203 三月うさぎの不思議なテーブル
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[春先の
桜
の下を歩きながら。
人気の少ない夜道。
そっと、手を伸ばして
彼の指の隙間に自身の指をするりと、
絡
ませる。]
なんて、紹介してくれるんですか?
[通りすがる人も居ないから。
傾けた首の先、そんなことを尋ねながら。
月明かりの下に浮かぶ横顔を眺めていた。**]
― デートの日 ―
ふふふふ。ありがと。
[会うなり可愛い、を連呼する彼に
自然と表情が緩んでしまう。
照れくさそうに頬を染め、
目を細めて礼を言った。]
いや私も早く着いたけど、それ以上に早いじゃん。
30分前!あははは。
いや余裕もって家出るのはいいことだし
それだけ楽しみにしてくれてたのは嬉しいけどさ。
[からからと一頻り笑った後。
ごく自然な仕草で手が差し伸べられる。]
………うん。
[一度顔を見上げてその手を取り、
するりと指先を絡めてきゅ、と握る。
いわゆる恋人繋ぎと言うやつだ。
大きな掌のぬくもりに気分が浮つくのを感じながら
今日晴れてよかったねえ〜
などと笑いかけ、のんびり歩き出す。
目的地の公園へは駅からバスに乗って少し。
ぽかぽかと温かい気候の中桜も更に花開いて、
きっとあの日の夜桜とは
また違う風景が広がっていることだろう。
そう、絶好のお花見日和。というやつだ。**]
― ところで ―
[恐らくこのデートの日よりはあとのこと。
玲羅は普通にあれからも、
別段デートの名目ではなくとも
会社帰りに一人でうさぎ穴に顔を出すだろう。
そしてその時高野が居たのなら、
(そして取り込み中ではないのなら)
やっぱり気楽な調子でカウンターの隣席に座って
彼から貰った招待券が無事役に立ったこと、
あの日の恋の相談が上手くいった報告などをすると思う。
飲みながら、高野君の方は最近どう?デート誘えた?と
進捗を聞いたりもした。そんな夜があったかもしれないな。**]
[
ちょっと?!指とか絡められたんですけど?!!
差し出した手に自然に指が絡まる。
俺は玲羅を見て、手を見て、それから真っ赤になった。]
も〜〜〜〜〜〜。
[ヤバい。どうしよう。急に手汗とか気になって来た。
さっきまでは、遠慮なく朗らかに笑う玲羅
と一緒に笑ってたのに。
赤い顔でジト目で見ても、俺が負けるんでしょ?
知ってる。経験者は語るだ。だいたい俺は玲羅に勝てない。
それでも負けず嫌いは反抗くらいするぞ。
ジト目で見て……
それから愛おしくて笑み崩れてしまった。]
[バスに乗って向かった公園は大きくて。
広々とした緑が広がっていた。]
晴れて良かったね〜。
[俺もそう返して。]
日頃の行いかな。
[とか。戯けた事を返した。
どっちの?両方のです。
暖かな春の陽気の中で、のんびり歩いて。
お花見をしながら、ここでも手は繋いでた。
あんまり歩き回って、靴擦れさせても嫌だから。
歩きやすい道を、ゆっくり歩こうね。]
……綺麗だなー……。
[俺は青空の下の桜を見上げて。ポツリと呟いた。
公園とか、神社とか、緑の多い場所は好き。
聞かれたら玲羅にもそう答えるし。
玲羅の好きな場所も聞きたい。]
玲羅は、公園とか好き?
……他にも好きな場所とかあったら、教えて?
たくさん知りたい。玲羅の事。
[のんびり歩きながらお隣に微笑んで。
お弁当を食べるのに良さそうな場所も見繕う。
椅子に座っても良いし、敷物を敷いても良いよ?
玲羅スカートだから、ベンチ探そう。
ぽかぽかの陽気。隣に好きな人。幸せだなって思った。]
[ふと。キスしたいなって思ったけど。
これ歩きながら突然したら怒られそう。
キスのTPOとか知りません。
お店じゃ無いし許されるかな?
思わず繋いだ指先をすりっと撫でて。
玲羅の事をみちゃったけど。
目が合ったら愛おしくて。幸せそうに笑った。*]
[スウェットのひと悶着を経て、車で一駅先の真白の家へ。
仕事先が郊外のこともあるので買った白の新車は小回り重視の軽自動車。
ハイルーフだから、小柄な彼女が乗ってもそんなに窮屈ではない筈。
消臭剤はアクアの香りとパッケージには書いてあった。
自分はもう慣れてしまったので何も感じないが、彼女の嫌いな香りでなければ良いなと思う。]
車酔いする方?
