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人狼物語 三日月国


124 【身内P村】二十四節気の灯守り【R15RP村】

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視点:


 ─おもいで─


[ 私は生まれた時から、白銀と萩、二色の髪色でした。
 白銀と萩。一色だけでも縁起が良いのに二色が混在とは
 この子は祝福を受けた子だ、と
 親族が沸き立ったと聞いています。

 とはいえ、生まれ育った家は決して裕福とは言えず、
 有名高名な学校に通うことも無い普通の子供でした。
 珍しいツートンの髪をからかわれたり、引っ張られたり
 ──つまり、いじめられていたのです。

 過保護な家族にはいつも元気を振りまいて
 現実を語ることもしなかったのですが
 内面は既にぼろぼろで逃げ出したかったのです。

 あれは10歳の時。
 学校に行きたくなくて、勇気を出してサボると決意。
 普段と違う道をずんずんと歩き始め、
 迷子になるのに時間はかかりませんでした。
 
 周囲をぐるぐると見渡し、何処に行けばいいのだろうと
 不安になり始めたその時。
 背の高い男の人が、私のことをじっと見ていたのです。
 しかしこの年齢で他人からの見世物を見る目、奇異の目には
 すっかり慣れてしまっていたので
 いつものことだろうと通り過ぎようとした時。]
 

 

 
『君、どうだ? 俺の蛍にならないか?』

 
 

  
――回想:菴とのひと時


[ 灯守りにも 闘うものはある

 自分 家系 環境――灯守りの数だけあれど
 綺麗事だけではどうしようもない翳が 闇が誰しにもある。

 普段 如何に溌溂としている者であろうと
 癖のように笑みを浮かべる者であろうと
 一人の人間となんら変わりない感情を例外なく抱えている。

 己が闘うもののあるように 小雪――菴もまた。

 彼の内情や心といったものに
 己がどれだけ踏み込んでいたかは
 結局の所、彼しか論じれぬものでしかなくとも ]

 
[ 見知らぬお兄さんから突然声を掛けられたのです。
(後で聞いた話によると、この声掛けは
 付き合いの長い飛心様の影響もあったとか)

 まだ10歳の私はあまりの唐突さに怖くなり、
 立ち去ろうとしたのですが]


 
『大丈夫大丈夫、怪しいものじゃないから。
  何ならお茶でも飲んでいくかい?
  立秋域産の美味しい茶に大雪域産のゆべしに
  今なら大寒域産の雪だるまサブレもあるぞ。』



[ これは普通にナンパ……
 いえナンパどころか誘拐の手口では???
 学校で習った、ついて行ってはいけない手口の
 代表例だと思うのです。

 それでも道に迷ったのは事実であり、
 現実から逃げ出したかったのと、
 この人が信頼できる気がしたので
 言われるまま、ついていってしまったのです。

 
(後日「あれはナンパではないですか?」と尋ねたところ
 「これくらい普通だ」と仰られておりました。)


 歩く事数分、立派なお屋敷に着いてから
 漸く、この男の人が灯守り様だと知ったのです。]
 

 
[ 私はお世辞にも立派とは言えない家に住んでいたのもあり、
 通された立派なお屋敷の玄関で、廊下で、庭で、部屋で
 目線が四方八方忙しなく動きます。

 先程言われた「蛍にならないか?」との声掛け。

 小さい頃から言われていた縁起の良い髪色。
 改めて紫明様から蛍───楓蔦黄への就任要請がありました。

 子供の私は、これは家族が言ってたことなのでは、と
 心が躍りました。

 蛍になればこのお屋敷に住むことになり、
 きっと家族も喜ぶ。嫌な学校にも行かなくて良い。 

 家族と離れて過ごすことになるのは、寂しくもありますが
 皆が喜んでくれるなら、と深く考えず頷きました。 

  この後、紫明様に家まで送っていただけたので
  家族といえば卒倒もの。両親も祖父母も
  一度も見たことのないような表情をしていました。
  奇声を上げた、まではいかなかったですが
  言葉が全く出なくなったのは事実だったようです。

 紫明様が事情を説明すると、家族も諸手を挙げて大賛成。
 そして手続き等が完了した数か月後、私は楓蔦黄となり、
 紫明様の御側に仕えることになったのです。]*
 

[ ――唯。

 己にとっては繋がりの深い相手だった
 灯守りとしてではなく 一人の人間として
 繋がりを持てたような気がした存在の一人だった。

 己より近く強く深い繋がりを持つ存在達が居て
 彼を支える手も 託す相手が居ることもわかりきっていたけれど

 ある日届いた 眞澄からの文
 菴への"鍵"を開いたのはその時。

 恐らく既に灯守りでは無くなっている彼に
 一方的に鍵を開けた心を論じるつもりはないが

 …雪塗れの雪国の上 普通に解り辛い場所にある
 開けていたとて気付かれない可能性はそれなりに ]

[ 遠すぎれば難しいのは道理
 けれど近いが故に難しいことがあり
 親しすぎるが故に話せないこともある。

 もし、己が彼にできることがあるのなら
 その距離からだろうとも 思うが故に

 話したくないことは話さず
 話したいことがあれば話せるよう
 友と過ごすことにした温泉旅行の如きひととき。

 途中、フェイを呼ぼうと言おうとして
 菴が口にしないのなら それは機ではないと
 口を閉ざし―――…何処かへ旅だった ]

[ 実年齢はともかくとして 身体は幼女
 普段酒を嗜むことは少ないながらに
 彼とのひととき それなりの酒を口にした。 ]


  思えば あの時からでしたね
  あなたとたくさんの声を交わすようになったのは

  あなたの天才的発想がなければ
  ひょっとすれば 今は無かったかもしれません

  …改めて 感謝をしなければなりませんね


[ 微笑んで また、ちびりと酒に手を出して ]


  あなたは 見ているだけで楽しい人ですけど
  フェイとやんやしているのを見るのは
  もっと楽しくて、好きでした

  友達―――親友というのは
  あなた達のようなことを言うのだろうと
  少し、うらやましく思った時がありました。

[ そんなことも、口にできる無礼講だった ]

[ 妹について 最後まで多くを語る事は無く
 けれど、普段は聴く事の無い声で触れた時

 菴から一度酒に視線を移し
 やがて盃を机の上に置けば 立ち上がった ]


    ………。


[ 立てばこそ見下ろせる存在。
 座る菴の頭に手をのせれば のんびりと 髪を梳くように。

 どうせ、幼女の無力に等しい力だ
 拒もうと思えば其れはあまりにも容易い現実。
 故に、拒まれなければひとしきりそうする心算で ]



   …菴が手を尽くしたのなら
    それはきっと 最良の盤面です


[ 眞澄から届いた手紙、其の去り方を思えばこそ。
 「お役目、お疲れ様でした」と 小雪の灯守りに労いを ]

[ 旅立ちの時。
 いつもと変わらぬやりとりの結びに
 少しばかりの願いを込めて 付け加えたもの ]


  菴。
  世界を回って 心行くまで堪能したら
  また、ここで飲み明かしましょう

  フェイも誘って 露天宴会なんてしながら
  あなたから見た世界を 聴いてみたいです


[ 微笑み一つ、手を振って見送った ] *

―― とある“手紙” ――



『 5月×日 天気:晴れ 気温:恐らく少し日差しが暑い

  この地は水田が広がっている。
  立夏の季節であるから田植えの終えた水田が見受けられる。
  水の張られた田が、青空を映している。
  その中に立てば、美しいと思うのかもしれない。

  海では初鰹の季節だ。
  船が大物を運んできている。
  そろそろ、海に行っても心地の良い季節かもしれない。

  ……                        』


[ 『エアリス』の文の内容は様々だけれど。
 気紛れに“返事”を書いた時の手紙には、此方の様子を聞く言葉が書かれていたのかもしれない。
 ……はっきりとは、覚えていない。あくまで気紛れでしかなく、相手の事を思って書く手紙、とは言い辛いものであったのだから。
 私は文学者ではないから、飾り気もない描写。

 ……それの何が面白かったのか、それからも“ななし”宛に『エアリス』からの手紙は届いたし、私も返事を書く頻度は増えた。 ]

 
[ 『大寒の灯守り』である彼女。
 同じ、と言っていいかは分からないが、双方領域からあまり出る事はなく。
 統治域も離れているし、灯守りとしての関わりは、そう多くはなかった。

 但、この手紙は私と彼女を繋いでくれていた。
 私は『エアリス』が“誰”かという事は知っていたけれど……“灯守り”とやりとりをしているというよりは、月に語りかけているような、そんな心地であったけれど。
 そんな、不思議な感覚を覚える関係だと思っていた。 ]

 

 
[ ある日の『エアリス』からの手紙。
 そこに綴られた言葉に、私は動きを止めた。
 今の私の在り方の本質を突くような言葉。
 返事に何を書くべきかは迷い、暫く白い紙の前で一文字も書けなかった。 ]
 

 

 『 私は、世界が嫌いです 』


[ 
ユラ
弾き出した
世界、なんて。
 私はもう、世界というものを
せない。 ]

 

[ 素直に質問の答えを書いたのは、別段隠す事でもない、と思っていたからというのもあるけれど、
 人に伝えるという事が欠けている私がきちんと答えを返せたのは、これが手紙という媒体であったから、というのもあるだろう。
 私は、文字でなら、僅かに雄弁であるから。


 但、深い理由は書かずに、質問の答えとしてシンプルなそれだけの文。
 どうして彼女は私にそれを尋ねたのか。
 此方の事を見透かしているのだろうか、とも思ったけれど、もうひとつ思うところがある。 ]


 『 貴方も、世界が嫌いなのですか? 』


[ 自分を傍観者に置いてしまいがちの私が、こうして誰かに質問をするのは、とても珍しい事だった。
 大寒の領域、それから統治域は雪の世界。
 それを知ってはいるけれど、彼女の内面まで、“見る”事は出来ないから、彼女がどう思っているのか、ということは、私は知らなかった。

 さて、返事らしい返事はあったかどうか。 ]

