169 舞姫ゲンチアナの花咲み
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| (34) 2022/08/08(Mon) 22:41:02 |
| 緑丘に芽吹く一輪の竜胆の傷痕など 何一つ知らない人間が持つ感情は ごくごく自然で普遍的なもの。 (35) 2022/08/08(Mon) 22:42:18 |
| それは 花弁 の導きか それとも彼女が導かれたのか。 >>29 何か一つが噛み合わなければ 出会うことは無く、結ばれなかった縁 サルコシパラは嗤う。 生まれて初めて、運命という言葉を信じたのだから。 (36) 2022/08/08(Mon) 22:42:54 |
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(よもやこの私が運命? 滑稽だろう?それでいて光栄だ。
私は貴女に選ばれたのだろうか。 貴女が私の事を選んだのだろうか。) (37) 2022/08/08(Mon) 22:43:30 |
| 「ごきげんよう。 この広い場所に一輪の 竜胆 は 少しばかり寂しいものですね。」 (38) 2022/08/08(Mon) 22:46:45 |
| お困りのようなその背中に サルコシパラは声を掛ける。 >>30 それが二人の、始まりの日。* (39) 2022/08/08(Mon) 22:48:03 |
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サルコシパラがウユニと同居を始めてから 最低でも1年は経つ。
しかしサルコシパラが知るウユニなど 氷山の一角、せいぜい数パーセントの欠片だ。
それが証拠に、その言葉が紡がれたきっかけ 過去のしこりをサルコシパラは察することが 出来ずに、見込みのない憶測を浮かべては ひたすらに首を傾けるばかり。
(50) 2022/08/09(Tue) 1:06:54 |
| 人間に伝えられたことはひとつ 紛れもない己の強い意志のみ。 部屋を彩る崇高な花々は 静かに、寂しげに。 その選択の未来を、見据えていた。 >>41>>42** (51) 2022/08/09(Tue) 1:09:31 |
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そう、全ては直感だった。
運命を感じたことも。 この場所で出会った彼女と ここで今生の別れにしてはならないと そう思わずにはいられないことも。
そこには合理性も理性も何もなく ただ情動に赴くままの選択。
己の直感に従った結果だ。
(52) 2022/08/09(Tue) 1:12:23 |
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どちらがきっかけであったのか。 それはもう、些細なことなのかもしれない。 (53) 2022/08/09(Tue) 1:13:06 |
| 「えぇ、確かにそうかもしれません。 >>46 しかし『 寂しい愛情 』などという花言葉を 充てがうような人もいるくらいですから。 寂しさを受け入れられない そんな竜胆がいてもいいと思うんです。」 (54) 2022/08/09(Tue) 1:15:22 |
| どれだけ精神を研ぎ澄ませようとも 決して慣れることなど無い孤独の感情を サルコシパラは誰よりも知っているつもりだった。 そして孤独の痛みを紛らわす方法は 自ら孤独を選び、他者を排除すること。 喧騒の街から逃げるように丘に来ること。 (55) 2022/08/09(Tue) 1:38:50 |
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サルコシパラが彼女を放っておけなかったのは ぽつりと湧いて現れた同族意識のせいだったのか。
「安心してください。 貴女が住む場所を持たずに 路頭に迷っていることくらいしか 聞いてはいませんから。」
意地の悪い答えを返すと サルコシパラは被っていた仮面をずらして 街の人々には魅せない己の心境を零す。
(56) 2022/08/09(Tue) 1:39:50 |
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「独りになりたくなくて 独りになろうとここに来ました。
この丘の上が、好きなんですよ。」
(57) 2022/08/09(Tue) 1:41:53 |
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孤独にはなりたくないのに いつか自分から人を遠ざけ孤独を選ぶ。
矛盾に満ちた己の行動を 孤独を埋める形でひとつの線に繋げてくれた 彼女はむしろサルコシパラにとっては感謝の相手。
それが、ウユニのか細い不安への答え。*
(58) 2022/08/09(Tue) 1:42:25 |
| あの言葉は未だ忘却に至ることがない。 >>67 独りじゃなくなると悪魔のような提案をする彼女の姿に 僅かばかりの優しい棘を感じたことも。 つまるところ利害関係でしかないし それ以上に至らないための線引き。 彼女の言葉をサルコシパラはそう解釈していた。 (68) 2022/08/10(Wed) 21:46:48 |
