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人狼物語 三日月国


150 【R18G】偽曲『主よ、人の望みの喜びよ』【身内】

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視点:


青年は、否、青年だったものは標本室にいた。
色とりどりの虫、動物の剥製、あらゆる生命を人間のエゴで綺麗な見目のまま保存している部屋の中に、青年もまた保管されて……

……いる筈もなく。

何の価値もないと言わんばかりに、その肉の塊は床に転がされていた。

誰彼構わず笑みを向けていたその顔は青白く、多くのものに興味を示していた瞳は瞼の裏。
細長い四肢は細かな切創が夥しく纏わり付いていて、よくよく注視すればあちこちにガラス片が噛み付いている。一部はその肉の下に潜り込まんばかりに深く突き刺さっていた。

傷だらけの肉体の中でもとりわけ酷いのは首や肩、そして腹部だろうか。
首から肩にかけての傷は他の切り傷よりも深く、腹部に至っては何度も同じ箇所を狙って突き刺したようにも見える。

しなやかな肉が引き裂かれ、止め処なく流れ落ちた命のあかいろは、白衣を容易く濡らし、その床をも汚していた。


彼の瞳が、好きだと語る『人』を見ることは、もう無い。

……本当に?

メモを貼った。

メモを貼った。

ライカ

鞄の中には170センチ以上もあればちょうど良いような、長身の男性に合うサイズの職員の制服が畳んで入れられている。
もし広げるなら、首まわりを中心に黒ずんだ血が服を汚していることに気付けるだろう。

その他には拳銃と、一枚の紙切れが鞄の底に眠っていた。

メモを貼った。



もしかしたら、何か一人で動けない状態にあるのかも。
もしかしたら、皆に心配をかけたくなくて俺にだけ連絡を?

嫌な想像は頭を駆け巡って、青年は駆け足でその場所を訪れる。

少しだけ息の切れた青年は、あなたの姿を見かけてやっぱり笑顔になった。

「はーっ、奈央さん、どしたの?
もーすぐ集合時間だし、集まんないと皆心配しっ……」

腹に氷でも差し入れられたような気がした。
それは全くの気のせいで、すぐに頭の中をすべて塗りつぶされるような痛みが訪れた。

ぎゅう、と背中を抑えられている。
なんで?
腹が痛い。熱い。
このままじゃ死んでしまうかもしれない。
なんで?


どうしてこの俺が、こんな目に遭わなくちゃいけない?

>> +2

むちゃくちゃに腕を振り回して数歩後退り、自分の腹を抑える。
視界がぐらぐらと揺れているような気さえする。

「い"ッ、あっ、あぁあ、痛っ、……ア"」

口から漏れるのは意味を成さない音ばかりだ。
こんな痛みはいらない。
俺の人生に必要ない。
痛みはしあわせになるために必要なものだ。
だから、切除する。


ぼたぼたと涙が流れる。
痛みで泣いているのか、汗が流れて目に入ったのかもうわからない。

「は、ははっ……
こんな、状況でっ……あ"っ"……バカ、じゃねえの?
異常者、気狂い、嘘吐き……」

絞り出すような声はそれでもあなたに対する敵意を漲らせている。
距離をとって、会話をしようとする。少しでも隙が見えればーー
殺してやる。

メモを貼った。



「あ"……こんな状況だから、?
どうせ普段から我慢なんかしてないだろッ、この気狂いが、ァ"ッ……」

腹に開いた穴から漏れるように悪態が出てくる。
彼の本性は、本質はこちらなのだ。

「ハハ、そっか、嘘は吐いてない……
信じた方が悪い、裏切られた方がッ、悪い……」

それは心地よい言葉を振りまいて、無責任な庇護をばらまいた自分が言っていいことかは分からないが。
少なくとも思いつく限りの罵倒を連ねなければいけないと青年は判断した。



今だ。
今だ。
殺せ!