平気なら、今度ドライブもしようよ。
歩きだとちょっと難しいけど、
車があるなら山桜も見に行けるし。
シーズン終わる前にいちご狩りもしたいな〜。
[話すのはデートの計画。
そのデートが「彼女が希望して取る2日間」のことを指すのかは言わない。
連休を取るには予め交渉が必要だろうから、今月の話にはならないかもしれないし。
それに、その二日間の前にも休みがあって、特に彼女に予定がないならその時間を貰えたら嬉しい。]
[いちご狩りの農園は車で2時間くらい。
収穫したいちごでオリジナルケーキボトルを自分で作ったり、
ジャムに加工して持ち帰ることができる。
ケーキボトルに対しまだ真白に抵抗感があるならば、
摘んだいちごは加工をせずにそのまま持ち帰ってふたりで食べれば良い。
近くに温泉もあるから、帰りに寄っても良いかも。
そんなことを話しながら、ラジオから流れてくる曲を無意識に口遊んだり。
「ピュアマーメイド」の曲が流れた時には二人で同じ人物を思い浮かべたか、信号待ちで目を見合わせて笑った。]
今日は仕事も片付けたいし夜は仕事先で食べるから、
Madam March Hareには行けないや。
迎えに行きたいところだけど、
仕事先の予約時間考えたら厳しいかも。
[最初に送っていった日に、「無理はしない」と約束した。
とはいえ初めて二人きりで長く時間を過ごした後に逢えない時間が長いのは寂しくて無念が声に滲む。
もう少しだけ一緒にいたい。
だが昼間から路上駐車を長く続けるわけにはいかない。
彼女が外したシートベルトが戻る音。]
マシロちゃん、
[周りを素早く確認し、ヘッドレストに手をかける。]
―――――――、
[
ふ
、と零れた吐息。
真白の歯磨き粉は自分とは異なる銘柄だとわかる距離。]
……僕がいないお店で、他のやつが近づかないように、魔除け。
[悪戯っ子のように、にっと口角を上げて笑った。**]
[いやいや、これに関してはさ。私に非はないでしょう。
なんせ付き合いはじめて最初のデート。
微笑みながら手を差しのべる恋人。
この流れでむしろ恋人繋ぎ以外あります????
なので少しびくっとする気配がして
不思議そうな顔で見上げれば
少し高い位置にある彼の顔が
みるみるうちに赤く染まり。
照れてるんだな、ということはすぐに悟れて
牛になりながらジトッとこちらを見る彼を
にやにやしながら見上げた。]
え〜〜、なぁに〜?
……イヤだった?この繋ぎ方。
[イヤ、とは恐らく返ってこないだろうと踏んだうえで
わざとらしく首を傾げ、上目遣いでじっと彼を見つめ。
その後であはは、とおかしそうに笑おう。]
[駅前からバスに揺られ。
たどり着いた公園は広々としていて、
緑の中に花開いたピンク色が景色を彩っている。]
ね〜。
ふふふ、そうかも。
日頃徳は積んでおくもんですなあ。
[軽口にはふざけて同調しながら
のんびりした歩調で桜並木の下を歩く。
そこまで人は多くなく、時折カップルや親子連れ、
犬の散歩をしている人なんかとすれ違いながら
春の陽気ののどかさを感じていた。]
うん、綺麗。
公園好きかって言われたら
大人になってからはあんまり来る機会なかったかも。
友達と一緒だと街で遊ぶことが多いしさ。
でも、こうやってご飯持って、
好きな人とデートしに来るのは
のんびりできていいなー、…って思う。
だから今好きになった。
[正直に思うところを語りつつ、ふふ、と笑って。
彼は公園とか神社とか、自然の多い場所が好きみたい。
好きな場所を尋ねられれば]
私もねー、神社とかお寺とかは結構好き。
別に信仰とかはそんなないんだけど、
なんだろ、空気が澄んでる感じしてさ。
自然だと海沿い歩いたりするのも好きかな。
夏もいいけどシーズンオフも。
あと割と動くの好きだから、
ぶらっと電車乗って小旅行みたいなことたまにする。
街でご当地グルメ買い食いしたり、観光スポット見たりさ。
[そんな風に話しつつ、手を繋いで少し歩いて。
ちょうどよく腰かけられそうなベンチを探すだろう。]
[そんな中で不意に指でくすぐられ。
じっとこちらを見る視線に気づく。]
ん?
[どーかした?って首を傾げれば
幸せそうに笑う顔があって。
内心は分からないものの、つられて破願した。**]
――鴨肉の日――
[遅くに行く習慣が出来て、葉月とは少しすれ違いが続いていた。
まだ高野のインタビュー記事の感想も伝えられていない。
彼と栗栖とは3人で料理をシェアした日にグループを作ったけれど、せっかくならば直接伝えたい。
彼が自分の記事について直接褒めてくれた時、本当に嬉しかったから、自分の言葉でどれだけ彼を喜ばせることができるかはわからないが、気持ちを返したかった。
そんなことを数日考えていたある日のこと、「三兄弟」のトークルームに通知バッジが点灯した。]
えっ 何、カクテル……?