| 珍しい病気だというのに 寄り添うどころか疎んだという彼女の肉親に サルコシパラは内心ささくれ立った。 >>59 その奇病がどんなものであったとしても サルコシパラの思う家族の在り方の中では 誰よりもウユニの味方であるべきなのだから。 その小さな苛立ちは同情へと変わり いつかは彼女を慮る心へと変革を遂げ ついには彼女がどれだけ住まうとも構わないと 明確な意志へと育まれていった。 (69) 2022/08/10(Wed) 21:47:54 |
| (70) 2022/08/10(Wed) 21:49:13 |
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被っていた仮面をずらして サルコシパラは彼女に微笑んだのだった。**
(71) 2022/08/10(Wed) 21:50:12 |
| しかしサルコシパラには迷いもある。 手折られるのを待つ竜胆が彼女なのか それとも自分なのだろうか。 >>63 あの日から数年が経った今でも その答えを導き出すことが出来ないでいた。 (72) 2022/08/10(Wed) 21:50:55 |
| 病気は感染るもの。 >>74 我が身可愛さに身内をも切り捨てる。 それはトカゲの尻尾を切るのと 同じだとでもいうのか。 繋がり、応える手はそんな残酷な過去への 反抗だったのかもしれない。 >>76 (83) 2022/08/11(Thu) 8:08:46 |
| それはウユニがサルコシパラの家に 住むようになってからしばらくのこと。 >>78 生計を立てるという人間の義務を 二人が免除されるなんてことはない。 >>79 その代わりということだったのだろうか。 ウユニは家事を全てこなすようになった。 サルコシパラが済ませようと腰を上げても ウユニが既に済ませてしまっている。 その度にサルコシパラは妙な罪悪感に 見舞われることになった。 (84) 2022/08/11(Thu) 8:14:52 |
| またしばらくすれば 今度はウユニは自ら生計を立てる術を 身に付け、その手腕を発揮する。 裁縫が得意という言葉に嘘偽りなく。 確かにその力は本物だった。 なんと頼もしいことだろう。 そんな感心を抱くサルコシパラには 彼女の稼ぎを貰おうなどという発想などなく。 (85) 2022/08/11(Thu) 8:15:44 |
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ウユニがサルコシパラに稼ぎを 渡そうなどという時には仮面越しにも 伝わるほどの拒否感を滲ませて。
「それはあなたのものです。 もし私に渡そうなどというのなら 私は今すぐあなたの為に服を買います。」
なんて言って冗談交じりに 淑女が着るようなドレスのカタログを 見せたりもしたことだろう。
(86) 2022/08/11(Thu) 8:16:23 |
| そんな経緯を経て この共同生活も板についてきた頃。 服がほつれていることに気づかないまま 過ごしていたサルコシパラに ウユニから申し出があり。 >>80 「あ…すみません ではせっかくなのでお願いします。」 お言葉に甘えてと照れくさそうに 頭を搔くなんてこともあった。 それはサルコシパラにとって ウユニは信頼に値する人であるという証明で 家族としての絆を育んでいる何よりの証拠。 (87) 2022/08/11(Thu) 8:18:21 |
| そんな時期にもなれば 貰い物を遠慮する気持ちよりも 歓喜の感情が先回りしていくもので。 差し出されたひざ掛けを >>81 「ありがとうございます。 せっかくあなたがくれたんですから もちろん、大切に使いますよ。」 そう言って受け取りもしただろう。 >>82 充分売り物になりそうな仕上がりの 竜胆が彩るひざ掛けの意味は 口にするのも野暮というものだ。 (88) 2022/08/11(Thu) 8:18:56 |
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幸せな日々というものを サルコシパラは日々感じるようになった。
ウユニの存在はそれだけ大きく。 次第にサルコシパラに強い感情も芽生えて。
それでもこの関係をより深めなかったのは 彼女が病に侵されているという事実が 頭の中にあったからだ。 (89) 2022/08/11(Thu) 8:19:25 |
| この未来を辿ったきっかけは
彼女の勇気と──────。** (90) 2022/08/11(Thu) 8:21:44 |
| ウユニから病気のことを告げられた日の夜 サルコシパラは珍しく夜更けになっても 眠りにつかないまま自室にいた。 部屋が複数あるサルコシパラの自宅では リビングの他にサルコシパラの部屋と ウユニの為の部屋、そして空き部屋があり 夜は特段の用事がなければ 互いの部屋に入ることも滅多に無い。 脳裏によぎるのはもちろん ウユニの抱えている病のこと。 彼女の家族でありたいと願う者として 病のことを知るのは責務だと サルコシパラはそう考えていた。 (91) 2022/08/11(Thu) 8:39:15 |
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しかし本を読み漁っても 有力な話は何も出てこずに
深夜、サルコシパラは独りで 落胆し、肩を竦めていたのだった。
(92) 2022/08/11(Thu) 8:39:28 |
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