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【人】 花屋の主 メルーシュ【回想 ヨシュア様とのこと】 [>>2:174 ………… 似合いますか? いささか戸惑うようにそう問いかけた彼の言葉を、そのままに受け取ったメルーシュは、一歩後ろへ下がると、じいっと目の前に立つ方と、彼の手の中で嬉しそうに歌うコスモスの花束を見つめた。 しばしの沈黙... そして、メルーシュは嬉しそうに、こくこくと頷いた。 「花が、そう言っております。」 彼の手の中でコスモスがうんうんと満足そうに頷いていた。] (11) 2020/09/27(Sun) 6:20:34 |
【人】 花屋の主 メルーシュ[ヨシュア様の手の中でゆれるコスモスが、メルーシュにあることを伝えると、それを聞いたメルーシュが、ぱあっと顔を輝かせた。 「ヨシュア様、あともうちょっとだけ、お待ちいただいてもいいでしょうか?」 そう言い残し、パタパタと長い裾を翻すと、慌ただしい様子で店の奥へ消えた。 カサコソという何かの音、そして戻ってくると、目の前で(おそらく)あっけにとられている方へ小さな封筒をさしだした。 「コスモスの種です。よろしければヨシュア様のお側で撒いてみてください」 (季節がめぐれば、また会えるように) ヨシュア様を慕うそのコスモスの願いは、メルーシュの素っ頓狂な言動ではたしてうまく伝えることができたのかどうか。* (12) 2020/09/27(Sun) 6:22:14 |
【人】 花屋の主 メルーシュ[>>2:191 いつも物静かな方ではあったが、この時のヨシュア様は何か違った空気を纏っておられるようだった。 「長く、この国を離れる事になりまして。 別れの花束を一つお願いします。 」 発されたその言葉にメルーシュはひどく戸惑い、だが、決してその理由を問うなどということはすべきでないのだと感じた。 いつものようにソファを促すと、メルーシュは花を仕立てる。 選んだのは端正なクレマチス、その凛とした花はヨシュア様と面影が重なるよう。 ヨシュア様のお気持ちは計り知れない。だからこそメルーシュは願わずにはいられなかった。 ヨシュア様とその花を贈られるご息女様が、いつかまた再び巡り合うことが叶いますようにと。 (13) 2020/09/27(Sun) 7:42:45 |
【人】 花屋の主 メルーシュいつものように仕立てたその花束を手渡した。 すると、驚いたことにヨシュア様は、メルーシュにもういちどその花束を渡した。 花束が気に入らなかったのかという憶測をする間もなく、発された言葉 「…… 今までお世話になりました。」 果たして、彼を引き留めることはできただろうか。 もしほんの一瞬でも、ヨシュア様がこちらを見てくださったなら、メルーシュはその方の手をしっかりとつかみ(おそらくヨシュア様が思っていたより、その力は強かっただろう)、そのまま離さずに、行ってはだめだという思いで、その瞳を見つめかえしただろう。* (14) 2020/09/27(Sun) 7:45:45 |
【人】 花屋の主 メルーシュ (15) 2020/09/27(Sun) 8:18:11 |
【人】 花屋の主 メルーシュ【コンペ2日目、宮廷前広場での回想】 [>>2:167 花束のいっぱいにつまった花籠を抱えていると、花たちの声が重なりハーモニーとなって聞こえる。 その心地よいハーモニーにあわせ、風がそよと吹けばそれにかき消されるほどの微かな声で歌いながら歩いていたメルーシュは、ひかえめにかけられたその声に気が付くと立ち止まった。 振り向いたそこに立っていたのは、ひとりの少女。 メルーシュはにっこりとその少女に微笑みを向ける。 直接交わしたことばは多くはなく、何かの折に聞いた彼女の名前は覚えている。 「こんばんは、エヴィさん」 目の前の彼女は礼儀正しく微笑み挨拶を返してくれるが、なぜだろう、その表情がいつもとは違う翳りを帯びているように思えた。 メルーシュは、彼女が時折花屋に来てくれるときのことを思い出した。 (219) 2020/09/29(Tue) 20:42:17 |
【人】 花屋の主 メルーシュ【かつての花屋にて】 [>>2:168 彼女はいつも、御使いできたという様子だった。 いくつかの注文を、間違わないようにと慎重に伝える。 まるでほんの僅かでも間違いがあると、恐ろしいことが起こるかのように。 メルーシュも丁寧に注文を確認すると、いつものようにソファを促す。 彼女は果たしてソファに腰掛けたことがあったろうか。 注文は丈の長い花器に活けるための、豪奢さと荘厳さを思わせるような花束。 アマリリスの透き透った白にあでやかな紫紺のリリーを合わせていく。 注文にはできるだけ応えながらも、小柄な彼女が抱えて帰るときに危なくないようなかたちに仕立てる。 やがて、メルーシュは出来上がったその花束をしばし見つめると、うんうんと満足そうに頷いた。 