青年はほんとうにほんとうの殺意を持って、あなたに襲い掛かる。
姿勢を低くして水を被らないように、できる限りの全力でもって。
それでも背中には少しかかってしまっただろうか。今は無視した。

ぞるり、と腹に生えたナイフを抜く。
ぐじゅぐじゅ、と致命的な肉を切り裂いた感触がした。
血液とよく分からない何かが混ざった液体が滴る。今は無視した。

そうして、あなたの足元へ。
膝、大腿部と、二度。
ナイフを突き立てる。

半ばぶつかるように突き立てたナイフはそのままに、少しでも体勢を崩したのであれば。

あなたの喉元へと、手が伸びる。

コゴマは、叶の上着のシミを見逃していたわけではない。
(a14) 2022/06/05(Sun) 4:07:16



異常者で気狂いで嘘吐き。
青年はあなたをそう評した。
それは、自分自身が己をそう断じていることの裏返し。
だから青年は走ることができた。


手が届く。
今ならやれる。
喉の薄い皮膚に指先が触れる。
あなたが褒めてくれた、手が触れる。



……ねッ

死ねっ、
死ねっ!!」

ペットボトルの中身を判別して避けている暇なんてなかった。
もし分かっていたとしても、避ける余裕なんてなかったかもしれない。

右半分の視界を奪われ、それでもこの機を流すまいとあなたの喉へ手をかけた。そうして半ば無意識に、能力を発動する。

あなたは死ななければならない。
謝ってほしいだけなのに。

あなたは罪深い人間だから。
俺だってそうなのに。

今、幸せ?


憂鬱と悲哀と、すこしのよく分からない感情。
ぐちゃぐちゃに想起させられた脳内は無理矢理に蹂躙され、あなたの精神を蝕む。
無茶苦茶な使用によって、青年もまた。

その場を逃げ出した。

コゴマは、自分で端末にメッセージだけを残し。一人で伊縫を、探しに行ってしまった。
(a19) 2022/06/05(Sun) 19:13:05

「あ"ーー……、っ"う"……」

右目が開かない。
痛みを殺して、半ば触覚の死んだ頭を抱えて、人気のない廊下に座り込んだ。
腹から血と一緒に熱が逃げていくような気がする。
手足の先が痺れて意味もなく廊下に血の筋を残した。

無茶苦茶に走って逃げた廊下には血と汗と、溶けた肉が点々と跡を残している。

だめだ。こんなのじゃ。
だれかにみつかったらしんでしまう。
でもみんなにちこくするっていわないと。

でも、でも、でも。
こんなすがたででていったら、こわがるかなあ。
みんなも、みんなが、

……だれだっ け ?



朦朧とする意識の中、あなたの端末に連絡を送った。

『ごめんん
ちこくすふ』

たったそれだけの簡素で誤字だらけのメッセージ。
血で滑る指先で画面を操作し、送信ボタンを押したところで青年の意識はぷつりと途切れた。


視界の悪い廊下にも、目を凝らして探せば明らかに新しい血痕が残っている。
壁に残った血の指紋も同様に。

その痕を辿っていけば、人気のない薄暗い廊下にたどり着く。
壁にもたれて気絶している青年もまた、見つかるだろう。



あなたの支払った労力なんて知らない顔をして、青年はそこにいた。
もし仮に起きていれば探すの大変だったろう、そっちも大丈夫だったのか、なんて宣ったことだろう。
そうして、皆にどう警告をすべきなのか相談に乗ってもらって、それから――
そうはならなかったのだけれども。

近寄れば濃い血の匂いと、溶けた皮膚や髪の匂いがむっと強く香る。
顔の右半分……特に目の周辺が酷い火傷のように引き攣れ皮膚が癒着してしまっている。
右目は開かない状態かもしれない、と一目見るだけでわかるだろう。
それに加えて腹部も、腹部を抑えたままだった腕も真っ赤に染まっている。

