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人狼物語 三日月国


124 【身内P村】二十四節気の灯守り【R15RP村】

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視点:


[ 自由に外出をすることもなかったから知らなかっただけで。
  父の家は驚く程近くにあった。
  運動不足のわたしの足で近くまで辿り着けても
  かろうじて不思議が無い程度には。

  父の顔はよく見ていたので、知っていた。
  度々気紛れに顔を見に来ては、
  気紛れにわたしを可愛がっていたから。

  人形、ぬいぐるみ、絵本、玩具
  洋服に、アクセサリー
  いろいろなものを持ってきては
  なんとか機嫌を取ろうとしたけれど
  いつもどこか見当はずれで、けれど捨てられなくて
  殆どが新品同様のまましまい込まれたままだった。

  何もわかっていないころは度々贈り物をくれる相手を
  父親だと理解しないまま『あにさま』と呼んで
  それなりに懐いていたこともあったらしい。 ]

[ わたしが彼を父だと理解できる歳になっても
  わたしの境遇について父は一度も謝りはしなかった。
  恨む権利はあるとだけ何度も言われた。悪いのは自分だと。

 「それで楽になるのはあなただけでしょう?」

  その頃にはわたしはもうすっかり弄れていて
  そんな可愛げのない言葉で無気力に笑いかけるだけだった。
  声を上げて泣き叫ぶ気力はもう磨り減った後だったから。

  一度でいい、せめて言い訳を聞かせて欲しかった。
  嘘でもいいから手放したくなかったと言って欲しかった。
  たとえその場限りの子供だましでも
  いつか一緒に暮らそうと言ってくれるのを待っていた。

  それ以外のものなんて、何一つ欲しくはなかった。 ]

[ 家を出て、拾われて世話になった家には、
  暫く疎遠になっていた懐かしい気配がそこかしこにあった。

  赤子の横には絶妙に可愛いと言い難いぬいぐるみ
  違うとも言えないが女の子用か永遠に悩む玩具のチョイス
  なぜそれを選んだが思わず問い質したくなるような
  どうにも残念な柄の男物のおおきな服

  そんなもので気付くことは勿論なかったけれど
  すっかり打ち解けた女性が笑顔で出迎えた相手が
  父だったのを理解しても、驚くよりも納得した。

 「芒種様ががそろそろ一度顔を見せろとおっしゃっている。」

  久し振りに聞く声に気まずそうに「帰れそうか」と問われ
  世話になっている間一度も崩さなかった
  完璧なよそ行きの態度を忘れ思わず素で
 「本当クソだな」とぼやいたせいで暫くの猶予が設けられた。
  夫婦は陰で言い合ったようだ。
  知ったことではない。

  問われなかったので弁明しなかったが。
  べつに父に言ったわけではない。

  自分の帰る場所はあそこなんだと思い知って溢れただけだ。
  咄嗟に『帰りたくない』とは思ったが
  『もう帰らない』とは出てこなかったから。 ]

[ 自分の覚悟が所詮反抗期の家出レベルだったと思い知って
  諦めて元いた場所へ帰ると決めた。
  計画性が無さ過ぎたので。
  靴くらい履くべきだったし、
  荷物は持てるだけ持つべきだった。
  なにもかもきっと売れば高い。
  そのくらいまで考えるべきだった。
  生きていたくないだけで、どうせ死ぬ度胸もないのだし。

 「ここで一緒に暮らしたい」
  とは思えなかったので言わなかった。
  父はわたしと暮らしたくはないのだから。
  父の帰りを喜んだ母娘に気付いてしまって尚
  あの家から父を追い出し続ける訳にはいかない。 ]


  またあそびにきてもいいですか?


[ 迎えという名の見張りに引き渡されながらそう尋ねた。
  食い気味で何か即答した父を完全に無視して
  女性からの返事をじっと待った。
  望んだ笑顔と返事を、望んだくせに恐怖を以て受け取って
  怯えながらも出来る限りの丁寧な
  礼の言葉を返すくらいは出来たと思う。 ]

[ 家に帰ってまず待ち構えていた先代に呼ばれ
  碌に向けたこともない目一杯の微笑みを浮かべてやった。
  傍で控えていた側用人はその毒々しさに硬直したという。
  ……そう、媚びるのは昔から絶望的に向いていなかった。]


  ねぇ、芒種さま。
  どうせ赦すつもりで迎えをよこしたのでしょう?
  その寛大なお心遣いに感動で胸がはちきれそう。
  これからは心を入れ替えて今まで以上に真面目にやるわ。

  ……それでね。わたし、考えたの。
  ご褒美があると、今のやる気を違えることなく
  ずっと、ながく、持続できるんじゃないか、って。

  そんなに難しい話じゃないのよ。



  ねぇ……『おじいちゃま』
  ………玫瑰、お小遣いが欲しいな。


[ にじり寄って、膝の上を陣取って
  腕を絡めて、体を寄せて、擦り寄って、…
  目一杯甘ったるい声を出して潤んだ瞳で覗き込む。
  子供らしい甘え方なんかちっとも知らなかったので
  たしかこんな感じだったかしらと
  子供の頃から何度か見かけた彼の愛人の真似をした。

  結果として要望はあっさり通った。
  先代は卒倒して暫く寝込んだけれど。
  どこで育て方を間違えたかと随分と魘されたようだ。
  知ったことではない。 ]

[ かくして金に物を言わせた静かな攻防が始まった。
  何と何を争うかなんて決まっている。
  あのあと一歩なにかがずれた絶妙なセンスの数々と、だ。

  父の事は許す許さないのはなしではないが
  父のあれだけはどうしても許せなかった。
  父を選んだ彼女は彼女自身の選択なのだから何も言わない。
  けれどまだ何も自分で選べないあの赤子に
  独特の感覚を刷り込むのは
  どうしても、どうしても耐え難かったから。

  なんて。
  そんなのきっと、ただの口実のひとつだった。
  温かく出迎えてくれることはわかっていても
  あと一歩勇気が出なかったから。

  実際、その後何度も繰り返し
  もういちどあそびにいく、いい口実として使われた。 ]

[ 小さな赤子が言葉を覚えるのはあっという間で
  自分がどういう立ち位置になるべきかなりたいか
  決めるより先に『姉』の役割が与えられた。

 『目上の女性』も『ねぇね』なので
  否定も訂正もしないままでいたら気付いたときには
  すっかり彼女に『自分の姉』として認識されていた。

  きっと訂正する機会はいくらでもあったのに。
  どうなりたいかどうなるべきか
  答えがでないのを言い訳に先延ばしにした。

  はじめて、わたしと家族でいてくれる相手ができたようで
  家族でありたいと願ってくれる相手ができたようで
  どうしても、手放すことができなかった。 ]

[ 子供らしい甘え方の正しい解は随分と遅れて知った。
  小さな子供と接する機会がなかったから。
  自分が子供らしい遊びを知らなかったことも、知った。 ]


  ええと、……まってね?
  どうするのが正しいのか考えるから。

  ……、……とってもおいしそう!ね?
  茉莉ちゃんはお料理が上手ね。
  ママに似たのね……

  ええと、その……いただき、ます……?
  たべる?のよね?きっと、
……え、たべ…る……、……?



[ はじめて知る遊びにいつも戸惑ってしまって
  子供の遊びすら上手くできないわたしを
  それでも懲りずに何度も遊びに誘ってくれるのが
  また失敗するのが怖くて、けれど嬉しくて
  うれしくて。

  最初はへたくそだった絵本の読み聞かせも
  後継としての教育以上に熱心に取り組んだ。
  自分が贈った絵本を選んでくれた時に機嫌が良くなるの事に
  幼い彼女が気付いた上で絵本を選んでいると気付いたときは
  いろんな感情がごちゃまぜになって
  どれが正解か悩んで軽く知恵熱をだしたりもした。 ]

[ いつの間にかあの子がわたしの世界の中心になっていて
  あの子にはなんでも与えてやりたくなっていた。

  例えば、そう。
  わたしには与えられなかった『自由』だとか。 ]

[ 真面目にやったところでわたしの出来は頗る悪く
  何をやらせても不器用で、伸び代は早々に尽きて。

  それでも父の…祖母の血筋を諦めきれない先代は
 『もうひとりの娘』に目をつけた。
  まだ諦めきれないわたしに競い合わせようと目論んで
  わたしにも、わかるように。

  是が非でも退場していただこう。
  たとえ今のわたしに芒種が務まらなかったとしても
  知ったことではない。
  そう決めるのに時間はかからず、
  そう動き出すことに迷いはなかった。

  幸い、芒種を失落させたい味方はたくさんいた。
  みんな自分に都合のいい誰かや自分を次の芒種にしたくて
  その為には、今の芒種は邪魔なひとが沢山いたから…… *]

 ― ぼくのお話3 ―

[先代の雨水に連れられて、外に出た時
 外の光が眩しい事を久しぶりに思い出していた。]


 雨水さまって
変。

 こうけいしゃってやっぱり蛍っていうのからえらぶものじゃないの? きぼうしゃはいなかった?


[外に出て、あれこれ知識を付けていく内にいかに先代が変な事をしているかわかるようになっていた。
 先代はそれでも笑っていた。]


 「蛍ねぇ、まいるやつはそれでいいんだろうけど
  後継者争いになるとドロドロするって話もあるぞ〜?