 
『 私は、友人というものが何であるのか分かりません
  だから、どうしたら良いのか、分からないのです

  私は、人と話すのも苦手です
  ですので、貴方の望むようにはお話し出来ないと思います

  ただ、貴方が貴方の事を話してくれるなら、私はそれを聞きたいと思います
  貴方が私の事を聞きたいと思うならば、何れ話せる日が来るのかもしれません

  それは友達と言えるのでしょうか

  また、貴方と顔を合わせて話したいと、私は思っています 』
 

── 天乃との昔の話 ──



  こんな話、殿方にすべきではないのでしょうけれど……


[ 胡散臭く恥じらってみせたのは
  そんな前置きをした後の話題のためだ。
  生憎恥じらいなんてものは生娘であった頃から
  一切持ち合わせてはいなかったけれど。

  はじめての時だってご苦労なことだなと思うだけだった。
  可愛げの欠片もない小娘相手に無理に興奮して見せ
  媚まで売らなければならないことに。
 『芒種』という名の台座でいるだけのわたしよりも
  きっと苦労も多いことだろうと気の毒に思っている間に
  なにもかも終わっていた。 ]


  無理に結婚を推し進められない立ち位置になったせいか
  毎晩ね、寝室に……
  代わる代わるおとこのひとがいるのよね。

  うちはほら、先代までは『女に灯守りは継がせられない』
  なんてちょっと偏った風習だったくらいで……
  女は子供を産むもの、っていう考え方がね、
  少し強くいひとが、まだおおくて。

 『後継にならない子を産ませたい』のか
 『子供を産ませることで引退させたい』のか
  それとも単純に『気に入りを見つけさせたい』のか……
  目的はよくわからないのだけれど、
  なんであれお断りする理由がなくて困っているの。

  わたしが理由もなく追い返せばきっと
  役目を全うできなかったお叱りを受けてしまうでしょう?
  誰か一人を気に入るのは無理でも
  せめて任された仕事はさせてあげたいのだけれど

  いい加減、少し疲れてしまって……


[ 殿方に、以前にほぼ初対面の相手に
  ぺらぺら暴露する話でもない。
  毎夜代わる代わる違う男に黙って抱かれていますなんて話。

  いくら世間知らずとて、ちょっと異常なことはわかる。
  けれど、中央勤めのこの男なら家の事情を
  多少理解してくれそうな気がしたから。 ]

[ ……なんて評価を興味もない彼に下したわけではない。
  回りくどく偽るよりは本当の話をした方が早い、と
  単純に思っただけの話だった。
  惚れたふりをして努力して両思いになるのも
  適度に距離を取ってその関係を維持することもなにもかも
  心底、とにかく、面倒だったので。

  この場合恥ずべきはそんなことを
  強要しているまわりであって
  自分自身に恥じらいもないので、まぁいいか、と。

  一方的な会話は言葉を挟む隙を与えずに続く。
  きっと断ろうと開きかけた口を
  ぱんと手を打って封じ、黙って訊けとばかりの
  穏やかなのに、圧のある、にっこりとした微笑みと共に ]


  それでね。思ったの。
  想い人ができたからもう出来ないと言ってしまえば
  角が立たずにお断りできるかしら、って。

  わたしが一方的に想いをよせたところで
  お相手の方にその気がないことが知られてしまっては
  諦めさせられて終わるでしょうけれど……

  ……つまり、ないのなら、
  あることにしてしまえばいいでしょう?


[ 男を誑し込むやりかたで視線を奪って、妖艶に微笑んだ。
  そんな『教育』だけは、当時熱心にされていたから
  多分そんなに悪くはない出来だったと思うのだけれど
  どうにも怯えられたような気はする。
  なにがいけなかったのかは未だにわからない。]


  あなたにいいひとが出来るまでで構わないの。
  口実になってくださらない?

  わたし、とっても困っているの。
  このままだと追い詰められて……
  なにか、あなたたちが困るようなことも
  してしまうかもしれないわ。


[ 手を伸ばして、口付けでも強請るみたいに
  ひやりと冷え切ったゆびさきが、
  引き攣ったそっと頬に触れた。
  心底嫌そうなその顔が新鮮で、無意識に口角が緩んだ。* ]

[立秋が、一度号を退いたにも関わらず、
再び灯守りになった理由。

それは、後継者に選んだ蛍が自殺未遂を起こしたからである。]

[現在の処暑が灯守りに就いてから2,3年経った頃か。
魂の負荷を感じ始めていた立秋は引退を宣言した。

後任に選ばれたのは、当時の蛍であった涼風至(すずかぜいたる)。当時は普通に人間の蛍が三人居たが、涼風至は一番年若く、蛍になってからの期間も最も短い娘だった。

灯守りの指名は揉めるものだということを結構見聞きしていたから
(特に処暑で起きた事件は記憶に新しい)
、蛍たちとよく話し合って、納得した上で決めた。

彼女は控えめで真面目な性格で、他人の喜び悲しみに寄り添える娘だった。玉に瑕なのは、有能であるのに自分に自信がなかったことか。その為、当初は辞退しようともしていた。

能力はあるのだし、灯守りになることで自信をつけてもらいたかったのもあり、他の蛍たちも支えてくれるから大丈夫だよ、と立秋は涼風至を励まし、承諾してもらったのだ。]

[こうして立秋は引き継がれ、先任立秋ことカリーユは「すずちゃんをよろしくね!」と言い残して引退していった。

しかし、致命的な見落としが一つあったことには気づいていなかった。それが、涼風至の母親の存在だった。]

[彼女が自分に自信が持てない理由が、幼少期から続く母親からの否定にあった。

顔立ちの整っていた己に似ず、別れた夫によく似た娘を、母親は可愛いと思えなかったらしい。最低限の衣食住は与えたものの、容姿をなじり、苛立ちがあれば容赦なくぶつけた。

彼女は、何をしても褒められた記憶がなかったらしい。

たまたま見回りをしていた立秋に『何でも良いのでそばで働かせてください!』と押しかけたのも、そんな生活から逃げだしたかったかららしかった。

恥だと思っていたのか、彼女は家庭の事情を周囲に打ち明けておらず、これらのことを立秋が知ったのはずっと後のことだ。]

[新しく立秋となった涼風至。前任の立秋とは違い、領域から出ることはあまりなかった。時々出かける時は、正体がばれぬように姿を変えてこっそりと。

交代が起こった際というものは、それなりにやっていた前任者はある程度美化されて、現任者は非難されるものだ。しかも本人のいないところでは尚更。]

『前の立秋様はよく様子を見に来てくれて、話を聞いてくれたんだけどねえ』
『立秋様の母親って知ってる?親だってことで偉そうにしたり物を要求したりしてくるんだよ。あんな人に育てられたなんて、不安しかないよ』
『前の立秋様にはそんな話は全くなかったらしいのに。そうそう、他にもね……』

[前任と比較してはあれがなってない、これがなってない。当事者でないから好き放題に言えるのだ。しかし、耳に届くそれらの非難を無視出来るほど、新しい立秋は図太くもなかった。

やっぱり、立秋様のようには出来ない。

そう感じながらも、彼女は役目を果たそうと努力を続けた。母親については他の人に迷惑をかけぬよう、一人でも生活出来るように仕送りをした。]

[やがて数年が経ち、徐々に評価もされるようになった頃。

彼女の母親が危篤だという報せが来た。
不摂生が祟って病気になっていたらしい。

立秋に就いてからは意識して会わないようにしていたが、これで最期かもしれない。やはり母親ではあるので、最後くらいは……と、彼女は会いに行ったのだ。]


『親不孝者!』



[出会い頭の第一声がそれだった。]

[母親は続けて、灯守りなのだから病気を治せ、それくらい出来るだろう、出来ない?この役立たず、私がこんなに苦しい目にあっているのに!寿命を延ばせ、何とかしろ、灯りを復活させろと無茶苦茶な要求と罵声を浴びせた。

彼女が何年もかけて必死で積み上げていた物を否定し、ほんの数分であっさりと崩して踏みにじる。結局、興奮しすぎて気絶するように眠った母親を置いて、彼女はふらふらと家を出た。

……育てて貰った感謝は伝えよう。
もしかしたら、最期くらいは親子らしい会話が出来るかもしれない。

そんな甘い期待は打ち砕かれた。]

[領域に戻った彼女は、蛍たちの心配を横目に、自室に閉じこもっていた。ぼんやりしながら窓の外を眺めていれば、死者の魂が集まっているのが見えた。


その中に、母親の魂があった。]

……ああ、母がそこにいる。
結局どうすることも出来なかった役立たず。
生き返らせなきゃ、また役立たずと言われてしまう。
(やめて、睨まないで、お母さん)

でも、灯守りにそんなことは出来ない。
導きの灯に送ってあげなきゃ、でも送ったら役立たずになってしまう?

灯りをお母さんに戻さなきゃ、どうやるんだっけ、
違う送るんだ、……どうやって送ってたっけ。
私は灯守りで、灯守りは新しい灯りを送らなきゃ、
でもどうやればいいの?