弱弱しく踏み躙られた虫のような姿になっても、青年はまだ生きていた。
出血はもう止まっている。

メモを貼った。

メモを貼った。

メモを貼った。

メモを貼った。

標本室。


一つの遺体が、無くなっている。

とある誰かの声がして、真っ暗闇をもがくように進んで。
この終わりでは足りないと、叫んで気付けば視界が開けた。

「──。おれ、は。確か……」

それまで自分は何していたかと、ぼやけた頭のまま記憶を振り返ったが最後。

悲鳴と、笑い声と、断末魔。
絶え間なく続く痛み。逃れられない苦しみ。
誰かと会話をした時には思い出せなかった死際の時間が、押し潰さんばかりに迫ってくる。

「──。ぅ゛、え゛ッ……」

体を折り曲げ血の海に膝をつく。激しい咳を一つ。その拍子に体のどこかからびしゃりと赤い液体と柔らかな何かの肉片が地に落ちた。

事切れるまでに受けたものが未だ体の中にあるようで。頭と胴の内側がぐるぐるする。視界がちかちかと明滅して、自分と同じ色の笑い声が耳の奥で鳴り続ける。

「……、ふ、ぅ……あぁ……こぼれちゃう……」

腹部に手を当てながら、緩慢な動作で歩を進める。

「見な……きゃ、聞かなきゃ。
 見たいことが、聞きたいことが、あっ……たんだ。
 ……でも、なんだっけ、なにを、見て、聞くんだっけ」

探さなきゃ。探さなきゃ。

──目を瞑る。声を聞く。息遣いを探す。
おかしいな、でも何を探すんだったかな。
おかしいな、誰を探すんだったかな。

メモを貼った。

「……誰の、声だっけ、これは」

元々、視覚には作用しない力だった。
今となってはあまりに不安定で、或いは壊れた頭で判断できなくなっていて、拾った声が誰のものかも判別がついていない。

力を使うのを止めて瞼を持ち上げた瞬間、ぐんにゃりと視界が歪んで体が傾いた。
この肉体は、ずっと刻まれた死の痛みに震え続けている。

「みなきゃ、きかなきゃ、いかなくちゃ」

死んだはずの頭の中にあるのは一つの意思。純化したそれしか残っていない。

「……ふ、ふふ。えへへ、ぁは、夢なのかな、でも、夢みたいじゃない?でも、夢であってほしくないなあ」

それは延長線上の狂気。既に迎えた終わりを踏み躙る執念。
凄惨な傷跡が残る脳と肉体を、意思ひとつで引き摺り回してそれは進んでいく。

廊下の奥へと、消えて行く。
子供のような笑い声が響いていた。

【人】 絶対専制君主制 コゴマ

>>a29 >>14 >>15 叶・深和
端末に入ったメッセージへは、『すぐに行く』とだけ返して。
そのほかにも舞い込むものをちらりと見て、己の軽率を多少恥じたりはした。

連絡を受けて二人のほうへとやってきたのは、
伊縫を見つけるよりかは前のことだったろう。焦燥はあれど、落ち着いていて。
まだその手も穢れのないまま。この男は平然と清廉のままであれるのだ。

誰某れに見つからないようにと抑えた足音も、指定された地点に近づく頃には平時のもの。
だから貴方がたを警戒させはしても、驚かせはしなかった、そう思う。

「……おまたせしました。こちらに居たんですね。
 探しましたよ、貴方が戻らないようなので、……なんて。
 会議室を空けていた僕が言えることではないのでしょうがね」

人の姿を見れば若干肩の力は抜け、変わらない姿を見れば安堵を覚え。
尖らせたパイプは握ったままだが、多少の心の許しはある様子で、歩み寄る。
(22) 2022/06/06(Mon) 7:58:06
コゴマは、>>a32 >>a34 ふたつの連絡を見て溜息を付いた。仕方ない。最初に勝手な真似をしたのは己だ。
(a41) 2022/06/06(Mon) 8:02:15

コゴマは、それぞれに『早く戻ってこい』と返す。ホワイトボードに刻まれたのと同じ。只の勝手な、個人的な願いだ。
(a42) 2022/06/06(Mon) 8:02:57

【人】 絶対専制君主制 コゴマ

>>23 深和
「ああ言った手前散開しては、意味がありませんね」

言葉の意味は自戒であって、他者に言ったわけではない、きっと。
或いは少しは、自身以外も含んだかもしれないが。
さりとて投げ捨てるような言葉は、そうは受け取られないかもしれない、そういうものだ。

「篝屋や三十三も、状況を見てそれぞれ出掛けてしまったようで。
 桜小路もおそらくは。状況的に今は会議室には誰も居ないのではないでしょうかね。
 ……まあ。引き籠もっていたからとて脱出できるわけじゃないから、仕方ない話ですが」

いつか助けが来るだろう、なんて楽観的で保守的な動きのままではどうにもならない。
急く心を落ち着かせる術を持たないのだから統率できないのは道理だ。
帰りましょう、と深和と叶に声を掛け、廊下を引き返しかけて足の向きを変える。