  希望というか……ま、その辺はな。
  俺がいい、と思ったやつにするって言ってたし」


[頭をぐしゃぐしゃされた。意味がわからなかった。]

  



 ぼく、勉強もそうだけど、人付き合いも
 灯守りのこととか、色々……わかってないのに


[そう言うと、それでいいんだよって先代は笑った。
 そうしてぼくの灯りを見る。]


 「俺は、お前の
が気に入った。
           それが理由だ」


[白く、柔らかい光がその日もぼくの手元にあった。]**
 
 

 [ ──あなた白露が目を覚まし、名を尋ねられた時。
 何と名乗ったのでしょうか。
 もし名乗らなかったり、難色を示したり、
 分からない素振りを見せれば
 紫明様が仮の名を名付け、私もそう呼んだでしょう。

 あなたが来てくれて、私はとても嬉しかったのです。
 目を覚ましたあなたは、予想通りとても可愛い子で。
 その微笑みに、心を奪われてしまいそうになるくらいに。

 この時は、覚醒の喜びにお人形さんのつくった
 可愛い笑みの違和感に、気付かなかったですが
 
だって、あのぼろぼろの状態で発見されて
 目覚めて動揺も見せずに笑顔を振りまくなんて。


 共に笑い、学びながら過ごした日々。
 お仕事で忙しい紫明様や蛍の皆様よりも、
 私と触れる機会が多いのもあり、私によく懐いてくれました。

 可愛い声で「お姉ちゃん」と呼んでくれて
 一緒に街へとお出かけもしましたね。
 この服が似合いそう、とひらひらフリルつきの
 パステルピンクのワンピースを眺めたり。
 私の好物である、イチゴ尽くしのクレープをおすすめすれば
 嬉しそうに食べてくれたり。
 
 妹であり、友達であり、灯守りと蛍として。
 あなたとの日々は、いつでもいつまでも 
 消えることのない、思い出です。]
 

 
[
『“白露”の灯守りが居なくなった!』



 嘘のような事実話は、秋の領域から徐々に広がりました。
 灯守りというものは、突然消えることも少なくないらしい。
 まことしやかに聞く噂を思い出します。


  
──紫明様も、引退すると告げて去るまで
        ひと月もありませんでしたからね。

 

 この時私は、新たな白露の候補が居ない場合、
 新たな灯守り候補として、あの子を白露に推薦したのです。



 
 思えば、何故この時推薦したのでしょうか。
 振り返れば、見切り発車過ぎたと私自身も思います。
]
 

 
[ 既に蛍としての仕事も慣れてきた頃であり
 この子に新しい世界、季節を見て貰いたい願い。

 灯守りになれば、私と同じ立場になる。
 紫明様、私と二代で手塩にかけて育てた愛しい子、妹が
 一人前となる晴れ姿を見たい。

 この子なら出来る、やれる、と信じてるから。


 
……でも、後で思い出したのです。

   あなたの想いを、慮ることが出来ずにいたこと。
]
 

 
 
 
[ ──だって、肝心の本人の思いは? ]

 
 

 
 
[ 蛍を辞め、他の灯守りになる。
 「この地から出て、何も知らない地へ一人で行け」と
 云っているようなものですから。
 甘えん坊で、人懐っこくて、でも人見知りな子に。

 あの子は承知してくれましたが、
 本当は嫌だけど、拾われ育てられた子だから──と
 気遣い、引き受けたのかもしれません。

 勿論、厄介払いしたかったから、と邪見に思うことは
 ──そのような考えは、当然万に一つもありません


 「いつでも私を頼ってね」と門出を見送ったとき
 あなたはどのような表情をしていたのでしょう。

 いつもの、お人形さんのように可愛らしい笑顔でしょうか。
 別離を悲しむ様子は、見えたでしょうか。
 専ら私といえば、途中から言葉にもならない程に
 ずっと泣きじゃくっていたのですが。]

 

 
[ それ以降も、最低月に一度、何度か会ってはいるのですが
 さすがに毎日毎週とまでにはいきません。
 会う度に笑顔で抱き合い、灯守りとして成長を続ける姿を見て
 嬉しくあるのは当然です。



 
──────、




 誰もいない楓蔦黄の席。
 疲れた羽を癒すべく、いつ戻って来てもいいように、
 なんて理由でしばらく開けていたけれども。

 ……妹離れ出来ていないのは、私のようでした。

 蛍の席があっても無くても
 いつでもあなたは私の“妹”だから
 あなたのお部屋もそのまま置いてあるのだから。
 たまには帰って、元気な姿も見たいけれども。

 ────……。]

 

 
 [  立春様はとても可愛らしい方でした。
    先代様が引退なさるとお伺いしたときは
    やはり少し寂しくもあったのです。けれどね。

    ……そうそう、こんなことがありましたね。 ]



    お役目ご苦労様です、立春様。
    そんなに緊張なさらなくとも大丈夫ですよ。
    わたしは大寒と申します。
    どうぞ仲良くして下さるとうれしいわ。


  [  わたしは至って普通に
    ご挨拶をしたつもりでしたけれど
    沢山の言葉が迷子になっているご様子です。

    鍵の使い方はわかりますか?
    と、そんなお話しをしたはずが
    ……あら、お姉様のお話しだったかしら?

    彼女は必死だったかもしれませんが、
    わたしはとても楽しくきかせていただきました。

    今日は無事にお役目を果たせているかしら。
    自分はおサボり灯守りなのだけれど、
    緊張の顔が見えたなら、大丈夫よ。と。
    にこやかに微笑んだでしょう。  ]

 ― ぼくのお話4 ―

[ある年の冬。雨水の地域に記録的な大雪が降った。
 建物の入り口すらふさがったくらいだ。

 先代は外の外気と領域の気候を合せるタイプで、ぼくは寒い、寒いとお布団にまるまっていた。

 今日は大人しく勉強してるか、と流石に先代も引きこもっていた。そんな折、住人の一人が大変だとやって来た。

 雨水さまがどうした? と聞けば、その人は別居している家族の家が雪のせいで屋根が半壊したとかで騒ぎになっているとか。
 それは流石に灯守りの仕事じゃないんじゃ? と思ったし実際その手のプロの人がいっているみたい。

 ただ、雨水さまは些細な困りごとでも人を動かせる立場だから。出来るだけ相談しろって言っていたみたいだ。

 どうするのかな? と雨水さまを見たら、彼はなぜかぼくを見た。]


 「よし、お前の出番だ。花雨」


 

 
[ぼくは目を丸くした。]


 ぼく、レスキューなんて出来る力ないよ?

 「んな事は知ってる。そっちに期待するかよ。
  能力だ。お前なら雪を溶かせるだろう?」


[ぼくの表情が止まった。

 あの力を使ったから、怖がられたから
 それはぼくのトラウマだ。

 首をぶんぶん、と振った。いやいや、と。]


 「能力自体は確かに使い方ひとつだ。
  でもな、悪いが使ってもらう。
  俺は、手が届く範囲で俺の領域のやつを助ける
  見てみろ、こいつ困ってるだろう?」


[そう言って飛び込んできた人を見た。
 確かに困っている。雪で中に入れないまま時間が過ぎれば、それだけ中の人が凍死する可能性が高くなる

 そう思ったら、手が震えた。]

 

 

 ……たすけ、たいけど
 中の人、まで……とかさないって、わから……ない


[流石に来た人がぎょっとした。
 ぼくを、恐れた。


 ……それは仕方ない事。
 気分が凹みかけた時、肩を掴まれて目を見られた。]


 「そういう時は、出来るって信じろ。
  入り口の雪さえ溶かせばいい。
  お前の能力は、今使えば人を救えるんだ。

  俺が全責任もってやる。
  失敗したら俺のせいだって言っていい。

             だからやってみろ」


[……無茶苦茶だと思った。
 どうして、そんなに ぼくを、信じれるのだろう
 どうして……ぼくに出来ると思う事が出来るんだろう。

 ただ、人を救える。
 その一言が、ぼくを立たせてくれた。]

   

 
[結論から言えば、ぼくは能力をうまく使えた。
 以前の時は感情的になりすぎて暴発しただけだった。
 使おうと、意識すれば範囲や対象は選ぶことが出来た。

 ぼくは色々お礼を言われつくして、終わった後暫く立ち尽くして手をにぎにぎしていた。

 どうした? と雨水さまに聞かれてんー、となる。]


 ぼくって結構すごい?


[そう言ったら大物だなって大笑いされた。

 それから、先代はぼくに手袋をくれた。
 これがあれば大丈夫だ。っておまじないの言葉と共に。
 下手に使わないって心理的ストッパーにしたかったんだろうけれど
 ぼく個人としては、プレゼントだって嬉しくなっていた。

 それ以来、夏以外はその手袋をつけるようなったんだ。]**

 

――あの頃の話――

[さて、本当に不安はなかったのか、少し記憶を辿るとしよう。
 いやしかし、気づけば在位も長くなったものだ。この頃のことを覚えているのが一体何人ここに残っているだろう。
 もう冬至か、それと同じだけ在位しているようなやつくらいしか知らないんじゃなかろうか。
 誰も知らないならそれでいい。だから取り立てて語る気はなかったが、ちょうどいい時分だし、酒も入っていい気分だし、口は固くしたままでも、頭は柔らかく時を遡るのも悪くない。


 私がこの会合に初めて参加したときは、肩書につくのは蛍でもましてや灯守りでも何でもなかった。
 ただ『灯守りに目をかけられているだけの一般住民』がそこにいたのだ。]

[先代小満を知る人はもう小満域にも残されていないだろうが、大変に豪放磊落、しかして器も心も広いお方だった。
 私とは別の方向に自由な人だったが、職務には実直で中央の人間からの評価もよかったらしい。
 風のような人だったと思う。初夏に青葉の中を走り抜けていく涼風。簡単に捕まえることはできないが、吹けばその場が明るくなり、心地よく目を覚ましていくような。

 その人がある日突然目の前に現れて、俺の下につかないかと言ってきたのだ。
 空耳か人違いかと思って何度か目を瞬いたり周りを見たりしても状況は変わらず。
 『――嫌ですが』と言ったら、大声で笑われたことは覚えている。]

[そうだよなぁ、と言いながら、けど悪いな、そんなに拒否権がねーんだわ、とやや強引に領域に連れて行かれた。
 知らない名前の茶を出され、茶菓子を出され。その時の茶の味は思い出せないが、出してくれた紅花栄がまあ素晴らしく目を引く美女だったのはわかる。]

