167 【R18G】海辺のフチラータ【身内】
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| 【街中】 「……ええ、お世話になってる店主が腰を悪くして」 普段任務の一環でなければ情勢柄近づかない島に、 カジュアルな国産のスーツを着込んだ男が一人。 「それと小さな郵送屋かな。探してるんですけど、 これは利用は探し物が見つかった後でになるなぁ。 昔の限定切手は意外と置いてあったりしていてねぇ」 出張で着た営業マンの顔をしつつ、 何か探し物をしているのか島人に聞き込みをしている。 なお実際に置いているのは人生で1件しか見たことはない。 (0) 2022/08/11(Thu) 23:44:36 |
「内も外も関係ねえ」
「おっさんの仇は片っ端から潰してやる」
俯く視界に、磨かれた革靴のつま先が映る。
こうしたところからつい、相手を値踏みしてしまうのは仕事柄のこと。
けれど、降り落ちる声には覚えがあるから、そんなものは意味のないことだった。
視線を上げる。
金色の髪の隙間から。翠の目があなたを見る。
そのやわらかな笑みのようにはいかず――それでも少年は、すこしだけ口角を上げた。笑ったのだ。
「……迷子じゃない」
「祭りとか言ったっけ、……こういう感じに慣れないだけ」
「あんたこそまたおれみたいなのに構って、ほんと、物好きだな」
廃倉庫に、硬く無機質な音が響く。
メンテナンスの為に分解された拳銃が、
汚れを除去され、注油を受け、また組み立てられていく音。
元は実に正義感溢れる巡査の相棒だったもの。
それが今となっては無造作に人間を手に掛ける輩の元にある。
何とも哀れなものだ。
「───全ては都合の良い幻聴だ」
カシャン。
最後にマガジンがセットされて、それきり静かになった。
見上げる視線には目を細めて返す。それから隣に並んだ。立ち去る気はないらしい。
「そう? それならよかった」
「マンマとはぐれた仔猫のような顔をしているんだもの。余計なお世話だったかな?」
覗き込むように首を傾げてまたはにかむ。いつもの様子だった。この男はいつだって君に対して、子どもにするように接する。
実際子どもではあるのだけど、年相応より幼い対応に思える────君がどう受けとっているかは定かではないが。
「うん。確かに賑やかだ。逆に裏通りは静かなものだよ、みんな出払ってしまって」
「君はどうしたの。散歩? お使い? 仕事かな。それとも遊びに?」
「遊びに来たならやっぱり一人はいただけないな。保護者が必要だろう? 付き合うよ、どこに行きたい?」
元よりおしゃべりなこの男は、君といる時一層饒舌になる。強引というか、お節介というのも正しいかもしれない。とにかく気にかけている、世話を焼きたい。そんな様子が伺えるはずだ。……やっぱり、当人である君がどう受けとっているかは分からないけれど。
アソシエーテの女に拾われただけの子どもである君は、組織の末端も末端だ。ファミリーの人間が多く集まる場に顔を出すことなんてないだろう。この男がほかの人間にどう接するかなんて、きっと知らない。
いつも通りの子供扱いだ。少年はひとつ息をつく。
けれどこちらも、背を向けるようなことはない。
「……いい、声がかかるのはありがたいことだし」
他にいくらでもいる中で自分がこう構われるのは、やはりよくわからないけれど。
あなたはそういう人物なのだろうと少年は思っている。
他にいくらでもいるのだから、自分が特別だとは到底思えない。
「今は散歩。仕事したってべつにいいけど」
「……どこ行きたいとか、何したいとか。
それもよくわからない」
「こういうの、……初めて見た、から」
流れる人波へ視線を向ける。
誰も彼も、何がそんなに楽しいのだろう。
少年は、祭りも知らないようだった。
君とは頭一つ程度慎重に差があるから、ただ立っていては表情が伺いにくい。普通に並ぶとつむじばかりが見えるのもあって、実際はそんなことないのだろうけど、少しいじけたように映る。
「そう。そうか」
ふむ、と指の腹が顎を撫ぜる。
通りの右から左へと視線を移す。人の流れやら年齢層、手に持った何がしかを眺めて。
「甘いものは好き?」
「少し歩いたところに美味しそうなジェラートの屋台が出ていてね。気になってたんだ」
「君と行ければ嬉しいんだけどな」
少年にはきっと欠落があって、けれど、最初からないものを『ない』と気付くことは難しい。
だから、年相応の楽しみをよく知らないままここまで来てしまった。
少年はついと視線を上げ、あなたを見た。
ああ、気を遣わせた。それはわかる。
それでも、どういう顔をすればいいのかわからない。
あなたが何か買い与えようとするときも、これは決まって同じ顔をする。
媚と身体を売るのなら、甘えればいいものを。
「……ん」
「あんまり食べないけど、嫌いじゃない」
「いいよ、行こう」
どうしたって、口が巧くないのだ。
少し足りない様子の君を見る度に、男は君を愛しく思う。未熟であることは成長途上であることとよく似ている。それはまた幼さと同義で、守ってやりたく思うのだ。
同時に少し哀しくもある。無邪気に無防備に育つことの出来なかった君の過去を思って、男は君の髪を柔らかく撫でるだろう。
「お腹もすく頃だしね。串焼きの屋台も出てたよ」
「僕、あんまり食べたことないんだよね。肉は好きかい」
先導するようにゆっくりと歩き出す。大股の歩みはそのまま、速度を落としてはぐれないように。
「ああ――そっか、そういう時間か」
少年はあまり、食事に頓着しない。
というより、ほとんどの物事への執着が希薄だった。
毎日の食事がある、ということに、まだ慣れ切っていない。
「確かにあんたは物を食べ歩くようなヒトじゃないよな」
「今はだれも彼も何かしら持って歩いててさ、だからまあ、その方が自然なんじゃない」
その高価そうな外套に、スーツに、汚れがついては大変だ。
などと思うことこそ、価値観の差異なのかもしれないけれど。
時間帯もあるのだろう。道行く人々の多くは、あなたの言ったジェラートやら串焼きやら、ものを食べているのが目立つ。
流れる人混みの中を、身長差の分、どうしても狭くなる歩幅でついて歩いて。
串焼きの屋台を見つけると、くいと袖を引いた。
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