だめだ、私じゃだめだ。私みたいな出来損ないじゃだめだ、皆本当は立秋様に戻ってほしいって思っているの。戻さなきゃ、返さなきゃ。
(助けて、助けてください、立秋さま、)

立秋様に、お返ししなきゃ、証をお返ししなきゃ、
私じゃだめ、お母さんを早く送らなきゃ、だから早く返さなきゃ

早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く


    がしゃん


       
          
ぱ り ん 
 
                    
                     ]

[大きな音に驚いて駆けつけた蛍たちが見たものは、自分の灯りの容れ物を叩きつけている娘の姿。幸い、容れ物が頑丈だったから一部が壊れただけで済んだとのことだった。]

『……衝動的に、だったようです』

『私では駄目だ、私は役立たずだから、と呟かれておりました。恐らく、自分の灯りを消すことで貴方に証を返そうとしたのではないかと思われます。』

[それならば、何も死なずとも、自分を指名すれば良かったのではないか。そう問うた老人に対し、蛍である彼は、『まともな状態ではありませんでした。一刻も早く返そうとしていたようです。』と首を振る。

そもそも、そんなことをしたって証が先任の所に戻るとは限らないのだから、やはりまともではなかったのだろう。]

『あなた以外に証を渡すつもりもないようなのです。
どちらにしろ、あの状態では灯守りであることは不可能だと判断致しました。』

『……不躾なお願いなのは承知しております。
縁様。

もう一度、灯守りになって頂けませんか。
立秋様を、助けて頂けませんか。
……どうか、お願いします。』


[話を黙って聞いていた老人は、様々な思いを抱けど、言葉にする代わりに大きな息を吐いた。そして。

十年足らずで、縁は灯守りとして戻ることとなった。**]

―戻ってきた立秋―

えへへ、久しぶり。
戻ってきちゃった。

[他の灯守りと会うと、立秋はそんな風に、昔と変わらずに挨拶をした。

先の立秋が起こしたことについては、公には話していない。
尋ねられれば、「一身上の都合で難しくなっちゃったみたいで」と軽く話すに留めただろう。

中央の職員の一部への報せと、書類には残したが、彼女はまだ生きている。彼女に関する噂話が耳に入れば、また傷つくだろうから、職員たちにも他言無用をお願いした。]

ね、小満。
あの子ともしも会うことがあって。
もしも君の能力が必要と判断したら……使ってあげてくれないかな。

ボクには、会わす顔がないって言ってるらしいから。

[彼女はまだ静養が必要で、立秋域で暮らしていたが、そのうちに出ていくだろうことは予想できた。詳細は語らなかったが、小満だけには頼んだのだ。

ただ、頼むのは彼女のことだけ。
自分の中の苦い思いについては飲み下したまま。

いつも年上の灯守りに甘えていた立秋は、この件に対しては誰にも甘えようとはしなかった。**]

[戻ってきた立秋の、それまでの経緯については語られていない。
 彼は笑っていて、あの立秋がどうなって再び座に付いたのか、傍目から悟れるような素振りは見せなかった。
 けれど、彼は言った。『煌天』の力を使ってほしいと。

 会うことがあったら、と言われたが、それから幾日と立たないうちに立秋域に足を伸ばす。
 彼女への面会は止められたか、それとも側付きが蛍なら小満の顔を覚えていたか。
 『立秋に頼まれた』と告げれば、その門は開いた。]

こんにちは。
ご様子伺いに来たよ。

[そう伝えれば、元灯守りはひどく狼狽したように縮こまってしまった。こちらは現役の灯守り、立秋でなくとも立場を捨てた責任などを感じてしまうのだろう。
 とすれど、こちらの笑みは耐えることなく。]

ああ、そんな怯えないで。
取って喰おうなんてつもりも、君を叱りに来たようなつもりもないんだ。
ただね、私はすこーしばかり、お人好しだからさ。
君がもし泣いているなら、ほっとけないと思ったんだよね。

[涙を流しては、いなかった。
 けれど心が泣いているのは、灯りを見ればよくわかる。
 そして、このままではきっと、何があったか語りはしないだろうことも。]

いいんだ、そこに座っておいで。
構わなくていい。私は、好きにしているから。

[その言葉通り、勝手に椅子にかけてのんびりと時間を過ごす。
 頭の中は、さてどうしようかとやり方を巡らせていたけれど。
 まあ手は必要なんだろうなと思いつつ、どう切り出したものか。
 また勝手に覗いてしまってもよいのだけれど、と考えていたところに、お願いします、とか細い声がした。]

……ああ、そうか。
君は知ってるよね。

[彼女も、灯守りだったのだから。
 他の灯守りがどんな力を持っているのか知っている。
 まさか自主的に言われるとは思っていなかったけれど。]

いいよ。
小満さまの"よしよし"は、よーく効くんだ。
大丈夫。大切な思い出は、ちゃーんと残るよ。
責任感がないだなんて、思わなくていい。

[そっと、腕の中に彼女を呼び込んだ。
 そうする必要はないのだけれど、人の温度というのはどんな能力よりも心を癒やすから。
 細い背に腕を回して、優しく抱きとめる。]

――うん、苦しかったね、つらかった。
それで傷ついてしまった事自体、悲しかったね。

[母親に詰られて、そんなはずじゃなかったと思ったろう。そんなつもりじゃなかったと。
 母の言葉がショックで、自分の内側からぼろぼろに崩されて、すべてが壊れていく。
 それは如何ほどの苦痛だろう。実感としてわかってやれるなどと、気軽に言えやしないほどの悲しみだ。]

[静かに背を撫ぜながら、記憶の核を探して融かす。
 あの日のことは忘れてしまえばいい。灯守りの号は譲られて、母は亡くなって。君はもうひとりの自由な女性でしかないのだから。]

うん、大丈夫だよ。
気にせず、泣いてしまいなさい。

それがね、君の中から苦しいを一緒に流してくれるんだから。
いい子、いい子。

[腕の中の女性が、細い声を漏らしながら胸元を濡らす。
 押し止めていた栓を抜いてやれたような安心感があった。
 いい子、なんてわざとらしく言えば、微かに肩が震えた気配。
 笑ってくれたならいいのだけれど、あいにく表情は腕の中で、伺うことはできない。
 代わりにずっと、私だけでも笑顔を絶やさなかった*]



[彼女が落ち着くまでは、それからしばらくかかったけれど。
 きっと立秋の領域を出るまで、いくらもかかるまい*]

 

ーー先代の  ーー
[煩いだけの色なんざ、隠し通してしまえばいい。
虹が始めて見れる頃まで、見えないままでいい。
翳も闇も、闘っていたことすらも。
全てを隠しきらずとも、せめてあの子に隠したままがいい。

あの子の記憶に残るのは、
“ 優秀だけど、どうしようもないサボり魔 ”の兄でいい。
どうせ背景を知ったら、背負い込むだろうから。



は隠れて見えず
  
北風
は枯葉を払い
    
が始めて黄ばむ頃


長い長い冬の入り始めた頃。
すべてが鮮やかさを失くす頃。
その季節の号持ちが、煩い色を隠せないでどうするか。

それが僕のーーーー。]

[……ねぇ。]

 



「いやぁ、繋がりってどこでどう繋がるかわからないもんだよねぇ。」


[幼女に酒を飲ませる姿を他に見られたら、手が後ろに回りそうである
まあ誰もいないからいいんだけどね!]


「まさかお風呂作ろー、おー!ってノリで繋がって、
 ここまで深い仲になるとは思わなかったよ。」


[だいぶ酔いが回っているらしく、ケラケラ笑う。
感謝なんてされる謂れはないが、酔っているせいでいつもより(1)1d10割増しで調子に乗ってるので、

「まあ僕天才なんでー☆」

などと返す以外の思考はなかった。無礼講なんで。]
 



「んー?」


[酔った頭でもなんか言ってるな? というのはわかった
しばらく黙って見つめて、数秒後。
合点がいったようにパチン、と指を鳴らした。]


「ああ、そういえば呼んだことなかったっけ。」


[いつぞやのゲス顔もかくやという、にやりとした悪どい笑みを浮かべた。
ーー何とも思ってない奴に会いに来る程、情が深い奴だと思った?]
 




「見ているのが好きだなんて水臭いじゃないか。
 ねぇ、親友・・?」



[相手がどう思ってるかなんて知らないね。
何せ今は無礼講なんで!]
 

 
[兎も角、そんな調子で酔いが眠気に変わり始めた頃。
ポツリと溢れた言葉に返すよう、頭を撫でられた

初めての感触に少しだけ戸惑った。
初めての感覚に不安だが、何か込み上げるものがあって。
]



「……不意打ちでそういう事やってくるの、ずるいと思うんだぁ。」


[
込み上げてくるものを嚥下して、
拗ねるように文句を言った。
真っ直ぐな労いの言葉が来るとは思ってなかったもんで。
]
 

 
[旅立ちの日に付け加えられた言葉には、もうその気になりました。]


「ちゃんと戻ってくるから準備よろしく☆」


[そんな軽い言葉で別れた。]
 

ーそれからー()

[数年後、屋敷に忍び込んだボクはあっさりと見つかって捕まり、当時の夏至の前へと突き出された。]

 『……お前は俺の領域の……あの名家の後継じゃねえか。
何でわざわざ侵入なんかしてきた?親御さんが心配すンだろーが。』

[先代夏至。ボクと違って、太陽のように熱く、そして暖かい人だった。だって部下がとっ捕まえた侵入者に対しての一言目が親への心配だよ?とってもびっくりしたよね。]

 …要件は一つだ夏至様。ボクをアナタの弟子にして欲しい!

[とっ捕まえられたとはいえ、縄で捕縛された程度で手荒には扱われなかった。直に見て思う、この人の偉大さ、輝きを。
その輝きをボクが継承したかった。


カゴの中のトリを、辞めたかった]

[それを聞いた夏至様は大笑いして、ボクの弟子入りを許可してくれた。勿論親には夏至様自ら説明しに行ってくれた。

夏至様に言われては流石のボクの親だって反対はできない。ボクは絶縁を言い渡されたけど。そんなのどうだっていい。ボクは次代の夏至を襲名して

カゴの中から出るんだ。そしてあの娘と……萩と、約束したんだ。

ボクが夏至の名を継いだ時は、蛍になってもらうために、迎えに行くって。*]

 
[ 俺の何がいけなかったのか


     愛
していたのに


           忘れたいと何度願ったか。   ]



 「……寒い、なぁ」


[ 他の人がどれだけ側にいてくれても
  他の女性がどれだけ真剣に自分を思ってくれても

  手を伸ばそうとした瞬間吐く。


         ──── 俺は、捨てられた



   その感情ばかりがぐるぐる回る。
   己の世界は雪に閉ざされたまま。 ]

 

 
[帰ってきてくれないか。せめて顔を見せに来てくれないか。
 何度もわずかな希望に縋って長い年月そのままの姿で灯守りを続けた。
 気づいたら100年以上をゆうに越えていたことには自分で吃驚した。
 新しい出会いや、関り。時間で大分傷は癒えた。