お前さん、能力持ちだな。


[小満は言った。私は否定も肯定もしなかったが、とうに返事はいらないようだった。
 だんまりの子供に話は続く。]

お前さんに保護や補助が今以上に必要かといえば悩みどころだが、なんとなく……そう、なんとなくだな。
俺の灯りがお前さんを選んだ、そんな気がしてんだ。

無茶苦茶を言うし一方的だと思うだろ?
俺もそう思うし、悪いと思ってる。

まあ、しばらくは外と行き来でいいから、俺のとこに来てくれないか。

[その時は知らない、というか気にも止めていなかったが、おそらく小満の灯りは、随分と弱っていたのだろうと思う。
 次代の天命を、どことなく勘づくくらいには。
 今思えば、記憶にある笑顔の中に、微かに苦さを感じた。
 
しかし、急なナンパ癖は先代譲りかもしれない。
感染ったとは考えたくない。]

[しかして蛍でもない灯守りの弟子、というものは、さしたる仕事がない。
 あの小満は本当に正しく仕事のできる灯守りだったので、蚕起桑食の支えもあって仕事はすらすらと片付いていったし、私は文字通りの意味での見学ばかり。
 紅花栄に屋敷のことを教わったり、茶や料理を教わったりしたほうがよくよく身についている。
 あとは麦秋至と領域の花畑で昼寝をしたり、笛を吹いて過ごしたり。そもそも直す気があったのか知らないが、浮雲のような私の性格が正されることはついぞなかった。

 そんな折、とにかくいるだけでもいいから見て行けと、私はこの会合の場に連れてこられた。
 蛍の席を勧められたが断った。そこは私が座していい場所ではないからと、無駄な頑固ぶりを発揮して円卓の少し後ろで突っ立っていたっけ。
 そうして本当に何もせずいたから――うん、やはり不安はなかったな。
 なにせ責任など何一つなかったんだから。]

[それから蛍代わりに何度か連れてこられ、覚えたことはこのお固い灯守りの仕事においても、四角四面なものばかりでないこと、蛍任せだったり、どころか出席自体しないようなのもいること。

 そんなもんか、と思ったのもあって、自分の座る椅子が小満の席になっても、緊張でトチるだとかとは無縁だった。
 むしろ適当に構えすぎて、資料は不足しているわ調査は足りてないわで傍にいた蚕起桑食はてんやわんやだったが。
 それからだ、会合まわりを蚕に頼むようになったのは。

 若い若い灯守りの、青い時分の話だ。
 わざわざ人に語るようなことじゃない*]

―先代霜降と立秋―

[先代霜降、紫明はかなり長く灯守りに就いていた。立秋にとっては先輩にあたり、甘えられる存在だったからよく懐いていた。ごくごく稀に、悩み相談をすることすらもあった。

だから、引退すると聞いたときは。]

……そっかー。寂しくなるね。
引退しても、立秋域に会いに来てよね!
ボクからも会いに行くからね!

[紫明が存命の間は甘えに行くつもりであり。抱きついてから、「またね」と手を振ったのだ。*]

[その紫明の新しい蛍だというから、彼女の印象は出会う前から当然悪いものではなく。]

わあ!それ、半分染めたの?
おっしゃれー!

[初めての出会いの時、赤と白の髪を見ての第一発言。そしてその髪が生まれつきであり、且つ名前が葵だと聞けば。]

ええー!!すごーい!!
綺麗だねっ!しかも赤白なのに、名前が青いちゃんとか!三色じゃん!

[そんな感じでお気に入りの一人になり。
蛍名より覚えやすかったから、名前で呼んでいた。

彼女が霜降になってからは、葵ちゃん、化粧も服のセンスもいいよねーとちょくちょく構いに行っていたものだ。]

[なお、立秋のところの蛍にそーっと手を伸ばそうとしたことがあったらば。チュウくんとショウくんは小動物のように愛想振りまいていたけれども。


『我ノ顔ニ何カツイテマスカナー』
『マア 目トクチガ付イテオリマスガナー』


[人間の子供サイズで一番デカいダイくんは、実は人語を話せる…というヒミツを知ることとなります。**]


[なにが?


   が]

[先代の白露が消えてしまった後、わたしは霜降様お姉ちゃんに、次の白露の灯守りに推薦されていた

正直に言えば、なんでわたしを?と思った
今でこそ、他の蛍や霜降様お姉ちゃんの手を借りて、蛍としてやっているけれど、
手を離されてしまえば、きっと歩くことも出来ないと思っていたのに
“わたしで務まるか、心配です”と微笑んでお人形になってみたけれど、

大丈夫と、あなたはわたしの手を離した]


[ふいに、あの雨の日、
水溜りに落ちた瞬間のことを思い出した]

[白露域に向かうあの日、
少ない荷物を詰め込んだトランクを持つわたしを、涙を流しながらお姉ちゃん霜降様は見送ってくれた
「いつでも私を頼ってね」なんて気遣う言葉を添えて

にこりと、わたしお人形は綺麗に微笑んだ
初めて会ったあの日に見せた、歪な笑顔よりもずっとずっと綺麗に]



[わたしお人形お人形わたしなのだから

いつか、捨てられるものでしょう]



[わかっているのに]


   



   
[――わたしの背中には、
がある]



 

[わたしの生家、風見家では、
長子が小雪の蛍となる習わしを長年続けてきました。
血筋に加えて能力まで備わっているかは各世代に拠りましたが。

そんな我が家の書斎を隅々まで巡れば、
先代の小雪さま
の悪行
にまつわる記録もありました。
100年以上もむかし、先代の小雪さまが忽然といなくなった後、
風見家もその捜索を手伝いましたが、その行方は杳として知れなかったことも。

それから新たに小雪さまとなった方が、蛍を迎え入れなくなってからやはり100年以上。
それでも生家の地は絶えることなく受け継がれていきました。
その末代にいるわたしは長子ではなく、ふたつ上の兄がいるのですが、
お父さまはある時宣言しました。「胡乃羽を次期当主とする」と]

[理由はふたつありました。
ひとつは兄の身体が弱かったこと。
もうひとつは胡乃羽――すなわちわたしが、能力をもっていたことです。

ヒトがこの世に生まれた時、
神様ってやつが気まぐれにくれるおくりもの――
わたしの家では『能力』のことはこんな風に好意的な解釈をされていましたし、
風見家には数代おきに、風にまつわる能力をもつ者が生まれるのだとか。

能力をもっているのがにいさまだったら、
話はややこしくはならなかったのですが。ままならないものです]

[長子でない者が風にまつわる能力を持つのは過去にないことだとか。
そんなイレギュラーを、お父さまは笑って受け入れましたが、
親族は揉めに揉めたそうです。
まだ幼い(互いに十にも満たない)きょうだいの意思を置き去りにしたまま。

その揉めは尾を引いたかって?
少なくともわたしたちきょうだいの間ではそうじゃなかったと言えるでしょう。
次期当主になるための勉強がつまらなくなって、
能力を使って容赦なく逃げたわたしを、
にいさまが匿ってくれたこともありましたし]

[「まるで背中に羽があるみたいだ」

わたしの能力『旋風』はわたし自身にも使うことができます。身体を強くする方面で。
そうして、にいさまの部屋(2階にある)の窓から飛び降りても、
けろりとしているわたしを見て、にいさまがこう言いました。

そのことを何年たっても覚えていて、
いつしか、能力を自分に使う時に、
背中に羽があるのをイメージするようになりました。

イメージが定着しても、さすがに空を飛ぶことはできませんでしたが、
空を飛べなくとも地を速く走れる鳥がいるじゃないですか、
あのような気分にはなれました。
それでも結局、わたしが透明な籠の中にいることには変わりありませんでしたが**]

―― 先代と雪兎 ――


[ その時の先代は、先代の雨水に対し、処暑域で収穫できたブドウを差し入れていたらしい。
 先代処暑の彼は、真反対、という意識しやすい位置に対し、興味を持つ、という方向性の意識を向けていた。
 だから先代の雨水とも交流が深かったようであるし……彼ならば、あの社交的な人と仲良くやれるだろうな、と思う。

 そこを円らな瞳に見つめられ……ブドウを何粒か食べさせた送ったようだ。 ]


  
「 それで金平糖これをもらったんだけど、食べるかい? 」



[ 笑顔で私に勧められた可愛らしい小袋は……彼のものだから、と受け取らなかったけれど、
 それが頻繁になるにつれて、私も観念して口を付けるようになった。

 初めて雪兎を見たときに「これが例の……」という感情が湧き上がったけれど、
 複雑な気持ちもあって、今まで、そのことに対して礼は言ったことがない。
 ]

 
[ 先代は余程、余程雪兎を気に入っていたようで、そして慕っていたらしい。
 ある時、処暑域に珍しく雪が積もった。
 そう、雪遊びが出来る程度に。
 彼は、彼なりに興奮していたのか、私を呼んで、雪を眺めていたのだけれど。
 積もった雪で彼が作ったのは雪兎。
 南天の葉と実を、耳と瞳にして。
 満足げにした彼は魔道具である写真機でそれを映していた。
 即座に冬至の彼女へと届けられたらしい“写真”を見て彼女がどうしたのか――私は、知らないけれど。* ]
 


―― 幕間:『橙木』
  

[ わたしが生まれたのは、
 春よりは少しばかり肌寒い土地で
 かつては幾度も灯守りを輩出したという、
 いわゆる“由緒正しい家”というやつだった。

 そう、かつては。
 華やかなるは既に過去のもの、
 長き時の流れを経て彼の地の灯守りの役目は家を離れ、
 『橙木とうのき』の名も今は旧い家系のひとつにすぎない。
 はっきり言って斜陽である。

 なんなら似たような旧家同士、
 存続のため政略結婚によって血を繋いだという話も多く、
 この名すらかつて名を馳せたそれではないのかもしれず。
 (つまるところ、あの方が只人であった当時は
  その名は『橙木』ではなかったのかもしれない)
]
 