キレー……
[タップして表示された写真を拡大してみれば、グラスに咲いた八重桜まで潰れることなく写っている。
使ってるアプリはあれかな〜なんて予想しつつ反応を投下した。]
『桜カクテル?オリジナル?
セパレートの境目がはっきりと分かれてるのでも
完全に混ざるのでもないラインが絶妙で、すごいキレイ!
味は?気になるので詳細plz。
グルメライター葉月くんの食レポを
おにーちゃんはお待ちしてます♡
タッグ組みたい?愛いやつめ♡』
[
弟
が採用されるような食レポを送ってくれたなら、今日の自分の注文にカクテルが追加されることとなる。]
[その返事から暫くしての来店、座るのはカウンター席。
黒板を見ながら悩んでいる高野
に向かって手メガホン。]
貴方の……耳
に……直接呼びかけています……
一緒に鴨南蛮を……啜るのです……
一人で啜る音を立てるより……二人で啜る方が恥ずかしくないですよ……
[悪魔(?)の囁きは成功したと思われたが、強力な天使の囁きにも抗えなかったらしい。
すべての注文は天使に委ねられることになっていた。]
高野さんも最近この時間?
ちょっと前はもう少し早い時間に会ってたけど。
[出てくるのを待つ間、何の気なしに水を向ける。
反応が少し見てみたいから何となく察しながら聞いたけれど、隠したいなら詮索はしない。
パパラッチにはなりたくないからね。
ああつゆが煮詰まる良い匂い。]
やったーありがとう!
七味はちょっとかな。
[好みもあるけれど、朱い色は少し足されていた方が写真映えはするから。
供された白い器から出る湯気を少し手で避けて、タイミングを見計らって写真を撮る。]
こないだたけのこの天ぷらに使ってた下味もこの「秘伝」のつゆなんでしょ?
たっぷり吸いたいなって思ってたんだよね……。
[まずは熱さに負けず器を持ち上げて、つゆを飲む。
食べ方としては邪道だが、他の味が入らない状態でつゆを味わっておきたかったのだ。
ほう、と溜息をついた。]
うん。 ――うん。
だしが良いのかなー、なんだろ。
濃いんだけど、「うまみ」が主張してくるから飲めちゃう。
[次にそばを持ち上げて、つゆと一緒にずるると音を立てて食べる。
日本では麺類は啜る文化だけれど、ここは蕎麦屋ではないので気持ち控え目な音で。
生そば特有の風味がつゆに負けずに鼻に抜けて、暫く夢中で数口啜った。]
っはー……しっかりコシも残ってる茹で具合、てんさい。
そして南蛮こと焼きネギ様!
ネギって焼いたらなんでこんなに甘くなるんだろうね……。
で、満を持して鴨なんだけど……
これぜんっぜん脂っぽくないね?!
たべやすーい、しっかりローストしてあるのに固くもないし、
つゆとの相性最高……。
[うっとりと鴨を堪能し、最後に箸で摘まんだネギをストローのように咥えて先につゆを吸い、噛んで味わった。
つゆは残ったが、全部飲み干したら流石に塩分過多が心配なので。]
うーん、つゆ飲んだら思いの外お腹がいっぱいになってきたりして……。
鰹は重いかもしれないな……。
何か軽く摘まめるもの、頼める?
[桜のカクテルを頼むことになったかは、葉月の食レポ次第。*]
[分かってて聞いてるよね?分かってて聞いてるよね??]
嫌な訳ないでしょ〜〜〜?
[玲羅の楽しそうな笑い声
に。
俺は全面降伏したのでした。]
[軽口に返ってくる軽口が心地良い。
のどかな陽気の中、ゆっくりお散歩して。
『今、好きになった。』って。
何それ嬉しくない?]
俺と一緒に居て、好きなものが増えてくれたんだ〜。
何それめっちゃ嬉しい。ありがとぉ。
幸せ。
[嬉しそうに呟いて。]
[玲羅の好きな場所を一つ一つ聞いて行く。
]
空気が澄んでる感じ。俺もおんなじに感じる。
ふふっ。
冬の海はめちゃくちゃ寒いけど、俺も好きだよ。
小旅行良いねぇ〜……
…………いつか行きたいな。俺も。玲羅と。
お金貯めてさ。ちょっと。いやかなり。背伸びが必要だけど。
よしっ。それ1個目標にしよ。
そだ。玲羅。誕生日教えて?
[くすくすと笑って。問いかけて。]
[愛おし気に微笑んだ。顔に向けられた笑顔には。]
なんでもなーい。
[と。明るく笑った。]