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【人】 美雲居 月子 ───百日紅 [ 広縁に置かれた柔らかな木の椅子。 月明かりに照らされた、暗い部屋。 ミネラルウォーターを入れて、 電気ポットの電源を入れる。 かすかに水が音を立てて熱を溜める。 茶葉の筒を開けると、緑茶の いいかおりがした。 ぼんやり、昇り立つ湯気を眺めていた。 頭の中にはなにが浮かぶのか、 それはよくわからなかった。 カチッと音がして、電気ポットが止まる。 持ち上げて、急須に入れた茶葉に コポポ、と音を立てて湯を注ぐ。 蓋をして、静かに待った。] (53) 2020/08/17(Mon) 23:00:10 |
【人】 美雲居 月子[ 湯呑みに余った湯を入れて温める。 ゆっくり数を数えて、中の湯を捨ててから そうっと緑茶をふたりぶん、注いだ。 盆に置いて広縁の方へ向かい、 二脚の椅子の間にある、小さな机の横に 跪いて、茶托に乗せた湯飲みを置く。 それからやっと、彼の前にある 椅子に腰掛けた。 短く息を吐く。 彼が口を開くまで、ぼんやり窓の外を見ていた。 声が聞こえて、ゆっくりと視線を戻す。 問いかけに頷いて「ええ」と返した。 続く彼のことについても、ただ黙って聞いて。 ゆっくりと視線を落とした。] (54) 2020/08/17(Mon) 23:00:29 |
【人】 美雲居 月子───どうやろか。 20も下の小娘やし…… 会うたこともないのよ? 話も合わへんやろし、 なんや面白ない結婚とちがうかしら。 [ そういって、湯飲みを取り、 吐息で冷まして、ゆっくり啜った。] 黎哉さんは? お相手はもう決まってはるん? [ そう微笑みながら問いかけ。 そっと湯飲みを茶托に置いた。]* (55) 2020/08/17(Mon) 23:00:43 |
【人】 美雲居 月子[ 脱衣所へと向かう彼に ひらひらと手を振り、見送った。 また、空を見上げる。 一人きりの露天風呂は、部屋にある ものよりもずっと広かった。 息を吐く。 彼は、ムーランルージュには もう一つ有名なセリフがあると 知ることはあるだろうか。] "The greatest thing you'll ever learn is just to love and be loved in return." [ お互いに、見つけられたらいい。 それがどこにも浮かばぬ幻想でも きっと構わないから。]** (71) 2020/08/17(Mon) 23:52:25 |
【人】 美雲居 月子───言えますか。 思うたところで、なんにも 変わらへんてわかってるのに。 願ったところで、なんにも 変わらへんてわかってるのに。 [ 拐ってくれればいいのに、 そう何度も考えた。 今すぐここから逃げ出したら、 楽になれるんじゃないかと思った。 だけど、できなかった。 だから、ここに───。] うち、たぶん今日が最後です。 ───こんな阿呆な遊びもお終い。 黎哉さんは───言えますか。 嫌やって。しがらみは捨てたいって。 [ そう言葉にするけれど、 なぜだか彼の顔は見られなくて。 ただ落ちた手元にある湯飲みに ゆらゆらと映る月を眺めていた。]* (76) 2020/08/18(Tue) 0:31:24 |
【人】 美雲居 月子 ──百日紅 [ 返ってきたのは、自分と同じ答え。 彼も知っているのだ。この気持ちを。 ゆらゆらと揺らめく水面。 顔を上げると、彼の表情は 柔らかく微笑んでいて。] ───そうね [ それ以上、なにかを返せる気はしなかった。 そのまま、またゆっくり視線が下がっていく。 瞬間、目の前の彼が立ち上がった。 ゆっくりと、見上げるようにまぶたを開く。] (83) 2020/08/18(Tue) 7:41:06 |
【人】 美雲居 月子[ 彼の誘いに、眉尻を下げる。 小さく息を吐いて、こちらも立ち上がった。 差し出された手を見つめる。 取ろうとして、躊躇った。 ───伸ばしかけた右手を軽く握って、 開いて、それから───] ───抱きしめて、ただ、 眠ってくれるんやったら。 セックスは、もういい。 たぶん、今黎哉さんとしても、 うち、虚しぃなるだけやから。 [ そういってゆっくり彼と 視線を絡ませて、二度、瞬きをする。] (84) 2020/08/18(Tue) 7:41:36 |
【人】 美雲居 月子こんなとこで、あほなこと 言いなやと思われるかもしれへんけど、 それでも、うちは─── 最後くらい、身体だけやないって 思いたい。 ───だめ? [ 唇を結び、柔らかく微笑んで誘う、 彼の瞳をじっと見つめた。]* (85) 2020/08/18(Tue) 7:41:50 |