[ 当代の春分――緋桜さまとは、
 元を辿っていくと同じこの家に繋がるのだという。
 血族としてどれほど近しいかは知らないが
 今、生きているわたしより
 きっといくつか前の世代の存在であるそのひとを
 なお注視し続ける程度には遠からぬものなのだろう。

 灯守りは只人と違う時を生きる、なんて
 それは当たり前に常識だけれど。
 初めて顔を合わせた頃から今も、
 あの姿で、変わりなくそこに在り続ける御姿は
 紛れもなく人智を超えた何かに相違なく、
 
故にこそ、頑張らなければと焦りを覚える

 まるで天を仰いでいるような心地にさせられる。

 
それを利用しようだなんてとんでもない。

 血族でありながら人の範疇を外れた存在を、
 それが手の届かぬところへ行ってしまわぬよう
 近くで目を光らせていること。
 
……なんて、名目でしかない気もするが

 それがわたしの役目。此処にいる、理由。 ]
 


[ 灯守りの側仕えとして、
 灯守りや蛍の面々と関わることが多いと
 感覚が麻痺してしまうところがあるが。

 能力を持つ人間、というのは
 少なくとも世界の多数派ではなくて
 故にこそ灯守りや蛍となる者が多いのかもしれない。

 かくいうわたしの『凪持能力』も
 生まれながらに持ち合わせた異能であり、
 だからこそ、少し厳しく・・・育てられた気はする。
 それが普通だったから、よくわからないけれど。

 ひどく限定的ながら、
 時間という概念に触れる、人の身には余る力。
 わたしという存在自体、
 きっとあの家にとっては道具のようなもので

 道具にするにしては、いささか勝手が悪すぎた。 ]

 


[ 蛍の代替わりを好機とし
 異能の子の社会勉強と謳いながら、
 ゆかりある灯守りのもとへ送られ。
 春があたたかいことも、世界は案外優しいことも、
 春分域で暮らすようになって、初めて知った。

 ただ生きているだけだった世界に色が付いた。
 わたしなんかに寛大に、
    やさしく接してくれるひとの手で。 **]
 

[若い灯守り。
 世代交代が行われるということは、別れもあるということだ。
 号を挙げるたび、脳裏によぎるのが彼女たちのひとつ前であることに年嵩を感じる。
 ほんの10年くらい前まで結構男性比率も高かったんだが、気づけば若い子は女性が多いな、などと会場の華やかさに思ったり。
 
いいや決して長勤めの女性陣に華がないとは申しませんとも。
]

[霜降の紫明、立春の蘭花、雨水の村雨――
 特に村雨は、どことなくかつての小満を思わせる雰囲気があって若い頃はいろいろと構ってもらった。その内容は、まあ、ちょっと青すぎて語りたくないところもあるが。簡単に言えば遅すぎる反抗期が私にもあったってことだ。

 立夏は正直、蛍の印象ばかり。隣だし接触の機会は他より多かったはずなんだが、ほとんど本人には会わず。悔しくて唐突に会いに行ったりしたっけな。
 白露はどうしているだろう。急に失踪をしたと聞いた時はどこぞの親友のことが一瞬過ぎりもしたが、手紙すらといった調子らしく今なお気がかりではある。

 それこそ目の前の小暑だって、まだ先代の印象が強い相手だ。
 まったくあいつときたら、自分の妹に向かって人のことを『考えると負け』だなどと、人聞きの悪い。
 こんなにも人畜無害だって言うのになあ*]

 
  「 
“ユラ”
 、 」



[ “彼”の愛称なまえを呼ぶ。
 応えてくれる人は、疾うにに亡い。 ]

 

 
[ 先代処暑である彼――
『夕来(ユウラ)』
という名のその人と出会ったのは、
 処暑域の最高学府だった、とだけ言っておく。

 私は昔から人と接するのが苦手であり、資料と向き合うだけが取り柄の人間で、
 故に、学者に向いており、学者しか道がないような人間だった。

 そんな面白味もなく、可愛げのない人間
の何処がそんなに気に入ったのか、彼は飽きることなく私へと構ってきた。 ]
 

 

  「 髪の毛、綺麗だよね
    その色、僕はとっても好きだな 」



[ 私の
黄金色
の長い髪を見て、彼はそう言っていた。
 私は彼の
髪色
の方が綺麗だと思っていたけれど。
 だけど彼が何度もそう言うならば、この髪で良かったと思った。
 ]


  「 名前も綺麗だよね

    『金波カナミ

    って、一面黄金の稲田を思い起こさせるというか 」



[ 彼は処暑域の出身ではなかったからなのか、彼の目には珍しい田園風景を気に入ったらしい。
 私は彼の
名前
の方が綺麗だと思っていたけれど。
 自分の名前は特段好きでもなかったけれど、彼がそう言うならば、この名で良かったと思った。
 ]
 

 
[ 当時の私も、意識的でないにしても、人を遠ざけるような態度を取る人間であったし、実際私の周りに居る人間は多くはなかった。
 彼に対しても淡々としていたし、周りからはそっけなく見えていたかもしれないというのに、
 何が良かったのか、彼はずっと私の側に居ることを選んだ。
 どうしたら良いか分からず、私の態度は傍目から見たら変わっていないように見えただろうけれど、彼は何かを感じ取るように、私の内心に寄り添うような人だった。

 面白味もなく、可愛げもない、そんな
が醜く嫉妬し拗ねたら、更に面倒くさい。
 彼に離れていって欲しくないと思う程度には、私も彼が
きだった。
 だから表に出さないのに、「ごめんごめん」と彼が先に言っていた。
 とはいえ、“その子雪兎”への贈り物餌付けはやめてくれなかったけれど。 ]

 

 
[ 彼が次代灯守りに選ばれた時、私は驚きはしたけれど、彼ならば務まると思っていた。
 選ばれた事が嬉しい、というよりは、腑に落ちたような感覚で、
 その時も諸手を挙げて喜ぶというようなことはなかっただろう。
 私なりには、祝福していたけれど。

 ――だけど私は、「貴方を支えたい」だとか、「蛍になって貴方の側にいたい」だとか、そんな可愛いことを言える
じゃなかった。
 その頃の私は、学術機関で新米学者をやっていたし、その道を彼に合わせて辞めるという意思もなかった。]
 

 
[ しかし彼はそれを全て理解した上で、何の不満もなく受け止めるような、そんな人間だった。 ]


  「 僕は、研究をしているきみが好きだから 」


  「 僕が灯守りとして役目を終えたら、ふたりで暮らそう 」



[ 私の仕事はそのまま、彼も灯守りとしての道を行く。
 務めを終えるまでは離れたところで頑張りながら、務めを終えたら、余生をふたりでゆっくりと過ごす。
 それまで、結婚もしない。
 それが私と彼で決めたこと。

 それから私は自分の興味を突き詰めていたし、彼は立派な灯守りとしての地位を築いていった。
 私は領域に暮らす訳ではなかったから、普段は離れ離れであったけれど、それも苦ではなかった。
 ……少し寂しいと思うことはあったけれど、私は研究が楽しかったし、彼が素晴らしい灯守りとして務めを果たしていると思えば、嫌ではなかった。本当に。

 休みが合えば、私は彼の領域を訪ねて一緒に食事をし、ふたりで過ごしていたし、
 ふたりで処暑域の海に行って、橙色の夕景を眺めて砂浜を歩いたりした。 ]
 

 

  [ この時は、信じて疑っていなかった。
   穏やかな未来が、訪れることを。 ]


 

 

  「 “カナ” 」



[ 彼が私の愛称なまえを呼ぶ。
 呼んでくれる人は、疾うにに亡いのに、
 いつまでも、いつまでも、頭の中で繰り返し再生する思い出す。 ]

 

 
[ 先代処暑は、親しかった者になら時折、“カナ恋人”の事を話していた……らしい。
 その存在が今の“私”と繋がれば、もしかしたら、私個人の愛称を知る灯守りがいる、かもしれない。

 ――尤も、その名を呼ばれたら、私はひどく苦々しい顔をするだろうけど。** ]

 

 ― 先代のお話 ―

[先代雨水は先代処暑からブドウを差し入れされた。
 雨水の先代もまだ真反対の相手がどんなか、と興味をもち、相手も同じと知ればよし、じゃあまずはダチにでもなるか? なんてフランクに接していたそうだ。

 交流が深い彼の領域には何度も遊びにいったし
 農作物について互いに意見を交わしあう事もあった。

 仲が良かった。
 良かったからこそ……殺されたという話や訃報は信じられないものだった。


 「バカヤロウ」


[墓前にそう告げて、一人泣いた先代雨水の姿を見た事がある人がいたかどうか。
 いたとしたら彼はこう言っただろう。
 「局地的に通り雨が降っただけだ」なんて。

 貰ったブドウで作ったワインを添える。あっちでゆっくりのんでくれ、と呟きながら。

 やっと自慢できる味に仕上げてやったのに。

 そんな独り言は風に流れた。]
 

 
[先代雨水は知っていた。
 先代処暑が話していた存在を。
 その存在が次の灯守りになったと知った時もまた驚いた。そうして、軽率に絡みにいった。

 せめて、少しでも見守ってやれるように。
 ブドウの時期になると仕入れさせてくれよ、と声をよくかけた。相応に構った。それこそ窓際に一人いたら突撃していく程度には。

 次代の彼らが仲良くなれるかは当人たちに任せる放任主義だ。

 彼はそれでも、仲良くなってくれたらなぁ。
 なんて現灯守りたちを父親のような目線で思いつつ、願うのだった。]
 

 
[さて、ここで視点は先代になる。
 村雨は小満の事が気に入っていた。
 というか気にいってないやつはがいた覚えは彼にないのだが。


 まだ相手が若いと言える頃合いを共に過ごした仲。
 そりゃあまぁ青かった彼は可愛いものだったと思いだしては未だに笑みを浮かべる。
 遅かりし反抗期をまさか自分にぶつけて貰えるとはな。と内心でニヤニヤしていたものだった。


