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【人】 軍医 ルーク[ 耳を撫でる指から伝わるあたたかで柔らかな感触。 自分もいつもよりもずっと、 柔らかな表情をしていたことには気付かない。 少しいいかなと指を伸ばされ、驚いてぱちりと瞬き一つ、 こくりと小さく頷いた。 頭の上の白い耳に、左手の指が触れる。 ひとに触られるどころか、 フードの外に出ることも慣れていない耳は、 擽ったさにぴくりと動き、 ひゃ、と思わず声が出て、 背中の後ろで、尻尾がぶわりと膨らむ。] ……嫌じゃないけど、慣れてない。 [ 指が離れる前に引き留めるように、 咄嗟に言い訳みたいな声が出たのはどうしてか。] (56) 2020/05/24(Sun) 21:32:22 |
【人】 軍医 ルーク[ このうさぎの方は 耳に触れられることもあったみたいだけど――と、 以前医務室に彼の部下たちが、 見舞いに来ていた時のことを思い出す。>>0:280 楽し気な歓談の声を、 聞くともなしに遠くで聞いていたときのこと。 いまにして遡れば、そのときの自分が何を感じていたのかも 朧気に分かってくるようで、 あー、と呻きそうになった。 けれど、触れられているうちに、 耳と尻尾は落ち着きを取り戻し、耳の震えも止まり、 長い尾は、背の後ろで心地よさそうに揺れ始める。 こうして触れていられる今は、 足を踏み外せば、真っ黒な穴に吸い込まれて 落ちてゆきそうな不安と背中合わせで、 けれど、どうしようもないほどに、大切で。 ――確かめるように、触れていた。] (57) 2020/05/24(Sun) 21:33:40 |
【人】 軍医 ルーク[ タブレットを取り出せば、彼は驚いたような顔をする。 相手が自分だということには、 気づかれていたのか、いないのか。 少なくとも自分が日記の主の正体を『知っていた』ことは 想定外だったようで、 穴でもあったら潜りたいような顔をしている。 ……うさぎってそういうところあるよね、と、 きつねの習性を棚に上げて思ったりもして。] ひとつ、教えてやろうか。 君は自分で思ってるより隠し事が下手。 [ それに、きっとそれだけではなくて。] (58) 2020/05/24(Sun) 21:34:17 |
【人】 軍医 ルーク でも、他の誰かだったら、 きっとわたしは気付かなかった。 君の日記だったからだ。 [ もし誰か他の物が書き記した文章を 目にする機会があったとしても、 それが誰のものかなんて、分からなかったに違いない。 見張りに見つかった話をすれば、 この期に及んで此方のことばかり心配する彼に、 もどかしいような、それでいて暖かな感覚がある。] (59) 2020/05/24(Sun) 21:34:48 |
【人】 軍医 ルーク[ 自分の書いたものを自分の前で読まれるというのは、 気恥ずかしさ、というのを感じるものだろうか。 頬のあたりが熱を持っていて、 下ろした指が自然と握り込まれているのは、 もしかしたら、そうなのかもしれないけれど。 それでも、伝えたいという気持ちが勝った。 ――“いなくなること”への怖れ。 自分がそれに気づいたのは、 表現の端々が気にかかったからではあるけれど。 この日記の主が彼であることが分かったとき、 強い確信に変わった。 通信機を探しに行った時のこと。 記憶を取り戻すことへの不安がにじむ口調、>>1:314 通信機を見つけ出したときの、 いつもとは明らかに違っていた様子。 そういったものを、はっきりと覚えていたから。 だから、やはり、 この日記を書いていたのが彼だったから、 自分は気付いたのだろう。] (60) 2020/05/24(Sun) 21:36:10 |