【人】 美雲居 月子 ───百日紅 [ 交わることで、満たされてきた。 必要とされていると感じられた。 自由にできない恋愛の代わりに ここで一夜限りの恋人を作って 満足したような気がしていた。 時折乾くことがあっても 気のせいだと言い聞かせて。 だが、最後の夜。 最後の男になってくれるというのならば その人に触れて欲しいのは─── 逸らされた目。 告げられた言葉に眉尻を下げた。 だが、そちらを見る瞳だけは 動かすことはなく。 肯定が落とされれば、小さく 「ありがとう」と告げて、 その手を取った。] (99) 2020/08/18(Tue) 22:38:57 |
【人】 美雲居 月子[ 抱きしめられた体の温もりが、 心地良くてそっと目を閉じる。 たくましい腕は、柔らかく包みこむ。 手のひらを添えた胸から感じる鼓動に、 そっと耳を寄せるように頬を添えた。 静かな部屋の中で、身動ぐと かすかに布の擦れる音だけが響く。 彼の体にまた少しだけ近づけば。] (100) 2020/08/18(Tue) 22:39:16 |
【人】 美雲居 月子[ 至極ゆっくり、ゆっくりと、 体を離して、彼の方を見上げる。 その目があった瞬間、 眉根を寄せて、泣きそうに笑った。 いつか誰かが、 誰かに、そうしたように。 返事ができなかった。 そんなこと、できるはずがないと、 きっと互いにわかっているはずだから。 わたしが逃げるだけならいい。 彼が逃げるだけならいい。 だけど、その手を取り合ってしまったら どちらにも、きっと、責任を 取ることはできないから。] (101) 2020/08/18(Tue) 22:40:19 |
【人】 美雲居 月子[ 唇を結んで、また頬を寄せる。 愛しているのかと問われたら、 きっと「わからない」と答えるだろう。 戯言でしか、軽口でしか、 そんなものは口にしたことがないのだ。 ずっと、ずっと、触れないように 生きてきたのだから。 ただ、最後に抱きしめてくれたのが この人で、よかったと思う。 同じ気持ちを分かち合える人。 この世の誰よりも、今お互いを 理解し合えている気がしたから。 分け合った体温が微睡に誘う。] (102) 2020/08/18(Tue) 22:40:42 |
【人】 美雲居 月子 ───百日紅 [ 互いの立場が何か違ったら、 互いのことを理解できなければ、 もっと別の結末があったのかもしれない。 けれど、きっともしそうなら、 わたしは今この腕の中に いないと思うから。 皮肉なものだと思う。 今はただ、この温もりが愛しかった。 微睡みの中で囁かれた言葉は、 夢か、現か、それすらも曖昧で。 声の代わりに、ゆったりと頷いた。 それは、その胸にまた頬を 擦り寄せたようにも思えたかもしれない。 きゅ、と彼の胸に寄せた手のひらで、 その浴衣を握った。] (115) 2020/08/19(Wed) 10:13:19 |
【人】 美雲居 月子[ すう、と眠りの淵に落ちた女の顔は、 至極安らかだっただろう。] * [ 目が覚めたそのとき、 まだ彼はそこにいただろうか。 いるのならば今度こそ、 「おはよう」と挨拶を。] (116) 2020/08/19(Wed) 10:14:05 |
【人】 美雲居 月子[ そうして、布団からゆっくりと這い出た。 まだぼんやりする頭でぐ、と伸びをして、 広縁の方へと足を進める。 二脚の湯飲みが残された机。 それを一瞬見て、すぐに窓の外に向けた。 日の差し込むガラスの向こうに広がる、 青々とした木々の群れが、 ざわざわと揺れるのがわかる。] ええ天気 [ そう口元を緩めた。]* (117) 2020/08/19(Wed) 10:14:31 |
【人】 美雲居 月子 ───百日紅 [ 外を眺めていても、布の動く音はしない。 同意が返ってきたらば、くるりと振り返る。 こちらを見ていた彼と目が合うなら、 首を傾げて微笑むだろう。] はよ、もう起きんと [ そう伝えて、眉根をあげた。 また窓の外に目を向ける。 右腕を上げて、左手で肘を掴み、 ぐ、とまたひとつ伸びをして。 欠伸が出たから腕を下ろし、 手のひらで大きく開く口をおさえた。 じわり、目端に滲む滴を 軽く拭って、息を吐く。] (121) 2020/08/19(Wed) 14:32:17 |
【人】 美雲居 月子ほな、帰り支度しよか [ と呟き、踵を返せば彼の方へ。 悪戯っぽくにぃ、と笑えば、 えい、と布団を剥がしてしまおう。] 黎哉さん、いつまで寝てはるの? [ 彼の近くに仁王立ちをして 叱るような口調とは裏腹に、 口元を綻ばせて言う。 だが、その唇をむすんで、 それから瞬きをして。 ゆっくりと伏せた睫毛。 それ以上なにもいわない。 顔を洗って、保湿ケアをして、 化粧をしなければいけない。 それから、服を着替えて、 荷物をまとめて。やることは多いのだ。] (122) 2020/08/19(Wed) 14:34:25 |
【人】 美雲居 月子[ だから、といわんばかりに 彼の方に手を差し出して。] ほら、もう、起きて [ そう促し、彼がとってくれたなら そのまま両手で包み、引っ張り上げようと。]* (123) 2020/08/19(Wed) 14:34:44 |