 それは彼の中じゃ笑い話という扱い。
 相手の名誉のために自分からは誰にも、勿論現在の雨水にも話してない。
 これから関わる相手に先入観はないに越したことはない。ただあいつの料理はおいしいぞー、なんて吹き込んだ程度だ。

 感謝してくれていいんだぜ? なんて内心で思っているのは秘密の話である。]**
 

[パパとお姉ちゃんと自分との少し複雑な関係を、
幼い頃の私は当然ながらまったく理解していなかった。

パパの独特のセンスで買い揃えられたおもちゃに囲まれた
ちいさな家の中が世界のすべて。
『灯りはとてもたいせつなもの』という
親から子へと誰もがみんな
口を酸っぱくして教え込まれる事柄以外、
私は何も知らず、知らされず、
芒種域に住まう他のごく普通の人々と同じように
もしかするとそれ以上に恵まれて、
何の不自由もなく健やかにすくすくと育った。

自分の暮らしている芒種域のこと。
統治域を守る『灯守り』のこと。
先代芒種様が大叔父さんであること、
親族一同が灯守りの役目に固執してきたこと。

大好きなパパがお姉ちゃんを置いて血筋から逃げたことも、
そうしてママと愛し合って生まれたのが私だということも。

蘭花様──師匠に弟子入りして
初めて知ったことは数知れず、
きっと未だに知らないことが、私にはたくさんある。]

[大好きなママに抱かれて、大好きなパパの顔を見て
優しいお姉ちゃんも傍に居て。
安心してうとうとと夢路に旅立とうとしていた赤子は
いつもとちがう『空気』を感じ取ってぴくりと目を開けた。

パパとお姉ちゃんがよくわからない話をしている。
いつもは優しいママが黙り込んでこわい顔をしている。

パパの後ろに誰か、しらないひとがいる。その人は、
ママがいつも確かめるように眺めていた娘の腕輪──
──私の『灯り入れ』を一瞥して、
なんだか胸がざわつくような笑い方をした。

その人と一緒に背を向けて遠ざかっていくお姉ちゃんが
どこか途方もなく遠いところに行ってしまう気がして。
まだ名前を呼ぶことも、走って足に縋りつくことも出来ず
お乳を飲むか眠るか泣くかしか出来なかった妹は、
そのしらないひとを直感的に『わるいひと』と判断した。

お姉ちゃん、『いかないで』。
お姉ちゃんを『つれていかないで』。

まるでそう全身で訴えるように、堰を切ったように
母親の腕から転げ落ちそうな勢いで泣き叫んだ。
誰にも伝わらなくても、何の意味も成さなかったとしても
何もわからないなりに何かしたかったんだろう。]

[誰かに連れられて出て行ったお姉ちゃんが
再び家の扉をくぐった日。
赤子は目に見えてご機嫌な様子を見せたが
またどこかに行ってしまうことを怖れてか、
どこに行くにもべったりで
お姉ちゃんから離れようとしなかったらしい。

以降もお姉ちゃんが家を出ようとする度に不安がって、
言葉を覚えだせば声に出して我儘も言うようになった。

隙あらば繋ごうと手を伸ばしていたのは
手を繋いでいれば安心していられたからだ。

あまりお姉ちゃんを困らせては駄目よ、と
ママに窘められてもなかなか言うことは聞かなかった。
お姉ちゃんは妹の"おねがい"を、
余程のことがない限り大抵は
なんだって望むままに叶えてくれたから。]

[それまでパパの感性で選ばれた
玩具やぶかぶかの服しか知らなかった妹にとって、
お姉ちゃんがくれるものはどれもが輝いて見えた。

お人形、ぬいぐるみ、絵本、おもちゃ。
ぴったり身体を包んでくれる着心地のいいお洋服。

幼い頃から今日にまで至る
自他ともに認める可愛いもの好きの趣味嗜好、感性は
お姉ちゃんの手腕によって形成されたと言っても過言じゃない。

ただ、お姉ちゃんのくれたおもちゃをすっかり気に入って
そのおもちゃでばかり遊ぶようになった娘を見て
しょんぼりしている人が一人いた。パパだ。

幼いながらにちょっぴり父親に罪悪感を覚えた娘は
パパのくれたぬいぐるみたちも大切に愛でて、
時々はパパの選んでくれたおもちゃで遊んだ。]



  うんっ!
  ままはおりょーりじょーず!
  まちゅり、ままのつくゆはんばーぐが
  だいしゅきなんだぁ。

  おいち? ねえね、おいち??
  きょうのは『じしんさく』なの! えへん!!
  い〜っぱいたびてね!



[目をきらきら輝かせながら何度も何度も飽きずに繰り返し
同じ素材から錬成された『おりょーり』を
提供する小さなシェフ。
お姉ちゃんはよく飽きずに付き合ってくれたなって思う。

もっとお姉ちゃんが喜ぶごはんを、
泥と草でできた食べられないごはんじゃなく
本当に食べられるごはんを作れるようになりたくて
積極的にママのお手伝いをするようになった。]

[お姉ちゃんが持ってきてくれた絵本の読み聞かせをせがむと
お姉ちゃんが特に嬉しそうな顔をする気がして、嬉しかった。
物語をすっかり憶えてしまっても、
この絵本がお気に入りなのだと繰り返し繰り返し
同じ本を選び取ってはお姉ちゃんの手を引いた。

大好きな声をもっとずっと聴いていたいのに
重くなってしまった瞼を閉じるときには、
腕をがっちりとホールドして眠るのがお決まりだった。

眠っている間にお姉ちゃんが
手の届かないどこかへ行ってしまわないように。]


  

 ねえね、あのね。こえ、もらってくれゆ……?
 ねえねのにがおえ。
 まちゅりがかいたんだよ。

 ねえね、だ〜〜〜いしゅき!!
 いちゅもまちゅりと
 あしょんでくえてあいがとお!



[ある日のこと。

いつも遊んでくれて素敵なものをプレゼントしてくれる
お姉ちゃんに、自分も何かを贈りたい。

そうママに相談して
『絵を描いてみたらどうかしら?』と言われたのを
素直に聞き入れた娘は、大きな画用紙に
自分と手を繋ぐお姉ちゃんの絵(のつもり)を
一生懸命クレヨンで描いて
押し付けるようにプレゼントした。

お姉ちゃんが喜んでくれることを期待して
期待どおりの反応に味を占めた妹は、
その後もせっせといろんな絵を描いては贈った。]

[ずっとこんな楽しい日々が
続いたら良いなと思っていたし、その頃には
お姉ちゃんはずっと傍に居てくれるものと信じきっていて
連れて行こうとしたこわいひとのことも
綺麗さっぱり忘れていた。

私の知らないところで私を取り込もうとする
怖ろしい大人たちの思惑と、
お姉ちゃんがひそかに闘っていたことは
呑気にも欠片も知らないままで。]*

―昔のこと―

[先代立秋を覚えている灯守りはもう少ないことだろう。
彼が灯守りに就いていたのは、かなり昔の話だ。

のんびりで穏やかで子供好き。
領域内にすら子供らを入れて自由に遊ばせていたという。
子供たちは「なんか楽しく遊んでくれる兄ちゃん」と立秋のことを認識していた。

ゆかりという名の子供もその一人。
もっとも、その子は男の子で、女の子に多かったその名前をお気に召さず、「僕の名前はカリーユだ!」と、本名をもじったあだ名で呼ばせていた。今なら気にすることでもないが、幼子は名をからかわれるのが嫌なもの。]

『カリーユ、私と来てくれませんか』


[恐らく先代立秋は、雁湯かりぃゆとかそんな名前だとでも本気で思っていたのではないだろうか。懐かしいあだ名で呼ばれた十代半ばの少年はキョトンとしていた。]


『……えっと、畑の水撒きが終わったらね。』


[農作業中にスカウトされた灯守りは他にいないのではなかろうか。そして本当に農作業が終わるまで待っていた先代灯守りも他にいないのではないだろうか。

蛍でも何でもなく、少年は一般人だった。先代は自分の領域に遊びに来ていた子供たちの中から選んだようだった。その中で少年が選ばれた理由はよくわからない。髪は立秋域では特に珍しくない色だし、能力を持っていたわけでもない。『迫風』は灯守りになってから得た物だ。

『強いていうなら、相性ですかねー』等と先代は語っており、理由は彼の心の内だ。]

[蛍たちを差し置いて自分が次の灯守りで良かったのか。
当時の蛍たちの話によると。]


『私はサポート業の方が向いておりますので』

『結構大変な仕事なので。灯守りなんてもっと大変なので嫌です。いい機会なんで引退します』

『ふふ、私は立秋様についていきたいのですよ』


[そう言って笑った初老の蛍に、少年はそんなもんなのかーと思った。こうして特に問題なく、引き継ぎは行われた。なお、先代立秋は他の灯守りに『新しい立秋のカリーユです』と本名と勘違いして紹介していたし、少年本人も仮名を名乗った方がいいのかな?と考えていたのでしばらく訂正されずに。

まあ、懐かしさもあり、「立秋の兄ちゃん」が優しい声で呼んでくれたあだ名を気に入っていたから問題はなかったけど。**]

ーー先代の記録ーー


「いやだなぁ、父上、母上。
 僕が可愛い妹を害すると本気でお考えで?」


[旅に出る5年前。
普段は領域で暮らして
遊んで
仕事をしている己は、珍しく篠花本家へやってきていた。
理由はそれほど難しくない。“両親”へ許可を取りに来たのだ。]
 



「確かに眞澄はとても可愛いし、いい子だし、
 どこぞの馬の骨にやるものか、とは思いますが。
 だからと言って手籠めにしようだなんて、流石に。」


[いつもの巫山戯た調子で答えるも、どうやら二人には冗談が伝わらないらしい。
心の余裕がないってのは嫌だね。]
 

「兎も角。眞澄は今後、僕の家領域に蛍として住まわせますから。
 蛍に付かせた方が仕事を覚えやすい、
 というのは納得していただけたのでしょう?
 なら、問題はありませんよね?」