 それでも、心はどこか あの時のまま。


 まだ多分、灯守りを続けることも出来ただろう。
 融解の能力の子がいた、という噂は出た時すぐに消えて
 その時俺は特別真剣に追いかけなかった。

 俺がその子を見つけることにしたのは
 閉じ込められている子がいる、という情報を手にしたからだった。
 人の口に戸はたてれない。どれだけ親が隠そうと情報は漏れるものだ。
 親に恵まれなかった俺は不憫な子供を放置しないと決めていた。だから調べて能力が原因と知った。


 引き取る口実にいいと思った。  ]

 

 
[最初はそんなだから、建前上後継と言っていたが彼女が一人立ち出来そうになったら解放してやるつもりだった。

 でも、ご飯を食べて泣いた姿。
 融解能力をきちんと使って堂々と立っていた姿
 思い出一つ一つを重ねていくうちに、情が沸いた。

 手放せないまま相手は雨水になる決意をつけてくれた
 俺ももう、人生を閉じて十分なだけの時間を過ごした。だからもういいと思った。

 生を長引かせたいと思わなかった。  
 終わる時は終わる。それでよかった。  


 あぁ、でも。
 自分が死んだ後、雨水になったこの子はどうなるのか。それが気がかりだった。
 蛍を自分が取らなかったからあの子に蛍はいない。自分がいなくなった時、寄り添ってくれるだけの存在を得れるだろうか。

 それだけがただ、心配で。]

 

 
[ 筆をとる事にした。
  俺には出来なかった、
  全部拒絶したまま終わらせてしまった事。


  この子まで自分と同じ道を歩く事はない。
  花雨の母親からの手紙を、そっと開いた──── ]**

 

― ―


  [  おてがみを出してから程なくして、
     そのお返事は返ってきました。  ]


     あらあら。
     ならばその方は大寒域には来られませんね。


   [  屋敷には誰もいません。
      だからわたしは、つめたいゆかのうえ。
      ころりと転がりぼんやり天井に向かって
      手を伸ばしました。

      黒い髪は床の上にひろがります。
      お行儀が悪くたって、わたししかいない。  ]
    
     



  先代様をころしたのは
  ほんとうはわたし。
  

  これはかわいらしいひみつでしょうか? 

  
  淋しいひとでした。
  かなしいひとでした。

  あなたは壊してしまっても良かったの。
  苦しんでまで守る世界じゃないのに。

  どんなに苦しくても、先代様は
  寒月の還る場所であり続けた。

  

 


  わたしは笑いながら自ら窓からおちるあなたに
  手を差し伸べることすらしなかった。


  そうね、あなたは わたしにころされた。
  寒月であって、寒月でいられない、わたしに。 




  白いヒールは、わたしのものじゃないもの。



  

  わたしがわたしであることを、なにより選んだ
  醜い生き物。

  

  
――回想:二人の英雄の話


[ 先代冬至と出逢ったのは
 私が五つくらいの頃と聴いた事がある。

 冬至域で今尚"英雄"と讃えられる存在
 先代の冬至とその蛍たる男が
 ある日、己の家にやってきたのが始まり。

 浮世離れした美貌を持つ女性――雪姫 ゆき
 傍ら控える 老齢ながらに只者では無い居住まいの――枯草かれくさ

 母や父から繰り返し聴かされた お伽噺のような存在達
 その二人が家に来た時の事は 未だに記憶に残っている ]

[ 彼女はまるでお伽噺から出て来たような
 見目に浮世離れした美女――そんな灯守りだった。

 雪のような肌に整った顔立ち
 触れれば融けて消えそうな儚さを持ちながら
 其の眼差しは凛と強く 紡ぐ声には不思議な温かさがあった

 彼女に手を引かれ歩くひと時
 伝わる温もりに 漸く彼女を人と認識できるような心持ちで
 偶然にも同じ響きの名を持つ彼女を 見上げていた。

 私は其の日から、領域と呼ばれる地で暮らし始めた ]

[ 蛍になる訳で無く
 弟子とされる訳で無く
 ただ、一つ屋根の下共に過ごしながら
 まるで親子のような間柄で 様々なことを教えられた。

 今とは全く違う領域の在り様
 雪が積もり 蕾が芽吹き 桜が散り 緑が茂り 紅葉を拾い
 そんな四季を感じることのできる其の地で

 冬至の灯守りとしての姿
 傍らに在り 完璧に補佐をこなす蛍の姿
 英雄として讃えられる二人の背を見て過ごした ]

[ 先代冬至の在任期間は 凡そ三十年程
 その間に 先代達は様々な偉業を成し遂げた。

 雪のとける事の無い冬至域に
 根付く慣習の礎を 確かな安寧をもたらし
 多くの民達に希望の光をともし続け
 其の数多の功績から 後世に名を残すに至った。

 冬至が代々受け継ぐ能力――" 灯想 "
 ふれた灯りの心を識ることの叶う力

 彼女は 其の人柄と能力を持って
 民達の陽となり 癒しを齎し
 蛍と共に近く遠く 寄り添い続けていた ]

[ ――灯想。

 冬至たる其の力は
 持って初めて実感する諸刃の剣

 その力はあらゆる心を拾う。
 覆われた想いを 閉ざされた本音を
 時には本人でさえ意識しなかったような心を。
 喜び 怒り 悲しみ 苦しみ 未練 後悔 愛情 憎悪 何もかもを。

 触れながらに揺れ動き続ける心
 其れを何百何千 或いは何万以上。

 多用すれば己が心を壊しかねない力
 使えば使うほど己の命を散らすが如き代物

 それが、冬至が代々受け継ぐ"灯想"だった ]

[ 其れを 何十年も。

 生きている内に救わんと
 民達の安寧のために只管に行使し
 只人と変わらぬ言葉を 心を持って癒し
 手の届く場所に居る全ての灯を癒そうと努めた
 
 雪姫という存在は紛れも無く英雄であり
 悲しい程に、大した人間だった ]

[ 彼女は強かった
 それ故に弱さの見え辛い人だった。

 只人とは思えぬ程に優秀で有能な蛍は
 彼女にとって 公私に渡り最も近しい存在で 特別で
 此の目にも 彼女が確かに頼れる存在であるとわかる程だった

 だから気付けなかった
 一番傍に在った蛍でさえも。

 本当の意味で弱さを見せない
 見せることができない人だったのだと
 そう理解したのは、彼女が死んだ時だった ]

[ 雪姫から ゆきへ。

 先代に代わり冬至の席に座したのは
 彼女が亡くなってひと月と経たぬ頃のこと

 冬至域を出歩く事はあれ
 会合の折 顔を出していた訳でも無い存在。

 長年先代を支え続けた初候たる蛍を差し置き
 見た事も無い どう見繕えど幼女が其処に座した時
 周囲がどう想ったのかなど知る由も無い。

 ――唯。
 傍らに控える"冬至の英雄"が
 変わらずに其処に佇み 支えんと在った事が
 其の幼女を冬至たらしめたのは一つ、確かな事実だった ]

[ そうして 十年と――少し。

 伝承の如くに噺に出る英雄
 祖父のように 父のように在った枯草
 常に 傍で支えて続けてくれた蛍。

 少しずつ関係性を変えながら
 変わる事の無い そのあたたかな距離で
 私は彼に数えきれないほど教えられ 助けられた ]

[ 冬至が初候 乃東生なつかれくさしょうず

 英雄 参謀 軍師 色男 賢人 剣聖 ――等。
 ありとあらゆる賛辞や肩書を手にした男は
 冬至の灯守りの蛍を二代に渡り務めた。

 無力な幼女が灯守りとしてその座に在り続けられたのは
 間違いなく、彼の存在が其処に在ったからこそだ。

 ――通称 枯草。

 其の名は 彼の死後 百の冬を越えた今も尚
 冬至域の英雄として 雪姫の名と共に伝わり続けている ] *

― 元・涼風至からの手紙 ―

[それからまた、しばらくして。
受けた心の傷が癒え、記憶を戻してもらった元・涼風至より、小満の元へ手紙が届いた。

時候の挨拶、それから、辛い記憶を融かしてくれた小満に対する礼が書かれた手紙であった。]

『……正直、あの頃の自分がどう過ごしていたのか、今でもあまり記憶にありません。とても苦しくて、自分ではどうにも出来ない傷を抱えて、日々を無為に過ごしておりました。もし小満様に助けて頂けなければ、今頃一体どうなっていたことか……

私の苦しみと悲しみに触れ、預かって頂き、ありがとうございました。

私を気にかけて頂けたこと、優しく背を撫でて頂いたこと、小満様の腕の温もりを、私は一生忘れません。……、』


[それから改めて、もう大丈夫だということと、立秋域を出るつもりだということが手紙には書かれていた。

最後に、“鴨嶋 すず香”と彼女の本名が添えられて、手紙は終わっていた。]

[同じ頃、立秋の所にも手紙は届いていた。

再び立秋を引き受けてくれたことへの礼と、役目を果たせなかったことへの謝罪。別にいいよ、と返したかったけれど、もう旅立った頃だろうな、ということはわかっていた。返事を書いても届くまい。

けれど敢えて返事の手紙を書いて、届いた手紙と一緒に仕舞い込んだ。]

[後日、立秋は小満域を訪ねた。
緑の木々を抜け、白壁の洋館の前へ。]

あーけーてーっ。

[小満と面会が叶えば、出会うなりぴょーんと飛びついたことだろう。]

ありがとね、小満、本当にありがとう!
お礼に一個、お願い聞いてあげてもいいよっ!

あ、これうちで採れたおみやげ!