【人】 美雲居 月子───チェックアウト前 [ 朝食は、一人で摂った。 並べられた器の数々をのんびり 眺めながら部屋でかすかに聞こえる 人の声や、足音、風、湯の流れる音を 静かに、耳で拾いながら。 昨日、渡されたメモは、折り畳んで もうすでに荷物をまとめた カバンのポケットにしまってあった。 食後、温かいお茶を啜りながら、 ぼんやりそれを見つめる。 生まれた時から決まっていたことだ。 20、年上の人と結婚する。 それを当たり前として受け入れた。 受け入れなければいけなかった。 祖父に逆らえる人はいなかった。 それは、わたしもおなじだった。] (129) 2020/08/19(Wed) 16:18:54 |
【人】 美雲居 月子[ 変な話だ。 この場所にW愛WはあってもW愛Wはない。 そういう場所だから、自分はここにきた。 それなのに、最後の最後。 わたしは、わかってる。しってる。 ぜんぶ、理解してる。 それなのに─── 力を入れたメモが軋むような音を立てる。 短く息を吐き、帯にそっと差し込んだ。 茶托に湯飲みを置く。 窓の外に目をやると、朝見た時よりも 高くなった陽が、より強く射し込む。 風は止んでいた。 ゆっくりと立ち上がる。 縁をふまないように歩いた青畳。 そっと置いたボストンバッグを手に、 履いてきた草履に足先を差し入れ、 くるりと部屋の方へと振り返る。 静かに一礼して、扉を出た。]* (130) 2020/08/19(Wed) 16:20:01 |
【人】 美雲居 月子* [ チェックアウトをしようと 出たロビーに人気はそう多くない。 まだ時間もある。大抵ギリギリの方が 混んでくるのだ。だからこそ、 わざわざ早めに出た。 そのまままっすぐカウンターに向かう途中、 後ろから昨日と同じように 声をかけられれば、振り返る。] おはようございます [ そう微笑みかけて。] (131) 2020/08/19(Wed) 16:40:23 |
【人】 美雲居 月子───渡したもん? なんのことやろ? [ と、問いかけにはわざとらしく 首を傾げてとぼけて見せるけれど。 続いた言葉に、短く息を吐き、 姿勢を正した。 まっすぐに見つめられるから、 こちらも逸らすことなく見つめる。 だがそれも数秒。 すう、と下がり、睫毛を伏せれば、 そっと帯に挟んだメモを 右手の人差し指と親指で摘んで、 取り出してみせた。] (132) 2020/08/19(Wed) 16:40:45 |
【人】 美雲居 月子これは、うちのもんやから。 どうするかは、うちが 決めさせてもらう。 [ そういって、息を吐き。 ゆっくりそれを 彼の方に差し出した。] ───返そうと、思ぉてた。 うちはどうせこの場所から 動かれへんってわかってたから。 この気持ちだけでありがたい、 おおきに、でももうええんです、て。 そういうて、返そうと思てたん。 [ 彼がそのメモを取ろうとするなら、 さっと持ち上げて、触れられないようにする。 「でも」と小さく続けて、ゆっくり 目線を上げて、そちらを見つめた。] (133) 2020/08/19(Wed) 16:41:07 |
【人】 美雲居 月子やっぱり、やめる。 動かれへんって、わかってた。 けど、動こうともしてへん。 うちは、今まで諦めてた。 なんにも変わらへんやろって、 はじめから、なんにもせんと。 [ ゆっくり視線を落とし、 薄くなった彼の左手の薬指を見る。 それから、また見上げて。] (134) 2020/08/19(Wed) 16:41:31 |
【人】 美雲居 月子拐ってくれへんのやったら、 自分で動かんとあかんし [ そういって、くしゃ、と 子供みたいな笑顔を見せるのだ。 帯にメモを戻す。 あ、そや、と小さく落として、 手元にあったビニール袋を差し出した。] これ、温泉まんじゅう、あげる。 メモは返されへんから、お詫び? [ と首を傾げて、熱海名物と 本当か嘘かよくわからない文字の書かれた ウサギの形のそれを渡そうか。 受け取ってくれなくとも、無理やりにでも。]* (135) 2020/08/19(Wed) 16:42:04 |
【人】 美雲居 月子 ───百日紅 [ 小さく聞こえた褒め言葉。 もう、なにが、とは言わなかった。 彼の布団を引き剥がして、 まだ称えたままの笑みで あと5分、なんて言うから 少し笑ってしまった。 浮かんだ何かを消すように唇を結んで、 睫毛を伏せて、これからを考えて。 差し出した手が取られれば、 大きくて、分厚い掌の感触に、 唇をまた結んだ。 両手で掴み、ぐい、と引くのに うまく持ち上がらなくて。] (147) 2020/08/19(Wed) 19:54:55 |
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