【人】 室生 悠仁彼のことをそういう目で見ていると 気がついたのは、中学の終わりくらいのことだったか。 大人になった今考えると、もっと早く気付く要素、 怪しいところは多々あったように思うが 精通がその辺りだったこともあり 情緒面が育つのもその辺りだったのだろう。 特別に気持ちを持つ出来事があったわけではない。 強いて言うなれば、……出会ったときからの全てが。 と、いうのはきっと、今だからこそ言えること。 出会ってすぐの頃はこんな気持ちになるだなんて 思ってもいなかったように思う。 (48) 2022/10/15(Sat) 13:13:39 |
【人】 室生 悠仁目を伏せて、意思の強い瞳が隠れた姿。 横を向いて、真剣になにかを見つめる様子。 こちらを向いて、目を細めて浮かべた笑み。 それらを見る度、 心臓に触れられているような感触を持つ。 無自覚だった頃はそれでも流せていたことが 自覚したあとはどうにも看過できなくて。 距離を置こうと、何も言わずに離れたとき 俺たちの初めての喧嘩が起こることになる。 (49) 2022/10/15(Sat) 13:13:51 |
【人】 室生 悠仁だが俺にも言い分はあるのだ。 まず、俺たちは普通の男友達より距離が近かった。 相手の食べ物が気になれば遠慮せずシェアするし 共に在れる時間があれば大体いつも一緒にいる。 冷静になって考えればわかる。べたべたしすぎ。 たまに他のやつに誂われることがあったが そのとおりだ、俺たちは離れた方がいい。 だからこそ、そっと、ひっそりと。 彼の人生からフェードアウトしようとした。 口説き癖があろうとも、彼はかっこよくて。 いいやつで、素敵で、面白くて。 惚れた欲目だとしても 俺なんかに足を引っ張られていい存在じゃない。 (50) 2022/10/15(Sat) 13:14:23 |
【人】 室生 悠仁と、いうようなことを言うつもりはなかった。 言ってわかりましたと頷くやつではないし そんなこと考えているなんて知られるのは こちらも普通に恥ずかしい。 だというのに、さりげなく逃げ回っている俺を さりげなさなんて関係なしに 逃げられないように退路を絶って捕まえた彼は 開口一番にこう言った。 『 理由説明!!!! 』 いきり立った眉にそんな剣幕で言われれば 答えないわけにはいかないというもの。 それでも、伏せるところは伏せて告げれば まるで今すぐ殴りたいというような顔をして彼は怒る。 それに感化されて俺も怒りだした。 (51) 2022/10/15(Sat) 13:15:00 |
【人】 室生 悠仁この時俺は冷静じゃなかった。 好きなやつを、脳では理解できても本心では 納得できない理屈で避けて。 それなのに、好きなやつが俺の気持ちを考えず 自分から赴いて、好き放題喚いている。 なにより、好きなやつの顔が久しぶりに目の前にある。 それも、頭を混乱させる理由だった。 いや、ずっと、もしかしたら気持ちを自覚したときから 俺は混乱し続けていたのだろう。 冷静に、とか冷静じゃない、とか考えるまでもなく 彼の思考パターンを見誤っていたのだから。 (52) 2022/10/15(Sat) 13:15:43 |
【人】 室生 悠仁あわや永遠の断絶かと思われた俺達の関係だが 喧嘩の最中にそっと俺の手が包まれたことにより 回っていた口が止まる。 こんな中でもどきりと跳ねた心臓を 隠すように彼を睨みつければ、 彼からは不思議な眼差しを向けられていた。 その目は、まるで縋るような色をしている。 『 お願いだから、離れないでくれ。 』 く、と息を飲み込んだ。 強張った手が、彼の手の中で僅かに動く。 逃げ出そうにも、退路は既に絶たれていた。 なにより、掴まれた手は離されることはないだろう。 (53) 2022/10/15(Sat) 13:16:03 |
【人】 室生 悠仁まるで呪いのような言葉だと思った。 その音一つで、傍にいることを許された気持ちになる。 ずっと傍にいることなんて出来ないのに。 よく考えて見れば、先程まで彼が怒って 口から飛び出させていたのは 俺の考えを否定する、俺を引き止めるための言葉だ。 混乱に、怒りに頭を染めていた俺に 上手く伝わらなかったからこそ 彼は直接行動で想いを伝えようとしてきたのだろう。 普通なら、普段なら恥ずかしくもなる言葉を。 (54) 2022/10/15(Sat) 13:16:32 |
【人】 室生 悠仁それがわかってしまえば、もう抵抗は不可能だった。 降参するかのように体から力を抜いて、一言 「わかった」 と。 そう告げたあとの、彼の笑みのなんと清々しいことか。 毒気を抜かれたように、先程までの言い合いを忘れて 俺も唇を歪め、笑ってしまった。 (55) 2022/10/15(Sat) 13:16:45 |
【人】 室生 悠仁あれから、俺たちの仲は断絶することなく続いている。 結局距離感もそれほど変わることなく 悶々とする日々を過ごすことも多い。 この気持と向き合わなければいけないこと。 まだ共に、傍にいられること。 半分の落胆と、半分の喜びをあの日は持っていた。 けれど、最近また思うのだ。 やはり俺たちは離れた方がいい。 それが、彼にとっても、そして自分にとっても。 良い道なんじゃないかって。** (56) 2022/10/15(Sat) 13:17:00 |