【人】 軍医 ルーク[ 離れたくないと、手をとっていたいと、そう願いながら、 ざわりと騒がしくざわめく空洞は、 彼のことを“心配”してのものであったけれど、 それだけではない不安が、片隅にある。 拒絶への怖れ、そう名付けられるものだろう。 それでも、手を伸ばすのをやめることは考えられない。 拒まれることの痛みなど、 何もできずに手を離してしまうことに比べれば、 比較にもならずに押さえつけられる。 それでも、“もう君も、僕からは、”と、 告げられかけた言葉の続きを察せば、紫の目が揺れる。 泣きそうな顔で、何度も口にしようとする彼に、 吐息が喉の奥で、引き攣れるような音を立てた。 ――… きっと、その先を口にしようとしているのは、 身を案じてくれて、いるからなのだろう。 そのような顔をさせてしまっていることへの辛さ、 拒絶への怖れ、 そして、その言葉が最後まで聞こえなかったことへの ――“嬉しさ” そのようなものたちが、ぐちゃぐちゃになって、 指で触れて名前を付けるのが、追いつかない。] (61) 2020/05/24(Sun) 21:38:28 |
【人】 軍医 ルーク[ タブレットに、最後まで文字を綴り終えて。 離すまいと抱きしめながら、 背に回される、手の感触を感じる。 まるで泣く子供をあやすように優しく撫でていた手に、 不意に力が篭り、強く抱きすくめられる。 白い尻尾が、ふるりと跳ねる。 涙が、止まらない。 強く、強く、力を籠める。 わたしは、強くはない。 行かないでと、自分の心をぶつけながら、 それでも、縋るだけの両手にはなりたくなかった。 この心と体のすべてで、 出来ることがあるなら何でもしたいと、 願いと決意を込めて、腕に力を込めている。 ――鼓動の音がする。] (62) 2020/05/24(Sun) 21:39:09 |
【人】 軍医 ルーク離れて、と、 言わないでいてくれて、嬉しかった。 分かってるんだ、 どうしてそう言おうとしていたかは。 それでも、わたしは、 そう言わないでいてくれて嬉しかった。 [ 一緒にいてくれるなら、それが一番いいと、 言葉にしてくれたことが。 いつの間にかこんなにも、彼が特別な存在になっていた。 それでも思い返せば――そう。] いつからかな、 ……うん、最初から。 自分のことなんか気にしようとしない君を見てた。 ひとの輪の中にいながら、 皆が笑うのを見ていながら、 どこか、自分のことを度外視してるみたいに見えて。 きっと、怒っていて。 心配、していたのだと思う。 ……でも、いまは、それだけじゃない。 [ 検査のことも、治療のことも、誰が患者であったとしても 同じことを主張していたはずだけれど。 それでも、そのような思考とは別の所で、 自分の中で何かが動き始めていた。] (63) 2020/05/24(Sun) 21:41:02 |
【人】 軍医 ルークわたしのことも、 聞きたいと言ってくれて、ありがとう。 でも、いまは、 君の話を聞かせてほしい。 [ 誰にも話せずにいた話。 それは翻って、その話の重さを物語る。 誰かに話すには重すぎるなら、ひとりで抱えるのは尚更だ。 日記の返事にも幾度も書いたように、 自分の望みは、彼が抱えているものに、 立ち向かわなければならないものに、 “一緒に”立ち向かうことだから。] (64) 2020/05/24(Sun) 21:42:07 |
【人】 軍医 ルーク[ ――それでも、 堰き止められていた水が溢れ出すように語られた言葉に、 これ以上ないほどはっきりと突きつけられる現実に、 恐怖に、目の前が暗くなる。 “全て思い出した時、僕は僕で居られるのか” 時間がないというその言葉は、 本当に、その通りだったのだろう。 次に眠れば、もう次はないかもしれない。 そうして目を覚まそうとしていたとしても、 人はいつまでも眠らずにはいられない。 顔を上げて顔の様子を見れば、 やはり、もう既に長いこと眠っていないことが分かる。 けれど、いま一番不安なのは誰なのかを思うなら、 泣き崩れてしまいそうになる全身を励まして、 必死にその話に耳を傾ける。] ……黙っていたことがある。 [ 流れ落ちた涙をぬぐうこともなく、 自分もまた、顔を上げる。 この話をすることには、躊躇いもあった。 突きつけてよいものか、分からなかったからだ。 けれど、何も分からず不安定な場所にいるだけでは、 次に踏み出すことも出来ない。] (65) 2020/05/24(Sun) 21:43:27 |
