せない。

  
   貴方がいない家に戻って
   私が割ってしまった花瓶の破片を見て。
   貴方が薔薇を可愛がっていた姿を思い出せば
   また、涙があふれていく。
   この先ずっと、こんな思いを抱えていくなんて
   到底耐えられない。


   貴方の言葉に背いて、死んでしまおう、と。
   破片を手に取り、腕を切ろうとして―――――。


 




    
「―――――。」



 



   誰かの声を、聴いた気がした。
   貴方の声だと最初は思って、辺りを見て。

   勿論、貴方がいるはずもなく。
   幻聴だったのかと、がっかりした。


   でも、貴方に引き止められたような気がしたから。
   その日は気絶するように眠った。


  



   次の日も、その次の日も。
   私は何もする気力も起きなくて
   ただただ、死ぬ方法ばかり考えていた。


   
家にいれば、貴方との思い出ばかり蘇って

   
そのたびに何度も泣いて

   心の痛みを誤魔化すように、
   自分の身体を傷つけ続けた。


   何かを食べても味がしないと気づいて
   食事も疎かになっていって。

   
それでも私は死なないように、生きていた。


   
死ねなかった原因は二つ。

  
  



   一つ目は、貴方が遺した手紙。
   
W数十年後にW
の一言は
   今、死んでも貴方にあえないんじゃないか、
   私にそう思わせたし、

   私が貴方の宝だという一言は
   この命を投げ捨てるのは、
   貴方の宝を投げ捨てるのと同じだと、
   私に思わせたから。

   死のうと体に傷をつけても
   躊躇うような傷で終わったのはそのせい。


          今まで散々貴方の気持ちを
          蔑ろにしてきたから。
          罪滅ぼしにもならないけれど
          それでも、……。


  



   二つ目は……
   あの日にきいた声。
   誰の声か分からない、貴方に似た声。
   その声を、何度か聞いたから。

  
   どうしてかしら。
   誰か分からないはずなのに

   
おしい、と思うの。



   引き止められるように、
   
誰かに生かされるかのように、
私は生きて。

   痛みから目を背けたくて、こう思うようになった。

  

【人】 ウユニ



   
あぁ、私は……。


            
を、見ていたのね。


  
(0) 2022/08/27(Sat) 17:53:20

【人】 ウユニ



   家族に見捨てられた私を、優しく迎え入れて
   普通なら到底受け入れられない病を受け入れて
   私の事を、愛してくれる人と、過ごしていた。

   綺麗だ、と言ってくれたことも
   私の贈り物に喜んでくれたことも
   思い出をなぞるように湖で遊んだことも

   愛を誓いあったことさえも。
   すべて、ゆめだったの。


  
(1) 2022/08/27(Sat) 17:53:59

【人】 ウユニ




         
私の身に余るほどの幸せな、永い夢。

 
(2) 2022/08/27(Sat) 17:54:41

【人】 ウユニ




   いっそ忘れられたらいいのに、
   
手にした想い
のせいで、忘れることもかなわず
   夢をいつまでも忘れられなかった。


 
(3) 2022/08/27(Sat) 17:55:37

【人】 ウユニ



             ✽

             ✽

             ✽
 

  
 
(4) 2022/08/27(Sat) 18:00:45

【人】 ウユニ



    『―――さん。
     おかあさん……?どうしたの?』

  
(5) 2022/08/27(Sat) 18:02:04

【人】 ウユニ



   
―――――また、哀しい夢を見ていた気がする。


   呼ばれて、ふと、現へ意識が引き戻された。
   心配そうにこちらを見つめている子に
   私は優しく笑いかけて。

  
(6) 2022/08/27(Sat) 18:03:01

【人】 ウユニ



    「なんでもないの。
     ……ごめんね、ヴィオラ。
     起こしてしまったかしら。」
   

   まだ、陽が高くない時間、
   幼子が起きるには随分早かったから、
   まだ寝ていていいのよ、と頭をなでた。

  
(7) 2022/08/27(Sat) 18:03:56

【人】 ウユニ



    『ううん。
     もう、ねむくなくなっちゃった。

     おかあさんは……?
     ねてるときのおかあさん、
     ずっと、くるしそうだった。
     だいじょうぶ……?』

 
(8) 2022/08/27(Sat) 18:04:23

【人】 ウユニ



   眉下げて、此方を見つめる目元は
   愛しいあの人に、似ている。
 
   この子は……、ヴィオラは、
   最愛の人の忘れ形見。
   だから似ていて当然なのに、
   数年見続けてもまだ、はっとしてしまう。

   今でも、この子の存在は夢じゃないのか、と
   ヴィオラを見ては
   驚いてしまうことがあるくらいだから
   身籠っていると分かった当時は、
   本当に驚愕したし
   暫くは信じられなかった。