[にこにこ笑顔で、トウモロコシと紅茶とクッキーを押し付けたのだった。**]

―― 陰り逝く ――

[ 一番初めはもう、事故のようなものだった。
 能力という言葉すら嚥下出来ない年の頃だ。 ]

 おひざ いたいの

[ 痛そう、可哀想、そう思った瞬間には
 自分の膝が擦り剥けてじわりと朱が滲んでいた。
 直前に派手に転んだ友達は不思議そうに
 目をまん丸くさせていた。

 幼稚舎の教員の顔色はどんどん青褪めて
 その日のうちに家族に連絡が行った。

 気に入りだった蝶を象った髪留めの中に
 入っていた私の灯りは、僅かに淡く濁っていた。

 その日両親からきつく言われたことは、
 この飾りはもう人に見せてはいけない。

 たとえはっきりと色まで見えないとしても、
 見せてはいけないと。
 幼い私は大人たちの凍るような声色に、
 どうして、と問うこともできず、こくこくと頷いた。 ]

[ 幼いから。
 守るために。

 全てを話し本人に言動や注意を促すことより

 かわいいむすめを。
 しなさないために。

 家から出さないことを、娘の両親は選び取った。

 そのまま大事に大事に守られて、
 雪のようにびょうにんのように白い肌で
 無垢なままこどものまま

 そんな悲痛な願いは、悲しいかな幼子には届かなかった。 ]

[ 可哀想と思っても、
 代わってあげたいと思ってはいけない。

 能力を使って、お前の灯りが消えてしまったら
 私達は悲しいのだと

 そう言えばいいことくらい、両親にも分かっていた。
 実際他人の子ならそう言っていただろう。

 だが両親は毎夜泣いてしまうほど、
 子を愛していた。優しい子だと信じて憚らなかった。

 そんな両親の願いとは裏腹に。 ]

[
子は大いに捻くれて育ったグレた

 皆が寝静まる頃に家を抜け出し、
 悪い仲間ともだちと出会い、
 子供だけでどこへでも行き、朝になる前に
 布団に戻り、無邪気な顔で起こしに来た両親に ]

 まだ 眠いわ

[ そう言った。
 私の灯りは、徐々に淡く濁っていった。

 年齢としては中等部へあがる頃。
 両親は漸く幽閉生活むだなどりょくをやめた。
 閉じ込めて洗脳するより、己で命を選び取る年だと。 ]

―― 陰りゆく ――

[ その日私は兎のように赤い目のまま
 その店を訪れた。

 私は馬鹿だったのだと漸く気づいたのだ。
 だいすきなひとだった。
 悪い遊びをしているから関わるなと
 周りの大人は口酸っぱく言っていたが、
 
 そんなことはちっとも耳に入らなかった。

 知らない世界へ連れ出してくれた
 馬鹿みたいに百も二百も好きだと口にしてくれた
 そのひとが、私の手を跳ね除けたのだ。

 今考えてみれば利用するために飼い殺されて
 いたのだけど、物事の善し悪しが曖昧な年頃で
 その上、わざと善し悪しをあべこべに振る舞っていた
 馬鹿な小娘であるから。

 世界が終わってしまうほどの涙を
 大地に撒いた。 ]

[ くるくると巻いた髪の毛に、露出の多い服装。
 赤い目を縁取る黒々しいアイラインに、
 てらてらと光る赤い唇。

 そういった派手な身なりの少女は「慈雨」の
 端の席へ通された。

 何故その日この店を訪れたのか。

 前々から行きたいと言っていたからだ。
 特別な日に行こうね。と約束していたからだ。
 このまま世界が終わるなら、

 特別な日に会えないままになってしまうから。

 けれどたいして食にも興味もなければ、
 今日は特別な日でもなく、言ってしまえば
 やけっぱちであるから
 メニューは早々に閉じてしまった。 ]

 なんでもいいわ 適当に

[ ――あの日のことを思い出せば、
 いつだって顔から火が出てしまうだろう。

 世間知らずだったと笑って貰えるだろうが
 それでも、あの日の私はあまりにも青かった。

 世界で一番不幸なのは自分だと、
 甚だしい勘違いをしていたのだから。 ]

 ……ふん、

[ ふと、談笑する店員達が目に入り、
 顔を顰めて、ツンと顔を背ける。

 そうしたときだったか、
 
 あまりにも優しく声をかけられたのは。 ]

 なによ ちゃんとお金は持っているったら
 私はお客なのよ

[ 何も知らないくせに。私の生い立ちも。
 相変わらず顔を背けたままで答え、
 味もよくわからないまま注文した料理を
 食べ、そのうちに居心地が悪くなって、会計をした。 ]

 最後の晩餐ってこんなものなのね
 ……なんでもないわ

[ その時会計をしてくれたのは誰だったか。
 多分従業員のうちの誰かだったと思う。
 少なくとも、彼ではないことは確かだった。
 だって彼は会計を終えた後にわざわざ
 こちらまでやってきて、"またおいで"と
 そう言ってくれたから。 ]

―― かげりゆく ――

[ 性根まで腐っていたなら気にも留めなかっただろうが
 悲しいかな、私は半端にまともであった。

 故に両親の泣き顔、さらに、あの子の泣き顔まで
 見てしまったらもうそれ以上、自分を傷つけるような
 真似は出来ない。

 このままではいけないと今頃になって漸く気づいて。
 派手な装いを捨て、勉学に励んだ。

 時折、慈雨にも顔を出したが
 ――少なくとも初めて来たという顔でいた。 ]

 こ こんにちは
 なにかおすすめはありますか

[ あの日泣いていた不良少女だと気付かれませんように。
 祈りは届いたか否か。どちらにしても、誕生日だとか
 卒業だとか、教員免許の取得だとか。
 特別な日には、そこを訪れた。

 ――教師になろうと決めたのは、
 私だからこそ、私という過去があるからこそ、

 あの頃差し伸べてほしかった
 狂おしい程欲しくて欲しくてしょうがなかったあの手に

 きっと私はなれるのだと思ったから。 ]

 今なんと言ったの

[ ――あの子が啓蟄様と呼ばれるようになって
 そして私は拙いながらも教師として歩み始めて。

 
 そうして段々と私達の道は別れ、離れていくものと
 ばかり思っていた。 ]

 私でいいの
 それとも、私がいいの

[ 意地悪な問いをした自覚は在る。
 幼馴染のお姉さんだから私がいいの
 それとも。続きは言うのをやめた。

 だって今にも泣き出しそうだったから。

 彼女が"私の蛍になってほしい"と口にしたことで。
 ――私達の道は再び一本に繋がった。 ]

 ……私は甘やかさないわよ
 お引き受け致します、啓蟄様。

[ ――どうも人からは、面倒見の良いしっかりものであり
 生まれた頃から啓蟄様の側近く彼女を見守り、
 仕事もばりばりとこなす格好良い女だと
 思われているらしい。

 その外面が、あの子のためになるのなら。
 あの日泣かせてしまったあの子に報いることが
 できるなら。そう言って引き受け、仰々しい名で
 呼ばれることにも、慣れたのだと自分を誤魔化していた。

 そんな日のことだった。 ]

 小蝶シャオディエ……?
 私のことでしょうか?

[ どう呼んでくれても構わなかった。
 菜虫化蝶でも、シャーレンでもない、愛称だと
 その人は言っただろうか。 ]

 いいえ 気に入りました

[ 啓蟄様の蛍でもなく、
 可哀想な翳りを宿した女でもなく、
 ただの常連客……にしては、気に入ってかわいがって
 くださっているという自覚は多少在るが。

 そう呼んでくれることが、幾度も肩の荷を
 下ろしてくれた。

 言うなれば、孵化した雛鳥が世界を知ると同時に
 親と認識するように。

 私はよくよく、その店へと足を運ぶようになった。
 特に悩みを話したりだとかはしない。

 私がただの私であることを忘れないために――。 ]


[わたしがお人形になったのは、きっと2歳かそこらの頃だと思う。

わたしには、父親が”いた”。最後に顔を合わせたのはもう随分と前のことになるけれど、一応いた。
父の記憶は擦り切れてしまって、ほとんど覚えていないけれど、いつもわたしのことをぞっとするほど冷たい目で見ていたことだけは覚えている。
お母さんは、いない。



わたしが
してしまったから]


[母の腹を裂いて生まれたわたしのことを、父はどんな思いで見ていたのだろうか。
そんなこと、わたしにはどうしたってわからないけれど良い気分ではなかっただろう。そうでなければ、あんなにも冷たい目で見ることはないと思う。まあ、愛した人を殺したわたしのことなんて、愛せないだろうとは幼心によくわかっていた。
わかっていたから、わたしは何も出来なかった

みたこともないけれど、わたしの母はお人形の様に綺麗な顔だったそうで、そんな母に父は一目惚れのゾッコンだったらしい。これは酒に酔った父の談。わたしの顔に気づいた父は、わたしを人売りに売り払った捨てた
綺麗な顔の子供は、とても高く売れるから。

初めてわたしに向けられた父の笑顔は、それはもう嬉しそうで、あの時のわたしには笑顔の理由はわからなかったけれど、すごく嬉しかったのだ。
それが、4歳のとき。寒い雪の降る日で——……
聖なる日の夜のことだった。


日々わたしを打つ父の手に怯えて、すっかり子供らしさを失っていたわたしをあの人が気にいるのは、道理だっただろう。彼は、わたしを見て大きな口を三日月の様に曲げて笑った。
これほどまでに、理想の”お人形”があっただなんて!]


[ああ、ああ、居もしない神様。
わたしは生まれた時からお人形になる運命だったのか。]


[それから、4年。
4年もだ、思い返せば随分と長く、あの息が詰まる様なお部屋ショーケースにいたものだ。
お部屋ショーケースにいた間、何人ものお人形の入れ替わりを見た。
かくいうわたしも、一度はゴミ箱
-という名の地下室-
に放られたのだが、あの人の気まぐれでもう一度お部屋ショーケースに戻ってきたこともある。それが、あの時はよかったのか悪かったのかはわからなかったし今もわかっていないけれど、あの雨の日、霜降域の北で捨てられたことだけは、良かったのだと思う。

紫明様に拾ってもらえて、霜降域で暮らした日々はわたしの中で甘やかな記憶。
それまでずっと白黒の様だったわたしの世界が、一気に色付く様な毎日で、大変だったことも楽しかったことも色々あったけれど、今でもずっと大切に心の中に仕舞っている思い出。]


[だからこそあの日、白露に推薦されたことは、ずっとわたしの心臓をじくじくと刺し続けていた*]



[秘密基地を作ってから少し経ち、いつものように遊んでいた時の話。


「げしさまってきっとすごいひとなんだよね。だってこのりょーいきのひとたちをみんなしあわせにしてるんだもん。ぼくもそんなひとになりたいなあ…」

『あおいくんにはむりむり。だってここにどれだけのひとがいるとおもってるの?そのひとたちぜんいんをしあわせになんてできっこないよ


「そんなことないもん!ぼくがつぎのげしさまになって、いまのげしさまよりもっとしあわせなりょーいきにするんだもん!」

『むりだとおもうけど、いつかもしほんとうになれたら……わたしが、あおいくんのほたるになってあげる』


…そんなこと言ってたっけ。それから暫く経って段々疎遠になって。葵くんあいつのことなんて忘れかけてた頃に……


「……やぁ、萩ちゃん。迎えにきたよ。」

…本当に夏至の名を継いで、私を迎えに来てくれたっけ。]

── 遠い昔の物語 ──

  ゆき    
           ゆき

 頑張り屋さんのあなたに贈り物をするわね。

 この子は働き者だから、きっとあなたの役に立つわよ。

[ まだ就任して間もない
とはいえ既に数年はたっていたかもしれない?