【人】 軍医 ルーク通信機を探しに行ったときのこと。 君は頭痛の後に、通信機を見つけてくれた。 そのとき君は、 通信機が機獣のどの部位に格納されているか、 どちらに飛んだか、 知っている口調で、話をしてた。 この話は、誰にもしなかったから、 まだ、基地には知ってる者はいないけれど。 ……きっと、その頭痛はそういうことなのだと思う。 その暫く後、検査に携わる者に 総司令からの通達があった。 頭痛は記憶の兆候だろうと。 [ それは、不安を現実にしてしまう、 そういった情報でもあっただろう。 けれど、それだけでは終わらせず、続きを口にする。] (66) 2020/05/24(Sun) 21:45:08 |
【人】 軍医 ルーク過去の君の記憶が、今に追いつこうとしているとして。 それが夢という形で、見えているとして。 それは、君の身体に刻み込まれたものなのだろう。 でも、だとしたら、 『今の君の記憶だって、 その体に、同じくらい、刻み込まれてるはず』 わたしは、そう思う。 記憶障害の症例は個人差があるから、 はっきりしたことは言えないけれど。 君がこの基地で過ごした時間は、感じたことは、 いまの君を、形作るもののはず。 ――… 不安に違いないのに、 勝手に知ったようなことを言って、ごめん。 でも、君がここで皆を守るのを、日々を過ごすのを、 わたしは、見てた。 それに、いまは……、 わたしに向けてくれた、いくつもの言葉とか、 心を、知ってる。 (67) 2020/05/24(Sun) 21:46:21 |
【人】 軍医 ルーク[ どちらが本来の彼か。 最初の記憶? 違う、それだけじゃない。 きっと、『どちらも』だ。 それは、希望的な観測かもしれない、 願いであったかもしれない。 けれど、只の気休めのつもりもない。 記憶が囁くというのなら、いま目の前にいる彼の記憶だって、 何が変わるというのだろう。] 最初の記憶が戻ったからといって、 今の記憶が泡のように消えてなくなってしまうなんて、 絶対に、思うものか。 [ 両手が包まれる。 あたたかな手、冷たく固い義手の手、 最初はきっと、守るためのものではなかったはずなのに、 皆を守り続けていた手。 使うべきではないと思っていることは、 今も変わらないけれど。 暫くの間、そうしていた。] (68) 2020/05/24(Sun) 21:47:44 |
【人】 軍医 ルークそれでももし、なにかがあって。 君が寝坊してたら、たたき起こしてやろう。 あまり寝過ごすようなら、 起きたらそれはもう、 苦い物でも飲ませてやろうかな? ――… 絶対に、そのときは、 わたしがいる。 この手は離さない。 [ わたしも、と、指を動かす。 そうして、手がほどけたなら、 今度は自分がその両手を自身の手で包もう。 冷たくて、人に触れたら悲鳴をあげられてしまうような、 そんな手だ。 それでも、いまはいくらかは、熱が灯っていて、 あたためてくれた温もりがある。 両の手に強く力を込める。 向けてくれた穏やかな笑顔に、 大丈夫――と、語り掛けるように、 笑顔を、返した。] (69) 2020/05/24(Sun) 21:49:38 |
【人】 軍医 ルークああ、そうだ。 時間は全くかからないから、ひとつだけ。 わたしのはなしを、伝えようかな。 [ 秘密にしているものではない。 記録を見れば、誰だって気付く。 その機会は滅多にないだろうから、 まあ、知る者はあまりいない、ということになるだろうか。 タブレットの画面を開き、指を滑らせた。]* (70) 2020/05/24(Sun) 21:51:34 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a7) 2020/05/24(Sun) 22:01:04 |
【人】 軍医 ルーク[ 言葉にするうちに、自分がどれだけ彼のことを見ていたのかを 改めて理解してしまう。 最初は当たり前のように、 自分が此処にいない方が良いと思っているに違いないと、 そんな風に考えていたけれど。>>1:236 そう言われたことは、今思えば一度だってなかったのだ。 いや、苦い薬から逃げようとはしていたけれど。 義手を使って倒れて担ぎ込まれて、目が醒めた途端、 窓から逃げようとしていたことなんかはあったけれど。 それでも、“姿が見たい”と、 そんな風に探してくれていたとは、 ほんとうに、思っていなかったものだから。] ……、 それは、物好きだと思う。 [ この期に及んでそんなひねくれたことを、 言ってしまいもする。 口ではそう言いながら、微かに綻んだ口元は、 どう見ても“嬉しそう”に見えただろうし、 背の後ろで白い尻尾がぱたり、と揺れたりも しているのだけれど。 自身の目で見てくれていたから、 噂に偏見を持つこともなく接してくれていたのだろう。] (169) 2020/05/25(Mon) 21:00:28 |
