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人狼物語 三日月国


81 【身内】三途病院連続殺人事件【R18G】

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視点:


【見】 療育 クレイシ

病院内にいた人間が知る由もない話。
静かに起きて、静かに終わった一人のお話。

嵐の中突き進む。
それは歩むというより、踊らされているようだった。

前をまともに向くこともできず、よろめいては足を止めて。
飛んでくる枝が突き刺さる光景を何度も想像しては何度も唇から呻き声が溢れて落ちる。それもまたビュウビュウと甲高く鳴く風によって跡形もなく攫われてしまうけれど。

「……ッ、チサ!チサ、いないのか!?」

叫べど叫べど返ってくるのは雨と風の声のみ。
自分よりも遥かに体格の小さな子供など分かりやしない。

(@3) 2021/07/11(Sun) 18:02:53

【見】 療育 クレイシ

どれほど歩いただろう。
かなりの距離を歩いたかもしれないし、まだ病院の目と鼻の先なのかもしれない。

お手製のパペットなどとうに捨てている。どこに転がっていったか分からない。
もう濡れていない箇所などなく、服が水を吸い上げて全身を縛る枷と化している。

『たとえ水底、土の下。
 果てまでキッチリ探してやって――
 、、、、、、、、、、、、 、、、、
 あの子の手を引かぬうちは、帰らねェことだよ』


「あなたも、あまり長く外にいない方が良いですよ」


煩い。
煩い煩い煩い!
余所者が好き勝手言いやがって!

台風で荒らされた周囲と同じか、或いはそれ以上か。
ぐちゃぐちゃになった心の中で蛇と猫の言葉が響き続ける。

帰れるものなら帰りたい。
逃げられるものなら逃げ出したい。
投げ出せたのなら、どんなによかったか。
お前らのせいだ。そうだ、お前らのせいなんだ!
お前達が焚き付けたからり俺はこんな目にあっているんだ!

だから、だから俺は悪くない!


(@4) 2021/07/11(Sun) 18:03:49

【見】 療育 クレイシ

チサという小さな子供の看護は自分が担当していた。好奇心旺盛で、小さいながらに人を気遣える節のある子供だった。

嵐が本格的に酷くなり始めた頃、あの子は窓を見ながら泣いていた。
「自分の家は小さくて、こんな雨では流されてしまうかも」と。
「お母さんもびょういんに来てほしい」と。
「そうじゃないとお母さんが雨に流されてしまうかも」と。

何度も宥めた。何度も詭弁で押さえつけた。
それなのに、あの子供は。

唐突にいなくなってしまった。

(@5) 2021/07/11(Sun) 18:04:22

【見】 療育 クレイシ

患者がいなくなってしまったら、真っ先に誰が問い詰められる?
きっと自分だ。担当していた自分の責任になる。

これでもし何処かで子供の死体が発見されてみろ、自分の評判は一瞬にして地の底だ。
小さな村では人の噂など瞬く間に広がってしまう。
そうして落ちた自分に待っているのは冷めた目、声、態度だろう。村八分という名の処刑が待っているかもしれない。

どうして俺がこんな目に遭わなければならない?
どうして俺かこんなに苦しまなければならない?

男は身勝手で傲慢な呪詛を吐きながら雨の中を進み続ける。
幼児への慈しみや心配など、とっくに風雨に奪いあげられてしまっていた。

──いっそ、あの子供が死んでいたら楽だったのに!


(@6) 2021/07/11(Sun) 18:04:48

【見】 療育 クレイシ

「……ッチサ!どこだ!返事をしろ、チサ!」

川の近くまで来てしまった。土砂崩れが起きていたところも見てしまった。
ここまで来ても見つからないのなら、もう子供は手遅れじゃないか?

弱い心が言い訳をし始める。
大人だから子供は絶対に守らなければならないのか?じゃあ大人は誰が守ってくれるんだ?
大人が子供を守る為に死んでしまったら、いったい誰が責任を取ってくれるんだ?

死んだところで貰えるものなんて仏壇の前で吐き捨てられる「頑張ったね」なんて生温い言葉くらいだろう。
俺はそんなもの欲しくない、俺は自分の身を守りたいだけなのに!

「……ぁ、う?」

瞼もまともに開けられない嵐の中で、ようやく草木や土以外のものを目の当たりにする。

──黒い塊。赤い何か。

「……ぁ、ね、猫?チサの靴?」

男はひゅっと息を呑み後退りしようとし──足を滑らせた。

(@7) 2021/07/11(Sun) 18:05:33

【見】 療育 クレイシ

男が見たもの、それは正確には黒い上着と赤い靴だった。
後に、三途病院連続殺人事件と呼ばれる凄惨な出来事について調べに来た人間の手によってチサと呼ばれる少女のものだと分かる日が来るかもしれない。

死んだ猫と死んでほしいと願ってしまった少女。
もはや冷静な判断がつかなくなっていた。小さな命達が自分を迎えにやってきたと狼狽し、逃げようとして転落する。

「──ぁ」

頭から真っ逆さま。
天と地が揺れる感覚も一瞬のこと。叩きつけられるような衝撃と共に目も開けられない激流に飲み込まれる。

「……ッ、ぁ、ぅぶっ……た、たすっ、助け……ッ!」

必死に手を伸ばす。必死に足をばたつかせる。
けれど誰一人として助けてくれる者はいない。水をたらふく飲まされた服が水の底へと引っ張ってくる。ぐちゃぐちゃに心を掻き乱してくる言葉や幻が死の淵へと引き摺り込んでくる。

「……ッ!…………、…………………………」

走馬灯を見ることさえも許されない。
肺の中に水が満ちて、重しとなってその身は底へ。
嵐に、言葉に、虚弱な心に。
踊らされ続けた男の末路は実に呆気ないものだった。

男の遺体が発見されるのは、きっとずっとずっと後の事になるだろう。
(@8) 2021/07/11(Sun) 18:06:46
療育 クレイシは、メモを貼った。
(t14) 2021/07/11(Sun) 20:46:32