【人】 帝国史録────帝国歴525年。 婚礼は生憎の雨であった。 泥道を馬で超えた諸侯達は城の大広間に集い、 火の傍で豪勢な食事の振る舞いを受ける。 シェーンシュタインは白く美しい雄大な城だ。 帝国の要であるアーレンベルク家に相応しく、 城門に飾られた赤い獅子の旗がよく映えた。 (57) 2020/11/26(Thu) 16:30:10 |
【人】 帝国史録遠方より若妻を迎え、 ゴブレットを手に笑うアーレンベルク公の頭上では 一流の楽団が祝いの曲を奏でている。 各諸侯が持ち寄ったその年一番の畜産物が 煌びやかな料理へと変わって メインディッシュとして振る舞われる頃。 「飲まないのですか?」 数年前に遠征で夫を亡くしていた前当主夫人アメリアが 隣席のベストラ公爵に不思議そうに訊ねる。 彼は薄く笑いながら首を振った。 この晩は客室を貸し与え、全員が夜を明かす筈だったのだ。 賑やかな歓談に添えられる音楽も、楽団も アメリアが天井を仰げば忽然と消えている。 (58) 2020/11/26(Thu) 16:30:59 |
【人】 帝国史録不安を押し殺した面持ちの儘、 アメリアがベストラ公の袖口をたくし上げた。 上品なコートの内側には鎖帷子が鈍く光っている。 ────謀ったなと、 叱責の声を上げるより早く彼女は叫んだ。 愛しい我が子へ、早く此処を離れなさいと。 願いは誰にも届く事はなく、 クロスボウから放たれる矢が震える喉を 貫 いた。そうして彼女が始めの犠牲者となった。 鮮血を撒き散らして倒れ込んだ音を合図に、 隠れていた刺客や兵士が一斉に広間へ雪崩込む。 丸腰の忠臣達が皆、喉を切られ家畜の様に葬られていく。 (59) 2020/11/26(Thu) 16:31:24 |
【人】 帝国史録殺戮の手は契りを交わしたばかりの夫婦にも伸び、 若きレオポルドの眼前で彼の花嫁は刺殺された。 清らかな胸を、 世継ぎが宿る筈だった腹を、 細く白い喉を。 背後から現れた刺客の手で滅多刺しにされ、 目を見開いた儘に床へ転がり、口を利かなくなったと言う。 重傷を負ったレオポルドが這うようにして 事切れた花嫁に追い縋り、血に沈んだ手を握ろうとする。 その無防備な背にも、無慈悲に暗器が突き立てられた。 ……惨劇は終わらず。 寝室で既に眠っていた幼い兄弟までもが 次々に手にかけられていった。 (60) 2020/11/26(Thu) 16:32:09 |
【人】 帝国史録物置に隠れていた齢五足らずの末弟を除き、 アーレンベルクの人間は老翁から幼子まで惨殺された。 掲げられていた赤獅子の旗は焼け落ち、 弑逆の血によって穢された城は、革命派諸侯の手に渡った。 防衛の要である大公爵を失い、 諸侯の反逆はその後帝都へ伸びる事となる。 皇帝家は完全に断絶され、領土の多くは奪われ、 討死した先帝の代わりとして 元来皇帝家の分家であったアーレンベルクの唯一生き残り、 ディードリヒがお飾りの王として立てられた。 反乱を起こした七大貴族達はそれぞれの領地へ戻り、 彼等によって新たな諸侯公国が生まれる──── 五百年続いた帝国史を揺るがす大事件。 この革命の発端となった婚礼での弑逆を、 人々は畏怖を込めてこう呼んだ。 シェーンシュタインの雨 ──── Der Ragen von Schoenstein …………と。 (61) 2020/11/26(Thu) 16:32:39 |
【人】 憾みの書あれから二百年。 弱小国家と化した帝国は苦しい時代を歩み続け、 公国による内政干渉を強く受けながらも 長い年月をかけて安定を取り戻して行った。 茨の冠を被せられ、無一文の獅子と罵られた アーレンベルクは決して揺るがなかった。 幼帝に始まり、何代も試練に晒され続けた彼等が この恨みをどうして忘れられようか? (62) 2020/11/26(Thu) 16:33:37 |
【人】 ゴエティアの書D er Teufel flüstert nur. Rücksichtslos zu jeder Zeit.  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 悪魔と呼ばれる存在。 古より存在し、其の多くは肉体を滅ぼされ 或いは封印された大いなる種族。 彼等は唯一の依代である人間の召喚者を待ち侘び、 今も尚、実体を得て返り咲く日を望んでいると云う。 (134) 2020/11/27(Fri) 17:07:02 |
【人】 ゴエティアの書M arbas …… 序列5番目にして地獄の大総裁。 獅子の姿を取り、隠された真実を知る力を与える。 あらゆる疫病を齎す力と其れを治す力を兼ね備え、 ──── 肉体が亡びた今では玉座を求め、 契約者の来訪を待ち続けている。 (137) 2020/11/27(Fri) 17:08:42 |
【人】 皇帝の系譜Wilhelm Herrman Joshias Leopold 711年 嵐の月15日生 ヘルマン2世と妃エーディトの唯一の子として生まれる。 皇帝家の特徴を色濃く表した赤髪赤目。 出生時に一度泣いたきり、まるで声を上げぬ様な 赤子であった事で知られる。 (172) 2020/11/28(Sat) 0:40:38 |
【人】 皇帝の系譜血の禁術 “ B lutzauber ”王の血には特別な力が宿る。 受け継がれる血統は同様に消えない記憶を保持するが、 生まれ来る子供は皆、生涯思い出さないまま幕を閉じる。 記憶とは経験だ。 培った剣術や魔導の全てが其処には宿っているのだから。 では、二百年細々と続いたアーレンベルクの記憶を 胎児の中で解放すれば何が起こるか? (174) 2020/11/28(Sat) 0:41:32 |
【人】 皇帝の系譜ヘルマン帝の指揮に始まり、妃の同意を得て、 重臣達が見守る中其の赤子は取り上げられたが──── 臨月を迎えた時点でエーディトは衰弱し切っていた。 常ならざる記憶と力を蓄えた胎児は 母親の胎内でその魔力を吸い上げて完成されていく。 羊水に揺られながら見る夢は、 遠い過去の惨劇だったのかも知れない。 立ち会った者にそう思わせる程度には 生まれ落ちた新生児は“異様”だった。 実母の血を被って産声を上げた時、 既に彼を抱くべき母親の魂は其処になかった。 (175) 2020/11/28(Sat) 0:41:53 |
【人】 皇帝の系譜待望の世継ぎは恐ろしい迄に物覚えがよく、 一度教えれば大抵の技術は会得し我が物とした。 エーディトの死後間もなく次の妃が迎えられたが、 彼女が幼きヴィルヘルムを愛することはなかった。 アーレンベルクの希望であり、応酬の火種。 乱世の剣であり、未来を切り拓く鍵。 命名日を迎える度、彼が贈り物に求める物は──── 訊ねた所で「解らない」と応えたのだと言う。 (176) 2020/11/28(Sat) 0:42:23 |
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