[いつも通りの笑顔を浮かべ、尋ねる形を取って入るが、本来2人には拒否権はない。
わざわざ許可を取りにきたのは、とりあえず筋は通しておこうと思っただけで。
あと、取らなかったら眞澄が帰ると言いかねないから。]


「それじゃ、預かりますんで。
 認識だけしておいてください。」


[僕はそう言って一方的に話を切ると、荷物を持って家を出た。
ーー結局、出された
には手を付けないまま。]
 

 

「は〜い! 眞澄ちゃんに報告がありまーす!
 今日から本格的に仕事を教えるため、
 蛍になってもらいまーす!
 号は末候の橘始黄たちばなはじめてきばむね♡」


[領域に着いた僕は扉を勢い良く開きながら、そんなことを言い出したからだろうか。
優秀な蛍と妹は「いきなり何いってんだこいつ」って顔をした。お兄ちゃん、ちょっとかなしい。]
 


「ほらー、今までもちょっとずつ仕事を教えてたけど、
 眞澄も15になったしさぁ?
 そろそろ本格的に教えておこうかなぁって!
 それには弟子より蛍の方が色々権限あるし、見栄えもあるからさ!
 肩書があれば小娘って侮られることもなくて楽かなって!」


[本家分家の老害共が何言ってくるかわからないし。
こうしておけば、ひとまず僕の名代として立場は成り立つ。]
 



「父上母上にはすでに了承を取ってありまーす☆
 あ、風見家には何も行ってないけど、許可くれるよね?
 君、当主だったもんね? 朔風払葉きたかぜくん?」


[風見家の蛍に尋ねている形だが、やはりこちらも答えは聞いていない。否と言っても押し通す気だった。
まあ多分信頼するこの蛍は断らないとは思うけど。

妹には、事後報告じゃなくて事前に言って。って怒られちゃった。てへ。
それでも諦めた顔で了承する辺り、また突拍子もない僕の思いつきだと思ってくれたかな?]
 


「君の着替え等々は全てここにあります♡
 安心して、家の使用人に用意させたから。
 僕は断じて君の部屋に入ってません。誓います。」


[目鯨を立てそうになる様子に慌てて付け加えて、君の部屋はあそこねー。片付けておいでー。と執務室から追い出した。

とりあえず、これで黒い思惑からは少し外れたところに置いておけるだろうか。
あの子にこういうことは向いていない。]
 



「さて、どうしようかねぇ。
 ……どうするのがいいと思う? 朔風払葉くん。」


[なんて言いながら、渡された資料に目を通していく。
いくつかプランは考えているが、このままだと僕が旅に出るのが一番簡単だろうか。

適当に仕事を片付けていると、この間亡くなった分家の当主の話を蛍に振られたか。]



「ん? ああ、小椿家の当主
僕の実の兄
が病死した件?
 それは本家当主として弔辞を書くからさ。
 後で見舞金と一緒に持っていってくれなーい?」


[しれっとお使いを頼んでいるが、仕事丸投げすることに比べれば可愛いものだろう。
了承の返事はすぐに取れた。その間も仕事を片付けていく。]
 

 

「しかしまあ、大それたことするよねぇ。
 次期小雪を毒殺しようと計画するなんて。

 そんなことを考えるから、きっと罰が当たったんだろうね。」


[片付けるものが多くて大変だ。*]
 

 

[ お母さんがぼくから目を反らしたように

       ぼくもお母さんから目を反らした。 ]


 

 ― ぼくのお話5 ―

[先代雨水は人を頼るのが上手い人だった。

 ぼくにもそれを引き継がせてくれた。
 可愛がられるように。大事にされるように。
 手助けをして貰えるように。

 そうやって周りと繋がりを得て行って
 引きこもりを少しずつ脱していって。
 事務の仕事を覚えていく内にぼくは先代に質問をした。]


 ねぇ、次の雨水をぼくにするのならさ
 ぼくを蛍にしないの?


[その時の、先代の固まった表情は今でも覚えている。]


 「……それは、わかっているんだがな」


[頭をかく姿。何かがあるのはわかった。
 でも、聞けなかった。]

  

 

 雨水様がそれでいいならいい。


[それだけ言い切って、なせばなる精神を発動した。
 先代は気まずそうにする。]


 「あー……灯守りってまぁ結構立場あるっつーか。
  大変な側面もぶっちゃけある。
  あと人の灯りを扱うのが主な仕事だ。
  他の仕事は人に任せていい。けどそれだけはやるしかない。

  花雨、お前俺の後継ぐ気……あるのか?



[その言葉に暫し沈黙が流れた。]

 
 

 

  ────── 
今更



[呆れすぎてとっさに言葉が出なかっただけだ。]


 ぼくは、雨水さまに引き取られてから今までずっと
 勉強してきて、側で見てきて
 なりたい、と思うようになっていった。

 大変な事でもやるよ。
 雨水さまは……ぼくにとっては
 恩人で、すごい人で踏み出す一歩をくれて、勇気をくれて

 ……お父さんみたいな存在になっているんだよ。

 ぼくはね、雨水さまみたくなりたい。
 だから 
雨水になるよ。


 

 
[そう言ったら、先代はまた固まって、俯いて
 それからぼくを抱きしめた。

 泣いていた理由をぼくは、知らない。


 ぼくたちの間には言葉にしていないことがある。
 先代がどうして蛍を持ちたがならいのか。それにぼくのお母さんのこと。

 ぼくはお母さんに必要最低限の衣食住以外は放置され
 最終的にはいないもののように扱われた。
 だから
(半ば拉致の)
お別れの時も、お母さんってこんな顔だったっけ、と思ったくらいだった。

 彼と住んでいる間、ぼくはお母さんのその後をきかなかった。相手も何もいわなかった。


 許せないのかどうか自分でもわからない。
 ただ、今なら少し余裕をもってお母さんのことを考えることは出来る。

 今頃一人になっているのかな。
 今頃、どうしているのかな。

 ……今でも、ぼくの事が怖いかな。

 それが怖くて、聞けないまま。]**

  

――もう随分と昔の話――

「小満さまはもうご承知おきかと思うのですが、何年か前に、森の方の牧場の旦那が亡くなったじゃないですか」

[発端は、軽い噂話からだった。]

「あの家の残された息子がね、なんというか、不思議な子なんですよ。いえね、気味が悪いとかじゃないんです。むしろいい方だとは思うんですけど」

「母子とふたりじゃあ回らないからって、あそこ、随分と動物を売ったでしょう。それで、母親が羊だの馬だの世話しながら、息子は教会を手伝ってるそうなんですが」

[話好きのおばさま方やら、その旦那やら。
 街ゆけば時折、その子供の話を聞いた。]

「教会のみなし児なんかがね、まだ子供だからよくよく喧嘩だってするじゃあないですか。そんなときにその子が仲裁に入ると、しばらくしてすっかり仲直りしちまうんだってさ」

「泣いてる子供をなだめるのもうまいなんて聞くね。普通にしてるとなんだか捉えどころのない静かな子なんだけど、こと人の輪に入ると空気が変わるってんで、こないだあっちの爺さんなんかは『天使さまが宿ってる』なーんつって」

[だなどと言うから、さてどれほどたおやかな美少年がいるだろうかと様子を見に言ったら、
まあ見た目はまだあどけない線の細さもあって相応だったが
蓋を開ければ御し難いクソガキであったのだが。閑話休題。]

[その天使と呼ばれた少年は、器用にも教会の裏にあるオレンジの樹の上に登って、枝張りに背を預けながら木漏れ日の中で笛を吹いていた。
 そうしているとそこらの牧童と何も変わらないという印象だったが、まだ13のその子供――それでも、教会の孤児と比べれば年長の方だ――が、なんらかの"能力"持ちであることは、会話の内容からピンときた。
 人の心か、意識か、そういったものに作用するたぐいのものだろう。
 ただ、それよりも俺が興味を惹かれたのは、その子供と目があった瞬間、自身の灯りが微かにふるえて、引き寄せられるような、そんな感覚があったからだ。

 それが予兆だったのかどうかはわからない。
 ただ、こいつなのか、という確信めいたものが脳裏によぎったのは事実。
 もとから能力ちからを得ているなら、素質も充分だ。
 発端は噂話。しかして確実に、出会うべくして出会った。
 これを天命と言うならそうかもしれない。出会いは喜ばしく、
――そしてとても、悲しかった。
]



[
別れの日は近い。
]

 

菴ィ。

[ある会合のタイミングで、真反対の灯守りに目を留め。]

子育てって難しいな。

[などと戯れにこぼせば、一体どんな顔をされるだろう。
 驚かれるか、腹の底から笑い飛ばされるか。
 それから数年後に彼が赤子を押し付けられるとは、まだどちらも露と知らない時期の話だ*]

  
――回想:処暑からの贈り物


[ 処暑との始まりは 何気ないものだった。

 高性能端末であれど 完璧ではない。
 見聞きする力には当時から秀でていれど
 大きすぎるものは口に入らないし
 それ以上に最も劣っていた性能は 嗅ぐ力。

 だからこそ。
 その劣っている筈のものを通じて
 本体に感知させたその存在――…

 …嗚呼、そうだった
 あれは 葡萄だったかもしれない
 
 雨水に渡している恵みの正体が
 瑞々しさを伴う香りが果たして何であるのかと
 目も心も ひとしきり奪われたのが始まりだった ]

[ 処暑はいろんなものをくれた。

 実際に顔を合わせた事は少なくとも
 会合だけでなく、時にそれ以外の日も。

 逢うたびに恵みを貰い、小さな礼を返す
 そんなささやかな日々が 確かに好きだった

 漬け物、酢昆布、チョコレート――…
 吐き出すものは日々様々だったけれど
 矢張り金平糖を贈る事が多かったように思う。

 小さな頃からずっと、好きでいるお菓子が故に ]