そうして話していた矢先だ。耳をくすぐる微かな音に、表情を引き締める。
暗闇の中を睨みつけるようにしながら、貴方を後ろに下げんと腕を引っ張ろうとした。

「……なにか来る」
(24) 2022/06/06(Mon) 9:09:15


果たして、青年は傷付いただろうか。
ひどいものを見せてごめんな、隠さなきゃな。
俺が集めたシーツならちょっとくらい破いて貰ってもいいよな、なんて。
自分が好き勝手やった結果についた傷なのだから、怖がるのも勝手だろう。見せないようにするのもまた。

そんな言葉を返したであろう口は薄く開き、浅い呼吸を繰り返すのみだ。
夢もない無防備な眠りを昏昏と晒し続けている。

青年に触れた指先が、すこしあたたかく感じたかもしれない。
それは無意識に漏れ出した残滓。
敵対者に向けるものとは違うやわらかなもの。
少しだけあなたに触れて、明確な意思ともならずにすぐに霧散した。


意識を取り戻すまで着いているにしても、
このまま青年を置いていくにしても。
誰かが、何かが通りすがらないとは限らない。
どちらを選ぼうともあなたを責める人間はいないだろう。

【人】 絶対専制君主制 コゴマ

>>26 >>27 叶・深和
「謝って事態が解決するわけではないのですから、構いませんよ。
 別段僕が何かしらの不利を被ったわけではないのですからね。
 ただまあ、そうだな。会議室は今、がら空きのようです。態勢は整えませんと。
 結木をどうするかも考えていない。まだ伊縫も奈尾も、見つかっていないわけですから――」

悠長に話してられる時間は短いものだった。
弾かれるように二人よりも前に出て、大足を踏みしめ姿勢を低くした。
此処に来てどれだけ異形を目の当たりにしたか、初めての遭遇だったかもしれない。
知っている。貴方の袖が濡れていたこと。理由は知らずとも。
そんなことさえ意識の外に置いてしまって、青年は立ち竦んだように見えた貴方を睨みつけた。
視線が通ったのは一瞬。人が自分の言うことを聞くと思っている傲慢なものの目だ。
驕り高ぶったそれは、貴方がたを庇って暗がりの方へとより一歩踏み込んでいく。

「叶も下がれ、足を止めるな!!」

恐れも知らずに踏み込んだ足は、支えも不確かな獣の足を踏み躙った。
ばきりと薄い骨の砕ける音と、勢いを殺しきれなかった腕が袖を引き裂いて、
その下の肉までも傷つけた音とが、鈍く高く交差する。
勇壮か無謀か、さておき振り抜いた腕とパイプは重心を縫い止めた獣の体を確かに横薙ぎにした。
尤もそれがどれだけの痛手を負わせられたかは、不明だ。
得体のしれない立ち姿を確かめ、ぞっとしたように唇を引き結びながら、膝で打ち上げ距離を取る。

「――早く行け!」

貴方がたを背中に庇い、貴方がたに背を向けて。
目の前にあるものから守ろうとすることに少しの躊躇いもない。
会議室は目前。そこまで至らせる訳にはいかないと、頼りない武器を握り締める。
(28) 2022/06/06(Mon) 15:37:10
絶対専制君主制 コゴマは、メモを貼った。
(a49) 2022/06/06(Mon) 16:14:41

【人】 絶対専制君主制 コゴマ

Manasseh マナセ

1.「忘却」または「忘れさせる」という意味の名前:
 For God……hath made me for-get all my toil, and all my father's house.
 神は、私の全ての労苦と、父の家のすべてのことを忘れさせてくださった。(『創世記』41,51).
 イスラエルがヨセフの長男(マナセ)の頭に左手を置き、次男(エフライム)の頭に右手を置いたので、弟のほうが大いなる神の祝福を得ることになった(『創世記』48)。

2.マナセを象徴する宝石はアメジストまたは瑪瑙である。アメジストはギリシアでは、ワイン・ストーンにあたり、この石には酔い(酔いによる「忘却」)を防ぐ力があるとされた。

3. マナセ族:十二宮では天秤宮を支配し、植物ではぶどうの木またはシュロ、色では赤、白、黒、動物では一角獣に対応する。
(29) 2022/06/06(Mon) 16:15:43


届いているのかいないのか。
あなたの放った言葉は暗い廊下にぽつりと落ちた。
紡がれた言葉たちは決して無為にはならず、そこに確かに降り積もる。

ぴく、と青年の指先が震えた。
普通の『にんげん』なら助からない傷だ。
人体に元来備わっている自己再生能力を遥かに超えた出血、臓器の損傷。
それらを愛すべき隣人に与えられたという事実。

