【人】 朧广灯 リヒトーヴ― □□、楽園の外 ― [ とある都市部、とある建物の中。 ――これらの情報は機械には開示されていない―― その部屋は静かだった。 ようやく再会した友人らは、視線も合わせず座していた。 一人は散らかったデスクの前に。 大小様々な粒子モニターを宙に浮かべながら、 指と視線とを細かく動かしている。 一人は退かした機材の跡が くっきりと残ったままの一人掛けソファに。 その背凭れには埃が薄く積もっていたが、 当人である機械は、特に気に留めていなかった。 ] (109) 2023/11/30(Thu) 3:18:10 |
【人】 朧广灯 リヒトーヴ……結局は機械いじりですか。 『庭いじりもいいけどね。 僕はこっちの方が性に合うみたいだ。』 気が合いませんね。 それがあなたの見出した己の仕事ですか? 『どうだと思う?』 己が知るのは、お前の道楽までです。 (110) 2023/11/30(Thu) 3:18:26 |
【人】 朧广灯 リヒトーヴ[ 機械がこの地を訪れることを決めたのは、 あの日々の中で、友の思わせぶりな言動の数々と、 当人がかつて真剣に向き合ってきたものを 信じることに決めたことに由来する。 故に、今も機械は何も知らないままだ。 疑問は多く残されている。しかし、関心は持たない。 本来、道具というものはそういうものである。 ] 『つれないなあ』 お前の期待に応えるために、 己は多くのリソースを手放さざるを得ませんでした。 自業自得ですね。 [ そうだね、と友は頬を緩めた。 まったく、と機械は冷ややかな視線を送る。 やがて、いつまでもにやついている友の視線を 鬱陶しそうに機械は手で払った。 ] (111) 2023/11/30(Thu) 3:21:38 |
【人】 朧广灯 リヒトーヴ……己は、これからもあの楽園を広げ続けます。 それを"途方もない"と呼ぶのは人間の尺度に過ぎません。 存在するかも定かではない奇跡を乞うより よほど現実的だと己は思います。 [ 長い時と命を費やしながら、 かつて人類は、地球滅亡までの道を歩んでいった。 機械は、それと同じことを行うだけだ。 ] 「あなたの理想は美しい。」 人も機械も、己たちをよく褒めました。 ならば、示し続けて見せる必要があると己は考えます。 「これは人の成せることなのだ」と。 ――それが己の考える"この世界の救い"です。 (112) 2023/11/30(Thu) 3:22:30 |
【人】 朧广灯 リヒトーヴ……我が友よ、あなたの解を求めます。 久しぶりに会ったわけですし、 それぐらいの成果は期待してもいいのでしょう? [ 周到に面倒な手続きでもって、友は機械を呼び出した。 その動機はおおよそ道楽だろう。 しかし、楽園を出た動機までもが道楽だとは思わない。 己は友であり、友は己でもある。 それは、"親"と"子"の関係と決定的に異なる点のひとつだ。 機械は友に視線を向けた。 二人を隔てていたモニターは姿を消していた。 ――視線が交わる。 友は相変わらずにやついていたが、 ようやく己に関心を向けたのだと機械は認識した。 やがて、ソファの前までやって来ると、 座る脚の横に片膝を押し込み、友は機械を抱きしめた。 鼓動は早く、腕は微かに震えている。 その機敏と熱を数字で捉えながら 倣うように、機械は友に我が身を預けた。 ] (113) 2023/11/30(Thu) 3:24:18 |