  
(9) 2022/08/27(Sat) 18:05:10

【人】 ウユニ



   でも、我が子の存在を知れば
   死ぬわけにも、この身を蔑ろにするわけにも
   いかなくなってしまって。
   裁縫で生計を立てる術はあったから。
   誰にも頼ることなく、私は子どもを産んだ。
 

  
(10) 2022/08/27(Sat) 18:05:41

【人】 ウユニ



   見とれていたせいで、
   咄嗟に言葉が出てこなくて。
   
大丈夫よ、
と続けようとすれば
   私の言葉にかぶせるように、
   
 
(11) 2022/08/27(Sat) 18:06:26

【人】 ウユニ



    『あのね、おかあさん。

             私は……。』

  
(12) 2022/08/27(Sat) 18:06:51

【人】 ウユニ




         
そばにいるよ



 
(13) 2022/08/27(Sat) 18:07:53

【人】 ウユニ



   優しく響く声が、
   あの時の声と、重なった気がして。>>D73>>D20


   それを聞いた瞬間、
   私の目からは、一筋の涙が零れ落ちた。
   
貴方だったのね。あの時私を引き止めたのは。


   ヴィオラが慌ててこちらを覗き込んで
   小さな手で頬を伝う涙を拭おうとする、
   その手を包み込んで、私は微笑った。

  
(14) 2022/08/27(Sat) 18:08:50

【人】 ウユニ



    「ありがとう。
     嬉しくてつい、泣いてしまったみたい。
     これは悲しいからじゃないのよ。

     だから、お母さんは、大丈夫。」


 
(15) 2022/08/27(Sat) 18:10:13

【人】 ウユニ



    「ねぇ、ヴィオラ。
     もう眠くないなら、
     朝ご飯にしましょうか。

     今日は、素敵な場所へ出かけましょう。」

  
(16) 2022/08/27(Sat) 18:10:32

【人】 ウユニ



   なおも心配そうなヴィオラの気をそらすように
   朝食を作って、食べさせて。

   視力を失った左目を隠すように眼帯をして、
   机に置いてあった仮面を一度、撫でた。
   ヴィオラが生まれてからは、付けていない仮面。
   それは埃一つ被らず綺麗なまま、置いてあった。


   身支度を済ませれば、
   ヴィオラの手を引いて、家を出る。

  
(17) 2022/08/27(Sat) 18:12:49

【人】 ウユニ



   目指すのは、あの日以来訪れていなかった丘。
   行けば、あまりにつらい出来事を
   思い出してしまいそうだったから、避けていた。

  
   久々に来た場所は、
   
花が増えていること以外は

   何も変わっていなかった。 
   吹き抜ける風の心地よさも、景色も。

 
(18) 2022/08/27(Sat) 18:17:56

【人】 ウユニ

   

    「ここはね。
     貴女のお父さんと出会った場所なの。

     
……久しぶりね。」


   
(19) 2022/08/27(Sat) 18:18:20

【人】 ウユニ



    
最後は語り掛けるように呟くと、

    蒼空を見上げて、
    天国そらにいる貴方へ笑いかける。
    つられた様にヴィオラも
    天を見上げて、笑って。

    つながれた小さな手の温もりを感じながら、
    私は密かに誓った。

 
(20) 2022/08/27(Sat) 18:19:35

【人】 ウユニ



    足元に咲く
竜胆

    母娘を優しく見守っていた。**

 
(21) 2022/08/27(Sat) 18:21:19


   幾度も季節は巡って。

   一組の男女が夫婦になった日。
   祝福の鐘の音が鳴り響く。

   
   それを嬉しそうに、
眩しそうに

   見つめていた隻眼の女性がいた。

   彼女は柔らかく微笑むと、
   
夫婦に気づかれないように

   そっとその場を後にした。

  



   女性が向かったのは、街を見下ろせる丘。
   来るまでに着替えて来たのか、
   白いドレスを身にまとって
   白い薔薇の花束を手にした彼女は
   周りに花々が咲き誇る
   木の根元に
寄り添うように
腰を下ろして。

  



    「この身も、魂も。
     全て朽ち果てるその時まで……

        私は、貴方を愛しているわ。」


   



       誓いを風へと乗せた女性は、
            眠るように、目を閉じた。