その痛みすら全て忘れて、もう一度生きる・・・ことができるなら— —それは、それはなんて。

指先が再び熱を帯びる。
あなたの言葉へ応えるための、意思を紡ぐ。



それは、なんて寂しい・・・ことだろう。

「そんなに寂しいこと言ってくれるなよ、泣いちゃうだろ」

「忘れろ、なんて言うなよ。
せっかく愛施が助けてくれようとしてるのに、その原因をなかったことにしちゃうなんて」

「それに、俺が抱いてやらなきゃあ、この痛みも苦しみもどこにいっちゃうのさ。
代わりに背負うなんて言ったら怒るからな」

「痛いのも、辛いのも、全部連れていって生きたいんだ」

それは、なんとも自分勝手な宣言だった。
今にも止まりそうな呼吸をしているくせに、全身を汗で濡らしているくせに、塞がった片目からはくっきりと涙の筋が浮かんでいるくせに。
青年は、生きることを諦めてはいない。
踏み躙られた事実はそのままに。
今は閉じられたふたつの瞳は爛々と
を宿し、全てのものを焼き尽くさんとするばかりに燃えている。

本当に、自分勝手だ。


/*
というわけでお返事となります。
能力の使用は問題ありません!が、傷をまったくまるっとなかったことにする、ということは伊縫がヤダがります。
具体的には傷跡がぱっと見でわかるくらいには残る感じになるでしょうか?いい感じのがあればなんでも……(貪欲)

【人】 絶対専制君主制 コゴマ

>>30 >>31 >>32 深和 叶
貴方がたが逃げ去ろうと決めるまでの短い時間のうち、どれほど足止めが出来たか。
おそらくは叶がそうと決めて深和の腕をとりかけた時、
青年もまた考慮すべき材料が減ることに少しの安堵と、油断があったのだろう。

「っ、糞、」

振り抜いたパイプを引き戻したその隙だ。
獣は横をすり抜け、己よりも深和に腕を振り上げることを優先したのだろう。
追い越されることを止められなかった、それに焦燥を覚えながら。
反転、捻った体は獣を追いかけ、半ば突撃するような形でその背中を追う。
深和の雄叫びに呼応したか、どうか。追うものもそれこそ、獣のように。
青年はその体すべてをぶつけるように、溶け崩れた命の残骸へと、全体重と勢いを乗せた。

青年は尖ったパイプを人獣の心臓に突き刺し、歪んだ切っ先でぐるりと抉った。
果たして血の流れによって動き生きるものであるか、というのは定かではないが、
深々と体を縫い止めたそれは、生死はどうあれ動きを止めるには貢献したと思いたい。

「貴様の相手はっ、僕だ!」

血を浴びて、溶けた肉に体を食い込ませながら。
すんでのところで動きを止められたか、一撃が誰かに当たったかはわからない。
それでも、それ以上は進ませないという意思は確かにあった。
(33) 2022/06/06(Mon) 20:08:33


「……ごめんな」

あなたはやっぱり優しいのだ。
青年はそう思った。
訴えを全て捨て去って好き勝手することだってできたのだ。
『意思』を尊重し、問い掛け、全てを理解することができなくとも。
あなたはそうしてくれた。

青年は弱い人間だ。
一つさえ取りこぼすことを自分に許せなくて、全てを失って、何かを抱きしめたくともからっぽの腕の中を独り抱えているだけの人間だった。
これはきっと強がりで、青年が自分自身に恰好をつけているに過ぎないのかもしれない。それでも。

「……ははっ、じゃあ神様の慈愛、断っちゃった……?
怒んないでよ、愛施。
俺から奪ったこと、忘れないで……」

やっぱり嘘。
耐えられないのなら、忘れてもいいよ。
俺がその分覚えてるから、いいよ。


腕はだらりと抵抗せずに落ち、傷はそこにある。
望み通りの口付けを受け入れて、そうして、
頭の中が全部痛みで塗りつぶされた。

「あ"、あ"っ"、お"ぇ"ッ……ぐ、う"〜〜……
か"っ、ぎ……ぉ"……」


涙がぼたぼた垂れる。
両の目が開く。

痛い。