急に声をかけて驚かしたりしないように(彼女は周りの気配にとても敏感だったから)、やや大げさに仕立て上がったことを素振りで伝えてから、「お待たせしました」と声をかけるようにしていた。 少女が花を抱えて店を出ようとしたそのとき、 急にメルーシュは「ごめんなさい、ちょっと待っていただけますか?」と声をかけた。(このときばかりは彼女を驚かせてしまって、ごめんなさい) 少女からもう一度花束を預かり直すと、丁寧にリボンをほどく。 そして花束のかたちを調整しながら、今度は、小さなスズランの花束をアクセントのように添えて結びなおした。 彼女のもとに行きたいというスズランの願いをかなえるために。 「スズランです。枯れやすいのでよかったら【花束を活ける前に外して】水に浸してあげてください」 (できることなら、あなたのそばにわたしを飾っていただけたら) 声ではないその声が、果たして彼女に聞こえただろうか。] (220) 2020/09/29(Tue) 20:47:26 |
【人】 花屋の主 メルーシュメルーシュはいつも願っている。 花たちが、その内なる生命をすべてかけ、最も美しく咲けるようにと。 そしてその花を、心から美しいと愛してくれる方と出会えるようにと。 エヴィさんのそばにいることを願ったスズランは、 きっと、その可憐な見た目には不似合いなほどの強引さで、 きっと彼女のそばで、美しく花を咲かせてくれたと、メルーシュは信じずにはいられない。* (221) 2020/09/29(Tue) 21:17:32 |
【人】 花屋の主 メルーシュ【回想:花屋にて】 音楽祭の季節は特に外国からの来訪者も多い。 先代であるメルーシュの祖母も、音楽祭の季節にたまたま訪れたこのコンセールカリヨンがとても気に入ったため、この国で花屋を始めたのだと言っていた。 ソファに腰掛け、ゆったりと店内を眺めている男性も>>2:228 おそらくは音楽を愛する人なのだろう。 それならば、この季節にこそ音楽とともに歌い、街を彩る花束がいい。 メルーシュが(店先の花たちが相談して)選んだのは、この国でしかあまり咲かないブッシュローズ。 選んだ色は深い青を秘めた紫。 まるでいまそこで摘んできたばかり、というほどの生命力を感じるその花に添えるのは、瑞々しく淡い色合いのグリーンを。 この国が、音楽祭が、お客様にとって忘れられない、素晴らしいものであることを願って。 「お待たせしました」* (243) 2020/09/30(Wed) 6:06:14 |
メルーシュは、メイレン様!おはようございます。よい一日になりますように。 (a9) 2020/09/30(Wed) 6:15:27 |
【人】 花屋の主 メルーシュ【花屋も知らない、先代について】 先代がコンセールカリヨンで開いた花屋が、ようやく、少しだけ軌道に乗ってきたという頃。 ある日、ひとりの女性から注文を受けた。 「娘を育てていただきたいのです」と。 その女性(もしかしたら、女性ではなかったかもしれない)が差し出したのは、まだ小さなカエデの木だった。 先代には、時折そういう来訪者が訪れることがあった。 だからさほど驚きはしなかったし、実を言えばそのままお引き取り願う可能性もあった。 そうしなかったのはただ、その女性が急に店をきょろきょろと見まわしたあと、 「きゃーーっっ!!!!!!!!」 と悲鳴を上げたから。 (345) 2020/09/30(Wed) 21:40:14 |
【人】 花屋の主 メルーシュその、あまりの大きな声に目をぱちくりとさせたまま、その女性を見つめる。 彼女の視線は、店の片隅に置いてある年代物のソファに注がれ、くぎ付けになっていた。 (346) 2020/09/30(Wed) 21:41:34 |
【人】 花屋の主 メルーシュやがて、 大騒ぎする彼女が落ち着くのを待って聞いたところ、そのソファは、彼女が【心から幸せを願った人】のものだったという。 カエデの木を抱えたまま、その古めかしい革張りのソファの横に膝まづくと、彼女はそうっと、そのソファを撫でた。 「ほら、ちゃんとお会いできましたよ」 というわけで。 先代は、そのカエデの木を育てることを引き受けた。 そのカエデの木が長い時をかけて育ち、やがて自分が大切に育てた花屋を引き継いでくれるまでは、恐らく長い長い時間がかかったことだろう。 その木を育て始めてから、自身の体の齢のとりかたがかわったことには気づいていた。 でもそんなことは意に介さず、 カエデの木であった愛しい存在、メルーシュという名をつけたその者が、どうかどうか、しあわせであってほしいと。 この街で、コンセールカリヨンで、 長く長く人々とともにあってほしいと、ただ願うばかりだった。 * (347) 2020/09/30(Wed) 21:45:43 |
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