[ 数年ばかりの刹那
 けれど 数え切れぬ程続いた処暑活

 形の残らぬものばかりの中に於いて
 其れは今尚、残り続けるもの。


  ――部屋に飾られる 一つの写真立て。


 処暑が収めた、一枚の写真
 陽の差す雪景色にちょこんと座すのは
 南天の葉と実で化粧を施されたゆきうさぎ

 いくら時が経とうと褪せる事無く
 融けることのない世界が 其処には在る ]

 
[ 時に その写真から雪うさぎが消えること
 知っている者がどれだけ居るかは、また別の話 ]

[ 処暑の領域を訊ねたのは
 その贈り物が届いて 程なくの事だった ]


  こんにちは、夕来。
  先日は素敵な恵みをありがとうございました

  新しく蛍を迎えることにしたので
  あなたに 一番に挨拶したいと思いまして


[ 連れ立つのは 二匹のゆきうさぎ。
 足許に居るのはきっと見た事もあるだろう蛍――おつる

 そしてもう一匹。
 腕の中 すやすやしていた目が不意に開いて ]

[ ぴょーん!
 元気よくおつるの隣りへ降り立つ雪うさぎ。
 おつるより一回り小さいうさぎがぴょんぴょん跳ねる ]


  こちらが 新しい蛍です。
  末候 雪下出麦――いづる、と名付けました


[ 処暑の足許にすり寄れば
 南天の葉をぴこぴこと揺らし
 南天の実の如き双眸で足の主を見上げた。 ]

[ 雪の無い其処で 二匹のうさぎがはしゃぐ
 己が地に於いては 決して見る事の無い景色 ]


  並んでいると
  なんだか兄弟みたいに見えます

  おつるもすっかりお兄さんの顔で
  ……たまに さびしそうにしていましたから

  本当に ありがとうございます


[ 見上げれば 一つ笑みを浮かべて
 そうして処暑の領域を 目に留めるひととき ]


  ……。
  すてきな恵みのお礼に
  何を贈ろうかと考えていました

  でも だめですね
  いいものが思い浮かばなくて

  なにかほしいものはありますか?
  あなたのお願いを 叶えさせて下さい
 

[ ――私は 私なりに。
 このひと時を愛しいと そう思っていた

 彼と 彼が想う大切な存在
 二人がどうか幸せであるようにと

 この世に巣食う数多の闇の中にも
 確かに差す 柔らかな光の中に
 どうか二人が居られますように、と。

 一人の灯守りとして想い
 一人の人間として、願う程には ]

[ いつか 口にした言葉
 優しすぎる存在への苦言――或いは自戒 ]


 
  ――夕来。
 
  どうか、気を付けて下さい
  世界は自分が思うより残酷です

  灯守りは最強でも ましてや無敵でもない
  敵と味方の判断を違う事があれば
  自分だけじゃなく 大切な人も苦しめる

  ……。
  私は、苦しめてばかりでした

  だからどうか
            ――…気を付けて



[ 解っていた筈の、自明の理。
 それでも繰り返した 弱さと 罪と 罰 ] *

─ 回想・大寒さんとの出逢い ─


  はっ、初めまして……!

  ああありがとうございます!
  お気遣い痛み入ります恐悦至極でありますですっ!
  この度先代立春から立春を引き継がせていただきまして
  不束者ですがこのとおりこちらこそ是非とも
  なにとぞなにとぞよろしくお願い致します!!


[ご挨拶周りのために用意した台本が、
ご本人を前にして綺麗さっぱりすっ飛んだ。

緊張しなくてもいい、と優しい言葉を掛けていただいても
高速で脈打つ心臓を落ち着かせることは簡単にはできなくて。
自分でも何を口走っているのかよくわからなくなりながら
恐縮しきりでご挨拶したのを憶えている。

ただ、先代の立春──師匠が大寒さんのことを
とても気に掛けて可愛がっていたのを知っていたから。
師匠が大寒さんにさえ別れの言葉を告げずに去ったことを
淋しそうにしてくださる様子が見受けられたなら、
弟子の私は師匠の分までもっとしっかりしなくては、と
少しばかりの落ち着きを取り戻せた。]


  
  『様』などとつけないでくださいどうか……!
  西も東もわからぬ若輩者ですゆえに
  ご指導ご鞭撻のほどをっ

  私の方が様をつけるべきでして
  なんとお呼びすれば!
  大寒様でよろしいでしょうか!


[そんなごく普通の(?)ご挨拶から始まって
鍵の使い方、灯りの送り方、手続きの仕方といった
基本的なお仕事のお話をうかがっていたはずが
気付いたらお姉ちゃんの話を聴いてもらっていた。

なぜだ。なにがおこった。おかしい。
いくら緊張して我を見失っていたからって
当初の予定ではこんなはずじゃ……

一度語り始めればどこまでも枝分かれして
延々と伸びていってしまう最愛の姉語りが
ひと段落ついたところで漸く、本来の目的を思い出した。

貴重なお時間を割かせて無遠慮に付き合わせてしまったのを
申し訳ないと謝ろうとしたら、
大寒さんは心から楽しんでくださっていたようだった。]

[その時に、初めて知った。
大寒さんは物凄く聴き上手な御方なのだ。
きっと師匠も大寒さんを可愛がるように見せかけて
他愛のない話を色々と聴いてもらっていたんでしょう。

それをきっかけに度々お話を聴いてもらうようになり
私も大寒さんのお話も聴きたがるようになって、
文通をされているとの情報を得てからは
折に触れて立春域の絵葉書や押し花を送るようになった。

今日の私が無事にお役目を
果たせたかどうかはご存知の通り。

練習通りに一度も噛むことなく読み上げられたのは、
すぐ隣の大寒さんが会合の直前に
そっと私の背を押すように
微笑みかけてくださったおかげでもあるんだろう。]

 
 [  『大寒』はもともとふたつの灯りでした。

      過去を見つめる『凍空』と
      未来を見通す『寒月』。


     片方がいずれ灯宮へと導かれ、巡り還る。
     
   

    先代様が語る、そのまた先代様のことを
    『わたし』が聞くのはとても不思議な心地でした。
    先代様は『わたし』の中にいる、
    誰か先先代と重ねていることに、気づいていました。


    先代様のこどくと、いたみと、くるしみと、
    『わたし』がしらない、
    『わたし先先代』へのあい。



  
「わたし」は、いらない。

 

    それでも『わたし』は、大寒寒月大寒として産まれました。
    お役目をはやく引き継ぐことが、
    心配をかけない立派な大寒となることが
    先代様が下さった愛をお返しすることに、
    先代様が苦しんだ魂を救うことになると

    

    わたしは しんじていたのです。



    ……もし、わたしが『凍空』ならば
    あなたを救えたのでしょうか。




   わからない。
   

   いいえ、本当は救えないことをわかっていました。
   だってわたしは違うもの。
   

   『わたし』は『わたし』でいたかった*

    

[先代雨水村雨には、まあ世話になった。
 可能なら死に目には立ち会いたいと思うほどには。
 
それが叶わない灯守りも多いのだ、まったく。


 私が灯守りとして小満の号をいただいた頃には、もう何度か会合にも連れてこられ、顔は知っていた相手。
 座を辞する前の先代小満とも気が合ったようで、よくしてもらったとも思う。
 だからこそ。
だからこそ、少しばかり甘えていたのか。


 気ままな牧童の心のまま灯守りになった元天使は、好奇心、興味本位でふらふらと動くことが多かったので、今と変わらず何かがあると顔を出したり、中央の職員の頭を悩ませたりと自由奔放だった。
 にも関わらず、雨水の灯守りがやってくるとふいとどこかへ逃げてしまう。まるで自分の興味はそこにひとつもなかったかのように、ふわりと。
 もしも捕まることがあったなら、不機嫌隠さずに黙りこくってしまうだなんてのもしばしば。]

[なんとなく、嫌だったのだ。
 この人の前だと、いつまでも子供でいてしまいそうで。
 
失った父親すらも、思い出してしまいそうで。
]

[無論、若かりし時分の話であり。
 この身体の時を止める頃には、くだらない話で笑い合うような仲のいい同僚でしかなかったと思うのだが。
 いつ頃、どうしてそうなったかなんて覚えていない。
 反抗期の抜け方なんて、そうそうわかったもんじゃないだろう。

 相手にとっては笑い話だろうそれを、語り草にしないでいてくれるのはありがたい。
 こちらとしても、なるべくなら完全に忘れてしまいたい話だ。
 たまに私が包丁を握って、飲み明かす。そんな良き仲間でいてくれた村雨を想う*]

ーー回想:処暑ーー



 ……処暑の君が殺された?


[訃報が届いたのはいつ頃か。
その報せに、思わず資料から視線を上げる。
聞けば先代の蛍に殺害されたとのことだった
幸い、犯人は捕まっているとのことではあるが、だからと言って亡くなったことには変わりなく。]
 



 ……弔電を書くから、持っていって頂戴。
 後は後は香典を包むからこちらも。

 葬儀にはーー行かない方がいいかしらね。
 灯守りが行くとなると、また大騒ぎになるでしょうし。


[小雪域の職員に命じると、雪のチラつく窓を眺める。
礼儀正しくて優しい子だった。
元行政職員だったということもあり*、仕事も卒なくこなす人物だった。
彼と仕事ができるのは、楽しみであり、光栄なことだったと思っていたのに。
とても残念だと思ったことは、覚えている。]
 

 
[その後、次の処暑の君に会ったのはいつだっただろうか。
その姿を見た私は固まった。先の処暑の君に似ていたから。]


 ……失礼。初めまして。
 灯守りの二十 小雪よ。
 ……処暑の君、であっているかしら?