 冬至に、雪うさぎを贈った目論見はなんだったか
 今はもう覚えていないけれど、
 助け、というよりは、癒しになればいい、
 という気持ちが強かったように思う。]

[ だから、しばらくして、その子が冬至の蛍ー麋角解となり
 おつると愛らしい名前で呼ばれていると知った時は
ほっこりとして、
 鹿の角を模したつもりのおかきと、鶴を模したつもりの琥珀糖を作って、冬至へ差し入れしたのも良い思い出だ。

 当時、試行錯誤して書いた製法レシピは、
 長い時を経て、洗練されたものとなっている…はず*]

 
[ 嬉しいはずなのに。


  同時に、距離が遠のいた感じがして

             ずっと、寂しくて────。]

 

――いつかのこと――

[立秋域から来た手紙に、返信はしなかった。
 私は自分のしたいことを好きにしただけであって、誰かの助けになったつもりはない。
 好き放題が結果として彼女に届いただけ。だから、蛍たちが手紙を届けに来たときも『身に覚えがないな』なーんて肩をすくめてばかり。
 彼女の名前だけを記憶に刻む。忘れられない名前が増えていく。
 立秋域を出るというのだし、返信はしたところで届かないだろうとも勝手に当たりをつけて、それきりにした。

 つもりだった。]

[後日
 遊びに来た子供のような声に呼ばれて、領域を開く。]

おや立秋。なんのことだい。
……といっても、君にとぼける必要もないか。

お願いねぇ……
何でもいいの?

[わーいお土産、と中を開ければ、立派なコーン。茹でるか焼くかスープにするか。想像は尽きず、喜色に口元が緩む。
 紅茶とクッキーは、明日のお茶の時間に取り置こう。]

あのさ。
ちょうどワイン煮込みを作ってたんだけど、味見をお願いしてもいいかな?

[私はただ好きにしただけで、お礼を言われる筋合いはない。
 だから願いはただ、偶然訪ねてきた友人と食卓を囲みたいと*]


[初めて中央に来た時を思い出す。

 それは、ぼくは雨水になりたての日。
 ぼくはその時魂を扱う仕事が初で、流石に緊張していた。

 でも忙しい時期。迷っている暇はない。
 中央の人に方向はこっちであってますか? と尋ねたら、灯守りがきらいな人だったのか。そんな事も知らないのですか? という態度をとられて無の表情になった。当時は飛べるとか、そういう感覚もなかった。人間の意識のままだった。


 その後普通に真面目そうな人を捕まえて聞きなおした。]
 

 
[灯宮というらしい。暗い中を一人で。
 ぼくの灯りを頼りに歩けば導の灯が目に入る。]


 ……綺麗



[一つ一つの光が、目に映す色を万華鏡のように変える。これが、灯守りと蛍しか見れない景色。

       人が還る場所。


 ぼくは灯守りとしての能力を使う。
 その光は、蛍のようで、まるで雪のようで ]
 


 
    ゜   〇       ゜

    
  ゜      〇  

     
 ゜     

  
                ゜ 


    ゜    
   ゜   

     ゜      ゜

   ○  
○       〇
   〇゜ 



 ──── 見とれる事暫し。
 はっと我に返って各灯守りにその光を送り出すように能力を使った。

 飛び立つ灯は、これからの命となる。
 そう思うと涙が出ていた。]
 

 
[これが、ぼくがこれから背負うもの。
 とても重くて、綺麗で、たいせつなもの

 ぼくはそれを こわいと思わなかった。
 綺麗だと、思ったんだ──── ] **
 

[ ひとの寿命を超越した存在はにがてだ。
  だって気味が悪いじゃないか。
  なに食わぬ顔をしてひとのかたちをしているけれど
  もうそんなものひとではないと子供心に思っていた。

  早めに次を探さなければわたしもじき同じものになる。
  鏡の向こうに、ちっとも変わらなくなった自分をみつけて
  そうと気付いたのはいつだったか。

  現金なもので、あんなに気味悪がっていたものに
  自分がなるかもしれないと気付いても、
 『都合がいい』と思っただけだった。
  自分がひとでなくなろうとも、そんなことはどうでもよくて
  あのこを最期まで看取れる可能性があるのなら
  それでいいと。

  けれど。

  灯守りの役目を終えても
  あのこはきっとわたしのもとへ帰ってくることは
  きっとないんだろうと、わかっている。

  わたしの傍が帰る場所であったことなど終ぞないのだから。

  姉で在りたいと淡い希望を抱きながらも
  家族になることから怯え逃げ続けたわたしの傍が
  あのこの帰る場所になるなんて都合のいい結末
  未来永劫訪れることはないだろう。 ]

      「 会合の日のお約束
        覚えておいででしょうか。

        五日後の正午に、
        お邪魔させていただこうと思っております。
      
        お忙しいところ恐縮ですが、
        ご都合よろしければ、お会いできませんか?
 
        叶うようでしたら、お待ちしております。

        追伸
 
        もしご都合つかなくても、
        街の中を散策しておりますので、
        その時は またの機会に。 」

手紙” ――


『 5月×日 天気:晴れ 気温:恐らく少し日差しが暑い

  この地は水田が広がっている。
  立夏の季節であるから田植えの終えた水田が見受けられる。
  水の張られた田が、青空を映している。
  その中に立てば、美しいと思うのかもしれない。

  海では初鰹の季節だ。
  船が大物を運んできている。
  そろそろ、海に行っても心地の良い季節かもしれない。

  ……                        』


  立春様や、ローザがくださる景色に紛れて
  文章だけのそれも、わたしは飾っていました。

  大寒域でも一年のうちで数えるほどしかありませんが
  蒼い空が、見られる日があります。 
  澄んだ空気に映し出される空は、とても美しいものです。

  田園は知識の上ではありましたが、
  見たことはありません。

  大寒域の住民達よりも、
  別の域へゆくことは容易い立場です。



  あ



 [  わたしは、あなたを何も知らない。
    あなたが経験してきた愛も、かなしみも。
   だからあんな事が思えたのね。


   
   わたしは驚いたのです。
   好きではない、って解答に?


   そうだけど、ちょっとだけ違うの。  ]




  [  今まで口にしてはいけないとおもっていたことば。



   あなたから聞けると思ってなかったことば。
   





   いまなら少しだけ、思えることがあるのです。
   中央へやってきた今ならば。

   それは、ね。  ]
  

  
――回想:夕景、風にこぼした記憶


[ 何時からだったろう

 如何な力を持っていたとて
 守りたいものを守れる訳では無い。

 己は何処まで行っても無力な幼子で
 此の小さな手如きが救えるものなど あまりにも少ない

 …ならば。
 この手が個を救えないのならば

 この力で守れるものを
 この力があるが故にできることを

 この灯が消えるまで ――…そう想うようになったのは ]

[ そう悟る内にも
 かけがえのない出会いはあった

 忘れることの出来ないひと時
 忘れたくないと綴るひと時

 どれだけ時が経とうと褪せる事は無い
 そういう、大切な想い出が確かにある ]


[ ――金平糖。
 雪姫様と枯草様と初めて会った日
 通りがかったお店で買ってくれたもの


 「 初めて先代にお会いした時
   買ってくれたのが金平糖だったんです。

   先代の蛍と三人で食べたんですけど
   初めて食べたそれは あまくて きらきらしていて
   気付けば今も ついと手を伸ばしています ]


 好きなのかと訊ねられた折
 懐かしさとに緩んだ口が 多くを語った事もあった ]

[ 新しい蛍 いづる
 生みの親たる彼へ挨拶をした日

 夕景に跳ねるゆきうさぎは
 この世のものとは思えぬほどに
 酷く穏やかで 美しいものだった

 そこに佇み 微笑む灯守りの横顔も
 重ねた言葉も、忘れることは出来ない

 どれだけ時が経とうととける事の無い
 残り続ける彼の存在の痕跡は
 死して尚あの日々を鮮明に思い出させる
 
 夕暮れに溶かした "礼"のことも ]


[ " ゆき "
 英雄と同じ響きを持つ名は
 特段隠している訳では無くとも
 自ら進んで名乗ることもなくなった名 ]

[ 呼ばれれば遠く覚える懐古
 それと共に何処か、一人の人に戻れる気がした ]


  ……。
  ――…それは お礼になるのです?