【人】 軍医 ルーク君に個人的に関わろうとするなって、 念を押されたこともあるんだ。>>0:305 仕事に徹しろと。 いまにして思えば、 わたしには知らされていなかったけれど、 上の方もある程度は、 君に対しての予測や警戒があるのかもしれない。 [ “天”の向こうには何者かがいるということは、 知る者は知っている事実だ。 第二研究所には、彼女がいた――カイキリア。 最初の襲撃の際に現れた、 身元が分からず極めて戦闘能力が高い、だれか。 可能性としては、当然考えることだろう。 彼もまた、天の向こうから来たのではないか――と。 そうであるならば、治療の体面すらかなぐり捨てつつある、 実験めいた検査の理由もわかる。 到底、納得できるものではないけれど。] (170) 2020/05/25(Mon) 21:01:58 |
【人】 軍医 ルーク“葬儀屋”が関わったところで、 迷惑だろうってね。 そのシロップ、ずっと作ってはいたけれど、 きっと渡せないだろうと思ってた。 でも、結局、ダメだった。 関わらないようにするなんて、出来なかった。 [ 通信機を探しに行くときに、 研究班に声をかけるやり方だってあったはずなのだ。 あの研究馬鹿たちなら、捜索に加わる者もいたかもしれない。 そのことに、思い至らなかった理由。 真っ先に思い出したのが彼だった理由。 司令直々に念を押されながら、従うことが出来なかった。 自身の感情を理解するよりも先に、 きっと、心が歩き出していた。] (171) 2020/05/25(Mon) 21:03:11 |
【人】 軍医 ルーク[ 通信機を探しに行ったときのこと。 それを口に出すのは、やはり恐怖もあった。 今はもう、何が引き金になるか分からない状態だ。 それでも、状況も分からず手探りで立ち向かうことと、 自身の状態について何らかの知識を持って臨むこと―― どちらがより安定していられるだろうかと考えた。 何より、他ならない彼自身のことなのだから、と、 そう思って伝えることにしたのだ。 ――重なるような鼓動の音が、 先ほどまでよりも落ち着いて聞こえたことも、 その理由であったかもしれない。 それでも、痛む素振りで頭に当てた手に、 咄嗟に息を呑み、手を伸ばす。 頭に触れた手の上から、そっと添えるように。] (172) 2020/05/25(Mon) 21:04:41 |
【人】 軍医 ルーク そうか、総司令に―― あの通達は、それでか。 あのひとは、多分、目的のために 自分が必要で最適と判断したことは、 きっと、何でもする。 情がないとか感情で動くとか、 そういうことはなくて、 私利私欲で動くということもなくて。 目的はきっと、“前線の死守”。 先の先を考えていることも あるかもしれないけれど、 そうだね、わたしにも、本音は見えない。 [ 総司令と関わる頻度は彼と似たり寄ったりだろうけれど、 ここに来る前から多少の面識はあった。 学問所にいたころの父の後輩だったと聞く。 判断は下していない、というのなら、 きっとその通りなのだろう。 いつかその『判断』が下されたとき、 それが承服できない内容であったなら―― もう、目を閉じて耳を塞ぐようなことはしない。] (173) 2020/05/25(Mon) 21:06:22 |
【人】 軍医 ルーク じゃあ、起こすときは念のために、 とびきり苦い薬も準備しておく? びっくりして飛び起きるくらいの。 シロップかあ。 それで目が覚めるなら、 どれだけ君は甘党だということになるな。 ――考えとく。 [ そのとき何が起こるかということも、 どうすればよいかも分からない。 それでも、“手を握ってくれていれば”と、 そう伝えてくれた言葉が。>>55 今もこの足元に深く広がる、底のない不安と恐怖に、 立ち竦みそうになる足を励ましてくれる。 ひとよりはひどく遅い足だけれど、何処にでも行く。 この手で出来ることは、何だってする。] (174) 2020/05/25(Mon) 21:07:01 |