[一瞬固まったことに何か言われただろうか。
言われたら正直に、先の処暑に似ていたから驚いた旨を伝えるでしょうけど。

一先ず、挨拶を交わして、何かあれば相談に乗る旨も伝えて。
当たり障りのない話をしたけれど、あまり話したがらなそうにしていたのなら、すぐに別れることでしょう。]
 

 
[先の処暑の君との関係は尋ねなかった。
もし本当に関係者なら、とても辛いことだろうと思ったから。
それでも、似ているこの子はたぶんおそらく関係者なのだろう。とそう直感で感じていて。]



 願わくば、彼の眠りに安寧を。
 ーー似ているあの子に、幸多からんことを。


[願わずにはいられなかった。*]
 



 人が目を向けるもの。
 注目をするもの。注意を払うもの。
 興味を惹くもの。奇異に思うもの。

 さまざま さまざまに、 それには 意志が、
 思考が、感情が、思惑が、見え隠れする もので。

 目は口ほどに物を言う、どころか、それ以上に
 彼らは雄弁に雄弁にそう そう語るのだ。
 五月蝿いほど。


          ずっとそれが。 おそろしくて。





 屋敷の前に棄てられていたわたしを見るなり、
 先代の大雪はこう云ったそうな。

  「 ……随分と、怯えて。こんな傷も作って。 」
  「 アァいけないね。この子は、……
    そうさね、後継って奴もそろそろ考えにゃあ
    いけない頃合いだったかな。 」

  「 というわけさ、ウン── 子育てなァ。
    心得はねェがやってみるか。

    という訳さ、誰も屋敷には入るなよ。 」


 と、まあ。
 ひと目見れば私が畏れられるような、
 ひとを操る、──などという力を持っていること、
 あのお方はわかっていたでしょうに。
 

 
――回想:小満との付き合い


[ 思えば小満とは 随分と古い仲になる。
 フェイと初めて会ったのは 確か会合での場。

 なんだかんだと大人達が集う場。
 立ち位置は違ったとて それなりに年も近かった彼とは
 先代の小満を通じて話す機会にも恵まれた。

 ぐっと距離が縮まったのは
 小雪の天才的発想による中央域お風呂建立大作戦
 あの頃からだったような記憶が

 あった、――ような気持ちが なんとなくある ]

[ パーティーが発足した日
 見学兼決起会の如く 二人を冬至域へ招いた。

 ほかほかの 理想の露天風呂
 折角なので夜空に月など浮かべて見せ
 雪見酒を振る舞うなどしたのだったか

 特段に拒んでいる訳ではなくとも
 その頃には 精々が露天風呂しか無い常夜
 あまり人の寄り付きたがるような場所でもない

 自発的に幾度と来たがる物好きはそう多くなく
 おつるが嬉しそうに跳ねていたのを覚えている ]

[ 閑話休題。
 
 先代の小満には 世話になった。
 何分 "文字通り子供"であった時代

 優秀で勇猛たる軍師の蛍が居たとはいえ
 当時、――本来まだ十やそこらの子供の時分

 ある日ふっと その場所に幼女が座す事の異質
 異常を察せぬ程めでたい頭ではなかった。

 時には、優秀な蛍であっても察しきる事は難しい
 灯守りが故の色々を 彼から教わる一幕もあったか。

 先代の小満は 幼いながらにわかるほど
 本当に正しく仕事の出来る灯守りだった。 ]

[ ――先代小満と 今代小満。

 似ているようで違う
 けれどどこか少し 似ている二人。

 先代小満のことを知る者は
 今、どれだけ居るのだろう

 先代の冬至を知る者は
 今、どれだけ居るのだろう ]

[ 嘗て、雪見風呂を囲んだ三人
 全員が集う事はもう 二度とない

 ――若かりし頃。
 たとえそれが 如何な道であったとて
 知っている人が居るということ

 昔、あんな事があったねと
 そうやって話せる間柄の者が居る今は

 きっと、幸せなのだろう ] *




 それから それから?

 あれこれ屋敷にあったものをかき集めたのだろう。
 どっさりと、山のような人形を幼い私に見せて
 あのお方は私にこう言ったのだ。


 「 この人形たちをうまく操れるようになるまで 」
 「 あんたはここから出ちゃいけないよ 」


 ──── これが、
 ながいながい 始まり。


       私の目隠しになってくれていたのだと、
            そう気がつくまでは、まだ。






 ……あの人が頽れるまでに、
 すべての人形を同時に、── までいけなかったのが、
 すこうしばかりの悔い。

 未熟なままで大雪を継いでしまった。

 だから、昔も今もまだ、自分の能力は
 恐ろしくも悍ましくも仕方なく、
 ……それでいて、 自信もまた なかったのだ。*



ーー先代の記録:旅に出たあとーー
[眞澄が手紙を読んでいたであろう頃、既に己は小雪域から出ていた。
妹が取る行動なんてわかりきってるし、そもそも小雪内に留まる気なんかなかった。
行方不明にしておけば、否が応でも眞澄を灯守りとして認めざるを得ないはず。
まあ、認めない奴はもういないけど。
これから認めない奴は出てくるかもしれないけど、それは眞澄の自己責任で。
そうならないよう、育てたつもりだし。大丈夫でしょう。
]


 さーて、まずは距離が近い冬至域に行こうかなぁ。
 その後は小満域で。
 霜降域はーーほとぼりが冷めた頃に行こう。


[紫明はめちゃくちゃ怒ってる様な気がするんだよね。
何となく。そんな気がするだけで実際は違うのかもしれないけど。
まあでも、予感を蔑ろにすると痛い目を見ることもあるので後回しで。]
 



 ……ゆきちゃんと会えるといいなぁ。


[まあそれは、今後行く親友と紫明にも言えることではあるけれど。
もう寿命を待つだけの身だから。
最後は友人たちと思い出話をして、世界を回るつもりだった。]


 まっ、とりあえず露天風呂に行ってみますかね。
 いやぁ、久々だね! もう一度行きたかったんだぁ!


[いつぞやのお風呂建立大作戦。
その時に見学させてもらった露天風呂が忘れられない
いやぁ、いい参考になりました。


その場に行けば、もしかしたら会えるかなぁ、なんて。
少しだけ期待して向かうのだった。*]
  



 ── 小雪と会う回数を重ねる毎、
 冬至の雪うさぎの開発に手を貸す毎、
 お隣さんから、じわりじわりと 雪解けのように
 私の世界は広がっていったのだ。


 ( 蟻のぬいぐるみをつい食べようとする
   アリクイのぬいぐるみが居た事は、……
   今は既に笑い話 )


 後輩が増えて、並んでいた人々が「先代」になって、
 うつろいゆく代替わりに、術を使う指先が
 どんどんと冷えてゆく感覚があるけれど。

 …… まだ、片隅にいたいのだ。許されている間は。*

 

[冬至は私のことを『フェイ』と呼ぶ
 隠している名でもないし、咎めたこともない。

 私たちが初めて顔を合わせた日には、私は灯守りでもましてや蛍でもなく、『飛心』と名乗る他なかったので、ごく当たり前のことだ。
 はじめて中央の地を踏んだのは15にもならない頃。
 同じ歳の頃に灯守りになった冬至と心通わせるのは容易い話だった。]

[先代も冬至を気にかけていた。
 いいや新人とあらばそれだけで気にかけてしまう人柄ではあったのだが、その中でも年若で灯守りになった少女のことは、娘のようにすら感じていたかもしれない。
 仕事がなくとも話をしようと試みたし、悩みがありそうなら解きほぐしたかった。
 結果、何でもない『飛心』と冬至のゆきの間もまた、少し近づく。

 とはいえ、しばらくは比較的年近の相手というくらいで、時折笛を吹いて聞かせただとか、それくらいの記憶が主。
 本格的に仲のいい相手になったのは、小雪から風呂の話が出た、あの時くらいから。
 露天で雪見に月見酒なんて洒落込んで、それから百年数えても、言葉遊びで笑い合うような仲でいる。
 小雪は代わってしまったが、それでも皆々仲が悪くもなく。
 今ある幸福を噛みしめる*]

[旅立った前小雪――菴が小満域を訪ねたときには、目ざとく見つけて領域に呼び込んだ。
 先に冬至で露天を堪能してきたと知れば『なんで呼んでくれなかった』と小一時間愚痴ったっけね。
 言わなかったが、あのとき出したのは小満域でもとっときの美酒だ。
 喜びたまえよ、我が親友*]



 ── 回顧 ──


 おおよそ九十年ほど前だったか。
 先代の大雪が、突然領域のすべてを閉め切って
 他所に一切顔を出さなくなった、という ──

 手紙のやり取り程度はあったやも知れないが、
 十年間ほど、ずうっと。
 誰とも関わろうとせぬ時期が あった。

 

  



 ふたたび領域が開かれた時、大雪を名乗ったのは
 自分と同じほどの背丈の人形を携えた、
 小さな子どもだった という。*



 
[正直、びっくりしたよね。
小満域に入って、さあ探そう!ってしていたところに見つけられたんだから
え、そんなすぐ見つかります?

小一時間の説教は、はい。すみませんでした。
正座して大人しく聞いていた。

いつぞやは笑い飛ばしたのに、すぐ笑えなくなったこととか。
露天風呂での思い出話とか。色々話ししたっけ。
兎も角、開けてもらった酒が
とても美味かったのは忘れられそうにない。*]
 

[小満域に彼が入ってすぐに出逢ったのは、ちょうど領域の外にいたからで偶然にも近かったのだが。
 まあ、世界中探されはじめた相手が入域してきたら、市井でも小さく話くらいにはあがろう。
 時間の問題だった、それだけ。
 とっとと領域に匿って、格別の酒を出して。
 先代の零した愚痴の話を聞けば、なーにが子育てだ、と肩竦め。
 風呂の思い出話になれば、やっぱ今からもう一回行くか?なんて笑い。

 いずれ小満を出ると聞けば、行くのか、と寂寥隠さず見送った。
 命尽きるまで世界を巡りたい。
 その願いを駄々で止めるほど、子供にはなれなかった。]

[ついぞ眞澄を頼むとは言われなかったなあと思いながら。
 まあ、言われずとも目を離すつもりはなかった*]

 




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