[ 相対するまっすぐな眼差しを見上げて
 なんとはなし 夕陽が照らす彼の影を眺めた ]

[ 暫しの後、もう一度穏やかな笑みを見れば ]


  あなたは立派な灯守りです
  私よりも、よほど。


[ 手近な場所へ腰を下ろせば 隣りを手で示して
 「年寄りの話は長いですよ。大丈夫ですか?」
 なんて そんな防衛線を引いたのを覚えている ]

[ それからまた少しの間 夕空を見上げた ]

[ それは 結論も 定義も 意図も無い
 ふっと始めた ただただとりとめのない昔語り ]


  私 生まれつきへんてこな力を持っていて
  そのせいか灯りがすぐに濁ってたんです。

  不思議な力を持っているなんて父も母も思いもしなくて
  私自身明確に理解できていた訳でも無いから
  当然、自分のことを上手く説明できる訳でも無くて

  だから当時は"病弱"と片付けられて
  灯りは弱るばかりで だから早死にするだろうと
  父と母にはとても苦労をかけていました。


[ どんな力なのか。
 訊かれても 訊かれずとも 掻い摘んで話して ]


 あの日、
 ――晴れた日でした

 冬至域の冬の晴れは本当に珍しくて
 私の調子も良かったから
 両親が散歩に行こうって 外に連れていってくれました


 ……。
 でも 途中、
 隣りを歩いていた父が急に倒れました。

 突然すぎて何がなんだかわからなかったけど
 父の灯りは何時の間にか消えていて
 母は父に縋って ただ泣くばかりで
 私はただ、それを見ているしか出来なくて


 だから 思ったんです

 死なないでほしい、
 戻って来てほしいって。 多分そんなことを
  


 父の灯りは元に戻りました

 一度は死んだ筈なのに
 母も私も それを知っていたのに。

 ……。
 これは 後になって雪姫様から――
 先代の冬至から聴いた話ですけど

 その日 灯宮に送るはずの全ての灯りが消えて
 新たにともる筈の灯りが全て消えたそうです

 すごいですよね
 それが私の"病弱"の正体でした

[ 小さな笑いを 見上げる夕空にこぼして ]


 それから少しして、
 先代と蛍が家にやって来て
 私は領域で二人と暮らし始めました。

 二人とも 冬至域の英雄って呼ばれてて
 今も文献に残るくらい凄い人達なんですけど
 すごく良くしてくれて 本当の両親みたいに育ててくれました

 二人が力の使い方を教えてくれて
 灯りも いくらも澱みが薄らいで 本当に、感謝しかありません

 だから 役に立ちたい
 力になれることがあるなら
 二人の為ならなんだってするつもりでした
  


 先代が亡くなったのは
 私が領域で暮らし始めて 三…四年くらい経った頃です

 先代は強すぎるくらい 強い人でした
 だから 私たちが魂の限界を迎えていたことに気付けたのは
 先代が倒れた それぐらいぎりぎりの時でした

 冬至の能力を使い続けた事が原因だと
 灯守りという立場も 英雄である事も
 知らず知らず重荷になっていて 限界だったんです

 枯草は自分が灯守りを継ぐと言いましたが
 でも 先代はそれを頑なに拒否していて


 ――…だから私が、立候補しました


 私なら その能力を使って灯りが濁っても
 其の澱みを払う能力があるから大丈夫だと伝えました

 形だけの灯守りです
 二人が居れば 大丈夫だと思いました
 だから先代も 枯草も 受け入れてくれました
  


  灯守りを継いで
  先代の澱みを反転させる

  それで、全て解決するはずでした。
  


 不幸せやみ幸せひかり
 ――そうして 先代の灯りは消えました。


 結果は 最悪の結末でした

 私は先代を殺しただけじゃない
 枯草の心も 深く  ………深く傷つけた

 何もしない方が余程幸せな終わりだったと
 誰がどう見ても 明らかなほどに。

 どうしてあんな事をしたのか
 あんな事さえしなければ少なくとも
 少なくとも 枯草を追い詰めることはなかった
  


[ 彼女は口にした。

 本当は今が 辛かったのだと。
 普通に過ごしたい
 枯草と 私と 家族のように生きたい
 枯草と同じように老いながら共に生きて 逝きたいと

 その願いを叶える為に
 彼女の不幸を 幸せに変えた。

 ――違ったのだ。
 何もかも。

 冬至の能力なんて使わずともわかった
 彼女の灯りが消えた時 聡明な只人は私より早く気付いた

 或いは彼女さえ 最期まで気付かなかった本当の願いに ]
  


[ ――ただ、死にたかったのだ。

 私達との未来よりもこの生から解放されたかった
 生きている事自体が不幸だった 
 だからそうなった。

 だから 誰よりも傍に居て
 誰よりも彼女の幸せを願った彼は
 愚かな私が愚かな力を使うのをやめさせた

 自分との未来ではなく
 死こそを希望と見出していた

 そんな現実を突きつけられて尚
 彼は、私が犯そうとした罪を止めた そんな人だった ]
  


 ……どうすれば良かったのか

 使わなければ良かった。
 そうすれば枯草を二重に苦しめなかった

 大切な人を殺した存在を
 ずっと、文句も言わずに支え続けて
 どんな想いで、仇と過ごしていたのか

 私はあの二人を 不幸にしただけだった
  

[ 気付けば 手が震えていた
 握りしめた拳を反対の手で抑えて
 ――目立たぬよう 細い 長い息を吐いた ]


  ……。
  何をすれば 償えるのか
  そんなことを 今も、考えることがあります


  ――…なんて。

  やっぱりこれ お礼にはなりませんね?


[ 暫くぶりに見上げた彼に
 「すみません」と微笑む事は 容易かった。 ]


[ 苦言――ただの願い。

 あの時 もっと話していたら
 途中ではぐらかさずに、
 蛍の最期までを きちんと話せば
 ひょっとして何かが変わったのだろうか

 否。
 変わることはない

 彼は優しすぎた。
 身を滅ぼすと解っていても
 其処に心があれば 優しく在る人だ ]
  

[ あの時とて理解していた
 理解して、それ以上を願うだけに留めた
 ただ 頭にともる あたたかな優しさを受け入れて ]


  ……夕来、訊いてもいいでしょうか


[ 穏やかで のどかな夕景に
 湿っぽい懺悔の結びなど似合わないから ]


  あなたにとって
  " 灯守り "とはなんですか?


[ 雑談の如き気軽さを伴って
 終わりの近い彼とのこの今に 花を咲かせよう ]


           [ ――近付く夜の風は 未だ其処に ] *

―― 過去/雪の中に答えを探して ――



…………どうしよう、道に迷っちゃった。


[寒空の下にいて、わたしは正直参っていた。

左右を見渡せば木々が並んでいて、誰かが住んでそうな家は見当たらない。
わたしに吹き付けている風はとても冷たく、
空からはひっきりなしに重たそうな雪が降っている。


わたしは冬至域にいた。
それも、もっとも冬の寒さが厳しい時季に]

[冬が長く昼は短い冬至域において、
“鬼節”と呼ばれる厳しい時季があることを、
わたしは旅に出る前から知っていた。
近隣の統治域に関する書物も読んでいたからだ。
とはいえ、文面で把握するのと、実際に体感するのとでは、
あまりにも差がありすぎる。
そう、わたしは実際“鬼節”をナメていたのだ。
寒さに強いひとの多い小雪域に生まれたとはいえ、
わたしの灯りは、秋めいたうつろいを見せていたのに]


  だれかー、だれかいませんかー。
  わたしは今とっても困っていますよー。


[声を張り上げた、けれど、風の音の方が強いよねえ……

今すぐあったかい部屋の中に行きたい。
火の粉が爆ぜる暖炉の前でのんびりしたい。
そんな願いもかなえられるかどうか……]

[ポケットの中に入れた手が、自然と丸いものに触れる。
これは……わたしの灯りが入っているいれものだ。
器の見た目は完全に羅針盤なのだけれど、
針はなく、決して未来を示すことなく、
わたしの灯りがただ限られた範囲をふわふわと漂っているだけ。

その灯りも今は、わたしと同じように、
震えてどこかひとつにとどまっているのだろう。
もしも、わたしが誰にも見つけられず凍え死んでしまったら、
ほんの半日前までは縁もゆかりもなかったこの地で、
わたしの灯りはどうなってしまうのか。

もちろんそんなことは知りたくなかった。
だから、懸命に足を前に動かせって自分に言い聞かせた。
道には雪が積もってて、わたしの足も雪に埋もれてたから、
歩くだけでも体力が削られていく感じがするけど、動かないとそれこそ命にかかわる]



    
だれかー……  いませんかー……



[ゆっくり歩きながら振り絞った声はなかなかにかすれていた。
わたしはもう祈るしかできない気持ちでいた。

その時だ。
わたしの声が届いたというのか、
なにものかが駆け寄ってきたのだ。ぽてぽてと。


  …………ぽてぽて?]

------------------------

[“わたしは冬至域で遭難しかけた時、
雪兎らしきいきものに道案内されてどうにか助かった”


こんな話、今でこそ笑い話にできるけど、
『慈雨』のお客さま方にする話じゃあないし、小満さまや蛍のお二方にもすることはなかった。
とはいえタイミングよくお店を訪れていれば知っていてもいい話だ。
いつだったか『慈雨』に訪れた冬至さまには、
その話をしたことを。

会合でその姿を見かけてから、もしかして、という予感がしていた。
その予感を口にするまでにはちょっと時間がかかったけれど]


……死にそうな人間には何か変わったものが見えるんだとか。
だから、あの時助けてくれた雪兎は幻かもしれない、
そう思ってたんです。
なにぶん、どこかの道を彷徨ってて、雪兎に会って、
気がついたらあたたかい部屋に寝かされていた、という有り様でしたし。

ですが……冬至さまに会って考えが変わりつつあります。

もしも冬至さまがかつてのわたしの恩人であるのでしたら。
ただ一言お礼を言わせて欲しいのです。“ありがとう”と。
 

[小満域に厳冬の影はない。
開いた窓からあたたかい陽光の降り注ぐ『慈雨』の窓辺の席で、
(わたしの一番お気に入りの席でもある)

わたしは冬至さまにぺこぺこと頭を下げた。
それから思い出す。わたしが命からがら辿り着いた村の人々も、
わたしに優しかったなあ、と。
助け合う、ということが身に深くしみついてるのかな、と、
彼らの動きを見て思ったんだった。

雪深く埋まっていた不思議は解けた。
これはつまりそういう話でもあった**]

―いつかのこと―

[やりたいようにやっただけ。

けれど、助けられる側にとっては動機は別に関係ないのだ。救われた、癒やされたという事実が全てなのだから。

……なんて、小満の言い分を知ったら立秋は言うだろうが、それすらもわかった上で好き放題と主張するんだろうな、という想像もすることであろう。]

うわーいいの!?ありがとう!
小満のお料理だ!

って、ボクがいい目にあってるだけじゃないかー!