室生 悠仁は、メモを貼った。 (a12) 2022/10/15(Sat) 13:18:38 |
室生 悠仁は、メモを貼った。 (a14) 2022/10/15(Sat) 15:42:32 |
【人】 室生 悠仁高校生の頃、街中を歩いていると 路地の方から荒れた声が聴こえたことがある。 あまり野次馬する質ではない。 危機が迫れば首を突っ込むより離れる方な俺が そっと壁沿いに覗き込むことにしたのは。 隣りにいた彼なら首を突っ込むだろうと思ったのと 聴こえてくる声に、苦しそうに謝る若い声が 混じっていたからだ。 (108) 2022/10/16(Sun) 10:58:04 |
【人】 室生 悠仁「 もしもし、警察ですか? 暴行事件があってます。 〇〇商店街の近くで─── 」 音が聴こえないようにカバンの中でビデオモードにし、 出来るだけ顔が残るように映したあと。 暴漢たちに聞こえるように俺が警察に電話をする。 暴行をやめて引いてくれるようにあえて聞かせているが もし襲いかかってくるようなら彼が少しは 時間を稼いでくれる予定だ。 俺には体力がないが、彼は体格もよく体力もあり 運動も得意な方だから。 (109) 2022/10/16(Sun) 10:58:42 |
【人】 室生 悠仁運が良いことに、想定した方へと事態は転がった。 暴漢たちは舌打ちをしながら慌てて逃げていき 俺たちと、被害者である少年だけがこの場に残った。 そばかすの目立つその人物のもとへ駆け寄れば 痛々しく腫れた頬が目に入り、俺は顔を顰める。 よく見れば着ている制服は俺たちが通う学校のものだ。 ネクタイの色を見るに、どうやら後輩であるらしい。 もうすぐ警察が来るから安心しろ。 そう落ち着かせるように穏やかに彼が声をかけると 少年は先程までの恐怖の顔を歪めて泣きそうになりながら なんとかというように笑みを見せる。 (110) 2022/10/16(Sun) 10:58:53 |
【人】 室生 悠仁『 助けてくれてありがとう、……っす。 あんたたちは命の恩人だ。 』 敬語に慣れていないのか、申し訳程度についた語尾は 気にするほどでもないが。 その後に続いた言葉には思わず彼と顔を見合わせた。 警察に会いたくない。 だからこの場をすぐに離れていいか。 暴漢たちは様子を見るに酒に酔っていた。 だから、一方的に暴行されていたと思っていたが 少年にも後ろ暗いことがあるのだろうか。 お願いします、と頭を下げられて 戸惑いに少しの間俺は立ち尽くしてしまったが。 隣にいる彼は承知したらしい。 了承の言葉を零すと、少年に肩を貸し始めた。 (111) 2022/10/16(Sun) 10:59:01 |
【人】 室生 悠仁彼は少年を信じることにしたのだろう。 決断するには勇気がいる。 俺はならばと、少年の荷物らしきものを拾い上げ あとに続きその場を離れることにした。 怪我があり、ふらついている現状 少し休まなければ表を歩けないだろう。 適当なところで止まれば改めて腰を下ろし 水筒の水でハンカチを濡らして 赤く腫れた頬に冷やすように当てた。 そうすれば、ぽつぽつと少年は自分の事情を話し始める。 助けた俺たちには話さないといけないと思ったのだろう。 頬が痛いだろうに、義理堅い。 しかし、その内容でやっと 俺は先程の行動でよかったのだと納得することが出来た。 (113) 2022/10/16(Sun) 10:59:36 |
【人】 室生 悠仁少年の家族は祖母しかいないらしい。 父母はおらず、一人でずっと育ててくれていたと。 だから、絶対に心配をかけたくない。 自分を殴ったやつが捕まらなくても 痛くても、辛くても。よっぽどでないなら我慢したい。 隠すと返って心配させるのではないか。 教えてもらえないと悲しくさせるのではないか。 そうも思ったが。 ……少年にとっては、それが愛なのだろう。 俺には少し気持ちがわかった。 なにせ、俺も隣の男に真実を隠しているから。 ただ、その行動は少年のようにただ愛からではなく もっと利己的なものが多く絡んでいるが。 (114) 2022/10/16(Sun) 10:59:48 |
【人】 室生 悠仁隣の彼も、先に信じていたようだが それはそれとして話には頷いていた。 少年の頭を撫でていたのは労りだろう。 子どもじゃない、と少年は苦笑していたが 甘んじて受けているのは、やはり堪えていたからか。 流石にこの状況で嫉妬は、……するが。 少年よりよっぽど俺のほうが子どもだった。 そんな様子をおくびにも出さずに ある程度体力が回復する時間が立った頃 俺たちは帰路につくことにした。 名前は名乗りあったからまた出会うこともあるだろう。 送ろうかとの言葉に首を振られたので 適当な場所で別れて、その日の邂逅は終わる。 (115) 2022/10/16(Sun) 11:00:01 |
【人】 室生 悠仁警察官の人には悪い子としちゃったな、 と少年のいない場だからと話していた俺達の前に。 先輩!! と大きな声で、 頬にガーゼを貼った少年が現れて。 そしてたまに俺たちの周りにいるようになるのは そう遠い未来の話ではない。** (116) 2022/10/16(Sun) 11:03:59 |
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