【人】 軍医 ルーク[ 名前をタブレットで告げたのは、 言葉で話そうとして、少しだけ躊躇ったから。 いざ口に出すのが、どうしてか―― そうだ、これは気恥ずかしいというやつだ。 “大きな秘密”、“宝物”なんて言われて、 実際にその名を口に出してもらったなら、 泣きすぎて赤くなっていた顔が、またすこし、 かっと赤くなってしまう。 咄嗟に俯いたから、 向こうも微かに顔を赤くしていたとは気づかない。 それでも、やっぱり顔を上げて、] うん……、 わたしも、普段通り呼ばれる方が慣れてるな。 ありがとう、シュゼット。 [ 名前一つ呼んだり呼ばれたりするのに、 どうしてこんなに心臓がうるさい。 すこしだけ緊張したように、 けれども嬉しそうに笑い返した。] (175) 2020/05/25(Mon) 21:08:07 |
【人】 軍医 ルーク[ ――記憶のこと。 彼が考えていた内容は、自分も心の何処かで あるいはと思っていたことだった。>>120 一番新しい日記に記されていた内容。 零れた写真へと手を伸ばす、その姿は、 他ならない“彼”のものであるように、見えたのだ。 旅の中、朽ち果てた亡骸が握りしめていた一枚の写真。 それを“大事な宝物”として持ち続けていたのは。] 最初の機獣を君が倒したというのは、 確かに、事実だと思う。 公的な記録がそうなっているというだけじゃない、 わたしの参照した残骸の記録とも、 矛盾なく一致するから。 君は、機獣とともに降りてきたのに、 下にいたひとたちを殺そうとすることはなかったと、 わたしも、そう信じたい――… ううん、信じている。 [ “信じたい” それは、“下にいたひとたち”を―― 父を殺したのが彼だったと、思いたくないから? もし万が一そうだったとしたら、 自分はきっと、ひどく葛藤もするし、苦しみを感じる。 それは否定が出来ないことだ。 けれど、信じていると言った理由はそうじゃない。] (176) 2020/05/25(Mon) 21:10:13 |
【人】 軍医 ルーク[ あの日記に綴られていた言葉たちが、 いまも強く語りかけてくる。 感情がなかった彼が、はじめて強く感情を感じた、 その瞬間の記憶。 その記述を読んだ時に、貫くように胸を打った何かを、 言葉で言い表すことなんて、できやしない。 だから――信じている。] そうだね、きっと―― 君は、君だ。 [ 自分を信じてみる、と彼は言う。 怖れを知らない勇敢さではないだろう。 それどころか、怖がりなところもあって、 苦手な薬にぷるぷると怯えてしまうこともあるくらい。 自分が自分ではなくなるかもしれない恐怖だって、 想像してもしきれないものだろう。 怖さを知っていて、感じていて、 それでも立ち向かう。 ―― それは、本当の意味で勇敢ということだと思う。 その真っ直ぐな眼差しに、目を細めた。 だから、自分ももう、逃げない。 この先へと、歩みを進めてゆく。] (177) 2020/05/25(Mon) 21:13:17 |
【人】 軍医 ルーク 連絡手段か。 うん、わたしも一応自室はあるけれど、 あまり戻らないしな。 どうしようか。 [ 首を傾げていると、ぺんぎんがくいくい、と 彼の服の裾を引っ張る。 まかせて、と胸を張った。 胸を張る――というか、 どこまで胸でどこからおなかなのか微妙な丸さであるから、 おなかをぺんっと突き出したような体勢ではあるけれど。] ああ、どうか。 基地の中ならぺんぎんに頼むといいんだ。 こいつら、何かこう、 独自のネットワークがあるから。 手近なぺんぎんに聞けば、 どこにこのぺんぎんがいるか、 そう待たないうちに分かるはず。 [ 本当は、次にいつ会えるか分からないのは、 ひどく不安でもあった。 次に眠ればどうなるか分からないと、 そう聞いてしまえば猶更だ。 けれど、此処が前線基地で、 互いにしなければならないことがある以上、 ずっとこうしていることは出来ない。] (178) 2020/05/25(Mon) 21:15:00 |