[もー、何かしたいのに!と笑って。
けれど大変嬉しいお願いだ、断れるわけがない。

今度は良いお酒でも探してお土産にしてやろう、と企みながら、友人との食卓にお呼ばれしたのだった。**]

[いつからかほとんど姿の変わらないお姉ちゃんに
なんの疑問も抱いていなかった。
早くお姉ちゃんみたいに大きくなりたい、
大人になってお姉ちゃんを支えられるようになりたい。
そんなことばかり考えていた。

もしお姉ちゃんが、
この先もずっと変わらなくて
私だけが変わっていってしまったら?

私はお姉ちゃんより先に老いて、よぼよぼになって
お姉ちゃんより先に命のともしびが消えて……

それでもお姉ちゃんは、
私のお姉ちゃんで居てくれるのかな。]

[──師匠に初めて出逢ったのは
ある初夏の夕方のことだった。
雨上がりの芒種域の空には虹が掛かっていて
通い慣れたあぜ道はぬかるんで滑りやすくなっていた。

私は学校の帰り道で、とにかく早く帰りたくて
いつものように家に向かって走っていた。
調理実習で作ったロールケーキが上手に出来たから
お姉ちゃんにも早く食べて欲しかったんだ。

あともう数十メートルで家に着く、というところで
滅多に聴くことのない馬の嘶きが鼓膜を裂く。
どん、と身体に衝撃が走って
気付いたら青空に放り出されていた。]


[『あぶないからはしってはだめよ』と
あんなに何度も言い聞かせてくれていたのに。
お姉ちゃんの言いつけをちゃんと守っていれば、



            ごめんなさい、お姉ちゃん。

             ごめん、なさい…………、


                    …………



                      ……]

 

[──次に目を醒ました時、私はベッドの上に居た。
男の人か女の人かわからないけれど
初めて見る綺麗な人が私の手を握って、
パパとママと一緒に私の顔を心配そうに覗き込んでいた。

身体はどこも痛くなかった。
私と一緒に飛ばされてぐちゃぐちゃに崩れてしまった
ロールケーキを見て事の次第を聞かされるまで、
自分の身に何が起きたのか思い出せないくらいに。
ただ、頭は靄がかかったみたいにぼんやりしていて
腕と足は上げるのも辛いほどに重たかった。

その綺麗な人曰く、私は馬車に轢かれて
その人の能力で一命を取り留めたらしい。
お忍びか、視察か、親睦を深める為にか
たまたま芒種域を訪れていたその人こそ先代立春。
それが、師匠との出逢いだった。

『綺麗な淡い、オレンジ色の灯りだね。
 早春の陽だまりみたいだ。
 僕の灯りの色に少し似ている。

 ……良かったら君、僕の弟子にならないかい?』


今にも消えてしまいそうな灯火に師匠の手が触れると
輝きを取り戻したように燃え上がって、すごく綺麗で
何故だか涙が零れ落ちたのを憶えている。]

[故郷から遠く離れた見知らぬ土地で
弟子として暮らすことを最初は多少躊躇った。
師匠がなぜ私を弟子に欲しがったのかも、
娘を心配してくれるパパとママを
師匠がどんな風に説得したのかも私は知らない。

大好きなお姉ちゃんや両親から
離れて暮らさねばならないことに抵抗はあったし、
実際移住して数年間は度々ホームシックに陥っていた。
けれど、師匠の弟子になれば、
蛍としてお仕事を学ばせてもらえれば。
何かお姉ちゃんの役にも立てる日が来るんじゃないか。
何より、喪うはずだった命を救われたから
誰かの為に役立てられるなら役立てたいと思ったんだ。

今は師匠の眠るこの土地立春域から、離れることは出来ない。
私が灯守りの役目を務め果たすのが先か、
私の灯りが尽きるのが先かは私にもわからない。

どちらにしても、いつか私が
灯宮に還る日が来たときには──……


……お姉ちゃんに見送ってもらいたいな。
なんて、
いちばんのわがままはまだ言えずにいる。]

 

  『  わたしも、世界が嫌いだわ  』


[ それが、彼女の答えだった。
 ななしに、世界が好きかと問うということは、質問者は世界に対して何かを抱いているのではないか、と。
 返ってきた答えは予想通り、と言えばそうなのだけど、驚いた気持ちを覚えたのも現実だった。

 魂の管理者、人を守るために存在する“灯守り”。
 私は、“灯守り”というものは、基本的には人間を慈しんでいるものであると思っていた。
 しかし大寒の灯守り彼女は、世界を嫌いだと言う。
 私と同じ想い。世界を嫌いなまま、この地位に居る。
 だからこそ、興味を持った。そして……共感も。 ]
 

 
[ ――灯守りになった当初、無気力な私に対し、職員は「灯守りを務めるつもりがないのならば、さっさと灯りを他に譲ればいい」という事を口にしていた。
 私はそれに応じるどころか、返答をする事もしなかったのだけど、
 そうすると、「先代はどうしてあれを後継に選んだのか」という話が聞こえてくるようになった。
 彼は、立派な統治者であり、灯守りであった。それは未来永劫語られる事だろう。
 ……が、私の存在によって、彼の尊厳が危ぶまれている。それは、あってはならない事だと思った。

 彼の願い、彼の尊厳、それを守るために、きちんと継がなくてはという思いはあった。
 ――けれど、私には出来なかった。
 向いていないというのもあるけれど、どうしても、この世界を愛そうとすると吐き気を覚えてしまう心地がした。
 
 それならば、他の人間に灯守りの位を譲るべきだった。
 けれど、私はそれも出来なかった。
 彼が私に託したものを、他の人に渡したくなかった。
 彼が残してくれた想いを、中途半端に、自分に都合の良いように解釈しながら、私は今も、この地位にいる。
 最初から、私はずっと彼のことばかりで、民の事など何も考えていなかった。
 ]
 

 
[ 『処暑の灯守り』が代々継ぐ能力『風星』。

 先々代の処暑様は、人前での演説等以外では、一般市民の前に姿を見せる人ではなかった。
 けれどその代わり、この能力で、人々を近いところで見守っていた、らしい。

 先代の彼は、自らが人々の近い所へ行く人だったため、この能力は、先々代程は使ってはいなかったらしい。
 とはいえ、彼の足が及ばないところや、目の届かないところまでも気遣うために、風を“目”としていたようだ。

 ……私はというと、灯守りになった当初は、領域の外へ出る事が出来なかった。
 彼へと悪意を向けた世界。そんな悪意に私も殺されるのではないか、と怖かったからだ。
 故に、人の手の入ったものも、長く口に出来なかった。

 そのため『風星』で“外”を見て回るのが常だった訳だけれど。
 彼の愛した処暑域。けれど、そんな彼を裏切った世界。
 見れば見る程に、分からなくなってしまう。
 この地は、この人間達は、守る価値があるのだろうか、と。
 彼が命を賭してまで守るものであったのかと。
 ]
 

 
[ 降り募っていく不信感。
 全他者に対しての嫌悪感。
 故に私は、部下になった行政職員に対しても心を開くことが出来なかった。
 
 それでも右も左も分からない状態であった頃は、職員の助けがなくてはならず、領域へ入る事は許可していた。
 しかしあの事件――私の個人的な日記を勝手に持ち出されて以来、私は領域へも人を入れなくなった。
 ――やはり人間はどうしようもないのだと、私はその時点で心を閉ざしてしまったから。

 蛍は当然置こうと思わなかった。
 『処暑号の蛍』そのものを私は憎んでいて、到底受け入れられなかった。

 だから私の領域へは、灯守り以外誰も入れないままに、
 今日も私は世界との関わりを絶って、領域へと引きこもっている。 ]
 

ーー先代の記憶ーー


「ねー、ゆきちゃん。」


[旅に出て冬至の温泉に入っていた頃だっか
またしばらく経って寄った時だったか。
何かを思いついたような、悪戯っ子のような顔で
一緒に入っている冬至の君へと顔を向けた。]
 




「月が綺麗だねー。」



[珍しいほどの満面の笑みで、彼女を見ながらそう宣う。
一瞬たりとも月なんか見ちゃいないくせに!]

  

 

[それがどういう意味だったのか、誰に訪ねても。
ーーもう、誰にも語れない。*]

 


    
( 雪の冷たさすらよく知らなかった )

 


[ まるで故郷の長い冬のように、
 閉じた屋根の下で過ごす時間が長かった。

 
(どこかの灯守りや蛍のように)

 閉じ込められていたとかそういうわけではなく、
 必要火急でもないと外出することが難しかった。

 風が吹けば消えてしまいそうな灯りは
 尋常でない移ろい方をしていたものだから
 おそらく、能力があると
 それ以外の原因を考えられなかったのだけれど

 何を起因として発動するものであるのか、
 当初、誰も特定することができなかったのだ。 ]
 


[ 自覚のないまま行使される、

 “あと少し”なんてありふれた望みが
 そのたびに灯りいのちを削っていく。

 その瞬間を捉えるなんて難しいに決まっていた
 何せわたし自身、何もわかっちゃいなかったのだから ]
 


[ 冬の入口をくぐったような
 冷たくて、からっとした凩の吹く日
 収穫を終え春まで眠りに就く畑で枯れ草を燃やす人々

 よくある風景だ。
 ぱちぱち散る火花。

 風に乗せられて飛んでいって、
 あ、とめなきゃ、って、

 ――その後のことは何も覚えていない。 ]

 


[ その性質が明るみになってからは
 いたずらに削られることはなくなったけれど
 容赦する必要もなくなってしまったから
 結局のところ、あまり良い思い出はない。

 扱いづらい厄介事は放棄してしまって、
 都合のいいことだけ利用していきたいだなんて

 そんなの、疲れてしまうもの。 *]
 


 
 ────どうか、幸せに、お眠り下さい。

          
悪夢は、私が全て喰らうから。


*

 

  
―――いつか、貴方と見た月


[ 温泉にくゆる月を見上げていた

 何も無い夜にともるそれは
 そのひと時は 私にとっての陽であった ]


    ?


[ 隣りで 名を呼ぶ声がして
 ふっと見上げた先の満月 ]


  ――…そうですね。

[ 小さく笑って また月を見る。

 このひと時が 続いてほしい
 そんな叶わぬ願いを 天にとかしながら ] *

 




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