167 【R18G】海辺のフチラータ【身内】
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「………どうしていつも、こうなるんだか」
「今更な事だ。ああ、わかってたさ……」
「Sentite condoglianze」
──カシャン、軽くも重い金属音がまたひとつ。
「器用そうな顔してるのに」
なんて。雑踏に溶けるようにして、くすくすとちいさく喉が鳴る。
人混みの中にあっても長躯のあなたはよく目立つから、こちらからは見失う心配もないのだけれど。
小柄な少年は人波に流されそうにもなるものだから、つい、手が出たのだった。
屋台のそばへ寄れば、一層、香ばしさが鼻腔をくすぐる。
耳を楽しませるのは、肉の焼けるよい音。
「ん――」
迷うように、うろ、うろ。
看板に視線を這わせて。
「じゃあ……これにする」
ぴ、と指し示すのは、ウインナーの串。
――情報屋が、死んだ。
幾らかの情報を渡したのは、事実。
けれど、いずれも彼の命を縮めるものではなかった筈だ。
何故という疑問。
そして、それ以外の死者も。
それもノッテばかりに。
狙われている……?誰に?
何故という疑問。
ボスが倒れたのを契機にアルバが攻勢を強めている?
アルバにノッテの怒りが向かうよう仕向けている?
疑問、疑問、疑問。
分からないことだらけだ。
手を、引くべきだろうか。
いや、もっと早く引くべきだったのかもしれない。
Rrr...Rrr...
電話が鳴る。電話が鳴る。
電話に、手を――
うろうろと視線をさまよわせる様子をやはり笑みを浮かべて見ている。
たくさんのものから一つを選ぶというのは、簡単なようで難しい。どれがいいのか、何が決め手か、どうしてそう思ったのか。選択は経験の積み重ねだ。与えられるものを受け入れるだけでいては、些細なことも選び取れなくなる。
「ん、いいね。おいしそうだ」
「それだけでいいの? 君、放っておいたらすぐ食事を忘れるだろう」
彼女に聞いたのか、それとも個人的に知っているのか、そんなことを付け加えた。
上から見る項は細く、成長期の少年にしては肉が足りない。
少年は、選ぶことがあまり得意ではない。
これまであまり、選択肢を与えられてこなかったから。
けれど今は、そうではなくて。
だから、少しずつものを選ぶことを覚えている途上だ。
「……だって、ジェラートも食べるんだろ」
頼りなく薄い身体は、食の細さも影響している。
が、食べないとビアンカが怒るし、あなただってこうして気にする。
これもまた、意識を変えている途上のことだった。
「あんたはどうするの。
不器用だって言うなら、食べやすいのがいいよな」
と言って、どれがいいかわかるわけでもないけれど……。
会ったばかりの頃の君のことを覚えている。
今よりもっと人形のようで、痩せて色の悪い肌をしていた君のこと。それこそ捨てられた子猫のようでいたのだ。その頃から考えれば、随分よく育ったものだ、とは思うが。
「食べるけど……足りるかい。成長期だろ?」
「ああ、それともほかのものがいい? 向こうにパン屋が出張してるのを見たし、あっちにはスープが……」
何くれとお節介を言う男はまるで子煩悩な父親のようですらある。
「僕もソーセージにしようかな」
「もうひとつの……こっち。辛いんだって」
| >>2:89 アベラルド 「へえ、いいね。おいしそうだ」 「じゃあそれを、……ああ」 つらつらと淀みなく紡がれる言葉を聞いている。緩やかな時の流れが支配している。 まったくそうしていれば本当に、ただの従業員みたいだ。よく似合うよ。くすぐったい思考に僅か意識が引かれた。そうしつつも耳ではしっかりと君の話を聞いている。 「困ったな。そんなに言われると、僕も気になってきてしまった」 「試食を貰えるかい。自分用にも買っていこうかなあ、でも食べすぎかもしれないね。どう思う?」 そんな冗談めいた親し気な言葉を投げ返してみる。 (36) 2022/08/16(Tue) 3:33:26 |
| >>38 アベラルド 「わあ、綺麗な色」 「いつ見ても飽きないや。ありがとう、頂くよ」 華奢なトレーを受け取り、小さな菓子を口に運ぶ。 こんなトレーひとつ、ピックひとつでさえ通りで出ている屋台のそれとは物が違う。特別な空間、というやつだろうか。そういうものを徹底しているこの場所に、しっかり溶け込んでいる 家族の姿はなんだか不思議だ。 硝煙の匂いも鉄の匂いも、彼は完璧にかき消してここにいる。 「ん。……これは、ディンブラ?」 「いいね。僕、好きなんだ」 祭りの喧騒も。 ────ファミリー同士の摩擦も。 ここには届かない。 (43) 2022/08/16(Tue) 17:39:37 |
棒切れのような手足をしていた頃に比べれば、今は随分と血色もいい。
こうして陽の下で見れば、夜な夜な街路に立っているとは想像もつかないふつうのこども。
だからそう、少年にとっては、既に身に余るほどなのだけれど。
「……あ〜、わかった。
じゃあ、スープも飲む。それでいいだろ」
根負けしたように言う。
触れられたわけではないのに、撫でられるときに似た、すこしくすぐったいような感覚。
ふるりと金色の髪を揺らして、屋台の主へ向き直る。
「辛いのって、大丈夫か?
まあ、食べらんなかったらおれのと替えればいいか……」
独り言ちるようにこぼして、店主へ注文を。
そうして、財布から自分の分を支払う。
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