【人】 軍医 ルーク[ 何かあったならすぐに駆け付けると、 そう心に決めて。 医務室を去る後姿が、角を曲がって見えなくなるまで、 扉を閉めずにそこに立っていた。] [ 敵の総攻撃の情報が、 *前線基地の総員に伝えられたのは、翌朝の事。 攻撃の日は、 ] (179) 2020/05/25(Mon) 21:16:14 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a12) 2020/05/25(Mon) 21:18:11 |
【人】 軍医 ルーク『ああ、探した探した! そこの兎君、えーと、ゼット!』 [ 皆がせわしなく動きまわる前線基地を、 ぱたぱたと走る人影がある。 一斉攻撃の情報が齎されて後、基地内の空気は一変した。 当初は絶望に近いものでもあっただろう。 一度の降下で一体の機獣を倒すにあたり、 犠牲を出さずに済むこともあったけれど、 これまでどれ程の死傷者、損害を重ねてきたことか。 けれど、此処は最前線にして最後の砦であるという認識は、 否応なしに、基地にいる者皆が感じていることでもある。 廊下で第一攻撃部隊隊長に声をかけてきたのは、 技術班長、ジルベール。 賑やかに両手をぶんぶん振って、駆け寄って来る。] (181) 2020/05/25(Mon) 21:48:46 |
【人】 軍医 ルーク 『君に渡したいものがある、 暇かい? あはは、愚問だったね、 いまこの基地は、年中行事を袋詰めして振り回して ごちゃまぜにしたような有様だ、 窓を開けたら年始の祭りの飾りが仮装して 菓子を強請り始めたっておかしくない。 けれど、いくら暇じゃなくたって、 これは来てもらわなきゃいけない』 [ そう言った彼女は、彼をぐいぐいと 武器倉庫に引っ張ってゆくだろう。 天井が高い堅牢な倉庫には、 整備された通常の装備に加え、 新たに運び込まれているものがある。] 『実戦への投入はまだ先の予定だったのだけれどね、 “いま使わずにいつ使う!”っていうやつさ。 技術班総出で、徹夜突貫で整備した。 機獣から回収された装備を元に開発したものだ。 各部隊長に支給して回っているところだったんだが、 実際、今この基地の最大戦力は君と言っていい。 最大の戦力に出来るだけ火力を集中するのは、 理にかなったことだよ、うん』 [ 一画にある金属製の筒を、ずるずると引きずって来る。 彼女の腕力でぎりぎり動かせるくらいの重みのようだ。] (189) 2020/05/25(Mon) 21:58:54 |
【人】 軍医 ルーク 『それに、こういうのを軽々持ち運べるのは、 馬鹿力の連中のなかでも そう多くはないだろうからね。 携帯式対機銃弾発射器といったところか、 反動はかなりのものだが、君のそれと違って、 物理的な反動だけだ。 つまり一言で言うと、筋肉でなんとかなる!』 [ 義手の解析に携わったこともある彼女は、 彼の義手の性質もある程度は心得ているようだった。>>2:65] 『それからこっちは、対機獣の手榴弾。 爆発の威力は前方にだけ収束するわけじゃなくて、 周囲にも爆風が来るから、 離れたところから投げるんだ。 機体に吸着して爆発する。 立ち回りによっては中々の効力を発揮するだろう。 それから――』 [ 部隊長のみならず、 部隊全体への一通りの追加装備について説明をした後、 彼女は顔を上げる。] (190) 2020/05/25(Mon) 21:59:38 |
【人】 軍医 ルーク『ルースに頼まれた。 通信機を運んできてくれたときにね。 君のその義手の代わりになる、 身を守れる武器が何かないかと。 わたしもその考え方には賛同する。 最大戦力が行動不能になるような武器は、 実に非効率的だから』 [ 自分たちの発明品を嬉々として解説する彼女の様子は、 状況分かってるのかこのひと、と、 装備の確認に訪れた他の部隊の兵士たちの 胡乱な視線を受けていたけれど。 気にせず、にやりと笑う。] (192) 2020/05/25(Mon) 22:00:11 |
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