そう決めていたはずなのにね。

　　　愛情深い父母のもとに生まれ
　　　�Wお姉ちゃん�Wと慕ってくれる弟妹もいた。
　　　私は、あの子たちに得意な裁縫で
　　　服や帽子を作ってあげたりして。
　　　そのたびに大げさなくらい喜んでくれて
　　　それがたまらなく、可愛いと思ってたの。

　　　手入れされた花壇に咲く花々のように
　　　私の周りには確かな幸せがあったはずだったのに。

　　　　　　　家族は、味方でいてくれると。
　　　　　　　そう信じて疑いもしなかった。　　

　　　　　　今ならわかる。
　　　　　　家族は皆、異質な存在になった私を
　　　　　　受け入れがたいと思ってしまったのだ、と。

どうして、

「…今まで、ありがとう。」

悟ってしまった

　　　そうして、私はふらふらと
　　　町から町へと彷徨って。
　　　ただ彷徨うだけではなくて、
　　　自分の身に咲く花が何なのかを知ろうと
　　　行く先々で書物を漁った。

　　　私は�W花咲病�Wという病気を患っているのだと
　　　知ったのは、貴方に出会う前の事。

　　　彼が街の人から何と言われているか、
　　　知らないわけではない。

　　　毎日のように貰う言葉を
　　　軽く受け流していた理由は、
　　　ここにいるのも、貴方との時間も、
　　　期限付きだと決まっていて。
　　　踏み込まないようにしていたから。


　　　私と彼の関係は、そういうもの。*

　　　花咲病のことを知った後の私は、
　　　独りで散ることができる場所を探していた。

　　　誰にも踏み込まず、踏み込ませず。
　　　一人で静かに、終わりを迎えようと。

　　　この街に来たのも、そんな経緯。

が一枚、風に乗って飛んでいったのに

私が気づくことはなかったけれど。

　　　もし、見た人が居るのなら、
　　　少し疑問に思ったのかもしれない。

それとももう少し後だった？

―――私以外の人が居るのに、気付いたの。*

きっと私には不相応ですよ。」

　　　彼の�Wこの子達も�Wの意味に気づかないほど
　　　私は鈍くはなかったけれど
　　　鈍く、気付いていないふりをしていた。

　　　人が花を選ぶように
　　　花だって、人を選んでいいはず。

　　　言葉を持たない、自ら動けない花には
　　　それが出来ないだけで。
　
　　　貴方に頼ろうと思ったのは
　　　紛れもなく私の意思。　
　　　それを選んだというのなら、そうかもしれないわ。

　　　彼の場合は、見える形で仮面をつけているだけ。
　　　ただ、それだけのことよ。

　　　それに、私だって本心を見せまいとしているのだから
　　　仮面を付けているのと同じでしょう？

もしかして、貴方の時間を邪魔してしまったかしら

　　　奇病のせいで家族に家を追い出されてしまった。
　　　路頭に迷った理由はそれしか言っていなかった。

　　　住まわせて貰うのはせいぜい数ヶ月。　
　　　密かに、貴方の知らないうちに出て行こう。

　　　当初はそう思っていたから
　　　過去を話す必要もないと思って。
　　　思ったよりも貴方の家に長居してしまったのは
　　　私にとっては誤算だったわ。

　　　仮住まいだとしても帰る家があることに
　　　貴方の傍にいることに、居心地の良さを覚えて
　　　それに甘えてしまっていたのでしょうね。

貴方のことが…。

それは、果たして私の事かしら？」

　　　でも、それだけではなくて……
　　　まるで彼のことも指しているような
　　　そんな気もしてしまって、思わず発した言葉に
　　　貴方はどう思ったのかしら。

　　　独りになりたくないのに
　　　独りを選ぶところが、同じだったから。

　　　勿論利用されるのは構わなかったし
　　　例えば家事とか、私にできることを頼まれるのなら
　　　こなすつもりでいたし、たとえ頼まれなくとも、
　　　何かの形で貴方へ恩を返すつもりでいたの。

　　　それでも味方でいて欲しい、なんて
　　　私のわがままでしか、なかったのよ。
　　　そうして諦めなければ苦しくて仕方なかった。

　　　あの時選び取ってしまった理由の一つはきっと
　　　心のどこかでは諦めきれなかったから。

　　　数年たっても秘密を守っていたのは
　　　そう、最後の線引きのつもりだった。

　　　花咲病のことは、
　　　これだけは、知られてはいけない。
　　　知ってしまえば、病を背負わせること、
　　　私の心に踏み込ませることと同じだと思うから。

　　　彼のためだから、そうやって言い訳して
　　　ずっと言わなかった。

　　　彼が触れて欲しくない物には触れないように
　　　入ってもいい場所、触ってもいいものは
　　　事前に確認していたから。
　　　彼の気を悪くするようなことはしなかった…
　　　そのはずだけれど、どうだったのかしらね。

　　　住まわせてもらっている対価のつもりで
　　　貴方へと稼ぎを渡そうとしていたけれど…
　　　受け取ってもらえなかったのなら、
　　　家のどこかに纏めて置いたままにしていたでしょう。

　　　でも、あなたの服を買う、なんて言われれば
　　　私の意図するものと違うから
　　　渡すのをやめざるを得なくて。

　　　貴方が私にどんな服を選ぼうとするのか　
　　　興味はあったけれど、そんなことを言えば
　　　本当に買いかねない雰囲気すらあったから
　　　その想いは心に秘めていたの。

　　　まるで、家を追い出される前、
　　　あの頃に戻ったみたいだな、と。
　　　少し懐かしむ気持ちも生まれつつ

―――自身の気持ちも、見ないふり。

　　　見ないふりをしていると
　　　本当に鈍感になってしまうものなのかしら。

　　　当てもなくふらふらとしていた頃。
　　　花咲病について調べて、
　　　わかったことをまとめた手帳。

　　　貴方の目には決して触れないように
　　　外出するときには、肌身離さず持って行って
　　　家にいるときは鞄の中へとしまっていた。

私が知らないこともまだあるかもしれない。

　　　何度読んでも書いてあることは変わらない。
　　　ふ、とため息をついて、手帳をもとの場所に戻すと
　　　明かりを消して、ベッドに横になった。